杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

俺たちスーパーマジシャン 

2015年03月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年製作 日本未公開 アメリカ 100分

かつてはラスベガスの花形イリュージョニストとして絶大な人気を誇ったバート・ワンダーストーン(スティーブ・カレル)とアントン・マーベルトン(スティーブ・ブシェミ)だが、今やすっかり落ち目のマジシャンで最近は喧嘩ばかり。そんな2人の前に神出鬼没のストリートマジシャンとして大人気のスティーブ・グレイ(ジム・キャリー)という強力なライバルが現れた。果たして彼らに逆転のチャンスは訪れるのか! ?


苛められっ子のバートは、誕生祝に母親から貰ったマジックセットがきっかけでアントンと親友になります。二人はマジックの種を色々考えることに夢中になり、やがてコンビを組んで有名なマジシャンとして成功するの。でもバートは傲慢になり、成功は自分一人の手柄と己惚れ、我儘放題。そんな時に現れたスティーブの奇抜なマジックを前に、旧態依然とした彼らのショーは飽きられ観客が激減。アントンが新ネタを考えますが、バートに台無しにされた上に怪我をしたことから、二人は決裂しちゃうの。

ソロになってもコンビの時のネタを引きずるバートはホテルの仕事もクビになり、老人施設の慰問ショーなどで食いつながざるを得なくなります。しかしその施設で、マジシャンになるきっかけになった偉大な先人ランス・ホロウェイ(アラン・アーキン)と出会い、かつてのマジックに対する情熱を取り戻していくというお話でした。

以前ショーで彼らの助手をしていたジェーン(オリヴィア・ワイルド)とバートの間に芽生える恋模様も描かれています。

バートたちのマジックはほのぼの系ですが、対するスティーブのそれは・・マジックと呼べるものなの?確かに現代的で毒のある強烈なパフォーマンスだけど、あれを子供に見せたいとは思わないし、彼のパフォーマンスを笑って喜ぶ子供なんて私は嫌だ~日本未公開となったのはあのキャラが日本人に受け入れられそうにないと判断されたのかも演じているのはジム・キャリーいや~~相変わらず個性的キャラ満開。(それにしても案外良い身体してるのね

仲直りしたバートとアントンが奇抜なアイディアで大成功を収め、再び人気マジシャンに返り咲いて終わるのですが・・・・その仕掛けがまた荒唐無稽でありえね~~
そもそも時間の経過をどう説明するんだい???
そんな疑問は持っちゃいけないのがアメリカンコメディですかね

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラビリンス 4つの暗号とトランプ迷宮の秘密

2015年03月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年製作 日本未公開 ベルギー/オランダ 99分

14歳の少年フリッケ(スペンサー・ボガート)は、学校帰りに自転車とぶつかり、荷台から落ちたバッグを拾う。家に帰ったフリッケはバッグの中にあったカメラについていたキーをパソコンに差し込むと、不思議な世界が広がるゲームが始まった。ペックという名のゲームマスターから、この世界に迷い込んだ少女をフリッケが助け出さなければ、彼女は死んでしまうと言われる。説明書を読むと、カメラで撮影したものをゲームの中に送り込めるらしい。その少女を見つけたフリッケは、隠された暗号を解きながら、カメラでアイテムを届け、ペックの妨害をかわしながらゲームを進めて行く。一方、現実世界でゲームの製作者を探すフリッケは、病院で昏睡状態の少女ノラ( エマ・ヴェルリンデン)に出会い・・・。


大作と比べるとチープさは否めませんが、それなりに面白かったかな。

拾ったカメラ(そもそもおまわりさんに届けろよという話ですが)に付いていたUSBメモリーはゲームへのキーでした。カメラで写したものがゲームに転送され実体化するという発想は面白いね。

最初に写した妹の可愛がっている猫(ゲームの世界で行方不明のままだったのは気になるけれど)は、実世界では意識を失い眠ったような状態になってしまいます。更に、ゲームの世界に閉じ込められている少女は親友のGFの友達のノラだとわかり、事の重大さに気付いたフリッケは、カメラの持ち主を探して、ルドルフ(ペペイン・コードロン)に辿り着きますが、彼も謎の人物からカメラとゲームを送られてきたのだと言います。このゲームの危険性に気付いたルドルフが暗号を仕掛けたのです。

ゲームの中は本のページやトランプ、段ボールなど、子供らしいアイテムに溢れたポップな世界。ペックのキャラも恐くない・・というよりちょっとおまぬけフリッケが14歳という設定なら、もう少しアドベンチャー要素を充実させて欲しいところです。そしてペックはゲームの中では何故か折り紙の兜になっているという。何故兜?何故折り紙??

ノラだけではなく、フリッケの親友や、ゲーム製作者を見咎めた少女(「ムーミン」のミーみたいな性格でした)もゲームの世界に閉じ込められてしまいます。吊り橋のシーンでは男の子が臆病で女の子たちの方が勇気があるのが何とも微笑ましいの

実はこのゲームを作ったのはデジタル化を憎む写真屋の老人でした。彼は冒頭、フリッケたち生徒の集合写真を撮っていますが、この時も少年たちにデジカメにすればいいのにとからかわれています。このシーンをわざわざ入れたのは伏線だったのね

ルドルフと力を合わせて「犯人」を突き止めたフリッケは、三人を助けるために一計を案じます。最後は老人をゲームの世界に閉じ込めることに成功しますが・・・ペック出てきちゃって大丈夫なの?

意識を取り戻したノラたちはゲームの世界の記憶を失っているの。
でも道でフリッケと出会ったノラは「帽子君」と呼びかけるの。まさに運命の出会いというわけです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サード・パーソン

2015年03月26日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年6月20日公開 イギリス 137分

パリ。ピューリッツァー賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)は、最新作執筆のため、ホテルで缶詰めになっている。妻エレイン(キム・ベイシンガー)とは別居中で、野心的な作家志望のアンナ(オリヴィア・ワイルド)と不倫関係にあったが、アンナにもまた秘密の恋人がいた。ローマ。アメリカ人ビジネスマンのスコット(エイドリアン・ブロディ)は、郷愁に駆られて入った“バール・アメリカーノ”で、ロマの女性モニカ(モラン・アティアス)に心を奪われ、彼女の娘が密輸業者に誘拐されたと聞いて彼女を助けようと決意する。
ニューヨーク。昼メロに出演していた元女優のジュリア(ミラ・クニス)は、6歳の息子をめぐって元夫のリック(ジェームズ・フランコ)と親権をめぐって係争中。裁判費用を稼ぐため、かつては常宿である高級ホテルで客室係として働き始める。息子にもう会えないのではと不安なジュリアに弁護士のテレサ(マリア・ベロ)は、裁判所の心証を良くするため精神科医の鑑定を受けるよう助言するが…。


パリ、ローマ、ニューヨークで進む3組の男女の物語がやがて意外な形で交錯していくというミステリー仕立ての作品ですが、この三組がどう関わっているのかの解釈が難しい一度観ただけでは消化不良のまま終わってしまい、検索で辿り着いたのが「マイケル以外の二つの物語は彼の小説の中の話」という見方。
そう考えるとけっこうスッキリ収まるような気がするので正解なのだろう

マイケルとエレインには子供がいたけれど、事故か何かで喪われている。それが不仲の原因の一つでもある。さらに有名な賞は取ったがそれ以上のものが書けず苛立ちと焦燥感を抱え、アンナに救いを見出そうとするものの、彼女に翻弄されるだけに終わっている。

NYの物語のジュリアとリックは子供の親権をめぐり係争中。ジュリアが息子を虐待(本人はしつけのつもり)したことや彼女の暮らしぶりが問題視され分は悪い。でも彼女が息子を愛しているのも事実。夫婦の仲は修復不可能だけれど、息子との関係には希望が持てる余韻を残している。

ローマの話でも、スコットが目を離したことで娘がプールで溺れたという伏線があって、彼がモニカの娘を救おうとする姿に重なっていく。スコットの仕事がファッションブランドからデザインを盗むという胡散臭いものであることや、モニカの関心を引きたいがために彼女のバッグの中のお金を盗んだというそもそものきっかけはだが、それが娘を取り戻すための金と知ってからは、もしかしたら騙されているのかもと疑いながらも見捨てられずに大金を払ってまでも見ず知らずの母娘を救おうとするのだ。結末もハッピーエンドを連想させる。

二つの物語はマイケルの願望が小説に形を変えたものなのかもしれない。
現実には妻とも愛人とも寄り添えずに終わってしまうのだから。
それにしてもアンナが実父と近親相姦の関係にあり、それをマイケルが新作のモデルとして暴露してしまうというのはどうよ公表されたことでアンナは解放されたと考えればいいのか、関係者全てが傷ついただけなのか?

難解な作品であることは間違いない…少なくても私には

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小野寺の弟・小野寺の姉

2015年03月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年10月25日公開 114分

小野寺進(向井理)33歳と姉のより子(片桐はいり)40歳は、早くに両親を亡くし、以来ずっと二人で一緒に一軒家に住んでいる。進は引っ込み思案で恋には奥手で過去の失恋の痛手からいまだ抜け出せず、世話好きなより子はそんな弟にとやかく口を出しながらも、程よい距離感を保って暮らしていた。そんな小野寺家にある日、1通の手紙が誤って配達される。その手紙をきっかけに、進とより子それぞれの恋と人生が動き始めて……。


2013年に上演された同名舞台の映画化で、主演の二人も舞台版と同じなんだそう。
向井理と片桐はいりが姉弟役ということ自体がかなり不自然ではありますが不器用ながら、互いを大切に思いあう二人がとても自然でほのぼのとしていて好感が持てました。

進の仕事は調香師で、寝癖の髪のまま出社して身なりも性格もズボラより子は逆に髪型に独特の強いこだわりを持ちきっちりした性格です。
冒頭では朝食の食卓や、スーパーでの買い物、時には遊園地に行くなど、二人の日常が淡々と描かれますが、あの適度に間のある二人の距離感というか空気感が心地よさげで、だからこそこの関係が続けて来られたのだなぁと感じさせます。

ところが誤配された手紙を受け取り人である岡野 薫(山本美月)に届けたことから、二人の穏やかな日常に新しい風が吹き込むの。別の日、進の不審な行動(香りを調査していた)がきっかけで薫と再会し、二人は付き合い出します。

一方、勤め先の眼鏡店にコンタクトレンズの営業でしばしばやってくる浅野(及川光博)が気になるより子の方にも何やら進展が。向いのお店の若くて可愛い店員・亜沙子(寿美菜子)が彼に気があるようなのに、浅野がより子を誘うシーンでは「やったね」と喜んだのだけど・・・あらら・・・そういう理由でしたかそりゃ~女心を全然わかってないよ、浅野君!!一生懸命お洒落してお化粧して出かけたより子さんの気持ちを想うとこちらまで泣けてきます

親友の河田(ムロツヨシ)の助言もあり、意を決して薫に告白した進の方も、一足違いでチャンスを逃してしまいました。せっかく彼女から好意を持たれていたのに、元カノとうまくいかなかった(姉のことばかり話す進に私とお姉さんどっちを選ぶの?と迫られた)過去が邪魔して煮え切らなかった彼の態度に見切りをつけた薫は、絵本作家としての夢に向かい新しい一歩を踏み出すことにしたのです。
失恋も同じ日というのは出来過ぎですが、帰宅して姉の泣き声に気付きそっと自室に入り、翌朝、さりげなく食事を用意する進の姿に、彼の思いやりが伝わってきました。

この姉弟、まだまだ当分二人暮らしでしょうけれど、それも案外幸せなのよね

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

博士と彼女のセオリー

2015年03月20日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2015年3月13日公開 アメリカ 124分

物理学の天才として将来を期待されていたスティーヴン・ホーキング(エディ・レッドメイン)は、ケンブリッジ大学院在籍中に、詩を学ぶジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、恋に落ちる。しかし直後にスティーヴンは難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し余命2年の宣告を受ける。それでもジェーンはスティーブと共に生きることを決め、二人は結婚、力を合わせて難病に立ち向い三人の子をもうける。時には壁に突き当たって限界を感じ、自身の無力さに打ちひしがれながらも、持ち前のユーモアで乗り越え、“車椅子の科学者”として最先端の研究を精力的に行い、講演活動や執筆活動へ意欲的に取り組んでいく


ジェーンの自伝を原作にした伝記作品です。
「車椅子の天才物理学者」として知られるスティーヴン・ホーキング博士は、ALSという難病を抱えながらも宇宙の起源の解明に挑み、現代宇宙論に多大な影響を与えた人物です。映画はその栄光の奇跡を彼を支えた妻との愛を中心に描いています。

筆記用具が転がる、カップを落とすなど、大学院時代からALSの兆候が現れていたことを示唆する描写が挿入されます。発症シーンでは顔面から転倒する痛々しい、けれど決定的なシーンもありました。こうした細かい演技が積み重なり、発症してからの肉体の変化のみならず、心の中の葛藤も観客に伝わってくるのに圧倒されます。そして何よりユーモアとウィットに富んだ表情が雄弁に気持ちを伝えていました。ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインが第87回アカデミー賞主演男優賞を受賞したのも納得です。なお、映画の中で使用されているホーキング博士の電子音声は本人が提供したものだとか。

一方、妻のジェーンの心の葛藤も、いくつかのエピソードに盛り込まれています。
ただでさえ三人の子供の育児は大変なのに、夫の世話と自分の勉強も加わり、よく倒れなかったものだと彼女を支えていたのは(夫への愛情はもちろんですが)信仰心なのかな?無神論者であるスティーブンが、後に妻への謝辞に神を絡めたのは彼女への深い感謝があったからでしょう

娘を心配した母の勧めで教会の聖歌隊に入ったジェーンは、ジョナサン(チャーリー・コックス )と知り合い深く慰められます。彼は友人としてスティーブンや子供たちの世話を焼きホーキング家に関わっていきますが、やがてジェーンとの仲を疑われて身を引くことになります。その後にスティーブンの介護をするようになったエレイン(マキシン・ピーク )とジェーン以上の絆を感じるようになったスティーブンは、彼女に別れを切り出します。互いの気持ちが以前のそれとは違う形になっていることに気付いた二人が友好的に別れた設定で、どちらの尊厳も保った脚本だなぁと思いました(何しろ二人とも存命ですから)

さて、博士の偉大な業績については作中でもわかりやすく語られてはいるのですが、何しろ物理と聞いただけで耳が拒否する凡人にとってはそれでもわかったようなわからないような???う~~ん・・・。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウィズネイルと僕

2015年03月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年5月3日公開 イギリス 107分

1969年の秋。ロンドンのカムデンタウンで、25歳の僕(ポール・マッギャン)と30歳のウィズネイル(リチャード・E・グラント)は、共に売れない役者として、言葉では言い表せないほどひどい酒浸りの日々を送っていた。居間には物が散乱し、至る所に朝食が残されたまま。台所は山積みになった洗い物が悪臭を放っていた。主食は友人の“ヘッドハンター”ダニー(ラルフ・ブラウン)が提供してくれる酒とドラッグ。ウィズネイルとダニーは、ほとんど挫折しかけた俳優のようだった。少なくともオーディションがある僕に対して、何もないウィズネイルは現状に腹を立てていた。僕とウィズネイルは気分転換のため、チェルシーに住むウィズネイルの叔父モンティ(リチャード・グリフィス)を訪ね、田舎の別荘を借りることにした。巨体に加え、他人に不快感を与える風貌を持つモンティだったが、僕のことは気に入ってくれた。ある夜、使い古したジャガーで危険なドライブの後、僕たちは真っ暗なペンリスのクロウ・クラッグに到着。そこは湿っぽく、明りも暖房も水もなかった。朝になり、食料と薪を探しに出かけたところ、田舎の人は都会の人間よりもよそ者に対して冷たいことを知る。凍えるような寒さとやまない雨の中、好色な牛と精神異常の“密猟者”ジェイクに遭遇。これは僕たちが期待した田舎の生活ではなかった。そこへモンティが加わり、状況はさらに予期せぬ方向へ。やがて、エージェントからテレビの仕事があると連絡を受けた僕は、ウィズネイルとともにロンドンへ戻る。久しぶりに帰った部屋のベッドではダニーが身を潜め、大家からは立ち退き命令が出ていた。一番驚いたのは、僕が主役を演じるようになった事だ。ウィズネイルと僕を結びつけていたものはもう存在しない。悲しいことに、ウィズネイルと僕はそれぞれ異なる道を進む。“2人にとって素晴らしい10年”はこうして終わりを迎える。(Movie Walkerより)


ジョニー・デップが最高だと褒めちぎっている映画ですが・・・・確かに「ラム・ダイアリー」や「ラスベガスをやっつけろ」が好きな向きには大絶賛かもと納得

ブルース・ロビンソン監督は「ラム・ダイアリー」の監督でもあり、本作は彼の1988年に初監督した、自身の経験をもとにした半自伝的作品なのだそう。日本では1991年に吉祥寺バウスシアターで限定公開されましたが、同館の閉館に伴いリバイバル上映されてDVDの発売となったようです。この映画の作品紹介映像とナレーションが面白かったので、てっきり明るいコメディだと思い込んでレンタルしたんだけど・・・

アル中やヤク中と縁のない「健全な」生活を送っている者には理解し難い行動の連続な二人ですが、フィクションとして他人事として見れば愉快じゃないこともない。
雨の多い寒々しいイギリスの天候と、鬱々と日々を送る役者志望の若者の日常が逆にぴったりはまっています。

貧乏暮らしではあるけれど、ウィズネイルの家はどうやらお金持ちのよう。親戚にも別荘を持つ叔父さんがいます。環境を変えたら気分も変わるかもと、ウィズネイルを焚きつけてモンティ叔父さんの別荘を借りたは良いけれど、これがとんでもないボロ屋
近所の家に薪や食料を貰いにいけば、冷たくあしらわれ、酒場に行けば喧嘩を吹っ掛けられて散々ですが、それでも何とか寒さと飢えを凌いでいたところに、モンティ叔父さん登場。

実はウィズネイルは別荘を借りるにあたって、嘘話を叔父さんに吹き込んでいました。ゲイの叔父さんはすっかり「僕」が同好者と信じて「僕」に迫ってきます。この様子も傍から見たら滑稽ですが、「僕」にしてみればとんだ迷惑です

いきあたりばったりなウィズネイルに振り回されながら、「僕」の方もけっこうメチャクチャな暮らしが板についています。けれど「僕」に念願の主役の仕事が舞い込んできて、二人の生活は終わりを告げるのです。

1960年代終わりの雰囲気が色濃く出ている作品で、物語は「僕」の視点で進みますが、ウィズネイルの気持ちはどうだったんだろう?自意識の高そうな彼にとって、正当な評価を与えられない世間に対する怒りや反抗心が酒やドラッグへの逃避になっていたのかな?親友の「僕」にも先を越され置いてきぼりになった彼の切なさが滲み出るようなラストでした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フライト・ゲーム

2015年03月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年9月6日公開 アメリカ 107分

146人の乗客乗員を乗せたニューヨーク発ロンドン行の旅客機に、警備のため搭乗した航空保安官ビル(リーアム・ニーソン)。しかし、離陸直後、ビルの携帯電話に「1億5000万ドル送金しなければ、20分ごとに機内の誰かを殺す」との匿名の脅迫メールが届く。限定されたネットワークからメールが送信されたことから同僚が犯人ではないかと思いつつ、犯人の特定に奔走するビル。やがて1人目の犠牲者が出てしまい、ビルは乗客を拘束して荷物や携帯電話を調べるが、手がかりは見つからない。2人目、3人目と犠牲者が続くなか、やがて犯人の指定する口座がビルの名義だと判明。ビル自身にも疑惑の目が向けられてしまう。


高度1万2000メートルの飛行機内という密室空間での戦いを描いたサスペンスアクションです。
ルピタ・ニョンゴがナンシーの同僚のグウェン役で出演しています。

ビルは家族を犠牲にして仕事優先の人生を送ってきたけれど愛娘を病で失ったことから立ち直れずにアルコール中毒になっています。勤務態度にも問題が生じており、上司や周囲からも要注意人物扱いなの。
事件が起きてからは、その直情傾向の暴力的姿勢が逆に乗務員や搭乗客らの疑いを招き、信用されません。
まぁ、あれだけ問答無用の高飛車な態度を取られたら素直に耳を傾けられる筈ないよね
それでもただ一人、最後までビルを信じてくれたのが、隣に座ったジェン(ジュリアン・ムーア)でした。窓際に固執する彼女のことも疑ってかかるビルですが、その理由(重病を経て人生を最大限に楽しもうとする姿勢)を知ってからは信用するようになります。

狭い機内でのやり取りは緊迫感がありますが、どうしても暴力シーンの多さが気になりました。
初めの犠牲者は同僚のジャック(アンソン・マラント)。実は弱みを握られ脅されて犯行に加わっていたのですが、元々ビルとの折り合いも悪かったようです(身を守るためとはいえ、首の骨を折る前にもう少し加減できないのかよぉぉ)客室乗務員のナンシー(ミシェル・ドッカリー)やジェン、スマートホンのプログラマーのザック(ネイト・パーカー)やアラブ系の医師らの協力をあおぎながら、怪しい行動をしたトム(スクート・マクネイリー)ら乗客の何人かをピックアップして締め上げますが、なかなか尻尾を掴めない中、20分に一人ずつ殺されていきます。

やがて、犯人から要求された身代金の振込先がビル名義の口座だと判明し、乗客の一人がビルの暴力的な捜査をネットにUPしたこともあり、世間はビルが犯人のテロリストだと断定します。そのニュースは機内にいる乗客たちにも伝わり、粗暴なビルの振る舞いに反感を持つNY市警のライリー(コリー・ストール)ら乗客有志が逆にビルを捕えようとするの。誤解が解けた後はビルの協力者になってくれるんだけどね

ネットにUPされた映像に真犯人が映っていることに気付いたビルですが、彼が気付いたと知った真犯人が遂に行動を起こします。彼の理由が9.11事件に端を発しているというのはちょっとこじつけな気もするけれど、初めから自爆目的な主犯人と違って相棒の方は大金目的彼らの目的の違いに気付いたビルが陽動作戦に出ますが、時遅く爆発は止められません。(真犯人たちとビルの間に搭乗前から絡みがあったことに後から気付き、もう一度見返して確認したりも)それにしてもあの規模で爆発してよくぞ生きて地上に戻れたものだ副操縦士のカイル(ジェイソン・バトラー・ハーナー)って腕は良かったのね

父親の待つロンドンへ初めて飛行機に乗る少女ベッカ(クイン・マッコルガン)との交流エピソードは暴力的なシーンが多い中、癒し効果がありました この事件をきっかけにきっとビルは立ち直るのよね

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風に立つライオン

2015年03月18日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2015年3月14日公開 139分

1987年、アフリカ医療に生涯を捧げたシュバイツァーの自伝に感銘を受け医師になった航一郎(大沢たかお)は、ケニアの研究施設に派遣される。離島医療に従事する両親の元で共に働くことを決めた恋人の女医・貴子(真木よう子)とは遠く離れることになったが、ケニアの地で充実した日々を送っていた航一郎は、半年後、現地の赤十字病院から1カ月の派遣要請を受ける。次々に運び込まれる麻薬を打たれて戦いを強いられた挙句、重傷を負った少年兵たちの姿に衝撃を受けた航一郎は、この病院への転籍を志願して、同じく派遣されてきた看護師の和歌子(石原さとみ)と力を合わせ、傷ついた少年たちを温かく包み込んでいく。ある日、病院に深刻な心の傷を抱えた少年兵ンドゥングが担ぎ込まれ、航一郎は真正面から彼に向かっていくが……。


さだまさしの名曲「風に立つライオン」は、ケニアで国際医療ボランティア活動に従事した実在の医師・柴田紘一郎氏に感銘を受けて作られた歌で、多くの人々に影響を与えた楽曲でもありますが、その中の一人である俳優の大沢たかおさんが小説&映画化を熱望して今回の映画が実現したそうです。映画化にあたっては、約一か月にわたるケニアロケが行われました。監督は三池崇史。

元々映画化があっての小説でしたから、筋書きは変わりません。ンドゥグと木場との石巻での交流のエピソードがそっくり抜け落ちている点だけが異なりますが、時間の制限のある映画では、ある程度絞った方が観客に伝わりやすいという面があるので、すっきりまとまった脚本になっていたと思います。

目の前で両親を惨殺され、麻薬を打たれて兵士にされたンドゥングは心を閉ざし、航一郎や和歌子たちスタッフにも打ち解けようとしません。それでも航一郎は自分に「ガンバレ!」とエールを送りながら、ンドゥグの頑なな心の扉を何度も叩くのです。
いずれ通り過ぎるだけの異邦人と思っていた航一郎が再び現れた時、ンドゥグの気持ちに変化が現れます。そしてXマスの夜、彼は自分の想いを吐き出すことができたのです。
彼に8人殺した自分でも医者になれるのかと問われた航一郎は「医者になって9人の命を救えばいい」と答えます。小説でもそうでしたが、このエピソードが一番心に響くシーンでした。

航一郎と関わりのある人たち同僚で友人の青木(萩原聖人)医師、村上所長(石橋蓮司)、貴子らへのインタビューという形式で進んでいくのは小説と同じです。彼らの過去形の言い回しが、ある事実を如実に伝えていますが、それは決して絶望ではないことが、ラストで瓦礫跡に佇む少年に青年が名乗った「ミケランジェロ・航一郎・ンドゥグ」という一言でわかります。
一人でも多くの命を救いたいというその熱意故に航一郎は不幸に見舞われますが(遺体が発見されないという点も小説と同じ)、その志を継ぐ者が確かに存在しているのだということがこのラストではっきりと示されたのです。

欲を言えば、最後に流れる歌をバックに「100万羽のフラミンゴが飛び立つ」姿や、「キリマンジャロの白い雪」「草原の像のシルエット」など歌詞に沿ったケニアの風景をバック目でも味わいたかったなと思いましたが、ベタ過ぎかな

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イントゥ・ザ・ウッズ

2015年03月15日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2015年3月14日公開 アメリカ 124分

長年子どもを授からないことに悩んでいたパン屋の夫婦(ジェームズ・コーデン、エミリー・ブラント)は、ある日、隣に住む魔女(メリル・ストリープ)から夫の両親の不徳から子孫が途絶える呪いをかけたからだと言われ、呪いを解くためには、森に入って 赤い頭巾・真っ白な牡牛・とうもろこしのような黄色い毛、黄金の靴 を集めろと命令される。子どもを授かる“願い(wish)”を叶えたい一心で森の奥へと出かけていくパン屋とこっそり追いかける妻。同じ頃、おとぎ話の主人公たちも、それぞれの“願い(wish)”を持って森へと入っていく。赤ずきん(リラ・クロフォード)は、オオカミ(ジョニー・デップ)に狙われていることにも気付かずに、楽しいことを探しながら森に住むおばあさんのお見舞いへ、ジャック(ダニエル・ハットルストーン)はお金持ちになることを夢見ながら牛を売りに出かけ、シンデレラ(アナ・ケンドリク)は母の眠る森のお墓の前で舞踏会に行きたいと祈り、そしてラプンツェル(マッケンジー・マウジー)は魔女によって森の中の塔に閉じ込められながらも、いつか自由の身になることを願っていた。パン屋の夫婦を通してそれぞれが出逢い、願いを叶え、ハッピーエンドを迎えたかに見えた次の瞬間、運命は彼らに思いもよらない難題を突きつける。


ジョニーが出演しているのが一番の理由ですが、ファンタジー自体が大好きそしてハッピーエンドのその後の物語というのも興味がありました。
オオカミ役ですから出ずっぱりはあり得ないけど、それにしても出番少なかったな~
カメオ出演といってもいいほどのちょい役。でもさすがにインパクトはあります。

この物語の影の主役はパン屋の妻かしら。
頼りない夫を心配し、子供が欲しいという願いを叶えるため、夫の尻を叩き、率先してアイテムを集めます。
一方の夫といえば、、気は優しいけれどはっきり言って役立たず。彼が手に入れたのはオオカミの腹から救い出した感謝から譲ってもらった赤頭巾だけだもんね
ジャックに牛と豆を交換させるよう夫に知恵をつけたのも、王子から逃げる片方だけの靴のシンデレラに自分の靴と交換させてGETしたのも、ラプンツェルの黄色い髪を引きちぎったのもみぃんな妻

食い意地の張った好奇心の強い赤頭巾はちっとも可愛くないし、シンデレラはの容姿も自分の好みと違うし、ジャックはおバカだし、唯一ラプンツェルだけが従来のお伽話のイメージのまま。
でも皆歌上手いのね~~リラはブロードウェイ「アニー」で主役を務めた子、ダニエルも「レミゼ」のガブローシュ役の子。魔女役のメリルも声楽家顔負けの歌唱力で難しいと言われる(素人にはよくわからないが)ソンドハイムの楽曲を軽々と歌いこなしています。

主役たちを引き立てる脇役もなかなかに個性的。
シンデレラのお相手の王子(クリス・パイン)とラプンツェル(実はパン屋の妹という設定ですが最後まで本人たちは知らないまま)のお相手の王子は兄と弟。ともに恋の歌を歌い踊るシーンのあまりのクサさに会場から失笑が漏れますが、これも織り込み済みの笑いの演出なのでしょう一昔前ならこのシーンはうっとりため息ものの筈ですが、現代ではコメディになってしまうのが面白いところです。

さて、何とか4アイテムを揃えて、魔女が自分の若さを取り戻してパン屋夫婦の呪いを解き、赤頭巾たちも願いを叶えます。シンデレラと王子の結婚パレードは赤ん坊を抱いたパン屋夫婦らに祝福されめでたしめでたしの筈が突然大きな揺れが襲います原因はジャックが切り倒した豆の木と別の(シンデレラが放り投げた)豆の木を伝って夫の巨人を殺したジャックを追いかけてきた巨人の妻の歩き回る振動でした。今回一番の貧乏くじは空の上の国でそれなりに平穏に暮らしていた巨人の妻よね。親切心で助けてあげたジャックに色々なものを盗まれた上に夫まで殺されたんですからそりゃ~怒って追いかけてくるのも無理はない彼女を何とかしなくちゃと再び森に集まった赤頭巾・ジャック・シンデレラとパン屋夫婦に魔女。互いに責任のなすり合いをして何人かが消えていきますが、最後は団結して巨人の妻を倒します。その戦いの中で彼らも自問自答するの。「本当の自分とは?」「本当に自分が望んでいたものって何?」ってね

個人的に気になったのは彼らのどの「母」も死んでしまうこと。それってかなり理不尽。
ジャックの母親は息子をバカだバカだと罵りながらも彼の世話をし、巨人の妻に狙われていると知ると息子を庇って食ってかかります。なのにシンデレラの継母一行の従者に押された拍子に打ちどころが悪くて・・アーメン赤頭巾の母や祖母は、おそらく巨人の起こした地震で家の下敷きになった模様・・アーメン
シンデレラの生母は初めから亡くなっているし、ラプンツェルを育ててきた魔女もタール沼の底に。そして浮気性の兄王子とキスしてしまったパン屋の妻は、一時の気の迷いから醒めて夫が何より大切と気付いたのも束の間、巨人に追われて崖から転落・・アーメンこの結末が一番腹立たしいわ

妻の死で自分がいかに彼女に頼り切りだったか痛感する夫。小鳥たちからパン屋の妻と王子とのことを聞いて王子への愛と自分が本当に望んでいたものの違いに気付いたシンデレラ。ラプンツェルが欲しかったのはお城の中で暮らすことではなく愛する人との自由な生活。赤頭巾は自分の軽率さを反省しながらも好奇心を抑えようとはしません。母親は亡くしたけれどパン屋や他の皆と暮らすことになり案外幸せなジャック。皆それなりに成長するわけです

教訓、願い事は後のことまでよ~~~く考えてしましょう

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

太秦ライムライト

2015年03月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年7月12日公開 104分

かつて日本のハリウッドと呼ばれた京都・太秦。斬られ役一筋の大部屋俳優香美山(福本清三)は、大御所の尾上(松方弘樹)の時代劇も打ち切られて出番がない日々が続く中、駆け出し女優・さつき(山本千尋)から殺陣の指導を請われる。「女優さんに立ち回りの役はありまへんで」と断るが、さつきの熱意に負けて師弟関係となる。
やがて時代劇でさつきはチャンスを掴んでスター女優となっていった。時が経ち、さつき主演の大作時代劇の撮影が行われることになるが、そこには香美山もお世話になった人たちの姿はかった。いつしか大切なものを見失っていたことに気づいたさつきは、体調を崩して引退し故郷で余生を送っていた香美山のもとを訪れて復帰を懇願し、頑なに復帰を断る香美山にさつきは稽古を申し込む。一ヶ月後。香美山は撮影所にいた。最期に尾上を刀を交わすため、そして愛弟子のさつきに斬られるために・・・。


沼兼一演:本田博太郎撮影所の演技課長。香美山たち大部屋俳優と深い信頼関係にある。川島明彦演:合田雅吏昔ながらの時代劇を毛嫌いしている、俳優出身のプロデューサー。東龍二郎演:峰蘭太郎撮影所所属の殺陣師。時代劇の制作本数減少に伴い引退する。栗塚旭演:栗塚旭(本人役)新選組副長・土方歳三を演じる時代劇俳優。太田邦彦演:木下通博香美山と同じくベテランの斬られ役俳優。松本雄策演:柴田善行若手の大部屋俳優だったが、俳優の道を諦めてラーメン屋に転職する。野々村たけし演:多井一晃香美山に憧れる若手俳優。天野達也演:中島ボイル大部屋俳優だったが、早々に京都を離れ東京を目指す。田村鮎奈演:川嶋杏奈美鶴の娘。料理屋を手伝ってはいるが、時代劇には興味がない。工藤淳演:尚玄新感覚の時代劇『ODANOBU』の主演を務めることになったアイドル。時代劇については無知。メグ演 :中村静香工藤の恋人で『ODANOBU』のヒロイン役だったが、トラブルにより降板。さつきに役を譲ることになる。和田シゲル演:市瀬秀和時代劇に無理解な映画監督。香美山奈那子演 :海老瀬はな香美山の亡き妻。若き日の香美山を病床から励ます。北村京子演:和泉ちぬ撮影所所属の床山。山崎奈緒演:穂のか先代 尾上清十郎の付き人演:仁科貴風間トオル演:風間トオル(本人役)中島貞夫演:中島貞夫(本人役)ベテラン映画監督。物語終盤で、劇場版『江戸桜風雲録』の監督を務める。

時代劇全盛時代を支えてきた京都・太秦を舞台に、時代劇を愛する人々の現在を描いた人間ドラマです。
TVをつければ普通に毎日時代劇ドラマが流れていたあの頃から時は流れ、大人になって数少なくなってしまった時代劇を見るたび映る斬られ役の人の顔を見ただけで「あ、この人は斬られるな」とわかってしまうほど顔馴染みになった福本さん。「5万回斬られた男」と呼ばれる彼が主役の映画が出来たと聞いてこれは絶対観たいと思っていました。脇を固めるのは、松方弘樹や小林稔侍、本田博太郎に萬田久子ら太秦ゆかりのスターたちが勢揃いで華を添えています。

ドキュメンタリーのように、香美山の日常が映し出されていきます。
昔ながらの時代劇の製作が減り、若者向けの奇抜な時代劇(もどき)が作られるようになる中、時代劇に愛着をもたない若手のプロデューサーや監督に、エキストラ扱いされても黙々と役を演じる香美山ですが、仲間を庇って若手監督に詰め寄り、その気迫に圧倒された監督が後ずさってしまう場面では、彼の役者としての矜持が伝わってきました。

この件で映画の仕事を干され、映画村のショーに出るくらいしか仕事が回って来なくなっても淡々と受け入れる姿には哀愁が漂っていました。香美山がさつきに稽古を付けたのはそんな頃ですが、彼女の中に往年の名女優たちの面影を感じたことも理由の一つですね。
さつきが代役から主演女優への足掛かりをつかんだ長回しの殺陣の撮影で何度もNGを出した時、思わず助言を与えるのですが、このシーンがとてもでした。

鬘を脱いだ時の香美山は物静かで穏やかな人です。撮影所の俳優が集まる小料理屋の女将・鶴(萬田久子)は往年の大女優だった女性。駆け出しの頃の香美山の憧れの人さつきは彼女に似ているのよね
先代 尾上清十郎(小林稔侍)に「斬られ方がうまい」と褒められ愛用の木刀を贈られてから、斬られ役一筋で生きてきた香美山を支えたのは亡き妻や仲間たちでもあります。さつきに大女優の素質を見出した彼は、件の木刀を彼女に贈りますが、スターになるうち撮影所の稽古場に置き忘れたままになっていました。久しぶりに撮影所に戻ったさつきが、自分の見失ったものに気付いてその木刀を再び手に取るシーンもでした。

香美山が引退を決意したのは自分の腕が殺陣に耐えられなくなってきたからです。そんな彼が再び撮影所に戻ってきたのは、以前尾上と交わした約束と愛弟子のさつきの役に立ちたいという思いからだったのでしょう。
尾上との殺陣の前半で刀を取り落としてしまった香美山の姿を見て、後半はカットしようと言い出した監督の気持ちを変えさせたのは尾上とさつきの香美山と最後まで演じたいという熱い気持ちでした。それに応えて見事な殺陣を披露した香美山の姿に意地と誇りを感じました。

何というか・・いぶし銀のような作品です

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ターニング・タイド 希望の海

2015年03月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年5月31日公開 フランス 101分

レースに人生を賭けるヨットマン、ヤン(フランソワ・クリュゼ)は、単独無寄港で世界一周を目指す最も過酷なヨットレース“ヴァンデ・グローブ”に出場することになった。レース途中、船の修理のためにカナリア諸島沖に停泊した後、ヤンは16歳のモーリタニア人少年マノ(サミ・セギール)がヨットに乗り込んでいることに気付く。単独でレースを行うことが必須のため、このまま少年を乗せてレースを続けると失格になってしまう。だが海の真ん中で少年を降ろす訳にもいかず、ヤンはマノを乗せたままレースを続けることにするが……。(Movie Walker
より)

“ヴァンデ・グローブ”は4年に1度開催される世界唯一の単独無寄港世界一周ヨットレースで、フランスのヴァンデ県が主催し4年毎に開催している。南半球1周およそ2万6千マイル(約4万8152km)の航程をおよそ100日間かけて帆走。ヴァンデ県レ・サーブル=ドロンヌの港を出発し大西洋を南下、喜望峰を抜け、インド洋に出てオーストラリアのルーイン岬下を通り、オーストラリアとニュージーランドの南側を抜け、南太平洋を出て、南米大陸のホーン岬と南極大陸の間にあるドレーク海峡を抜け、再び大西洋に入り北上、レ・サーブル=ドロンヌに帰るレース。(公式HPより)


本来出場するはずだった友人フランク(ギョーム・カネ)の怪我により、彼の艇を借りてレースに出場することになったヤンは張り切って飛ばし、序盤戦でトップに躍り出ます。彼にはまだ小さい(小学校低学年か?)娘がいて、フランクの妹でもある恋人(ヴィルジニー・エフィラ)に留守中の世話を頼んでいます。最初、娘は彼女に懐いてくれないのですが、レースが進むにつれ(父親の不在期間が長引くにつれ)心を通わせていき、遂にはパパと一緒に住まないの?とまで言わせる仲になるの。このサブストーリーも「あったかいんだから~~

順調だったのも束の間、仮眠中、艇に漂流物がぶつかりダガーボードが破損し最初の危機を迎えます。単独、無寄港、無援助が条件のレースは、外部からの物理的援助は一切受けられず、自力で直すしかないの。(とはいえ、通信機器を初めとした文明の利器はたっぷり積み込んでいるようですが。)
ところが、修理で停泊していた間に、地元の少年マノがこっそり乗り込んでいたのです。
自分の体にかけられた呪いを解くためにフランスの医者に会いに行くという理由がいまいちわからなかったけど(モーリタニアってどんな国?)、マノの存在がばれたら即レース失格になるのです。かといって海の真ん中に放り出すわけにもいかず頭を抱えるヤンはマノに冷たく当たります。でもちゃんと食事は分け与えるけど

数日が過ぎ、マノを近くの島に泳いで渡らせようとしたとき、レース参加者の遭難救助の依頼が入ります。(遭難した他の参加者を救助してヨットに乗船させることは認められている。) とりあえずマノを降ろしてから向かえばいいのにとも思ったけれど、彼は少年を乗せたまま転覆したヨットに駆けつけ、操縦していたイギリス人女性のマグ(カリーヌ・ヴァナッス)を救助します。(上位参加者は皆顔馴染みのようです。)彼女は少年の存在を知りますが秘密を守ったまま大会本部の救助艇に乗り去っていきました。

このあたりからヤンと少年の間にある種の絆が生まれていきます。徐々に順位を上げていき、南洋の荒波と強風を共に耐え、乏しくなった食糧を分かち合い、マノが病気になると自分の症状だと偽って医療アドバイスを受けて看護します。他の上位参加者が艇の破損などで次々離脱するなかで遂には首位に躍り出るのです。正直、ヨットの操縦場面は何をしているのかよくわからないところもありましたが、その大変さは感じ取れました。

レ・サーブル=ドロンヌの港に入り、大勢の出迎えの船に囲まれたヤンは敢えてゴールせず(マラソンでゴールラインの手前で止まるようなものかな?)、それまで隠していたマノをデッキに上げてその手を取り、誇らしげに高く掲げます。おそらくマグを救助したあたりから彼はレースの失格を覚悟していたのでしょう。その代り記録に挑戦と言うか、自分自身に挑戦していたのかもしれません。

夕陽が水平線に落ちる瞬間や、氷山、鯨など、その時々に出会う自然をタブレットで撮り家で待つ娘に送る様子に、ヤンの父親としての愛情が伝わってきます。恋人には「早く君に会いたい」とラブコール、親友のフランクには誰よりも先に真実を告げ、ゴールの決断にもヤンの誠実な人柄が感じられました。

どうせならマノのその後もちらっと描いて欲しかったかも

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あなたを抱きしめる日まで

2015年03月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2014年3月15日公開 イギリス・アメリカ・フランス合作 98分

イギリス。善良で信仰心が篤い田舎の主婦フィロミナ(ジュディ・デンチ)は、娘のジェーン(アンナ・マックスウェル・マーティン)とともに穏やかな生活を送っていたが、ある日、50年間隠し続けてきた秘密をジェーンに打ち明けた。1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナ(ソフィ・ケネディ・クラーク)は家を追い出され、強制的に修道院に入れられる。そこでは同じ境遇の少女たちが、奉公人のように働かされていた。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けるが、面会は1日1時間しか許されず、やがて修道院は、3歳になったアンソニーを養子に出し、フィロミナは「息子の行方を捜さない。誰にも息子のことを話さない」という誓約書に署名させられた。それから50年、アンソニーのことを探し続けていたフィロミナは、彼の50歳の誕生日に、初めてジェーンに父親違いの兄の存在を明かしたのだった。事実を知ったジェーンは、母のために、あるパーティで知り合った元ジャーナリストのマーティン(スティーヴ・クーガン)に話を持ちかける。愛する息子にひと目会いたいと願うフィロミナと、ジャーナリストとしての再起をかけたマーティンは、アメリカの地で思いもよらぬ事実を知ることになる。


マーティン・シックススミスの『The Lost Child of Philomena Lee』が原作。
これが本当にあったことだということに衝撃を受けました。
修道院が子供を金持ちのアメリカ人に売っていたというのですから・・・。

初めは乗り気ではなかったマーティンですが、フィロミナと訪れた修道院で秘密の臭いを嗅ぎ取り、これが自分の成功の足掛かりになると思って俄然積極的になります。それまでは田舎のお婆ちゃんの振る舞いに閉口していた感がありありでした。確かにダサい店での食事や飛行機でサービスとわかるとお酒を注文したり、恋愛小説の筋書きの話などは今までのマーティンには縁がないことばかりですものね。

フィロミナの息子がアメリカで元政府高官の地位まで上り詰めていたことが判明して喜んだのも束の間、彼は既に死亡していました。傷心のままイギリスへ戻ろうとした彼女を引き留める術もないマーティンでしたが、フィロミナの方で息子がどんな人生を歩んだのかを知りたいと申し出るのです。それは母として当然の思いです。マーティンが一度だけホワイトハウスで会ったことがあることを思い出すと、その時の様子をどんな些細なことでも良いから話してというフィロミナに母の子供を思う気持ちが痛いほど伝わってきます。

息子が実はゲイであったと知っても彼女は驚きません。小さな頃から繊細な子だったからと言うだけで事実をあるがままに受け入れようとします。息子の恋人だった男性に話を聞こうとしてマーティンが断られた時も彼女の真摯な思いが扉を開かせます。そして修道院がお金で子供たちを売っていたこと、息子が修道院を訪ねて実母(フィロミナ)の居所を聞いた時に母親は彼を捨てて行方不明と言われたという事実を知ります。

シスター・ヒルデガード(バーバラ・ジェフォード)がフィロミナたちに辛く当たったのは、その偏った信仰心が少女たちの犯した罪を許さなかったからですが、本心は自分は一生経験できない行為を彼女たちがしたことへの嫉妬心があったのは疑いようもないでしょう逆子でも医師に診せることもなく「これも神が与えた罰です」と言い放つ冷酷さに身震いします。彼女のように神を自分の中で都合の良いように解釈してそれを押し付ける身勝手さは現代では到底受け入れることができません。まして子供を売っていたなんて・・・。

でもフィロミナは全てを知った後で彼女を赦すのです。それは彼女の信仰心の強さでもあります。一方神を信じていないマーティンはヒルデガードに「僕はあなたを赦せない」と言い放ちます。それはそのまま自分の思いでもあったのでこのシーンはちょっと胸がすく気がしました。
結局このことはマーティンが記事にして世界に知られたのですから、ヒルデガードたちは罰を受けたとも言えるのかもしれませんね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする