杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

グランド・イリュージョン ネタバレあり

2013年10月30日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年10月25日公開 アメリカ 116分

アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)ら4人のスーパー・イリュージョニスト・グループ“フォー・ホースメン”はラスベガスでショーを行いながら、遠く離れたパリの銀行から金を奪い、観客の度肝を抜く。この複雑に計画された不可解な犯罪に、当局が動き出す。FBI捜査官のディラン(マーク・ラファロ)とインターポールのアルマ(メラニー・ロラン)は、フォー・ホースメンがもっと大がかりな犯罪を行う前に阻止しようとするが、まったく尻尾を掴むことができない。捜査陣は、マジックの種を暴くことで有名なサディアス(モーガン・フリーマン)の協力を仰ぐが、フォー・ホースメンは誰よりも上をいっているのは明らかだった。彼らの最後のショーが終わるとき、フォー・ホースメンのトリックの秘密と彼らの目的が暴かれる……。(Movie Walkerより)


劇場で予告編を見て期待していた作品です。
本筋の方は途中で「復讐もの」だとわかるのだけど、4人の後ろで糸を引いていた人物はちょっと意外でした。あのパーカー姿の背格好ですぐ気付けばいいのにね>自分
で、あのカーチェイスは本当に必要だったんかい?と突っ込んでみる

フォー・ホースメンは、リーダーのアトラス、脱出マジシャンでかつてアトラスの助手だったヘンリー(アイラ・フィッシャー)、カードの奇術師ジャック(デイヴ・フランコ)、それからメンタリストのメリット(ウディ・ハレルソン)の4人で構成されるイリュージョニスト集団です。メンタリストが入っているからか、日本での監修はDaiGoがしています。

冒頭では、まだ人気を博す前の4人の姿が描かれます。カードマジック、催眠術や読心術、ピラニア入りの水槽からの脱出等、それ自体が一つのエンターテイメントです
それぞれが一枚のカードに招かれて集まった一年後、本当の物語の幕が開くのです

ラスベガスのショーでFBIに逮捕され尋問を受ける4人。ここではメンタリストのメリットにとんでもない趣味を暴露され焦る捜査員や過去のトラウマを指摘され苦虫を噛み潰すディランの姿に思わず失笑してしまいます。傍観者でいる分には楽しいけど、きっと自分に返ってきたら凄く気分が悪いことでしょうね予告で観た手錠返しもこの尋問シーンでした結局証拠不十分で釈放された4人。当局はマジックの種を暴露することで有名な元マジシャンのサディアスに協力を仰ぎます。

彼は、銀行強盗のトリックを明快に推理してみせます。マジックには種があるって皆わかっているんだから、敢えてそれを暴露して夢を壊すようなことはしなくてもいいんじゃないの?と思う方なので、こういうネタばらしを生業とするサディアスのような人物は好きになれません。当然マジシャンたちにとっても彼は敵だよね

舞台はニューオーリンズに移り、ここでは4人のスポンサーであるトレスラー(マイケル・ケイン)が嵌められます。何故彼らがスポンサーを裏切るようなまねをしたのか?彼が保険屋であることがヒントになっています。ディランたちの襲撃を予想していた4人は予め観客に暗示を与えていて、見事に当局の裏をかいて脱出成功

ディランとアルマは捜査の中で、マジシャンの秘密組織「アイ」の存在やかつてサディアスのせいで破滅に追いやられたシュライクというマジシャンとの関連性を話し合います。一見無関係に見えて実は根幹であるという

そして最後の舞台ニューヨークへ。証拠隠滅の最中にディランたちに踏みこまれた4人はジャックを残して逃走。ジャックはディランたちをかわして逃走の途中事故って死亡?
残った3人は金庫強奪のマジックを敢行。見事に成功して、5人目のフォースメンとして罪をサディアスに着せて消えるの

しかし、5人目、本当の首謀者は別にいました。その目的は?彼はシュライクを死に追いやったサディアスと、保険金の支払いを拒否したトレスラー、材料をけちって不完全な金庫を作った製造会社への復讐のために4人を操っていたのでしたとさ

観終わっての疑問。
アルマの正体がイマイチ不明。本当にただのインターポールの新人だったの?含みをもたせたまま置いてきぼりな感が残りました。ディランとのも付け足しのようで、別に二人の関係は膨らませなくてもよかったんじゃないかしらねぇ

ともあれ、マジック自体は華麗で豪華で楽しかったので

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東ベルリンから来た女

2013年10月27日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年1月19日公開 ドイツ 105分

1980年夏の東ドイツ。西側への移住申請が却下され、都会の大病院から片田舎の小さな病院に左遷された女医、バルバラ(ニーナ・ホス)。秘密警察に監視され、周囲の人間に対しても猜疑心から心を開くことができず、孤立を深めていく。一方で彼女は、西側の恋人ヨルク(マルク・バシュケ)と秘かに逢瀬を重ね、彼の手引きによる西側への脱出へ向けて着々と準備を進めていた。そんな中、一緒に仕事をする同僚医師アンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)が患者と真摯に向き合い、自らの使命を誠実にこなしていく姿に次第に心打たれていく。バルバラ自身も医師としての誇りを胸に、献身的に患者の治療にあたり、いつしかこの病院に欠かせない存在となっていくのだが…。<allcinemaより>


社会主義時代の東ドイツでは秘密警察による監視の網が張られ、自由とは無縁な生活を市民は強いられていたということを踏まえて観なければなりません。相互監視というシステムの醸し出す静かな恐怖が伝わってきます

バルバラは都会の大病院で通用する優秀な女医だったのでしょう。そういう優秀な人物にとっては閉塞感に溢れた東での生き方は我慢ならないものとなっていったのでしょう。そして西側の恋人の存在が、彼女を移住への渇望に走らせたのでしょう。

でも有能な人材をみすみす西側に渡すわけ、ありませんよね。
というわけで、バルバラは辺鄙な田舎町の病院へ左遷され、当局の厳重な監視下に置かれます。
少しでも不明な動きがあれば、即部屋を改められ、屈辱的な身体検査までされます。

猜疑心の塊となった彼女は同僚とも壁を作り孤立しますが、アンドレの患者に対する真摯な態度や、強制収容施設から逃亡した少女ステラ(ヤスナ・フリッツィー・バウアー)との出会いにより、少しずつ頑なだった気持ちが変わっていきます。

強い風の中を自転車で通勤するバルバラの描写は、彼女が置かれた状況の険しさを現しているように見えます。彼女が恋人と束の間の逢瀬をする森のシーンは穏やかな明るさの中にあるのと対照的です。外国人専用ホテルで国外脱出の最終確認をするバルバラに恋人は「西側に来たら働く必要はない。僕の稼ぎで十分さ。」と言います。医師としての矜持のある彼女にとって、恋人の考え方の本質を現すこの言葉は後の決断に大きな影響を与えたのではないかしら?

決行の前日、自殺を図って脳にダメージのある患者に深刻な病状を見つけたバルバラは、医師としての責任を優先します。そして決行の夜、再び逃げ出して彼女の部屋を訪ねたステラを匿ったバルバラは自分の代わりにステラを西へ逃がすの。それはバルバラが東でアンドレと共に医師として生きることを選んだということでもあるのね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダークホース リア獣エイブの恋

2013年10月26日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年3月2日公開 アメリカ 84分

父親が経営する不動産会社に勤める30代のエイブ(ジョーダン・ゲルバー)は、フィギュアとシンプソンズをこよなく愛し、自己中、マザコン、オタクな上に真面目に働かないのでクビ寸前。医師として成功している弟のように「いつかはダークホースのように大成してくれる」と期待していた両親もいまや諦め気味で、彼を甘やかしすぎたことを後悔している。そんなある日、パーティで出会った美女ミランダ(セルマ・ブレア)に一目惚れしてしまったエイブは、アタックを開始。最初はエイブを鬱陶しく思っていたミランダだったが、失恋をきっかけに自暴自棄になり、エイブと付き合うことに。最初のデートでエイブが結婚を申し込むと、ミランダはあっさりOKの返事。エイブは浮かれまくるが、ミランダはある重大な秘密を隠していた……。幸せの絶頂から一転、不安のドン底へ。エイブは妄想に襲われ、次第に何が現実かわからなくなり、事態は取り返しのつかない悲劇へと暴走していくのだった……。(Movie Walkerより)


見た目も性格もイケてない上に親から自立さえしてない中年男が主人公。
自分をダークホース(大器晩成の意?)と思い込むだけで自ら努力することをしないのがまずイヤデキル弟と比べられながら育ったという同情すべき点もないわけじゃないけれど、自分や環境を変えようという気が全くない時点で、こいつに共感できる点皆無です

結婚パーティで踊る人々を眺めたまたま隣に座っていたミランダに一目惚れしたエイブは強引なアタックを開始。何で最初にきっぱり断らないのよ?と思ったら、彼女は失恋&病で自暴自棄になっていたという設定。それでもエイブの人柄に心惹かれるとかのパターンならラブコメになるのに、彼に病をうつしたあげく、彼の弟と出来ちゃうと言う救いのなさがリアル過ぎて恐いぞそもそもこれってコメディじゃなかったのか?

病気を告白され、感染の不安で恋の熱も冷め距離を置きたいエイブにおかまいなしに、元恋人まで紹介するミランダのKY加減はエイブといい勝負
挙句は父親に愛想を尽かされ、従兄弟が後釜に座ることになり自暴自棄となったエイブは車で会社を飛び出す・・おいおい、そんな不安定な精神状態で運転なんかしたら危ないじゃない?と思いながら観てると何だか変な方向に展開する物語。

あぁ、そうですか、彼の夢の中なのね。目が覚めたエイブは病室で両足切断の状態。二か月意識不明だった間にミランダは弟と良い仲になってるというわけ。命が助かったことを喜ぶそぶりで強がる彼に発病が止めを刺します。両足あるじゃん?な描写は既に彼がこの世の人じゃないという表現なわけね何ともシュール過ぎる結末に後味悪いったら・・。

結局何が言いたいんだろ?こんないい加減で甘ったれたヤツはろくな死に方しないという教訓かしらん??とにかく笑えるラブコメ期待したら大間違いです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハッシュパピー バスタブ島の少女

2013年10月20日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年4月20日公開 アメリカ 93分

文明を嫌った人々が暮らす閉鎖的なコミュニティー『バスタブ』では毎日がお祭り騒ぎ。荒くれ者の父(ドワイト・ヘンリー)と暮らすハッシュパピー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)は「自分を取り巻く世界は命を持ち宇宙の中にうまく収まっている」ことを心臓の鼓動で理解しています。しかし、地球温暖化による100年に一度の大嵐がそんな日常を変えてしまいます。島は浸水し壊滅状態となり、やがて海水の影響で木々は枯れ、魚も死んでいきます。

父親たちは、堤防を破壊して島から水を排出しようとしますが、ドロドロの大地が現れただけで状況は好転しませんでした。それどころか、『バスタブ』の存在に気付いた政府が、島から住民を強制退去させ、難民キャンプに指定した病院に押しこめます。病気の父親は余命がないことを知り、娘と仲間と共に病院を脱走し島に戻ります。どんどん弱っていく父を見ていられず、友達と一緒に母を探そうと海を渡るハッシュパピーは、謎の舟に拾われて海辺のナイトクラブに連れて行かれます。そこで出会った女性から母の得意料理だと父から聞かされていたワニの唐揚げを作ってもらい抱っこしてもらった彼女は、その女性にまだ知らぬ母の愛情を感じるのですが、それを振り切って父の待つ島に帰ることを決めるのでした。


第65回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人賞)など4部門を受賞したヒューマンドラマで、第85回アカデミー賞でも、史上最年少の主演女優賞候補になるなど話題を呼んだ作品。

6歳の少女の目を通して語られるこの物語をファンタジーと呼べるのか、個人的には疑問です。
むしろ、無垢な少女の目を通して人間の愚かさを突き付けられている気がしました。

バスタブ島は南ルイジアナのコミュニティーをモデルにしているそうです。
自分の生きてきた場所が崩壊に向かいつつあるという少女の不安は、氷河を渡り大地を横切って全てを踏みつぶしに来る獰猛な肉食獣=巨大な猪として描かれます。
母を象徴する安寧の場所の誘惑を振り切り、父の元に帰り、迫りくる野獣と対峙する少女の目に宿る強い意志が印象的でした。
父の死を看取り、彼の願い通り葬送の舟を燃やすラストに、コミュニティーと共に生きる少女の決意が重なりました。

しかし、です。あの暮らしは現代人の自然な営みには見えませんでした。
父娘の暮らす家は乱雑で不衛生で汚い。あれで良く病気にならないものだと思っていたら案の定 父親は不治の病に罹ります。文明を否定することと、衛生的な暮らしをすることは相反しているわけではないのにね父親の娘への愛情はちゃんと伝わってきはしましたが、少女の母は暮らしに馴染めず去ったのだと思ってしまったぞ

子供は親を選べない。これが正しい生き方なんだと思わされ育ちます。だけど、大人が思うほど単純でもない。やがて子供は自分の頭で考え始めます。何が正しいのか、自分はどうすればいいのか取捨選択するようになるの。この物語はまさに少女の生きる道筋を照らす灯りのようなものと考えればいいのかもね

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王になった男

2013年10月14日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年2月16日公開 韓国 131分

1616年.李氏朝鮮第15代王・光海君(イ・ビョンホン)は暴君として恐れられるその裏で、権力争いにより暗殺されるかもしれないと怯えていた。ある日、光海君が病に伏せ、妓生宿で腐敗した権力の風刺をしていた道化師のハソン(イ・ビョンホン/二役)が連れてこられる。重臣たちは光海君と瓜二つであるハソンを王の影武者として仕立て上げた。偽者ではないかと疑う家臣たち、急に人が変わったような王に戸惑う王妃(ハン・ヒョジュ)。様々な思惑が潜む宮中で、ハソンは次第に傀儡ではなく自らの意志を持ち民について考える真の王として周囲を魅了していくが……。 (Movie Walkerより)


暴君の身代りという意味ではレオナルド・ディカプリオが二役を演じた「仮面の男」に似ていますが、あちらは双子の弟というある意味正当な血筋なのに比べ、こちらは身分の低い道化を生業とする男です。王が復活すれば、下賤の徒であるハソンは真っ先に葬られてしまう存在なの。

そんなこととは知らぬハソンは、初めは命じられるままホ・ギュン(リュ・スンヨン)に従います。大便をするにも大勢の召使いたち注視の中でだったり、王の食べた残り物を仕える者たちで分けて食べる現状に驚くハソンの姿がコミカルに描かれます。やがて王としての振る舞いや宮廷の生活に慣れるに従い、政治のあり方に疑問を抱き始めたハソンは、政治の場で自ら発言を始めるの。

身の回りの世話をする女官のサウォル(シム・ウンギョン)は借金のかたに売られてきた貧農の娘で、15歳という年齢に、ハソンが自分の罪を軽くしてもらうために役人に差し出さざるを得なかった同じ年の妓生を思い出させ、彼女の生き別れた母を探してやると約束し、以後も何かと優しく接します。チョ内官(チャン・グァン)もまた生き延びる手段として宦官という道を選んだ人物です。弱い立場の民から搾取する役人のやりかたに憤るハソンに、チョ内官はさりげなく王としての道を教えるのです。

政治に口を出すハソンに怒りながらも、王としての資質を密かに認めているホ・ギュンとの、王の私室での小机を挟んだ会話がコミカルで面白いの。

偽モノではないかと疑い剣を向けた生真面目な護衛官のト部将(キム・イングォン)へも、偶然目にした王妃のホクロを覚えていたことで窮地を切り抜け、逆に彼の信頼を得るハソンのエピソードも良かったな 王の愛が移ろったことを知る王妃は、ハソンに違和感を覚えますが、次第にハソンの中に、出会った頃のひたむきな愛を持った光海君を見出していきます。偽モノであると知った後もハソンを逃がし助けようともするのです。

やがて偽の王という情報は敵対勢力に漏れていき、ハソンを毒殺しようとする企みが起きますが、毒見役のサウォルはハソンを庇って自ら毒を含み死んでいきます。

病(アヘン中毒)から回復してきた光海君に、ホ・ギュンは替え玉であるハソンが王として行った記録を見せます。それを読んだ王は、自らを振り返り姿勢を正すことになるのね。
偽モノと糾弾する敵対勢力を、光海君自らが姿を現すことで鎮圧して一件落着なんですが、やはり真実を知る者は生かしておけない、一時とはいえ卑しい者が王の座についたことが許せないという王の意向で暗殺者がハソンを狙います。しかしここに前述のト部将が命を賭して彼を守るのでした。

無事追手から逃れたハソンが旅立つ舟をひっそりと見送るホ・ギュンの姿。二人の交わす視線には一時とはいえ、共に見た理想の国作りの夢が宿っていたのかしらん

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きいろいゾウ

2013年10月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年2月2日公開 131分

妻利愛子(つまりあいこ)=“ツマ”(宮崎あおい)は、幼少の頃過ごした入院生活の中で、『きいろいゾウ』という絵本を大切に読み、日々の慰めにしていた。絵本を通じて自由に旅をする空想をするうちに、ツマは木々や動物たちの声が聴こえるようになる。売れない小説家の無辜歩(むこあゆむ)=“ムコ”(向井理)は、過去に捕らわれていた。彼の背中には、大きな鳥のタトゥーが入っている。ある満月の夜、ツマとムコは出会い、すぐに結婚する。日々を慈しみながら穏やかに生活をする二人。しかし二人はそれぞれ秘密を抱えている。ある日、ムコ宛てに差出人名のない手紙が届く。それはムコがぬぐい去ることができない過去に関係しており、二人の関係が揺らぎ始める……。(Movie Walkerより)


西加奈子の同名小説が原作。
本は未読ですが、映画の中で二人が「ムコさん」「ツマ」と呼ぶ理由には触れられていないので、勝手に頭の中で「婿」と「妻」と変換してたぞ苗字から来てるのか

根本から誤った解釈で観てたせいか、そもそもこういう話に馴染めないせいか、感動とか共感はありませんでした多分本の方が理解できそうな気がする。

親戚のお姉さんの自殺現場を見てしまったことがトラウマとなっていたムコさん。彼は多分「ないねえちゃん」が好きだったのね。そして彼女に似た雰囲気を持つ画家に出会い惹かれていくものの、夫のある彼女と別れさせられた過去がありました。彼の背にある鳥の刺青はこの出会いに関係あるのね。

ムコの心の中に別の女性の姿があることを、ツマは以前から察していましたが、ある日届いた一通の手紙が穏やかな二人の暮らしに波紋を投げます。揺れるムコの心中を体現するかのようにツマは苛立ち、しかし面と向かって問い詰めることも出来ず、溝が深まっていくの。
ムコは日記を書いていますが、ツマはいつしかそれを盗み読みし、そのことにムコは気付きながらも素知らぬ振りを装います。あぁなんてめんどくさい二人
ツマの感情が頂点に達した夜、水道の蛇口を巡るエピソードはかなり壮絶。ムコはツマの想いをその手に受け止めたということなのかしらん。切なすぎです。

手紙は、心を閉じてしまった昔の恋人の夫(リリーフランキー)から救いを求めるものでした。彼は自分の書き上がったばかりの原稿を手に彼女を訪れます。失った人は還らないけれど、その辛さをともに分かつ人はすぐそばにいることを伝えるために
そう、ムコもまた過去に囚われることから抜け出す決意をしたのですね。

近所のアレチ(柄本明)さんの妻セイカ(松原智恵子)さんはアルツを患っているけれど、アレチさんはとても優しく面倒を見ています。大地(濱田龍臣)は恥ずかしいということに囚われて登校拒否になりました。父親のいない洋子はそんな大地につきまといます。一風変わったご近所さんたちもそれぞれ悩みを抱えて生きていました。

ツマが庭のソテツの木(声:大杉漣)や犬やヤギやクモなどと会話する描写も想像力豊かなな彼女の個性を表現していました。

いいじゃない、心から愛せる人に巡り合ったなら、それは幸せなことなんだよ

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メモリーズ・コーナー

2013年10月10日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年2月23日公開 フランス/カナダ 82分

フランス人ジャーナリストのアダ(デボラ・フランソワ)は、1995年に起きた阪神大震災の式典を取材するために神戸を訪れる。街は復興を遂げ、誰もがかつての悲劇と決別して豊かな暮らしを楽しんでいるかのようだ。通訳の岡部(西島秀俊)とともに、かつての被災者の家を訪ね歩くアダ。その前に、今でも後遺症に悩む寡黙な男、石田(阿部寛)が姿を現す。頑なな態度を見せる彼の心を開かせようとするアダだったが、岡部は彼が現世の男ではないと忠告。しかし不思議な石田の存在に魅せられた彼女は、取材にのめり込んでゆく。やがて、彼が幻であることを悟ったアダは、岡部の故郷・淡路島の美しい風景の中に、石田の記憶を見出してゆく……。(Movie Walkerより)


西島&阿部というWイイ男が出ているという不純な動機でレンタルした身にはちょっと敷居が高い作品でした

そもそも、石田が実在しない人間だということをアダ以外の人は気付いているというのがどうにも不自然なのよね実際、ボランティアの人(國村隼)と通訳の岡部と共にその部屋を訪れ一緒に話を聞いているわけだから・・・。そのことを自然に受け入れた上で、アダに忠告する岡部の存在自体も常人離れしている印象です。

死後の世界の捉え方も日本と外国では異なるので、最初アダは霊的な話は信じないと突っぱね、岡部が自分を怖がらせようとしているのだと疑い怒ります。しかし、石田が幻である(冒頭に出てくるエピソードがここで繋がるわけです)と認めた後は、岡部(と石田)に導かれるように淡路島の震源地を訪れます。震災犠牲者たち(孤独死した人も含まれます)がそこに吸い込まれるように消える映像で彼女なりの死生観を現しているように見えました。

孤独死がテーマですが、この世に思いを残して逝った人が、その最後の想いを誰かに伝えたがっているという解釈です。スピリチュアルな世界の映像化だと思えば良いのかしら?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

謝罪の王様

2013年10月09日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年9月28日公開 128分

依頼者たちに代わって謝ることで、彼らが抱える多種多彩なトラブルを収束する東京謝罪センター所長、黒島譲(阿部サダヲ)。ヤクザの車と追突事故を起こし、法外な賠償金の支払いを迫られていた帰国子女・典子(井上真央)は、彼に助けられたのがきっかけでセンターのアシスタントとなる。二人は、セクハラで窮地に陥った下着メーカー社員の沼田(岡田将生)、あるエキストラの起用で外交問題を起こしてしまった映画プロデューサー・和田(荒川良々)など、さまざまな顧客に降り掛かる問題を謝罪で解決していく。 (シネマトゥデイより)


宮藤官九郎の脚本とくれば、やっぱり観るのは「今でしょ」
というわけで、爆笑を期待して観たのですが・・・ちょっと期待が大き過ぎたようです
もちろんクドカンワールドは健在で、あちこちに社会風刺を散りばめたブラックな笑いは確かに面白かったし、エキセントリックに突っ走る顧客たちを豪華な俳優陣が演じているのも楽しめたのですがね。何だか現実にいるこういう困ったちゃんたちが連想できて、逆に洒落になんねぇなぁとため息が出てしまったの。

まずは、タカビーな帰国子女の典子が起した衝突事故(かなりありえね~設定)の後始末で黒島が登場。鮮やかな手腕?で賠償金を十分の一に値切ることに成功します

次に、セクハラで訴えられた沼田のケースでは、典子が助手として活躍相手(尾野真千子)への謝罪の手助けをします。チャラ男然とした沼田ですが、見かけはともかく根は優しい仕事熱心な子というオチで、黒島と典子が仕組んだ幽霊ネタで何だか良い感じな解決に。

大物俳優・南部哲郎(高橋)と大女優・壇乃はる香(松雪)が息子の傷害事件でメディアに謝罪する場面では、黒島らにあれこれ指南を受けていたにもかかわらずの失敗会見に吹き出しながらも、ひょっとして芸能人の謝罪会見なんて似たようなものなのかもと思ったり
謝罪の理由となった息子ですが、実は酔っ払いに絡まれて両親を馬鹿にされたことがきっかけと後でわかります。な~んだ、こいつも良い奴じゃん

セクハラ事件の時の相手の弁護士・箕輪正臣(竹野内)が相談に訪れたりもします。昔幼い娘に手を挙げたことを謝りたいというのですが・・・このエピソードが国際問題に発展した次の事件の解決に一役買っているのですが、ちなみにカレーの食べ方で父娘関係が観客に示されるのも面白かったです。

映画プロデューサー・和田耕作(荒川)が持ち込んだのは、そうとは知らずにエキストラで登場させたマンタン王国の皇太子の件。プライバシー侵害で訴えらた状況を解決しようとするほど泥沼にはまっていくという展開です。文科省の失言大臣などは実際にも「いるいる!!」と思わせるブラックさが溢れていて笑えます。

しかし、総理大臣まで巻き込んだ大騒動の解決策が、昔南部がマンタンの将軍を演じた時のある言葉で、箕輪が娘に切れた原因でもあったというのはいただけません
実はこのまるで「勇者ヨシヒコ~」並みの安っぽい作り込みのマンタン国のエピソードがどうにも胡散臭くて、それまでの良い感じを打ち消してしまったようで何だか残念な気持ちになったのでした。

そもそも黒島がこの仕事をするきっかけになった出来事が、ラーメン屋店員・船木(松本)とのほんの小さなイザコザが原因だったなんて・・まぁでもその場でごめんと収めることができないからこそ、しこりとなっていつまでもわだかまるんだよな~~人間は。そんなこじれた感情を解きほぐす謝罪師って、考えてみたら現代にこそ必要な人なのかもね

最後はE-girlsの歌とEXILEも加わった踊りで幕を閉じます。これってインド映画だったのか何の脈絡もないけど、楽しきゃいいのよ~な世界観だな

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三匹のおっさん

2013年10月06日 | 
有川 浩(著)  文藝春秋(発行)

定年退職後、近所のゲーセンに再就職した、腕に覚えありの剣道の達人キヨ、こと清田清一。
同じく武闘派の柔道家で、居酒屋「酔いどれ鯨」の元亭主シゲ、こと立花重雄。
機械をいじらせたら無敵の頭脳派、愛娘にはめっぽう弱い機械工場経営ノリ、こと有村則夫。
かつての悪ガキ3人が結成した私設自警団「三匹のおっさん」。
孫と娘の高校生コンビも手伝って、詐欺に痴漢に動物虐待……三匹がご町内の悪を斬る──!


先に「ふたたび」の方を読んじゃったので、何となくあらすじは読めていましたが、それでもやっぱり面白かった

第一話
誕生日=定年退職の日というのはやはり色々複雑な気持ちを掻き立てるもの。なのに息子夫婦ときたら、赤い還暦セットを押し付けた挙句、弟子がいなくなり閉めた剣道場を更地にしてピアノ教室を開きたいときたもんだから・・そりゃたまらんなぁ
家を飛び出し幼馴染の悪ガキ仲間の店で酒を酌み交わし愚痴るうち、私設自警団を立ち上げ町内をパトロールすることになった三人。ここから物語が始まっていくのね
再就職先で帳簿に不審な点を見つけたキヨさんは様子を見ることに。実は店長が昔の悪仲間に脅されて売上金を差し出していたのね。そのチンピラが、客へのカツアゲを阻止された逆恨みに、同じ場所でアルバイトしている孫の祐希を狙った計画を立てたことを知った三匹は、各々の特技を生かした活躍で祐希を救い、チンピラときっちり話をつけるのでした。
いや~~ノリさんの武器、半端ないっす

第二話
ノリさんの大事な一人娘の早苗が、卑劣な痴漢に襲われます。運よく通りかかった祐希が三匹を呼び、事無きを得るのですが、この事件をきっかけに若い二人は付き合いだしたのね
ここでもノリさんの危ない武器の威力炸裂!そりゃ~すぐに通報できないわけですそれにしても犯人が警官ってのもなぁ・・

第三話
シゲさんの奥さんが「思い出詐欺」に遭う話。
夫から「ばばぁ」なんて呼ばれた日にゃ、女としてのプライドも妻としての愛情も傷つくってもんです。そんなところにパッと見、こ洒落た紳士然とした昔の同級生が「貴女が好きでした」なんて現れたらときめいちゃいますよね
この話の良い点は、妻が騙されていることを知ったシゲさんが相手を撃退した後、駆け落ちしようとした妻を駅のホームに迎えに行き黙って許すところです。懐の広さに惚れ直すよね

第四話
剣道教室の生徒だった中学生がキヨに相談にやってきた内容は、学校で飼育しているカモへの虐待事件でした。カモたちを動物園に引き取ってもらって幕を引こうとする学校側とかけ合い、犯人探しに乗り出した三匹たちですが、同じ学校の生徒が犯人とわかってからの学校側の措置も結局は事無かれに終わる顛末に当世事情への皮肉も込められているのかとは思っても、何だか後味が悪いです。

第五話
早苗の同級生の潤子が祐希にちょっかいを出してきます。まだ互いに想いを告白し合ってない二人故にすれ違う気持ちのもどかしさ!あぁ青春だよねその潤子がモデルデビューを餌に危ない男の餌食にされそうになっていることを知った三匹がその危機を救うのですが、ここにも現代事情が色濃く投影されていました。

第六話
キヨの奥さんの頼みで、催眠商法にのめり込む彼女の友人が何故その店に通い詰めるのかを調べようと三匹が代わる代わる潜入捜査をします。結局、話し相手になってくれる人のいない寂しさが原因と推察して、町会にかけ合って交流の場を設けることを提案し実行する三匹。
こういう怪しい商売に引っかかる人の事情というのが透けて見えるお話でした。

来年1月からテレビ東京で北大路欣也主演でドラマ化するのだそう
他の配役がどの俳優さんになるのか、お話がどのように展開していくのかちょっと楽しみ

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アルバート氏の人生

2013年10月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年1月18日公開 アイルランド 113分

19世紀のアイルランド・ダブリン。上流階級の人々に人気のモリソンズホテルで住み込みのウェイターとして働くアルバート(グレン・クローズ )は、人付き合いを避けてひっそりと暮らしていた。彼には誰にも言えない秘密・・幼いころに両親を亡くし、一人で生きていくために、女性であることを隠して男性として働いてきた・・があった。そんなある日、モリソンズホテルにハンサムなペンキ屋のヒューバート(ジャネット・マクティア)がやってくる。彼と相部屋になったことで秘密を知られてしまうが、彼もまたアルバートに秘密を打ち明ける。自分らしく生きる彼の姿に影響を受けたアルバートは、自ら築き上げてきた偽りの人生を捨て、本当の自分らしさを取り戻してゆく。その一方、若いメイドのヘレン(ミア・ワシコウスカ)に対しては、自分の素性を隠しながらも好意を抱いてゆく。密かにヘレンと愛し合うようになっていたボイラー職人のジョー(アーロン・ジョンソン)は、その事に気づき、ヘレンを通じてアルバートを利用しようとするが・・・。


女優さんが男装しているのだとわかって観ていても、時々「あれ?どっちだっけ」と思うほどのメーキャップと演技力でした。

結婚もせずに一人で生きることは、女性にとってとても難しかった時代ということを踏まえて観なければなりません。
それでも、普通は男装して働こうとは考えないんじゃないかなと思っていたら、彼女にはとても悲しく不幸な体験があったことがわかり、更に容姿も人並み以下ということから、男性に頼った生き方は出来なかったのだろうと推察されました。そして長年男性として生きているうちに、恋愛対象も女性になってしまったのかなぁ

常連客のホロラン医師(ブレンダン・グリーソン)はアルバートが女性であることに薄々気づいていたようで、彼女に「自分らしく生きる」ようさり気なく助言するのだけれど、当人の心には届いていなかったようでした。

暴力亭主から逃げて男として生きているヒューバートに刺激され、アルバートは自分も愛する人との幸せな人生を夢想します。それは長年働いて貯めたお金でお店を出して、好きな女性と暮らすということでした。その対象が若く美しいヘレンというのが、傍目には絶対無理~!と思うのですが、まさに恋は盲目なんですね 

ヘレンは最初からアルバートのことは歯牙にもかけませんが、今の貧しい生活から逃げ出すためにアメリカに渡りたいジョーに焚きつけられて、アルバートに貢がせようとします。でもアルバートの誠実さに打たれて、その計画は頓挫します。

上流階級相手のホテルなのに、女主人のベイカー夫人(ポーリン・コリンズ)も裕福なわけじゃなく、使用人たちも暮らしていくのがやっとの状態。全体的に貧困の影が覆っているように見えます。
ダブリンの町をチフスの大流行が襲った時には、従業員の一人が死亡、アルバートも罹患しますが何とか命をとりとめます。何とか客も戻ってきた頃、ヘレンの妊娠がわかり騒動に。この時ジョーに突き飛ばされて頭を打ったアルバートは・・・。

もうね・・耳からの出血でこれはもう・・とわかっちゃうのですが、ヘレンとの穏やかな生活を夢想していたアルバートはきっと幸せだったのよね

コツコツ貯めた床下のお金はベイカー夫人がちゃっかり懐に入れます。でもそのお金でホテルのペンキを大々的に塗り替えるためにヒューバートが呼ばれ、ジョーに棄てられて赤ん坊を産んだヘレンをチフスで死んだ妻の代わりに迎えそうなラストには、アルバートは少なくても誰かを幸せに導いて逝ったのだと思わせてくれました

共感は出来ないけれど、後味は悪くなかったな

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする