杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ヒトラーの贋札

2010年07月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2008年1月19日公開 ドイツ=オーストリア 96分

1936年。世界的贋作師だったサリー(カール・マルコヴィックスサリー)は犯罪捜査局のヘルツォーク(デーフィト・シュトリーゾフ)に捕まり強制収容所へ送られる。ナチによるホロコーストが始まっていた。息抜きで描いた絵が気に入られた彼は、親衛隊の肖像画やプロパガンダの壁画を描くことで生き延びようとするが、5年後、突然別の強制収容所へ移される。そこで再会したヘルツォークは、大量の贋ポンド紙幣をばら撒き、イギリス経済を混乱させる目的の「ベルンハイト作戦」の指揮を執っていた。そこは各地から集められた職人たちが働く秘密工場だった。作戦が成功すれば家族や同胞への裏切りに、失敗は死を意味していた・・・。

紙幣偽造作戦「ベルンハイト作戦」に携わっていたユダヤ人技術者たちを描いた作品で、実際に強制収容所で贋造に携わった印刷技師アドルフ・ブルガーの著書をベースにしていますが、主人公はサリーです。

過酷で劣悪な環境下の一般収容所に比べ、清潔なベッドに温かい食事、美しい音楽など、秘密工場での待遇は天国のよう。一匹狼として生きてきたサリーは、ここでブルガーやコーリャたち仲間と心を通わせていきます。けれど、ナチスに協力することは家族や同胞への裏切りであり、彼らの心の負い目となっていきます。でも、生き延びるためには協力するしかないのです。

ポンドの贋札作りに成功すると次はドルの贋札作りを命じられます。
正義感から決起を迫るブルガーを一蹴したサリーですが、自分の仕事を拒否するブルガーを責めることも密告することもせず、贋札の完成のために心血を注ぐことで仲間を守るのでした。

結核に罹患したコーリャのためには、ヘルツォークと裏取引をして彼ら一家の偽パスポートを作ることで薬を手に入れるのですが、結核がばれてホルスト小隊長(マルティン・ブラムバッハ)の指示で?殺されてしまうのです。ヘルツォークは紳士的で先見の明もある人物として、ホルストは尊大で卑しい人物として描かれています。

数日後、工場は閉鎖され印刷機材は親衛隊によって運び去られます。ドイツは連合軍に敗れたのです。親衛隊が去った後、工場の扉を破ったのは、収容所の囚人たちでした。「外」の界の悲惨さに言葉もなく歩くサリーの背が印象的でした。

戦時中の出来事を挟んで冒頭と終局にモナコのカジノでスーツケースに詰った札束(ホルストとの最後のやりとりを連想させる意図でしょう)を湯水の如く使うサリーの姿と美女とのシーンが挿入されているのは所謂芸術的要素ってやつですかね

題名にヒトラーの、と入っていますが、ヒトラー自身は肖像画でしか出てきません。

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歩いても歩いても

2010年07月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2008年6月28日公開 114分

ある夏の終わり。横山良多(阿部寛)は妻ゆかり(夏川結衣)と息子あつし(田中祥平)を連れて実家を訪れた。開業医だった父(原田芳雄)とそりの合わない良多は失業中ということもあり、久々の帰郷も気が重い。姉ちなみ(YOU)の一家も来て、老いた両親の家には活気が溢れる。得意料理を次々こしらえ振舞う母(樹木希林 )と相変わらず家長としての威厳にこだわる父。ありふれた家族の風景だが、今日は、15年前に亡くなった長男純平の命日だった・・。


台所での母と娘の何気ない会話から始まる物語は、まな板の上で野菜を切る包丁の音や茹で上がった枝豆をザルに入れて水切りする音、塩を振る音、豆を出してご飯に混ぜる様子など、日常のありふれた、でも見るからに美味しそうな音と画で溢れています。

一方、電車の中の良多たち夫婦の会話で、彼らにとってはこの帰郷があまり気の進まないものであることがわかります。それはそりの合わない父の存在に加えて現在失業中であるという良多の負い目や、子連れの再婚であることに気を回すゆかりの緊張が関係しているようです。

実はこのお母さん、良太の結婚相手が再婚であることを快くは思っていないので、表面的には和やかで親しそうにしながらも、言葉の端々にそうした思いが現れちゃってるんですねぇ。嫁としてはなんとも気詰まりな滞在なわけですが、ゆかりさんは不満を胸のうちに仕舞ってなかなか出来た嫁をしています。

更に、久々の家族の集まりが、亡くなった兄の命日の墓参りのためであること、死の原因が、海で溺れかけた少年を助けたことだったことなどが明らかになっていきます。
跡継ぎと期待されていた兄に対する両親の思いの深さは親として理解できるのですが、助けられた少年が成人した後も毎年命日に訪問することを半ば強要する母の心の奥にある暗い思いには、情の怖さを感じました。でも・・・自分が同じ立場ならこのお母さんを非難はできないかも

兄にばかり期待が集まって拗ねちゃってたみたいな良多の複雑さも伝わってきますし、姉夫婦のちょっと打算の入った同居の申し出を、良多が遊びに来にくくなるだろうという親心からも浮け渋る母の思いとか、本当に何気ないやりとりのなかに、個々の感情が見え隠れする場面に、家族というものの愛しさ、厄介さ、残酷さが浮かび上がる構成が見事です。ずっと変わらない家族の絆。でも年月とともに否応なく変わっていく家族の繋がり。懐かしいような物悲しいような複雑な思いが残りました。

タイトルは坂と階段の多いロケーションを人生に例えたのでしょうか?両親の思い出の曲として出てくる「ブルーライトヨコハマ」の歌詞にも引っ掛けているのかなぁ。

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ブライダル・ウォーズ

2010年07月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年製作 アメリカ 89分  日本未公開

完璧主義者の敏腕弁護士・リヴ(ケイト・ハドソン)とお人好しの小学校教師・エマ(アン・ハサウェイ)は、幼馴染の親友同士。2人の共通する夢は、運命の相手とニューヨークのプラザホテルで結婚式を挙げること。26歳を迎えた彼女たちは、その夢の日を目前に迎えるが、問題が発生する。ウェデイングプランナーの手違いで同じ日に結婚式の予約が入れられてしまったのだ。どちらも譲らずついに式の日取りを巡る争奪戦が勃発。互いに式の準備を妨害する争いは日に日に激しくなり、やがて2人の親友関係も絶縁状態になってしまうのだが…。

結婚相手そっちのけで式の日取りの争奪戦を繰り広げる二人の姿は、観客として観ている分にはお気楽に楽しめるコメディだけど、もし自分が友人の立場ならかなり煩わしく面倒なことだろうと思います。
相手の肌や髪にまで妨害工作をする姿は同性ながら「女ってこえ~~~!!」でした。

二組のカップルの関係も、この出来事で一方は絆を深め、もう一方は壊れていきます。が、ちゃんと「真実の相手」が伏線として用意され、結末はめでたしめでたしってのもロマコメの定番でした。

今回のブッキングは自分の心を抑えたり偽ったりしていた二人が本来の自分を取り戻すには丁度良い「試練」だったわけですね。

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借りぐらしのアリエッティ

2010年07月21日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月17日公開 94分

アリエッティ(声:志田未来)はとある郊外の古い屋敷に住んでる身長10cmの女の子。一家は自分たちの暮らしに必要なモノを必要なだけ人間の世界から借りて生活する、借りぐらしの小人の種族だ。彼らの掟は「決して人間に見られてはいけない」ということ。しかし、アリエッティは初めて借りに出た夜に、病気の静養でこの屋敷にやってきた少年・翔(神木竜隆之介に姿を見られてしまう。人間に姿を見られたからには、引っ越さないといけない。掟と好奇心の間でアリエッティの心は大きく揺れるのだった…。

メアリー・ノートンの「床下の小人たち」は既に読んでいるので、映画との違いを楽しみながら観ました。映画は舞台を日本に移し、心臓を患う少年・翔とアリエッティの心の触れ合いを軸にしながら、身の丈に合ったつましい暮らしをしている小人一家の様子を丹念に描いています。

両親が離婚して一週間後に心臓の手術を控えた少年の心の揺れは、アリエッティに「君達は滅び行く種族だ」と話すシーンに現れていますが、アリエッティの凛とした強さに触れて、生きることへの勇気を得て変わっていくんですね

アリエッティの両親ホミリーとポッドの声は大竹しのぶと三浦友和。どちらも原作のキャラのイメージを損なわず良かったです。ハルさん(樹木希林)はかなり強烈だったけど彼女が小人を捕まえようとする理由が旺盛な好奇心によるのか「小さな泥棒」という認識故なのかが漠然としているので行動が唐突な印象だったのが残念。

スピラー(藤原竜也)の容貌が「ドラゴンボール」のヤジロベーに似てるように見えたのは気のせい?
翔は神木君のイメージで設定されているとか。「千と千尋~」や「ハウル~」では赤ん坊や子供の声だったのが、すっかり大きくなって・・・とおばちゃん度MAXで浸ってしまいました

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エアベンダー

2010年07月21日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月17日公開 アメリカ

かつて世界は<気、水、土、火>の王国によって均衡を保っていた。各国には、それぞれのエレメントを操る“ベンダー”がいて、すべてを統べる“アバター”により秩序は保たれ、人々は平和に暮らしていた。火の王国が反乱を起こすまでは……。

100年前、気の国で修行を重ねていた少年アン(ノア・リンガー)はアバターとして見出されるが、愛や家族を捨てなければならない過酷な宿命に耐えかねて逃げ出してしまう。その途中嵐に遭遇し氷の中に閉じ込められていた彼を偶然助けたのは水の国のベンダーであるカタラ(ニコラ・ベルツ)と兄のサカ(ジャクソン・ラスボーン)だった。一方アバターを探す命を受けて火の国を追放された王子ズーコ(デーヴ・パテル)はアンを捕えるべく彼らを追跡していた・・・。

万物の象徴である気・水・土・火を司る4つの国が舞台で、精霊と人間たちの調和した暮らしは火の国の野心家の王オザイ(クリフ・カーティス)により戦乱に投げ込まれています。この王は風貌が残虐なローマ皇帝ネロを思わせるね

自分の宿命を受け止めきれずに逃げ出したアンはまだ12歳の少年で、修行の途中だったため、気の能力しか修めていませんでした。彼は、カタラやサカとの出会いにより、土の国や水の国を旅する中で100年の間に火の国が他の国々にしたことを知ります。囚われの身となったアースベンダーたちに、自らの能力を信じ立ち上がるよう呼びかけたり、水の国で修行をしたりしながらも、アンの中ではまだ迷いがありましたが、やがてドラゴンの精霊の導きで自らの宿命から逃げずに立ち向かう強さを身につけて成長していくのです。

水の国の王女ユエの出生の秘密は今回の戦いの重要なポイントでした。サカとの悲恋も泣かせどころと言えるかな。
また、悪役であるズーコが実は心優しき青年であることも示唆されています。
そうか~~彼はファザコンだったのね
でも私はズーコの良き理解者であり、精霊の力を重んじる伯父アイロが好きだなぁ

でもでも・・・あれ?これって完結しないのね
今回、アンは水のベンダーとしての能力を開花させますが、土と火は未だなのです。
そして火の国の王のお気に入りのズーコの妹が登場するシーンで終わってしまうんだもの。

宮崎駿作品にインスピレーションを得たというナイト・シャマラン監督だけに、それぞれの国の描写や戦いのVFXはなかなか見応えがありました。登場人物が白人系じゃない点も異世界のムードを高めてくれていたかも。

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人生に乾杯!

2010年07月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年6月20日公開 ハンガリー 107分

運命的な出会いを機に結婚したエミル(エミル・ケレシュ)とヘディ(テリ・フェルディ)も、今では81歳と70歳。年金だけでは暮らしていけず、慎ましやかな生活をしているのに借金取りに追われる毎日で、ついに二人の出会いのきっかけだったダイヤのイヤリングまで借金のカタに取られてしまう。高齢者に冷たい世の中に怒りを覚えた夫のエミルは、イヤリングを奪い返すために持病のぎっくり腰を押して20年ぶりに愛車のチャイカを飛ばし、郵便局を紳士的に強盗!それを皮切りに次々と紳士的強盗を重ねていく。一度は警察に協力した妻のヘディも、奮闘する夫の姿にかつての愛しい気持ちを思い出し、手を取り合って逃げる決心をする。やがて二人の逃避行は、多くの民衆を巻き込んで思いもかけない展開に…。


年齢設定を老人にしたハンガリー版の「ボニー&クライド」
年金暮らしの老夫婦。年金だけじゃ暮らしていけなくて、借金が嵩み、大切なダイヤのイヤリングまで取られてしまったことをきっかけに、夫が郵便局強盗をしちゃいます。警察が来て夫の犯行を知った妻は説得するはずが合流しちゃって、夫婦で強盗しながら昔馴染みの友人を巻き込んで逃走生活が始まります。

二人が知り合ったのは、社会主義の時代に、隠れていた令嬢のへディをエミルが見逃したことからのようです。ハンガリーの時代背景や社会情勢はよくわからないのですが、ダイヤのイヤリングをエミルに渡して助けを求めたエピソードがまず観客に示され、次に老人となった二人の日常生活の中で、再び借金の形として彼女が借金取りにイヤリングを差し出す場面が提示されます。そして中盤、逃避行の中でまたこのイヤリングが出てくるのです。

年老いて互いへの関心も薄くなったかに見えた二人ですが、普段は無口で物静かなエミルが大事なイヤリングを取り戻そうと強盗という大胆な手段にうったえるのに驚かされます。へディの方も、夫の思わぬ行動に面食らいながらも一緒に逃げることを選んだのは、きっと彼への愛情を思い出したからなのでしょう。

ホテルのスパに二人で入って楽しそうなへディが「マッサージ」に焼きもちを妬いたり、エミルからの思わぬプレゼントに喜ぶ様子は、女性らしい可愛らしさに溢れています。
ぎっくり腰や糖尿(へディはインシュリン注射が欠かせません)と言った老いに付随する病さえ、ユーモラスに取り入れてしまう監督の技量はなかなかなものです

一方追いかける側の警察の二人アンドル(ゾルターン・シュミエド)とアギ(ユディト・シェル)は恋人同士。浮気がばれたことで関係がこじれています。彼の浮気が許せないアギは妊娠の事実を彼に伝えず別れようとしています。

二組のカップルのやり取りを対比させながら進んでいく物語ですが、アメリカや日本では考えられないくらいのんびりした(抜けてる?)捜査についつい失笑してしまいます。まるでコントのような間と緩さです。旧友のキューバ人のキャラも愉快です。人質となったアギと老夫婦の間で、心の交流が生まれていくのも良かったなぁ。
「もし浮気をしたらどうする?」という問いかけに「どうもしやしないわ」と答えるへディに思わずクスッと笑ってしまいました。これって長年連れ添ったからこそ言えるセリフだし、言葉以上に深い信頼と愛情を感じることが出来たからです。

彼らは強盗と言っても礼儀正しく紳士的だったことと年金暮らしの切実さが、立場を同じくする老人たちや民衆の共感を呼び、一種英雄のような支持を受けていくのですが、終盤で衝撃的な終わり方と見せかけておいて、実はハッピーエンドなのも嬉しいところへディが抱えていたくまのぬいぐるみも秘密に一役買っていたっけ

さて、人生に乾杯!したのはどちらのカップルだったでしょう?いや、両方なのかな

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インセプション 試写会  

2010年07月16日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月23日公開予定

特別試写会(国際フォーラム ホールA)
7月15日。17:30開場、19:10舞台挨拶 上映19:30~22:00

友達に誘って貰った試写会。会場の警備がやたらと厳しくて、カメラも入っていたので主要俳優の挨拶があるのかと期待したらビンゴ!!渡辺謙さんがロスのプレミアからとんぼ返りで帰国し、成田から駆けつけての舞台挨拶がサプライズでありました。
挨拶内容はワイドショーで流れた通り。

ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人が一番無防備になる状態=眠っている時に夢を通して潜在意識に侵入し、そのアイデアを盗み出すという犯罪分野のトップ・スペシャリスト。しかし彼はまた最愛の妻を失った国際指名手配犯でもあった。そんな彼にあるミッションの依頼が入る。これを果たすことが出来ればかつての幸せな人生を取り戻せるかもしれない。だがそれは「インセプション」と呼ばれる他人の潜在意識に入り込んである考えを“植えつける”という最高難度の仕事だった。彼はチームを集め、最高の技術と細心の注意を払って念入りに準備しこのミッションに取り掛かるが、予測していなかった展開が待ち受けていた…。

この「インセプション」の依頼人サイトー(斉藤=さいとうじゃなくてサイトーなのが面白い)役を渡辺謙が演じています。初めから終わりまでほぼ出ずっぱりで完全に準主役級。
しかしあの老けメイクはあんまりいただけなかったかも

冒頭からサイトーの屋敷や東京の風景が出てくるのですが、屋敷が城だったり、内装が中国風だったり、新幹線の車内が欧州風だったり(最近新幹線乗ってないので、あのような個室っぽい車両も存在するのだったら見当違いだけど)と、西洋人の日本観が未だにこの程度なんだと悲しいような可笑しいような、ちょっと複雑な気持ちにさせられます。
しかし、他のロケーションやセットは違和感なくその壮大さを楽しむことが出来ました。

コブは最愛の妻モル(マリオン・コティヤール)と行ったある「研究」の結果、現実認識を喪失した妻の自殺という過去を背負って苦しんでいます。それに気付いたアリアドネ(エレン・ペイジ)はコブの道標的役割を果たしていきます。

コブのチームのメンバーは他にアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)、イームス(トム・ハーディ)、ユスフ(ディリープ・ラオ)といった夢の街の設計人や夢に誘う薬の調合人、ターゲットの情報収集人など専門家が結集しています。

夢は第一層から第三層まであり、深度が上がるにつれ、現実の時間の何倍も長く感じられるという特徴があります。各層と更に虚無の層で同時進行するそれぞれの物語をしっかり頭の中で整理できないと、作品自体を楽しめなくなるので注意が必要だけど、次々降りかかる「追っ手」との戦いとミッションの結果を見届けるのに夢中で二時間半という長さは気になりませんでした。冒頭のシーンが終局に繋がる手法は従来からあるけれど、ラストのコマの示す世界は果たして・・・一緒に観た友人たちと「あれは止まるよね」と認識は一致したけど、観客の想像に任せる終わり方でした。

物語はミッションの成否の他に、コブとモルとの間の過去とその決別がテーマです。
夢の中の世界もセットを組んで撮影したものが殆どだそうで、無重力でのアクションや派手な爆発シーンなども迫力があって楽しめました。

実は予告で観た時は謙さん出てるから「観てもいいかな」程度の関心だったけれど、映画終了時の感想は「面白かった!観て良かった!!」になりました

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トイ・ストーリー3  3D吹替版  

2010年07月14日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月10日公開 アメリカ 

カウボーイ人形のウッディ(声:唐沢寿明)は、アンディの一番のお気に入り・・だった。今やアンディは17歳となり、おもちゃで遊ぶことから卒業していて、もうすぐ大学に進学するために家を出ていくのだ。アンディはウッディだけを持っていき、バズ(所ジョージ)たち他のおもちゃを屋根裏にしまうことにしたが、手違いでゴミに出されてしまう。危ういところで難を逃れたおもちゃたちは、アンディに捨てられたと思い込み、地元の託児施設へ寄付されるおもちゃたちの段ボールに自ら入り込んだ。託児所「サニーサイド」のぬいぐるみのロッツォを初めとするおもちゃたちに歓待を受けたバズたちは留まることを決意し、仲間を説得するために同行したウッディは諦めて去っていく。だが「サニーサイド」がロッツォによりおもちゃの牢獄と化していることを知ったウッディは、仲間を救うために戻っていく・・・。

前2作はいずれもTVで楽しんだので、上映が吹替しかなくても今回ばかりは平気、というか、唐沢&所コンビの声じゃないと逆に違和感あるかも

子供時代に別れを告げるアンディと年を取らないおもちゃたち。これは別れの物語でもあります。おもちゃたちにとっては、一緒に遊んでくれる存在が彼ら自身の居場所でもあるのだということも教えられました。同時におもちゃたちの友情の絆を描いた物語でもあります。

子供たちと遊んでもらえると期待して待っていたバズたちですが、彼らに割り当てられたのは、おもちゃを乱暴に扱う年少の子供たちの部屋でした。昔の出来事から人間不信になり力で支配する捻れた心を持つようになったロッツォが、最後まで改心できなかったのも悲しいなぁ。

ウッディたちがサニーサイドから脱出する場面と、運ばれた焼却炉から必死に逃げる場面はつい拳を握りしめながら見ちゃいました。3Dが緊迫感や臨場感を高めてくれています。リトル・グリーン・メンが大活躍しちゃいます。

今回、バズはロッツォの陰謀でリセットされたり、スペイン語仕様になったりと散々だけど、ジェシーとの間にが芽生えちゃったりして、良いことも
恋といえば、予告でお馴染みのケンとバービーも重要なキャラでした。

ウッディを助けてくれたボニーは想像力豊かな優しい女の子。ボニーの家のおもちゃたちの中にはトトロもいますセリフないのがちょっと残念かな。
空っぽになったアンディの部屋を見たお母さんの寂しさも、ウッディが決めた選択によりアンディがおもちゃたちをボニーに譲る時の彼の胸に去来した思いも、すっかりわかる年になった自分が嬉しいような悲しいような・・複雑

前シリーズで強烈なキャラだったシドがいないのも物足りないなぁと思ってたら・・・ゴミ処理トラックの運転手って・・成人したシド??

そうそう、本編の前に「デイ&ナイト」という短編が上映されました。これも味わいがあったよ。

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ニセ札

2010年07月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年4月11日公開 94分

終戦直後、緑の山と清流に抱かれた小さな村。古くから和紙の産業で知られていたが、戦後の物資の少ない中、人々は貧しい生活をしていた。小学校では、軍国主義の本を処分したので、子供たちが読む本もない。ある日、小学校の教員、かげ子(倍償美津子)のもとに、教え子の大津(板倉俊之)からニセ札作りの計画が持ちかけられる。最初はつっぱねたが、知的障害者の哲也(青木崇高)を引き取り育て、村人の苦労も知っているかげ子は、村の名士、戸浦(段田安則)の説得で腹を括る覚悟を決める。

キム兄(木村祐一)の長編監督デビュー作です。
軍国主義に染まった本や習字を焼く場面で始まる冒頭はそれまでの価値観が崩壊して放心するかげ子の心境を映し出しています。殆ど本のない図書室と物語のラストの図書室の状況の対比が見事です。

軍人として生死の境を生きてきた戸浦が国を相手にした勝負としてニセ札作りに積極的に加わった気持ちも、生徒が貧しさゆえに進学を諦めて働きに出なければならなかったり、学校に満足に本もない状況から犯行に加わるかね子の気持ちも、しっかり伝わってきます。

最初から胡散臭い大津の裏切りは実は情婦のみさ子(西方凌)の示唆。けれど小笠原(三浦誠己)に捕まり殺されちゃうんですねぇ。で、あっけなく死体が発見されてしまって、村に警察がやってくる。焦って未完成の「作品」を使うことで発覚しちゃうというのは、おそまつなように思えるけれど、寒村で名も無い人々の犯罪ということを考えれば、当然な帰着なのかもしれません。洋画のようなスピード感やプロっぽさは微塵もないのが逆に新鮮でリアリティがあるかも。

にせ札作りの途中、川原でピクニック&記念写真の場面があり、メンバーの写真館主・花村(木村祐一)、紙漉き職人・喜代多(村上淳)らと笑顔で語らう姿は実に楽しそうで充実感に溢れているのが面白いの。

法廷でのかね子の発言こそがこの作品の肝です。
知的障害のある哲也が飛ばすお札で作った紙飛行機や自分で書いた「お札」の乱舞に群がる傍聴席の人々の様子はまさに拝金主義を皮肉った結末だと思います。

金儲けではなく貧しい村人のために計画され、ほかならぬ村人たちによって出資された前代未聞の犯罪は、お金とは何かを鋭く、かつユーモラスに問いかけていました。

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沈まぬ太陽

2010年07月08日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年10月24日公開 202分

昭和30年代。巨大企業・国民航空社員の恩地元(渡辺謙)は、労働組合委員長を務めた結果、会社から10年におよぶ僻地での海外勤務を命じられた。かつて共に闘った同期の行天四郎(三浦友和)が組合を抜けてエリートコースを歩みはじめる一方で、恩地は家族との長年にわたる離れ離れの生活で焦燥感と孤独に追いつめられ、本社への復帰を果たすも不遇な日々は続くのだった。そんな中、航空史上最大のジャンボ機墜落事故が起こり…。

山崎豊子の同名小説の映画化で、劇場公開時は間に10分の休憩時間を入れるという異例の興行でしたが、その時間的制約ゆえ、DVD待ちしていました。

御巣鷹の痛ましい事故とその前後の搭乗客と遺族の様子がオムニバス形式で描かれ、そこに恩地の経歴が挿入されていきます。
初孫を連れて祖父の家を訪ねようとした若夫婦、一人旅の子供、単身のサラリーマンなど、ごく普通の市井の人々の人生が突如として断ち切られる恐怖や絶望がまざまざと伝わってきて、いきなり涙が溢れてきて、そんな自分にちょっとびっくり。

どうみても日航の墜落事故そのまんまだし、物語が進むにつれ、フィクションだとわかっていても、本質的には変わりないのではという強い怒りが湧いてくるのを止められませんでした。

労働組合委員長として経営陣と激しく対立した恩地は、確かにちょっとやり過ぎな感もぬぐえないけれど、その報復でカラチ、テヘラン、ナイロビと足掛け8年も僻地(というのは差別になるかな?)勤務の左遷人事に遭います。彼は矜持を持ってこの仕打ちに耐えますが、実母の死に目にも会えず、家族とも別れて暮らすこと余儀なくされるのです。

東大卒のエリートから見たら不本意で劣悪な条件なのだろうけど、左遷といっても一応海外勤務だし、それなりの待遇はされているように見えて、あんまり同情の気持は起きなかったのですが、家族の辛さには大いに共感。我が道を行く夫や父の苦労は自分で選んだものだけど、妻や子供はねぇ・・・

帰国した後にジャンボ機墜落事故が発生し、その救援隊・遺族係へ回された恩地は誠心誠意遺族へ対応していきます。利根川総理の国民航空再建策で、関西の紡績会社の会長である国見正之(石坂浩二)が国民航空会長になったことで、恩地も「会長室」の部長に抜擢されようやく自らの理想の会社を目指して改革に奔走するも束の間、政治的取引やら親友の筈の行天の画策で志は中途で絶たれ、またナイロビに飛ばされる恩地・・・けれど、彼の心の中はむしろ穏やかです。強い信念と不屈の精神はどんな過酷な状況にあっても彼の心から消せないから。

アフリカの広大な土地に沈む太陽を背に遥か先の未来を見ているかのような恩地の視線の先に希望があるように思えたラストでした。

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踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!

2010年07月07日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月3日公開 

高度なセキュリティシステムが導入された新湾岸署への引越し業務を一任された青島俊作(織田裕二)係長は部下の篠原夏美(内田有紀)や和久伸次郎(伊藤淳史)らとともに大張り切りで引越し作業に取り組んでいた。だが、その引越しの真っ最中に、湾岸署内で次々と事件が発生。金庫破りやバスジャック、さらには、青島や恩田すみれ(深津絵里)らの拳銃が3丁盗まれ、連続殺人事件へと発展していく。湾岸署には特別捜査本部が設置され、管理補佐官の鳥飼誠一(小栗旬)とともに青島は捜査を開始。しかし、必死の捜査もむなしく遂には湾岸署が占拠されてしまう。開署式を翌日に控え、青島ら湾岸署員は被疑者を確保することができるのか……。

あれから7年経ちました
青島君は係長に昇進してるのね。室井さんも順調に出世してる。
和久さんの甥っ子も配属され、女青島・篠原も共に働いているという設定。変わらないのはすみれさんとの微妙な距離だけ? 真下君(ユースケ・サンタマリア)ってば交渉人クビですかぁ?雪乃さんはどうしちゃったんでしょ?など懐かしい顔ぶれを前に思い出に浸っている・・・余韻もなく事件発生です。

そしてまたまた懐かしい青島君に逮捕された過去の犯人たちとの再会
個人的にはゴローちゃん見れてでした。
他にもSPなどで出てきたチョイ役キャラもあちこちで登場してるのが楽しいです。
今回の裏主役はキョンキョン キャラとしても圧倒的オーラありです。
そして今回の作品テーマは『仲間』と『生きる』だそうで。
ラストで明かされる真下君が交渉人クビになった理由はソレかいなオチも楽しめました。

シネコンの大きいスクリーンで平日午後の割りには7割の入りで観客の期待も大きい
でもね・・正直な感想を言えば、過去のキャラ総動員した割りにはインパクトに欠けたような・・ 

鳥飼VSでまた続編作る気かなぁ? 

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アデル/ファラオと復活の秘薬

2010年07月07日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2010年7月3日公開 フランス 107分

1911年のエジプト。ジャーナリストのアデル(ルイーズ・ブルゴワン)は双子の妹アガット(ロール・ド・クレルモン)の命を救うため、古代エジプトに伝わる“復活の秘薬”を求めてラムセス2世の墓を訪れ、秘薬のカギを握るミイラを手に入れる。同じ頃パリでは、博物館の卵の化石からジュラ紀の翼竜プテロダクティルスが孵り、人々を恐怖に陥れていた。翼竜を蘇らせたのは蘇生術を研究していたジュラ紀の専門家エスペランデュー教授(ジャッキー・ネルセシアン)だった。教授の力でミイラを蘇らせて妹を救おうとするアデルは・・・。

フランスの人気コミック「アデル・ブラン=セック」シリーズの実写映画化作品。
勝気な美人ジャーナリストであるヒロインが1900年代の優雅な衣装に身を包みながらエジプトの砂漠やパリの街中で大活躍するアドベンチャー物語です。

インディ・ジョーンズの女性版と思えばいいかも。
けれど、女性が主人公だとインディと同じようなことをしていても傲慢さが鼻についてしまうのは何故かしらん? 

元市長が浮気中に翼竜に殺されちゃったり、トップからの捜査指令がどんどん下部に下りてきて、ついでに事件解決までのタイムリミットも短くなったりとか、権力者を一貫してコケにしているのは仏映画特有のユーモアで楽しめます

しかし、殆ど日本で知られていないこの作品、エジプトでいきなり始まるあんた誰?なデュールヴー(マチュー・アマルリック)との攻防(アデルの宿敵のマッドサイエンティストなんだそうだ)とか、いつもアデルに先んじられるらしいカポニ警部(ジル・ルルーシュ)とか、キャラ本来の面白さが伝わって来ないのよねぇ。妹の命が危うくなった原因も「え?それで頭にピンが刺さってるの」な理由だしなぁ

博物館のメナール教授(フィリップ・ナオン)や助手のアンドレイ(ニコラ・ジロー)、猛獣ハンターのサン=ユベール(ジャン=ポール・ルーヴ)など、個性的なキャラも登場し賑やかに進んでいくのですが、エスペランデュー教授の力を借りようと彼の脱獄を何度も試みる場面は冗長で笑いを狙い過ぎ。翼竜を乗りこなして助けに行くって・・馬じゃないんだからさぁぁ。まさにコミックを忠実に実写化したらこうなりましたってところでしょうか。

ミイラの棺と一緒に墓を脱出するシーンと、蘇ったミイラたちとのやりとりはすごく面白かったんですがね。 仏的ユーモアは嫌いじゃないけど、ファンタジーアドベンチャーとしてはハリウッド製の同作品が観てみたいなぁと思いました

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パッセンジャーズ

2010年07月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年3月7日公開 アメリカ 93分

飛行機事故で奇跡的に生き残った5人の乗客を担当することになったセラピストのクレア(アン・ハサウェイ)。生存者の食い違う証言。彼らを尾行し監視する者たち。事故の核心に近づくたび、次々と失踪する生存者。彼女の周辺でも不可解なことが続発し始める。
何故飛行機事故は起きたのか?何故5人だけが生き残ったのか?彼女だけが知らなかった驚愕の事実とは・・・・?

う~~ん・・・物語の展開が冗長で、何が言いたいのかが曖昧なまま進むので退屈。
その曖昧さで、本当はこうじゃないか?という最後のオチが透けて見えてしまいます。
もしかしてそのための緩慢さ?

セラピストが、患者と一線越えるのは拙いでしょ生き残った乗客たちの様子も不可解だし・・と思っていると突然消えるリストにない乗客。やけに親しげな隣人。音信不通の姉。はい、材料揃いました!って感じでした。

どうせならもっと緊張感のあるスリリングな展開にしてくれたら面白くなったのに。
結局は運命を受け入れるためのモラトリアムだったというお話ね。

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楽園 上下

2010年07月04日 | 
宮部 みゆき (著)   文藝春秋(刊)

<上巻>
「模倣犯」事件から9年が経った。事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、荻谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子に関する、不思議な依頼だった。少年は16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、それを絵に描いていたという―。

<下巻>
土井崎夫妻がなぜ、長女・茜を殺さねばならなかったのかを調べていた滋子は、夫妻が娘を殺害後、何者かによって脅迫されていたのではないか?と推理する。さらには茜と当時付き合っていた男の存在が浮かび上がる。新たなる拉致事件も勃発し、様々な事実がやがて一つの大きな奔流となって、物語は驚愕の結末を迎える。 (「BOOK」データベースより)

「模倣犯」は映画化にあたり小説を先に読んで、映画の内容のあまりの酷さ(役者は良かったけど筋書きが原作を破壊し冒涜すら感じた)に憤慨した記憶があります。
「楽園」は友人から教えてもらいその存在を知りとにかく読んでみたくなりました。

続編というよりは、ルポライターの前畑を主人公にした別物語ですが、9年前の事件が彼女にも世間にもまだ翳を落としていることが端々から伝わってきます。打ちのめされた彼女の再生の物語でもあるようです。

事故死した息子・等が残した幼児的に見える絵から彼の死後発覚した事件を透視していたのではないかと疑う母・敏子。実は彼女の祖母が未来を読む目を持っていたことが大きく関わっているらしい。初めは信じなかった前畑滋子も、9年前の山荘事件を描いたとしか思えない一枚の絵を発端に、何故等がそういった絵を描けたのかという理由を探ろうとするうちに、別の事件を掘り当ててしまうというのが大筋です。

荻谷敏子の息子が一種のサイコメトラーであったという設定は突飛ではあるけれど、複雑に絡んだ事件を繋ぐキーでもあり、一応「有り」かな

登場するのは何組もの親子関係。
萩谷敏子と等のように愛情溢れた関係もあれば、土井崎夫妻と茜や、夫妻を脅迫していた男とその母親のような修復不能な関係もあります。

『誰かを切り捨てなければ得られない幸福があるのなら、人々が求める楽園は常に予め失われているのだ。それでも人々は己の楽園を見出す。たとえほんのひと時であろうとも』
終章で書かれているのは苦く重い現実。

「模倣犯」のときも感じたのだけれど、犯人像の救いのなさと対照的に、被害者であって同時に加害者でもあった少女たちへの目線は少しだけ優しい。どちらも愛情に飢えていて、自分の気持ちを正しく伝える術を知らなかった。だけど、その引き起こされた結果への下手な同情はしていない点でも好感が持てました。

そしてラストで登場する敏子と思いがけない人物との再会のエピソードが今までの暗くやりきれない物語を清めてくれるような心温まるものだったことに何より癒されました。読み終えて、初めは亡き息子の思い出に引きずられている気弱なおばさんとしか映らなかった敏子が、実は聡明で心の強い優しい女性であったことが一番心に残ったかな。

滋子に再びライターとしての火を点けたきっかけになった「山荘の絵」については中途半端なまま終わったのは、もしかしてまだ先に書く予定があるのかな?

網川の「その後」については一審で死刑判決が出たことと、その後拘禁反応が重くなったことが簡単に触れられただけですが、あのような特異な犯人が獄中で意気盛んだったり執筆活動で世間を賑わせたりという展開にはしなかったことにも一種の安堵を覚えました。

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ディファイアンス

2010年07月01日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年2月14日公開 アメリカ 136分

第二次世界大戦さ中の1941年。ナチス・ドイツの迫害はポーランドの小さな田舎町まで迫っていた。両親を殺されたユダヤ人の、トゥヴィア(ダニエル・クレイグ)、ズシュ(リーヴ・シュレイバー)、アザエル(ジェイミー・ベル)のビエルスキ兄弟は、復讐を胸にポーランドに隣接するベラルーシの森に身を隠す。やがて森には、ドイツ軍の迫害から逃げてきたユダヤ人が次々と助けを求めて集まってくる…。食料難、寒さの中、人間らしく生き抜くことを心に決め、肉体も精神も極限状態の日々を過ごしていた。(goo映画より)

1200人ものユダヤ人の命を救ったビエルスキ兄弟の実話を基にした作品。
例えば「シンドラーのリスト」のオスカー・シンドラーや、東洋のシンドラーと呼ばれた杉原千畝など、他にもドイツの迫害からユダヤ人を救った人はいますが、この物語は同じユダヤ人が同胞と共に隠れ戦った点で大きく異なります。

ドイツ兵はともかく、同じポーランド人からの略奪は、生きていくために必要だったとはいえ、立場が違えば山賊行為です。実際、一部の仲間の中には力ずくで自分たちだけがいい思いをしようとする者が出てきます。弱い立場の女性が「森のつれあい」という立場になることで守ってもらおうとするエピソードなど、愉快ではない場面も出てきます。
しかし、リーダーであるトゥヴィアは人間らしく生き抜こうと、餓えと寒さの中でも助け合って生き延びようとするのです。

途中、兄弟の間で意見の相違から袂を分かった時もありましたが、彼らは3年間の森での厳しい生活を、仲間を見捨てることなく率いたのでした。辛い生活の中にあって、アザエルとハイア(ミア・ワシコウスカ)の結婚式のシーンはひとときの安らぎを与えていました。

いくら森の奥深くに隠れ住んだとはいえ、1200人もの大集団がよくも見つからずに逃げおおせたものだと思いますが、これは紛れもない事実なのですね

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