2018年3月2日公開 アメリカ 135分
ノルウェーの科学者によって人間の身体を縮小する方法が発見され、身長180センチなら13センチにまで小さくなることが可能になった。人口増加による環境、食料問題を解決する「人類縮小200年計画」が立ち上がり、一度小さくなれば二度と戻ることはできないが、それでも各国で小さくなること(ダウンサイズ)を選ぶ人々が徐々に増えていく。アメリカのネブラスカ州オマハでストレスフルな生活を送る、どこにでもいる平凡な男ポール・サフラネック(マット・デイモン)は、少しの蓄えでも裕福で幸せな生活が遅れるという縮小された世界に希望を抱き、ダウンサイズを決意。しかし、土壇場で妻のオードリー(クリステン・ウィグ)が逃げ出してしまう。ポールは縮小された人間たちの世界で、ひとり寂しい生活を送ることになり、自暴自棄になるのだが……。
人類が縮小可能になった未来社会を舞台にした社会風刺ドラマです。てっきり北欧あたりの製作で、マットが主演してるのかと思ってしまった それくらいハリウッドの娯楽作とテイストが異なってたってことです。
人口増加に伴う数々の問題の解決策として研究開発された人類縮小計画が現実となった世界。本当は外科医になって母を含めて病気に苦しむ人を助けたかった作業療法士のポール。結婚しても妻が望むようなマイホームは現実には厳しい彼は、身近にダウンサイズした友人がいたことで、俄然興味を持ちます。今持っている資産でも豪邸に住んでリッチな生活が送れると説明されて妻も乗り気になるんですね。
財産を処分し、家族友人に別れを告げ、移住先のレジャーランドで最終意思確認も済んでいよいよダウンサイズです。全身の毛を剃って、腸内洗浄し、体の金属(歯の詰め物など)を外す処置の様子はコミカルではありますがちょっと不気味 無事にダウンサイズして目覚めたポールに「お腹空いたでしょ?」と看護士が持ってきたのが実寸大のクラッカーって、まんま受け狙いです
ところが、隣で一緒に目覚める筈のオードリーの姿がありません。頭髪と眉毛を半分剃られたところで彼女は我に返って逃げ出したというわけ。そりゃないでしょ~~
妻好みの豪邸も彼女がいないのでは住む意味がないんです。小さくなっても、今までいた世界との行き来は自由で、飛行機もファーストクラスの移動です。でも妻との関係はもう修復不可能で遂には離婚に。ダウンサイズしたことを後悔するポールは、友人といても、シングルマザーとディナーをしても、隣人のドゥシャン(クリストフ・ワルツ)のホームパーティで踊り明かしても心は空虚です。
ダウンサイズした人々に対する普通の人々の感情も何やら不穏になっていきます。不動産の資産価値は下がるし、税金を払わなくて良いダウンサイズの人たちの分が普通サイズの人たちの負担になる・・そりゃ不満でしょうとも(それなら皆がダウンサイズすればいいのに大多数の人々はその選択をしないのです。何で?)ダウンサイズを政治利用するなど悪用の問題も発生。女性活動家のノク・ラン・トラン(ホン・チャウ)はその犠牲者です。
ドゥシャンの部屋の掃除婦として現れた彼女が以前TVで見たニュース(政治犯としてダウンサイズ処置をされ、密入国の際に片足を失ったただ一人の生き残り)の女性だと気付いたポールは親切心から義足の不具合を直してあげようと声をかけます。
ところがノクさん、とっても独断的で言葉は命令口調。病気の友人を助けろと無理やり連れていかれた彼女の住まいは貧民街でした。小さくなっても貧富の差ってあるじゃん!(あれ?でも小さくなるにも費用が掛かるんじゃなかったっけ?元々貧しい人はそもそもダウンサイズ出来ない気がしますが)彼女の義足を過って壊してしまい、償いに手伝いをさせられることになったポール。彼女に振り回されて病気や貧しい人たちの手助けをさせられているうちに、ポールの表情に輝きが戻ってきます。人助けは彼の性に合ってるのね。
ある日、ドゥシャンから初めてダウンサイズした人々に会いに行こうと誘われたポールにノクは「私も行く!」と。実はダウンサイズを発明した博士が彼女のニュースを知って自分の発明が彼女を不幸にしたのではと悩み手紙を出していたという
このシーン、本当はノクから解放してあげようとドゥシャンが気を利かせて提案した筈が、一緒に行くはめになったというものですが、ゴーイングマイウェイなノクに困惑するドゥシャンやポールの表情がちょっと笑えます。
初めは図々しいアジア人のイメージだったノクですが、本当は困っている人を放って置けない優しい女性であることがわかってくると、その外見までが何だか可愛く見えてくるという不思議。ポールと一線を越えたあとの髪をほどいた後ろ姿がとってもでした。これが欧米女性だとけっこうガタイも対等だったりするけれど、彼と並ぶとアジア女性の華奢さがより際立ちますね
一行は船でノルウェーに向かうのですが、ミニサイズで一体何年かかるんだ?という疑問は愚問かしら この船旅の映像はなかなか美しいです。
途中で合流した博士から北極からのメタンガスの流出(これも伏線としてニュース映像が挿入されてました)により人類の滅亡が近いことを知らされます。村に着いてみると、「最初の人々」は更に地下にシェルターを作って移動しようとしていました。まるでノアの箱舟みたい。ポールは彼らと行こうとしますが、ノクは拒みます。
ドゥシャンにとっては「まだ先の話」であり、今の生活を楽しみたいからなのですが、ノクは人々を救いたいという気持ちの方が強いのです。同じ拒否でも二人の理由は180度違うのが何だか可笑しかったな。
シェルターで生きることを選んだポールを見送りながらドゥシャンは「彼はこれまでずっと挫折してきたから今度も~」とノクに言います。案の定、自分にとって何が一番大切なのかに気付いたポールが戻ってくるんですね。 ドゥシャンのセリフがなければ美談なのに、この一言でギャグになってる もちろん良い意味でね
体が小さくなっても人間社会は同じような構図と営みが続くだけ。今まで周囲に流されて(自らを妥協させて)生きてきたポールが最後に自ら将来を選び取る決断をするというある種ロードムービーみたいなお話でしょうか。