杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

生きる LIVING

2023年03月31日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年3月31日公開 イギリス 103分 G

1953年。第二次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ(ビル・ナイ)は、今日も同じ列車の同じ車両で通勤する。ピン・ストライプの背広に身を包み、山高帽を目深に被ったいわゆる“お堅い”英国紳士だ。役所の市民課に勤める彼は、部下に煙たがられながら事務処理に追われる毎日。家では孤独を感じ、自分の人生を空虚で無意味なものだと感じていた。そんなある日、彼は医者から癌であることを宣告され、余命半年であることを知る――。
彼は歯車でしかなかった日々に別れを告げ、自分の人生を見つめ直し始める。手遅れになる前に充実した人生を手に入れようと。仕事を放棄し、海辺のリゾートで酒を飲みバカ騒ぎをしてみるが、なんだかしっくりこない。病魔は彼の身体を蝕んでいく…。ロンドンに戻った彼は、かつて彼の下で働いていたマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に再会する。今の彼女は社会で自分の力を試そうとバイタリティに溢れていた。そんな彼女に惹かれ、ささやかな時間を過ごすうちに、彼はまるで啓示を受けたかのように新しい一歩を踏み出すことを決意。その一歩は、やがて無関心だったまわりの人々をも変えることになる――。(公式HPより)



黒澤明の不朽の名作『生きる』(1952年)を小説「日の名残り」、「わたしを離さないで」のノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本で、古きよきジェントルマンの姿が色濃く残っていた 第二次世界大戦後のイギリスを舞台にリメイクした作品です。黒澤映画の“何事も世間の称賛のためでなく、それが自分の成すべき事だからやる。”という人生観に魅力を感じるイシグロは、戦後の日本やイギリス、現代においても普遍だと捉えていて、オリジナルをリスペクトしながらもビル・ナイ演じるウィリアムズの抑制された演技も相まって新しい物語を作り上げています。

冒頭に登場するのは初出勤のピーター(アレックス・シャープ)です。同じような背広と帽子姿の男たちに交じって駅に着くと同僚たちと出会って挨拶し、同じ車両で緊張しています。そんな彼に同僚たちは上司のウィリアムズの前ではより気をつけるよう忠告します。彼らは降りる駅でウィリアムズと合流しても一緒に並ぶことはせず少し離れてついていきます。それが彼らの儀礼なのです。

職場である役所の市民課。どの机にも山と積まれた書類が置かれています。同僚のマーガレット・ハリスは、書類が山積みになっているのが重要なのだ教えます。(忙しいふりですね)そこに子どもの遊び場を作って欲しいと陳情に来た女性たちが現れます。ウィリアムズから女性たちを他の部署へ案内するよう指示されたピーターは、彼女たちと部署から部署へたらい回しにされた挙句、市民課の仕事だと言われて戻ってきます。(このシーンはまさに「お役所仕事」そのもので、もう笑うしかない!)ウィリアムズは請願書を預かると目も通さずに書類の山に追加します。余計なことはしないのがここの暗黙のルールなのです。

その日、早退したウィリアムズが向かった先は病院です。医者は言いづらそうに検査の結果(末期がん)と余命を告げます。
夜。帰宅した息子夫婦(マイケルとフィオナ)は、真っ暗な部屋に父が佇んでいるのに驚きます。彼らは父が不在と思いあけすけな会話(引っ越して新しい家が欲しい)をしていたので気まずく、何か言いたそうな父を遮り部屋に引っ込んでしまいます。黒澤版では夫婦ともに父に冷淡だったようですが、こちらは妻はともかく息子は父を愛し思い遣っているように見えました。

翌日。ウィリアムズは職場を欠勤し、貯金の半分を下して海辺の町にやってきます。
そこで不眠症を訴える物書きのサザーランド(トム・パーク)と出会い、彼に睡眠薬(4瓶くらいあったかな)を渡して自分の命の終わりが近いことを打ち明けます。(本当は自殺するつもりで購入した睡眠薬ですが、家族に迷惑がかかると気付いてやめたようです)見ず知らずの他人だからこそ言えることってあるよな~~。楽しみ方を知らないというウィリアムズをサザーランドは夜の町に連れ出しバーやストリップ場に行きます。でもウィリアムズはちっとも楽しそうじゃないのね。バーでピアノ弾きにスコットランド民謡の「ナナカマドの木The Rowan Tree 」 をリクエストして歌う彼は全身に哀愁を纏っているかのように見えます。黒澤版では『ゴンドラの唄』 だそうですね。

あれほど判を押したように規則的に行動していたウィリアムズが突然職場に来なくなったことに同僚たちは戸惑い心配して語り合います。ポツンと空いた課長の席が何より雄弁に彼の不在を示しています。

ウィリアムズは町で偶然見かけて声をかけてきたマーガレットを高級店のランチに誘います。マーガレットは転職のための推薦状を彼に書いてもらい、同僚たちにつけたあだ名を披露します。怒らないと約束させてウィリアムズのあだ名が「ミスター・ゾンビ」だと教えてくれるんですね。まさに今の自分は生きているのに死んでいるようだと気付いた彼は、マーガレットの若さや輝きに惹かれていきます。

二人が会っているところを近所の噂好きの婦人に見られて噂となり、嫁のフィオナはマイケルに事の真相を義父に聞くようせっつくのですが、マイケルは切り出せません。この時の夕食の会話の噛み合わなさ具合が何とも微妙でちょっと笑えます。

ところで、この時代にもクレーンゲームが既にあったとは!!ってそこに反応するかってことですが、何気に目を引きました。
マーガレットがウサギのぬいぐるみ(しかもトコトコ動く)をGETするシーンが好き😀 

遅くまで引き止めるウィリアムズに、マーガレットは婉曲に注意しますが、逆に彼から余命わずかなことを打ち明けられます。家族にも話していないと言う彼に理由を聞くと「息子夫婦には彼らの生活があり迷惑をかけたくない、息子を愛している」と言いました。
ウィリアムズは子供の頃、「ジェントルマン」になりたかったのだと話します。それは背広と帽子を身に着けて毎日出勤するごく普通の大人という意味でした。いつのまにか惰性と平穏に埋没し「ゾンビ」になっていたことに気付かせてくれたマーガレットに感謝するウィリアムズに思わず涙するマーガレットです。

翌日。土砂降りの中出勤してきたウィリアムズは、棚ざらしにしていた「子供の遊び場」の陳情の処理にとりかかります。いきなりの彼の変化に部下たちは戸惑いながらもついていきます。

冬。場面は変わって葬儀シーンへ。
ウィリアムズは雪の日に亡くなったことが語られます。
葬儀の後、マイケルはマーガレットに「父は自分の命が長くないことを知っていたのか」と尋ねます。彼女は自分の口からは言えないと答えます。本当は父との関係を聞きたかったのかもしれないけど、これがマイケルの精一杯なんだろうな~~。そして息子夫婦は最後まで父から打ち明けられていなかったんだね。ウィリアムズは預金を半分下ろしましたが残りは息子たちに渡すつもりがあったのでしょうか。そんなことも気になりました。自分や亡き妻の遺産を当てにしていた嫁との関係はたぶん最後まで他人行儀だった気もします。

ウィリアムズの熱心な仕事が実り、子供の遊び場は無事完成しています。その功績を横取りするかのような上司の発言に、帰りの列車内で同僚たちはやはりウィリアムズの熱意がこの案件を動かしたのだと語り合い、自分たちも責任を持って仕事をしようと誓いあいます。
しかし半年が過ぎる頃、市民課の仕事ぶりは以前の状態に戻っていました。
思わず異を唱えようと立ち上がったピーターも周囲の雰囲気に押されて座ってしまいます。

夜。出来上がった遊び場に佇み、ピーターはウィリアムズからの手紙を思い返していました。そこには自分がしたことはほんの小さなことに過ぎないし、やがて忘れられていくだろう。しかしあの時の情熱を忘れそうになったら遊び場が完成した時の気持ちを思い出して欲しいと書かれていました。

通りかかった警官が不審に思いピーターに声をかけてきます。自分は市民課の者でこの遊び場作りに関わったと話すと、警官はウィリアムズの最後の姿を見ていたことを話します。雪の中、歌「ナナカマドの木」を口ずさむ彼があまりに幸せそうだったので声をかけなかったと悔いる警官に、ピーターは声をかけなくて良かったのだ、なぜなら彼は幸せだったのだからと話すのでした。

ピーターとマーガレットが交際を始めた感を出して物語は幕を閉じます。
旧態依然とする職場は一朝一夕では変わらないかもですが、若い人の中に変化の種は確実に蒔かれたのだと思わせるラストでした。

ウィリアムズが人生の終わりに選んだのは、誰かのために何かをすることでした。それは彼の自己満足かもしれないけれど、確実に関わった人たちに何かをもたらし記憶にとどめられると言う意味では素晴らしい選択だったと思います。


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ハウス・オブ・ザ・ドラゴン  シーズン1 5~8

2023年03月30日 | ドラマ
2023年3月24日視聴に続いて

以下エピソード紹介よりあらすじ

5. われらは道を照らす
デイモンは、谷間(ヴェイル)の妻を訪ねる。ヴィセーリスはドリフトマーク島へ出向き、ヴェラリオン家との友好関係を結ぶべくレイニラとレーナーの縁談を持ちかける。一方、アリセントはレイニラの秘密を知り...。

デイモンの目的、やば過ぎ!性格が合わないのは何となく想像できるがそこまで嫌うような器量でもないぞ。
レイニラの自分は純血だという言葉を信じて彼女を庇ったアリセントでしたが、真実を知ってレイニラへの怒りが沸き上がります。それは自由奔放に振舞うレイニラへの嫉妬に起因している印象が。


6. 王女と王妃
王都での婚儀から10年後。レイニラは3人目の子供を出産。アリセントはレーナーに似ていないレイニラの子供たちの父親について疑いの目を向ける。一方、デイモンとレーナは、ペントスである申し出を受けていた。

レイニラの息子たちの本当の父親が誰かを知ったアリセントが彼女への嫌悪感を募らせたのも自然な流れ。
デイモンはレーナと結婚しそれなりに平穏な日々を過ごしていましたが、3人目の子を宿した妻を出産で亡くします。逆子が出て来ず母体も助からないと言われたレーナが愛竜に「ドラカリス=炎を吐け」と命じるシーンが切なく感動的。時代は違えど出産はいつも命がけなのです。

7. ドリフトマーク 
葬儀のためにドリフトマーク島に集まる家族たち。デイモンと久々に再会したレイニラは、彼に見捨てられて以来ずっと孤独だったと打ち明ける。ヴィセーリスは家族の争いを止めようとするが、アリセントは抗戦する。 

遂にデイモンに気持ちを告白して結ばれるレイニラ。そうなると夫のレーナ―が二人の障害となるわけで、ここでもデイモンの魔の手が。直接手を下さなくても、夫への愛はあっても同意するレイニラ。炎の血族らしい激しさと冷酷さが映し出されます。
アリセントの息子のエイゴンは母の期待が重荷でどんどん歪んでいきます。
アリセントとレイニスの息子たちの不仲も顕著になり、遂にアリセントの次男が片目を失う事態に。

8. 潮の主 
6年後。コアリーズ・ヴェラリオンが戦いで致命傷を負ったことによりドリフトマークでは後継者問題が浮上。次男ルケアリーズを推すレイニラとデイモンは王都へ。聴聞の前に、レイニラはレイニスに取引を持ちかける。

コアリーズはヴェラリオン家が王都の支配者になることを夢見て妻や子を利用しようとしてきましたが、ことごとく潰え、自分の命までも失うことになります。女王の道を断たれたレイニスはとっくに諦めていたのにね。
コアリーズの弟が後継者を主張してルケアリーズを侮辱した際にも、デイモンは鮮やかな一刀を振るいます。この時ばかりは彼の肩を持ちたくなりました。王弟でなければその振る舞いは許されないものですが😩 
レイニラの訴えを聞いたヴィセーリスは、最後の力を振り絞って「家族」を招集して語り掛けます。和解できるか?と思ったのも束の間、王がその場を去るとアリセントの次男の一言でまたまた騒動に。更に、死の間際に「夢」の話をアリセントにしたことで、王は決定的な諍いの種を蒔いてしまいます。その話は世継ぎにだけ受け継ぐのではなかったの?

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ハウス・オブ・ザ・ドラゴン  シーズン1 1~4

2023年03月24日 | ドラマ
「ゲーム・オブ・スローンズ」のおよそ200年前を舞台に、七王国を統治するターガリエン家の内乱を描いた本シリーズ。息子 のいないヴィセーリス王が娘のレイニラを王位継承者に指名したことで、激震が走る王国。その後、新たに生まれた男児が後 継者争いに加わると、レイニラの"鉄の玉座"継承を阻止するべく暗躍する者たちが現れる。二つの派閥の陰謀が渦巻き、王国の未来が危ぶまれる中、ドラゴンによって栄えた一族の衰退の歴史が明かされる――。

1. ドラゴンの後継者
ドラゴンを操るターガリエン家がながらく支配するウェスタロス大陸。王ヴィセーリスの第二子の誕生を祝い、馬上槍試合が開催される。王女レイニラは久しぶりに赤の王城(レッド・キープ)に帰還した叔父のデイモンと再会する。

2. 王弟
踏み石(ステップストーンズ)諸島での“蟹餌作り”襲撃への対抗策を議論する小評議会。レイニラも意見するが取り合ってもらえない。一方、ヴィセーリスは王土安定のため再婚に頭を悩ませ、デイモンは不穏な動きをしていた。

3. 名を継ぐ者
長引く“蟹餌作り”との戦いに苦戦するデイモンとコアリーズ。王都ではヴィセーリス王の元に生まれた待望の男子エイゴンの2歳の命名日の祝宴が開かれる。レイニラは縁談を持ちかけられ、結婚という現実に直面する。

4. 狭い海(ナロー・シー)の王
求婚者たちとの謁見中に不満を募らせたレイニラは、ウェスタロス大陸を巡る旅を早々に切り上げ王都へ。踏み石(ステップストーンズ)諸島で勝利をあげて王都に帰還したデイモンは、王女をシルク通りの娼館へと誘う。

CAST&STAFF
ヴィセーリス・ターガリエン1世:パディ・コンシダイン
デイモン・ターガリエン王子:マット・スミス
アリセント・ハイタワー:オリビア・クック
レイニラ・ターガリエン:エマ・ダーシー
サー・クリストン・コール:ファビエン・フランケル
オットー・ハイタワー:リス・エヴァンス
コアリーズ・ヴェラリオン:スティーブ・トゥーサント
レイニス・ターガリエン王女:イブ・ベスト
ミサリア:ソノヤ・ミズノ

原作の『炎と血 Ⅰ(氷と炎の歌)』は、ターガリエン家のウェスタロス治世の歴史書ですが、ドラマではジェヘリアーズ一世王の孫であるヴィセーリス王の時代から描かれています。今回は4話まで観ました。

男子が優先され女性は子供を産み家を繁栄させるため政略結婚の道具として扱われるのは変わらないのですが、ドラマは女性であるレイニラ王女に焦点が当てられていて共感を呼ぶ作りになっています。

レイニラは女だというだけで、父王や周囲からも軽んじられることに苛立ちを覚えています。叔父のデイモンに対しては密やかな恋慕の情もあるように見えます。二人の関係はある意味王位継承者の資格がありながらも認められない不満を抱えている同志のようなものかもしれません。

ドラマでは、レイニラとアリセントは親友として描かれています。この後、二人は王位を巡って争うことになるはずですが、ここまでのエピソードではアリセントは父で王の手の命を受けてヴィセーリスに近づき王妃となり息子を産みます。彼女が王に対して純粋な愛情を持っているようには見えないのは、4話で描かれる夜の行為のエピソードからも明らかです。デイモンに夜の町に連れ出され娼館での光景に触発されたレイニラがサー・クリストンを誘惑して床入りするシーンと対比させることで、より際立ってもいました。

デイモンのキャラもドラマの方がより人間的に描かれています。
ミサリアとの関係などもそうですが、どちらかというとティリオンに近い印象を持ちました。

ドラゴンはまだ3頭しか登場していませんが、迫力に圧倒されます。
この時代には10頭ほどが登場するのでこれからがより楽しみになってきました。

原作の感想は2022年12月1日 https://blog.goo.ne.jp/anzu0609/e/ab035fbec54cf934afa8ab066ecc5f8d

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百花 映画

2023年03月19日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年9月9日公開 104分 G

レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)。ふたりは、過去のある「事件」をきっかけに、互いの心の溝を埋められないまま過ごしてきた。そんな中、突然、百合子が不可解な言葉を発するようになる。「半分の花火が見たい・・・」それは、母が息子を忘れていく日々の始まりだった。
認知症と診断され、次第にピアノも弾けなくなっていく百合子。やがて、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前さえ分からなくなってしまう。皮肉なことに、百合子が記憶を失うたびに、泉は母との思い出を蘇らせていく。そして、母子としての時間を取り戻すかのように、泉は母を支えていこうとする。
だがある日、泉は百合子の部屋で一冊の「日記」を見つけてしまう。そこに綴られていたのは、泉が知らなかった母の「秘密」。あの「事件」の真相だった。母の記憶が消えゆくなか、泉は封印された記憶に手を伸ばす。一方、百合子は「半分の花火が見たい…」と繰り返しつぶやくようになる。「半分の花火」とはなにか?ふたりが「半分の花火」を目にして、その「謎」が解けたとき、息子は母の本当の愛を知ることとなる――― 。(公式HPより)

2022年10月20日
https://blog.goo.ne.jp/admin/entry?eid=6106e5f9e66d338d6841742692fa7635&sc=c2VhcmNoX3R5cGU9MSZsaW1pdD0xMCZzb3J0PWRlc2Mma2V5d29yZD0lRTclOTklQkUlRTglOEElQjEmcD0x

川村元気の同名小説を、自ら長編初メガホンをとって映画化しています。
記憶を失っていく母と向き合うことで母との思い出を蘇らせていく様子が、様々な時代の記憶シーンと交錯して映し出される構成です。

母と泉はそれまでつかず離れずの関係性を保ってきたのですが、まもなく子供が生まれるという時に、母の様子がおかしくなります。
記憶を失っていく母を目の当たりにした泉は、それでも献身的に母を支え続けます。しかしある日、母の部屋を整理していて手帳を見つけた泉は、その中に綴られていた「母の失踪事件」の真相を読んでしまいます。

原作を読んだ時も感じたのですが、母より女を選んで息子を棄てる行為は自分には理解できません。百合子から子供は親に預けたと言われていたのかもしれませんが、子供から母を奪うことに罪悪感を持たない不倫相手の浅葉洋平(永瀬正敏)に対しても同様です。

記憶を失っていく百合子の中で、最後まで残ったのが息子との思い出の「半分の花火」だということだけが救いです。

泉の妻が夫と義母の関係に向ける淡泊さも気になりました。理解ある妻と言うべきですが何だか他人事みたいでね・・。

う~~ん・・・実写だと何だか生臭いというか重く感じて、俳優陣の演技は良かったのですが、原作の方に軍配上げちゃいます。


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ロック&ロール たった2匹の強盗撃退最強ミッション!!

2023年03月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2015年製作 ロシア 86分

クリスマスホリデー、愛する我が家で迎え撃つ!!
クリスマス休暇で飼い主が留守中、ペットホテルに預けられることになったボーダーコリーの“ピラート”とキャバリア・キングチャールズ・スパニエルの“ヨーコ”。飼い主から裏切られたと思いホテルを抜け出し家に戻った二匹は、好きなだけ食べ散らかし、遊び、暴れ、人間のベッドで眠りとやりたい放題に過ごす。
しかし、ペッテホテルに預けられたペット達の留守宅を狙う二人組の強盗がやってきたことで事態は一変。ピラートとヨーコに驚いた強盗たちは一度は引き下がるものの、二匹を撃退するため周到な準備をして再び舞い戻ってくることに。
そこで二匹は家を守るため、知恵と力を合わせてあらゆる作戦で強盗たちに立ち向かっていく!(ストーリー紹介より)


ロシア版「ホームアローン」の犬版って感じかな。
ボーダーコリーのピラートはとっても賢いワンちゃん。でもラフコリーに一目惚れしたり、ボールを投げられると条件反射で追いかけちゃうあたりはやっぱり「犬」だなぁと(笑)
スパニエルのヨーコの方はとっても大人しいのだけど、ピラートがラフコリーと仲良くしているのを見て拗ねるあたりは人間と変わらないかも。

強盗のコンビも「ホームアローン」の二人と同様にお間抜けですが、前科者に風当たりが強いのはどこの国も変わらないようだし、生意気なガキんちょの客にいらつく彼にはちょっと同情も覚えてしまいます。悪事に誘いながら、いざピンチとなると独りでさっさと逃げ出す相棒もなんだかな~~。(^^; それでも警官に捕まった相棒を見て先に逃げ出していた彼も降参したのは、これまでの行動を反省したからなのか・・・それとも単に靴が挟まって動けなかったからなのか・・いやいや、前者だと思いたいかな。

飼い主の少女が大人びているのは、両親と離れて暮らしていることも影響しているのかな。能天気そうな祖母といれば自分がしっかりしていないとと思うようになるのかも😁 
当日になって旅行を止めようという祖母を宥め、大事な犬たちをペットホテルに預けてまでも出かけるのは、両親と久しぶりに会えるからなのだと思うのですが、いざ犬たちの安否が不明となると両親より犬ってのは・・・それだけ彼女にとっては大事な「家族」なのね。1700km離れた空港から何とか家に帰ろうとするけれど、あっさり断られる様子が気の毒なような、当然なような・・・と思っていたらバスの運転手が同情して乗せてくれるという。

孫がいなくなったと気付いた祖母の要請で、家の近くまできて警官に見つかった少女。警官は彼女の前で自分だけ食事。一応「食べるか」と声をかけてはいるけど、それはないわぁ!署内で騒ぎが起こった隙に逃げ出し家に戻ってきますが、犬たちに散々な目に遭わされ逃げ出してきた強盗たちに見つかり誘拐されそうになった彼女をピラートが追いかけて車に飛び込んだことで車が横転して強盗たちは警官に捕まります。
この時の警官の行動も、不審車両を追うというより、砂糖入りの紅茶を零されたことの方がきっかけというのも何だか納得いかないなぁ。

いやいや、そういう大人の事情を考える話じゃなくて、単純にワンちゃんたちの賢さに感心しながら、間抜けな強盗がやられるのを楽しむのが本題ですね。
ペットホテルの部屋から抜け出す様子や、骨の形のお菓子を並べてのドミノ倒しなど、ワンズの賢さには脱帽です。
でも遊園地で遊んだり、💛のドミノは余分な気もしますが。😉 


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マスカレード・イブ

2023年03月16日 | 
東野 圭吾(著) 集英社文庫

ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。「マスカレード」シリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)

映画公開の前後に原作もそれぞれ読みましたが、こちらはその前日譚です。
まだ二人は直接出会っていませんが、タイトルにもなっている「マスカレード・イブ」で初めて双方が登場しています。


・それぞれの仮面
ホテル・コルテシア大阪の開業に伴い東京から派遣されて働いている山岸尚美の前に、元恋人の宮原隆司が客としてやってきます。その夜、宮原から携帯に電話があり、他の者に内緒で人探しをして欲しいという依頼をされます。消えたのは彼の愛人で、しかも自殺の可能性があるというのです。彼の醜い仮面の裏を知って呆れつつも協力した尚美は、調べるうちに意外な真相に辿り着きます。消えた女性は宮原ではなく彼がマネージメントしている男の愛人で、しかも彼女は二股をかけていたのでした。

尚美の学生時代の恋愛が登場します。
客室の状態から宮原の嘘を見抜き、更に愛人の居場所を突き止めながらもその仮面を剥ぐことなくそれぞれを見送ります。ただし、愛人に対しては一言ありですが😁 

・ルーキー登場
実業家の田所昇一が、夜のランニングの途中で何者かに殺害されます。田所の妻の美千代の証言により、容疑者として彼女の料理教室の生徒の横森仁志が浮かび上がります。美千代が自分に好意を持っていると信じる横森は、彼女を夫から解放し自分のものにするために田所を殺害したと自供しますが、捜査一課の若い刑事の新田浩介は、この事件が美千代の巧みな誘導によって引き起こされたことに気付きます。美千代に詰め寄る新田でしたが、証拠は何一つなく、引き下がらざるを得ませんでした。

女って怖い・・とこの経験を今後に活かすと誓う新田。まだまだ青い時期です。

・仮面と覆面
尚美はホテル・コルテシア東京に戻っています。
ある日、いかにもオタク風な5人組がフロントに現れ宿泊手続きをします。彼らは、27歳の女流作家・タチバナサクラの熱狂的ファンで、彼女がこのホテルに缶詰めになると知って、一目会おうと画策していました。
ホテル内でトラブルにならないよう、密かに彼女の担当編集者である望月に連絡した尚美は、彼からタチバナサクラは実は50歳前後のおじさんだという事実を知らされます。この事実がばれないよう協力する中で、尚美はさらに驚くべき真実を知ることになるのです。
覆面作家の素顔は27歳の美貌の女性でも50歳のおじさんでもなく、17歳の女子高生だったのです。オタクたちが発信機を送りつけて部屋を特定しようとしたのを尚美の機転で回避しますが、編集者を装った演技には騙されてしまうあたりはまだ彼女も甘いね。でもそのおかげで真実に辿り着くあたりは禍転じて・・な展開でした。望月はこの事実をまだ知らないのですが、客であるタチバナサクラの意向を受けて尚美は胸の内にしまっています。

・マスカレード・イブ
泰鵬大学理工学部教授の岡島孝雄が刺殺され、共同研究者である南原准教授が容疑者となりますが、彼は不倫相手の女性と大阪のホテルにいたとのアリバイを主張します。相手の女性に迷惑が掛かるという理由で頑としてその女性の名前を明かさない南原の真意を探るうち、新田はある構図に辿り着きます。

所轄の生活安全課の女性警官の穂積理沙と組まされた新田は不満たらたらでしたが、理沙の何気ない一言がきっかけとなり、交換殺人を思い付くんですね😁  捜査一課というエリート意識の若造時代の新田はなかなかに傲慢でちょっと鼻もちならないけれど、さすがに推理力は高いですね。

アリバイ確認のため無駄を承知で大阪に行かされた理沙の対応をしたのは尚美(まだ大阪にいた時期ですね)です。何か少しでも手掛かりを探そうと懸命に聞き込みをする理沙の姿を見た尚美が彼女に協力して自分の推理を話したことで事件は解決に向けて大きく進展するのです。事件解決には二人の女性の活躍があったわけですね。

・エピローグ
尚美がコルテシア東京に戻ってひと月が経った頃。
宿泊客の彼女を名乗る女性がフロントに現れ、サプライズをしたいから彼の部屋を教えて欲しいと言ってきます。奥の事務室で部屋に電話して確認したところ追い返すよう言われた尚美は、そういう客は泊まっておらず空いている部屋もないと女性を追い返します。

これは『マスカレード・ホテル』 に繋がる重要なエピソードです。


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昨日のカレー、明日のパン

2023年03月16日 | 
木皿泉(著) 河出文庫

悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。(「BOOK」データベースより)


・ムムム  隣家CA
寺山徹子(テツコ)は結婚二年で夫の一樹を病気で亡くして以来、義父の連太郎(ギフ)と二人で暮らしています。(ちなみにギフは気象予報士です)
ムムムとはギフが付けた呼び名で、隣家に住む彼女は以前はCAをしていたのですが、ある日突然笑えなくなって退職しました。その彼女が笑ったのを見たことで盛り上がるテツコとギフです。

・パワースポット 
ムムムの本名は小田宝(タカラ)といいます。ある日中学の同級生のサカイと再会した彼女は、彼が顔面神経痛でにやけ顔になり仕事を辞めたと聞きます。他にも寺の息子の深チン(彼も同級生)も、バイク事故で正座できなくなり住職を辞めたと聞かされ、サカイから色々あった三人でパワースポットに行こうと提案されます。

・山ガール 
趣味を持とうと思い立ったギフは山登りに興味を持ちます。テツコから山ガールの同僚の小川里子(師匠)を紹介され、二人で山登りに出かけたギフは、慣れない山歩きとビールで下山途中で体調を崩してしまいます。幸いすぐに回復するのですが、思いがけず互いのプライベートな話になり、ギフは亡き妻の夕子を思い出すのでした。

・虎尾 
一樹に憧れていた従弟の虎尾は、形見に一樹の愛車を譲ってもらい大事にしていました。ところが恋人の大崎朋子と結婚に向け住居を探す中で、その車を手放すかどうかで険悪な雰囲気になってしまいます。そんな時、テツコやギフと一樹のことを話す機会を得て、自分の気持ちに折り合いをつけます。
車につけられていたマスコットは、タカラが昔一樹にあげたお土産で、タカラの笑えなくなった一因に一樹の死が関わっていることも明かされ、「ムムム」の話と繋がります。それぞれが一樹の死を受け入れていく姿が印象に残ります。

・魔法のカード 
テツコは同じ会社に勤める岩井からプロポーズをされていますが、はぐらかしています。その岩井が結婚詐欺にあったと噂になり、真相を問いただしたテツコに彼が話したのは・・・ちょっとぶっとんだ真相だけど、岩井の人柄がわかる話になっていました。テツコの「私にも魔法のカードちょうだい」が😊 

・夕子 
ギフの亡き妻の夕子が彼と結婚するまでとその後の生活が描かれます。壮絶な人生を歩んできた夕子さんはギフと出会ったことで救われたのね。

・男子会 
岩井の家に突然ギフが家出して押しかけてきます。
テツコの揺らぐ気持ちに気付いて彼女に迷惑をかけたくないと思い始めたギフは、思いがけずに若い女性から好意を示されたことで、この女性との生活を考え始めたのですが、なんと彼女は詐欺師でした。高額な家具や大量の水を買わされた挙句に女性は姿をくらまし、困ったギフは岩井に助けを求めます。(場所を取る家具が家に届いたらテツコが怪しむので岩井の部屋に送るあたりがなかなか図々しいのだけど)部屋中家具と水で寝る場所もなくなった岩井をギフは家に連れてきます。訝しむテツコへの言い訳が苦しい(^^; 押し付けられた家具も無事買い取り手が見つかり事なきを得るあたりは岩井と少女(魔法のカード)の顛末に似ていて、まさに男同士の助け合いの図で微笑ましいような可笑しいような。😁 

・一樹 
一樹がテツコに惹かれた理由がわかります。
タイトルの昨夜のカレー、明日のパンの意味もね。😉 
そうか~~そんな前から二人の糸は繋がっていたのか。

・ひっつき虫 
ギフの詐欺事件以来、岩井はテツコとギフの家に頻繁に訪れるようになります。互いにまだ遠慮を抱える二人ですが、テツコは一樹への思いにとらわれるのはやめようと決心します。
虎雄に車を出してもらい、こっそり隠し持っていた一樹の遺骨の一部を墓に納めたテツコは、岩井のための茶碗(今まではギフとテツコがお揃いの京都の茶碗を使い、岩井は茶碗を持参していた)を京都に買いに行きます。結婚はまだ考えられないテツコでしたが、とりあえずギフと岩井と三人で暮らしていこうと決意したのです。

どこにでもあるありふれた日常はしかし、実はとても大切な日々であり、失って初めて気づくものでもあるのでしょう。
時の流れの中で人は皆、否応なしに変っていくことを求められます。いつまでも同じ場所、同じ思いにとらわれていては前に進めません。
この小説に登場する人たちはそれぞれ勇気を持って前に進もうとしているのがわかり、だからこそ読後の後味が良いのかも。


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アキラとあきら

2023年03月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年8月26日公開 128分 G

父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛〈アキラ〉(竹内涼真)。大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬〈あきら〉横浜流星)。運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社した二人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に〈現実〉という壁が立ちはだかる。〈アキラ〉は自分の信念を貫いた結果、左遷され、〈あきら〉も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。そして持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、〈アキラ〉と〈あきら〉の運命は再び交差する ‒‒(公式HPより)


「半沢直樹」シリーズの池井戸潤の同名小説の映画化。監督は三木孝浩。
映画が公開されてから原作を読みました。
2022年9月14日 

ほぼ原作に沿って描かれていますが、アキラの父の工場が倒産してから産業中央銀行に入行するまでのエピソードは最小限に抑えられています。

融資戦略研修での二人のやりとりも原作通り。支店と本店の違いはあれど、共に出世コースを歩み始めますが、支店に配属されたアキラは担当する井口ファクトリーに肩入れしたため左遷され、それを知ったあきらは理解できないと言います。アキラには確固たる信念があり、飛ばされた先で業績を上げて返り咲くあたりは並みの男ではないことが明示されます。

一方、順調に出世コースを歩んでいたあきらは、親族の争いに巻き込まれていきます。創業者の長男であるあきらの父に反発する叔父たちの策略に弟がはめられ、東海郵船 そのものの屋台骨が揺らぐ事件が起こり、あきらは銀行を辞めて会社を立て直す決意をします。
そんなあきらに協力を申し出るのがアキラ。
必死に戦略を練って、ただ一つの解決策に辿り着いた二人の「戦い」は本でも映画でも胸が熱くなりました。

上司(江口洋介)に何故そこまで肩入れするのかと問われたアキラが銀行員になった理由を語ります。バンカーの使命とは・・・全ての銀行員が彼のような思いを持つなら世の中はもう少し生きやすいのかなぁ。冷徹な結果至上主義の上司ですが、アキラが出した稟議書を正当に評価し頭取まで上げてくれるあたりは彼も一流のバンカーだと証明しているように思えました。

あきらと叔父たちが互いに抱いていたしこりが、真正面から向き合ったことで融けるのは少し出来過ぎな感もありますが、そこは人間の情が勝るということで。😉 

ラストのエピソードは原作と異なり、ロイヤルマリン下田 ではなくアキラの実家のある場所で二人が会います。アキラがお守りのように大事に持っているベアリングが象徴的に使われていました。





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リオ、アイラブユー

2023年03月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年製作 ブラジル=アメリカ 109分
原題:Rio, Eu Te Amo

「パリ、ジュテーム」「ニューヨーク、アイラブユー」に続き、ひとつの都市を舞台に名だたる監督たちが様々な愛の形を描いた短編オムニバスシリーズの第3弾です。
今作の舞台はブラジルのリオ・デ・ジャネイロで、パォン・ジ・アスーカルの岩山、ヴィジガウの丘のファヴェーラ、コパカバーナ海岸の石畳、旧市街区の市立劇場など、リオの色々な地区や名所を舞台に、様々な愛と人生が描かれています。

Dona Fulama(アンドゥルーシャ・ワジングトン監督)
ホームレスになっている祖母を見かけた孫が彼女を家に連れ戻そうとするが・・・
実は金持ちの祖母の行動を理解できずにいた孫でしたが、天然シャワー(滝?)に共に打たれる中で自由を感じ取ります。束縛を嫌うのはわかるけれどホームレスにならなくても自由は得られるんじゃないかと思うあたりが凡人かしら(^^;

Acho que Estou Apaixonado(ステファン・エリオット監督)
オーストラリア人俳優の気まぐれから、タクシー運転手と観光スポットのポンジ・アスーカルに登ります。頂上に着いた二人が見たのは・・。

La Fortuna(パオロ・ソレンティーノ監督)
若い妻と一緒にリオのビーチ、グルマリにやってきた夫。糖尿病を患う夫を気遣う妻が海に入って溺れてしまうが、夫は音楽を聴きながら妻に止められているチョコを盗み食いしタバコを吸うことに没頭して妻の状況に気付かない。

O Vampiro do Rio(イム・サンス監督)
ヴァンパイアの老人ウェイターは若い女とピクニックに出かける。夜になるとヴィジガルの丘はサンバを踊る集団の熱狂に包まれるが・・。

Pas de Deux(カルロス・サルダーニャ監督)
バレエダンサー(ロドリゴ・サントロ)と彼のパートナーでもある恋人との関係に訪れようとしている危機を、舞台で踊りながら乗り越えていく二人。

O Milagre(ナディーン・ラバキー監督)
アメリカ人俳優とアシスタント(女性)がガンボア駅で公衆電話を使おうとしたところ、路上生活者の子供に邪魔される。彼がキリストからの電話を待っていると聞いた二人は・・・。
この映画の中で一番良いなと思ったエピソードです。
キリストからの電話に喜びながらも文句を言う事も忘れない子供の無邪気さや、後日ペレのサッカーボールを贈られた子供が仲間に話したことで他の子からキリスト(俳優)に自転車をねだられるなど微笑ましいながらもたくましい浮浪児の姿が浮かんできました。

Inútil Paisagem(ジョゼ・パジーリャ監督)
ペドラ・ボニータの上空をハングライダーで飛びながら、街に別れを告げ新しい人生を選ぶ決意をする夫。

Texas(ギジェルモ・アリアガ監督)
自分が起こした事故で恋人が半身不随となり自らも片腕を失ったボクサーが、恋人の手術費を稼ぐため地下格闘技に身を投じますが、ある日、彼の前に現れたアメリカ人からとんでもないオファーが。
亡き妻に似ているからとボクサーの恋人に自分の子を産ませて、その子を引き取ることと引き換えに恋人の手術費を出すと言うアメリカ人の傲慢さに呆れるけれど、結末はその条件を恋人は呑んだ? 

A Musa(フェルナンド・メイレレス監督)
コパカバーナの砂浜で砂のアートを創り出す男。モザイクが敷き詰められた通りは、彼にとって芸術意欲を刺激する特別な場所。そんな中、美しい脚の女性に惹かれ・・・

Quando não há Mais Amor (ジョン・タトゥーロ監督)
パケタ島を舞台にした倦怠期の熟年カップルの愛憎ドラマ。

もっとそれぞれが繋がりのある群像劇かとおもっていたのですが当てが外れました。
芸術的過ぎて、ホームレスの女性と孫の話と浮浪児の話を除いて、監督が何を伝えたいのか全く理解できなかったぞ。😥

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そのマンション、終の住処でいいですか

2023年03月10日 | 
原田ひ香(著) 新潮文庫

有名建築家による一等地の中古マンション。誰もがうらやむその家はしかし、とんでもない欠陥住宅だった!上手くいくはずの改修工事は新旧住民の様々な思惑が絡み合い、混沌の様相を呈していく。デザイナーズマンションに人生を振り回された人々の胸中にあるのは、幸福か、絶望か、見栄か、プライドか。誰もが身につまされる、終の住処を巡る大騒動。『おっぱいマンション改修争議』改題。(扉あとがきより)


コメディ色の強い物語だと勝手に思っていましたが、なかなかの人間ドラマでした。

物語の舞台は赤坂の駅に近いニューテラスメタボマンション(通称おっぱいマンション)という築45年のデザイナーズマンションです。設計したのは70年代に流行したメタボリズムの先駆者として有名な建築家の小宮山悟郎(既に他界している)で、ここに住むこと自体がステータスになっていました。ところが、建築家の美意識が優先された結果、雨どいをつけなかったことから、室内にカビは生えるは、窓の隙間から雨漏りはするわ、床も傾斜するなど、老朽化が激しくなっており、住民の間で建て替え論争が起こります。

小宮山の娘のみどり、小宮山の片腕の岸田とその妻、建て替え推進派の市瀬、住民の老女で元女優の宗子の思惑が交差する中、建て替えの行方は住民会議に持ち込まれます。

みどりは、我儘に生きた父への反発心を抱えており、父が設計したこのマンションと早く縁を切りたいと思っています。家(マンションの最上のペントハウス)を出てパリに暮らし、日本に戻ってからインテリアの本で名を売る彼女にとって、父の象徴でもあるこのマンションの存在は重荷でしかないのです。しかしそんな彼女も父の部下だった岸田に懇願されて訪れたペントハウスに久々足を踏み入れた時、父のこの家や娘に対する熱い想いに気付きます。だからと言って意見を翻すわけではなく最後まで傍観者たらんとするのですが。父が愛したコルビジェの椅子を嫌っていたみどりでしたが、岸田が強引に押し付けたその椅子を修復して使おうと考えます。結局この父娘はとてもよく似た性質を持つのです。

市瀬は高校生の頃に小宮山という建築家を知り、彼に憧れて教鞭をとる大学の建築家に進みます。一度だけ岸田の代わりに小宮山の供を仰せつかって書生の役を務め、研究室入りの道が拓けたと喜んだのも束の間、選考に漏れてしまいます。その理由を岸田に渡された合格した作品を見せられた彼は、才能の差を痛感し建築の道を諦め転科して理科教師となりますが、一度だけ訪れたこのマンションとその時に会ったみどりへの強烈な印象は残り続けます。妻から終の棲家を都内でと言われて格安で売りに出されていたこのマンションを買った市瀬は、欠陥がわかると取り壊し・建て替えを猛烈に推進しますが、その裏には小宮山に対する複雑な思いがあるのです。小宮山が故人となった今、彼の敵意の対象は娘のみどりであり岸田なのです。

マンションに住む宗子は、最初建て替えを喜びます。しかし、部屋は元夫が所有していて、建て替えとなったら出ていかなければならなくなると知ります。そんな彼女の事情を調べた岸田に操られ、彼女は住民会議で建て替え反対の意見を述べます。元女優の面目躍如の演技により会議の行方は岸田の思い通りに進むかに見えましたが、そこにみどりが遅れて現れ更に混乱することに。

その岸田は、長年小宮山の片腕として小宮山デザイン事務所を切り盛りしてきました。小宮山の名を冠してはいても実際は岸田がデザイン設計をしていたようなものです。(建築業界では当たり前らしい。)彼がマンションの建て替えに反対するのは、小宮山が当時はまだ建築材としてもてはやされていたアスベストをペントハウスに用いていたのが理由です。当時からアスベストの危険性を認識していた岸田は小宮山に進言していますが、小宮山は取り合わなかったのです。岸田は書類を偽造・破棄していたため、アスベストが社会問題になった時、逆に隠蔽の事実を隠さなければならなくなっていたのです。
そんな岸田の苦悩を妻もみどりも知る由もなく、追い詰められた彼は海外移住という逃げを打ちます。岸田の中にあるみどりへの想いは、彼女が望まなくとも小宮悟郎の才能を色濃く受け継いでいるからかもしれません。それはそこにいるだけで他を圧倒する存在感とも言えます。

岸田の妻が持つみどりへの感情は、夫を呼び捨てにする彼女の横柄な態度や、夫がみどりに抱いている好意への嫉妬のように思えます。ストーカーのように訪れる市瀬をある時事務所に招き入れた岸田の妻は、彼にマンションは取り壊すべきだと言います。岸田の妻にとってもこのマンションこそが夫や自分を縛り付ける元凶だったのです。

岸田がみどりに書いたマンションの最大の欠陥を打ち明けた手紙は、開封もされずいとも簡単に破り捨てられます。もしみどりが手紙を読んでいたら避けられ、あるいは対処できたかもしれない問題は時限爆弾となって先送りされる結末は、そら恐ろしくもあります。

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さざなみのよる

2023年03月07日 | 
木皿泉(著) 河出文庫

富士山の間近でマーケットストア「富士ファミリー」を営む、小国家三姉妹の次女・ナスミ。一度は家出をし東京へ、のちに結婚し帰ってきた彼女は、病気のため43歳で息をひきとるが、その言葉と存在は、家族や友人、そして彼女を知らない次世代の子どもたちにまで広がっていく。宿り、去って、やがてまたやって来る、命のまばゆいきらめきを描いた感動と祝福の物語。(「BOOK」データベースより)


筆者は夫婦脚本家だとあとがきで知りました。本作は2014年の『昨夜のカレー、明日のパン』から2作目です。
主人公のナスミは癌のため43歳で亡くなります。14章に分れた物語は、ナスミ自身と周囲の人々の回想で綴られていきます。

第1話 ナスミ
闘病中のナスミが死期が近い事を実感して、今までの人生を振り返り、支えてくれた家族に想いを馳せます。
混濁した意識の中でのナスミの最期の言葉が「ぽちゃん」・・・これは子供の頃に姉と意地を張り合った事を思い出してのこと。石になった自分が水面を突き破っていくという独特の表現がナスミという個性を印象づけます。

 第2話 鷹子(ナスミの姉)
危篤だったナスミの容態が落ち着いて、夫婦二人の時間を取ってあげたいと気遣った鷹子が席を外しているうち、ナスミは息を引き取ってしまいます。最期に立ち会えなかった鷹子は、売店で買ったナスミの愛読していたマンガの最新話を読み聞かせます。

第3話 月美(ナスミの妹)
 ナスミが持ち直したので一旦家に戻った月美は、隣でぐっすり眠る夫を見ながら笑子ばあちゃんが教えてくれた言葉を思い出します。嫌いな相手の幸せなんて祈れないと思っていた月美でしたが、ナスミの闘病をきっかけに「生きとし生けるものの幸せ」を素直に祈れるようになるのでした。

第4話 日出男(ナスミの夫)
遺影のために自分の携帯の写真を見返していた日出男は、ナスミがこっそ残していた動画に気付きます。そこにはナスミから「新しい家族を作って欲しい」とのメッセージがありました。それを見た日出男は、ナスミを看取った時には流せなかった涙を流ます。

第5話 笑子(ナスミの父の叔母)
自宅でナスミの訃報を聞いた笑子は、生前ナスミと交わした約束を実行します。それは、ナスミが母から形見としてもらったダイヤモンドを台所の柱に貼ることでした。
ナスミの、ダイヤがあの世とこの世を結ぶ目となるという考えに、死ぬのもそんなに悪くないことだなと思う笑子でした。
この笑子ばあちゃん、相当癖のある人物に思えます。そもそもナスミという名前は彼女が着けたのですが、本当は姉がタカだから妹はなすびにしたかったというのですから・・・縁起のよい「一富士二鷹三茄子」にちなんだものでスーパーの名前が富士なのよね。

題6話 清二(ナスミの中学時代の同級生)
理髪店を営む清二は、中学の同級生のマンボからナスミが亡くなったことを聞きます。当時、二人で家出を計画し未遂に終った事を思い出した清二は涙を流します。あの頃、野球を諦めなければならなかった清二と母の死を素直に悲しむことができなかったナスミは、互いに自分の悲しみを抱えたまま途方にくれていました。ナスミの通夜の帰り道、帰る場所のある幸せを再認識した清二は、妻の利恵が待つ家路を急ぎます。

第7話 鷹子
鷹子は病院の備品を返しにいった際、ナスミ宛の手紙を受け取ります。差出人は佐山啓太という金銭苦から6歳のナスミを誘拐しかけた男でした。入院中、院内で偶然佐山を見かけ「なぜあの時自分を殺さなかったのか」と問いかけたナスミから、佐山は逃げ出しましたが、手紙の中で、ナスミへの謝罪と感謝を伝えていました。彼が誘拐を思い留まったのは、ナスミが口ずさんだ歌がきっかけだったのです。あの日、自分がお使いをナスミに押し付けていた鷹子は、人の関わりと運命に思いをはせます。

第8話 加藤由香里(ナスミのかつての同僚)
由香里が不倫関係だった上司に騙されて堕胎させられたことを知ったナスミは、上司を殴り、逆に投げ飛ばされて歯を折られたことがありました。その後、ナスミは退職し、由香里も退職していました。
入院中のナスミの元を訪れて、あの時傍観者でいた自分と、現在は不倫関係だった上司の紹介で出版社で働いていることを詫び、「子供を取られた代わりに仕事をもらった」自分は最低だという由香里に、ナスミは「失った子供と同じだけ価値があると思える仕事をするんだよ。」と笑って伝えます。そして、自分が死んだ後、落ち込んでいるだろう家族を元気づけて欲しいとある頼みごとをします。
ナスミが亡くなって1週間後、約束通り小国家を訪れた由香里は、台所の柱のダイヤモンドからナスミが見守っていると伝えるのでした。
(この時の笑子ばあちゃんの行動が思わず噴き出してしまったほど面白かったです。)

第9話 利恵(清二の妻)
ナスミの四十九日の夜。
利恵はナスミとの会話を思い出していました。
結婚してから一度だけ、利恵は家出しようとしたことがありました。スーツケースをゴロゴロ押して駅のホームに行くと、同じようなスーツケースを持ったナスミがいました。その時の会話で心の整理がついた利恵は家出をせずにナスミを見送ったのでした。「誰かが私にもどりたいって思ってくれるような、そんな人になりたい」と言ったナスミ・・・時を経て確かに彼女はそんな存在になったように感じますね。
清二の好物を食卓に並べた利恵は、妊娠したことを伝えます。

第10話 愛子(ナスミの夫の再婚相手)
愛子の兄の啓介からお金を借りていたナスミ。何故か兄の代わりに返済金を受け取ることになった愛子は毎月ナスミに会ううちに、初めは兄の恋人かと思って悪印象を抱いていたのが、人柄を知るうちナスミになりたいと憧れるようになります。(二人で啓介の「童貞喪失」の場所となるホテルを見上げながらバカ笑いするエピソードが可笑しくて愛しくて・・。ナスミが病を得て日出男が代わりにお金を受け取りにくるようになり、それも振込に変ってナスミが亡くなった後、愛子は家を出て、4年後日出男と偶然再会して結婚し、子供が生まれます。

第11話 鷹子
好きなマンガの最終回を読まずに死ぬのは悔しいと言っていたナスミのために、出版社に連載中のマンガの最終回を教えて欲しいと何度も頼みに行った鷹子に、作者の樹王光林は最終回は自分にもわからないので教える事ができないと言いました。鷹子は、ナスミにとって樹王光林のマンガはどこに行くべきかを指し示す地図のような存在だと伝えました。ナスミは鷹子が樹王光林に会ったことを信じないまま亡くなります。2年後、樹王光林は最終回の原稿のコピーを持って富士マーケットを訪れ鷹子に渡して、これが鷹子の地図になれば良いと伝えます。

第12話 好江(ナスミの友人)
かつてナスミと加藤由香里と同じ会社で働いていた好江は、49歳になり、アンチエイジングに関するブログが評判になっています。書籍化を依頼してきた編集者と会った彼女はそれが加藤由香里と知り驚きます。ナスミの歯の件で由香里を快く思っていない好江は書籍化を断りますが、ふとナスミならどうするかと考えて依頼を受けます。(ナスミの折れた歯の後日談が第5話に繋がっていたのね。)由香里への誤解も解け、無事書籍化されてサイン会が開かれ、好江はナスミの「だからぁ死ぬのも生きるのも、いうほどたいしたことないんだって」の声を聞いた気がしました。

第13話 8歳の光(日出男と愛子の娘)
友だちの咲ちゃんと宿題の話をする光。「家族の秘密」を聞いてくるというその宿題をきっかけに、ナスミとの関係を愛子に聞いた光は母の「ナスミが生きていたら光は生まれなかった」という答えに動揺します。その日の夜、台所の柱のダイヤがなくなっていることに気付いた笑子に、そのことは以前から気付いていたと他の家族が言い出します。
愛子は、出産後になくなっていることに気付いたものの、それはナスミが自分が光を育てている姿を見たくなかったからかもと思って言い出せなかったと告白します。すると笑子は「じゃあダイヤモンドが光になったってことか」というのね。なんて素敵な考えでしょう!!家族一人一人に抱きしめられながら「いのちがやどったからしゅくふくしてくれてるんだよ」という声を聞いたと思った光です。

第14話 光63歳
桜の季節、咲ちゃんのお葬式の帰り道、光はこれまでの人生と時の流れに想いをはせます。富士マーケットはカフェになっています。老人介護施設に入居している母を訪ねた光は、母の「まだ生きてるし」という寝言を聞いて、今この時をどうやって過ごすかが大事なんだと改めて思うのでした。
咲ちゃんが夫の浮気の代償に買ってもらったというダイヤの指輪のリング部分を売って二人で旅行したこと、なくなったダイヤが見つかったことにして貸してくれたこと、咲ちゃんの娘から、そのまま持っていて欲しいと言われたこと・・・咲ちゃんのダイヤは光の家に収まることでドロドロした負の感情から暖かいものに変ったことが感じられるエピソードでした。

ナスミという女性は、とがった印象がありましたが、その心根は真っ直ぐで優しいのです。彼女と関わった人たちはナスミを想う時、一様に背中を押される気持ちになります。自分が死んだ後、ナスミのように誰かに思ってもらうことができるだろうか?発した言葉で背中を押してあげることができるだろうか?それにはまず、自分自身が後悔のない生き方をしなければいけないのだと考えさせられます。



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バッドガイズ

2023年03月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月7日公開 アメリカ 100分 G

「ワルをやるなら思いきり」を合言葉に、次々とハデな盗みを成功させてきた怪盗集団<バッドガイズ>。“天才的スリ”にしてカリスマ的リーダーのウルフが率いるのは、“金庫破り”のスネーク、“変装の達人”シャーク、“肉体派”ピラニア、そして“天才ハッカーの毒舌ガール”タランチュラだ。お尋ね者の5人組が次に狙うのは、名立たる強盗たちも奪えなかった伝説のお宝《黄金のイルカ》。
しかし、あと一歩のところで大失敗…逮捕されてしまう!彼らは街の名士マーマレード教授の更生プログラムを受けることになるも、ノったフリしてウラをかき、史上最大の犯罪をもくろむ。しかし彼らの知らないところで、さらなる巨悪が密かに動き始めていた――。(公式HPより)


権力者や富豪から華麗なテクニックで財宝を奪う怪盗集団「バッドガイズ」の活躍を描いたドリームワークス・アニメーションの長編アニメ映画です。原作はアーロン・ブレイビーの同名児童文学シリーズで、英語オリジナル版では俳優のサム・ロックウェル、オークワフィナ、日本語吹き替え版では歌舞伎役者の尾上松也らが声の出演をしています。

新知事のダイアン・フォクシントンが、町で最も善い行いをしたマーマレード教授に黄金のイルカ像を贈呈すると発表します。5人は授賞式に招待客になりすまして潜り込みイルカ像強奪に成功するのですが、ウルフがマーマレードの受賞スピーチに感動して思わず尻尾を振ったことで変装がばれて捕まってしまいます。ウルフは嬉しかったり感動すると尻尾を振ってしまうのね😁 (ちなみに最初に尻尾を振ったのは階段から転げ落ちそうになった老婆を助けて感謝された時ですが、これが伏線になっていました。)

5人はマーマレードの邸宅で更生プロジェクトに参加させられることになります。彼らは協力する振りをしてダイアンの鼻を明かす計画を立てています。邸宅には町に落下したハート型の隕石が調査のため保管されています。
プロジェクトの進み具合に業を煮やしたマーマレードは、5人に製薬会社の実験動物のモルモットたちを救出するよう命じますが、スネークがモルモットたちを飲み込み大騒動に。プロジェクトは中止されそうになりますが、ウルフがヤシの木から降りられなくなっていたネコを助ける動画をマーマレードが公開して続行されることに。
仲間の4人と縁を切るようマーマレードに言われたウルフ。それを聞いていたスネークに遠回しに確認され、善行はフリで、俺たちの友情は永遠だと答えながらも気持ちはかき乱されます。

プロジェクトの成功を祝い、善の祝祭 でイルカ象の贈呈が行われることになります。これを奪って逃げる計画でしたが、良心の呵責を覚えたウルフは計画を実行できず、逆にハートの隕石を盗んだ濡れ衣を着せられてバッドガイズは逮捕されてしまいます。その際ウルフは自分たちのアジトの場所を記した紙をダイアンに渡して「全部返す」と告げます。アジトで大量の盗品を見つけたダイアンは、ウルフの言葉に嘘がなかったことを知ります。

隕石を盗んだ犯人はマーマレードです。隕石の電磁場で大量のモルモットを操り善の祝祭で集まった寄付金を強奪 するためにバッドガイズを利用していたのです。そのために授賞式で老婆に扮してわざとウルフに善行をさせた のだから、ほんとずる賢い奴。って、そもそもウルフが本当の悪人じゃないって見抜いてたってことですか?😮 

刑務所で「犯罪は止めて、もっと良い人生を送りたい」と告白したウルフにスネークは「仲間を裏切った」と激怒してケンカになりますが、そこに謎の人物が現れ看守を倒して彼らを解放します。その正体はダイアンで、彼女こそ伝説の怪盗クリムゾン・パウでした。彼女も鏡に映った自分の姿にショックを受けて犯罪から足を洗っていたのでした。

改めて4人に足を洗おうと訴えたウルフでしたが、彼らは去って行きます。
アジトに戻った4人はお宝が消えたことに驚きます。スネークはウルフの仕業だと怒りますが、彼の中にも良心があると仲間たちに突っ込まれ出て行きます。

マーマレードを止めようと隕石を奪いに行ったウルフとダイアンは捕まってしまいます。スネークがマーマレードに協力していたのです。でもシャーク、タランチュラ、ピラニアが助けに来て隕石を奪うことに成功します。

隕石を返して潔白を証明しようとした4人でしたが、スネークを案じて引き返します。スネークは、ヘリからマーマレードに突き落とされた自分を身を挺して救ったウルフと和解し、5人は自首しようとします。
そこへマーマレードが現れ、隕石を取り戻したと主張しますが、それはニセモノで、実はスネークが密かに本物とすり替えていました。
スネークが仕掛けた爆弾で本物の隕石は破壊され、クリムゾン・パウに盗まれた筈のダイヤモンドをマーマレードが持っていたことで、彼がクリムゾン・パウだと思われて逮捕されます。

その後・・刑期を終えたバッドガイズをダイアンとウルフが救助したネコが迎えにきて、颯爽と去っていきましたとさ。😀 

狼に鮫に毒蜘蛛に蛇にピラニア・・・嫌われ者のイメージの5人はワルぶってはいるけど、本当は仲間思いの案外良い奴で、善行者の仮面を被った悪い奴が可愛いイメージのモルモットという逆転の発想が子供の関心を惹きそうですね。知事の狐が実は改心前は伝説の怪盗というのも意外性があるようなそうでもないような😁 とりあえずキツネとオオカミ、相性は良さそうね。

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チャンス商会 初恋を探して

2023年03月03日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2015年9月25日公開 韓国 111分 G

チャンスマートで働く頑固なおじいちゃんソンチル(パク・クニョン)は、独り身でかつての戦友にも先立たれ、孤独死を意識しはじめていた。ある日、彼は近所に引っ越してきた花屋の女性店主グンニム(ユン・ヨジョン)に恋心を抱く。心をときめかせるソンチルだったが、グンニムの前ではなかなか素直になれない。そんなソンチルを見かねた町の人々は、彼の恋を成就させるべく一致団結する。しかし、グンニムと町の人々は、ソンチルには決して言えないある秘密を抱えていた。(映画.comより)


カン・ジェギュ監督が、70歳男性の人生最後の恋をつづったハートフルラブストーリー。最後の方で何だか知っているストーリーだなぁと思ったら、2008年のアメリカ映画『やさしい嘘と贈り物』のリメイク作品でした。
2011年1月24日ブログ公開
https://blog.goo.ne.jp/anzu0609/e/66e03ceec7aa8be4c318475fc2278007

頑固で短気なソンチルに積極的に近づくグンニムに初めのうち違和感を覚えました。
スーパー近辺では再開発の話が持ち上がっていますが、ただ一人拒否しているソンチルをなんとか説得したい「チャンス商会」の店長チャンス(チョ・ジヌン)ら周辺住民は、ソンチルとグンニムの仲を近づけて再開発に賛成させようとして、何かとソンチルを手助けします。孫娘アヨン(ムン・ガヨン)やBFのミンソン(チャンヨル)ら も加わり、レストランでのマナーや、連絡を取り合うためにスマホを購入して操作方法を教えてもらったりと、殆ど手取り足取り交際の仕方を伝授する住民たちの様子が可笑しく微笑ましいです。

結婚を意識するようになったソンチルでしたが、突然グンニムが姿を消してしまいます。彼女を必死で探し回るソンチルを見ていられず、チャンスは彼をある場所に連れて行きます。そこは病院で、チャンスの妹のミンジョン(ハン・ジミン)が告げたのは衝撃的な秘密でした。

グンニムはソンチルの妻で末期のすい臓がんを患っていました。アルツハイマーを患うグンニムは、家族のことを覚えていないのでした。つまりチャンスは息子でミンジョンは彼の娘なのです。
グンニムはソンチルと約束を交わした仁川の花祭りに行く途中で具合が悪くなり入院していたのです。

緊急手術を受けるグンニムをソンチルは歌を歌って励まします。(遊園地デートの時のエピソードにも登場しています。)自分の病気の事や家族の事を知らされたソンチルでしたが、娘の顔も思い出せないことに愕然とします。

その後、容体が安定して退院したグンニムと教会に行ったソンチルは「どちらが先に死んでも泣かないこと」を誓います。
町の再開発もソンチルが賛成を表明してGOとなりました。

それから数年後。老人ホームで暮らす夫妻。ソンチルはもう妻を覚えておらず、自分の名前も出てきませんが、グンニムと初めて会った初恋の思い出だけは彼の中に永遠に刻み込まれていました。このシーンは冒頭でも登場していて、ラストで繋がるのね。💛

何故グンニムが積極的だったのか、周囲の人達が皆ソンチルに協力的だったのか、初めのうちは再開発に賛成の判を押させるためかとみせかけて実は・・のどんでん返しの意外性とハートフルな登場人物たちにほろりとさせられる、アメリカ版同様心温まるストーリーでした。

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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

2023年03月03日 | 
町田そのこ(著) 新潮社文庫

思いがけないきっかけでよみがえる一生に一度の恋。そしてともには生きられなかったあの人のこと――。 大胆な仕掛けを選考委員の三浦しをん氏辻村深月氏両名に絶賛されたR-18文学賞大賞受 賞のデビュー作「カメルーンの青い魚」。すり鉢状の小さな街で、理不尽の中でも懸命に成長する少年少女を瑞々しく描いた表題作。その他3編を収録した、どんな場所でも生きると決めた人々の強さをしなやかに描き出す5編の連作短編集。(裏書より)


それぞれ独立した話なのですが、読み進めていくと登場人物がリンクしていて全体で一つの大きな物語になっている構成が見事です。
シングルマザーだったり、児童養護施設出身だったり、ジェンダーや夫からのDVなど、登場人物たちはそれぞれ「負」と思える背景の中で、逞しく前を向いて生きていきます。他者を憐れむことは自らをマウントする愚かしい行為なのだと気付される思いにもなります。

・カメル-ンの青い魚
R-18文学賞大賞受 賞ということで、確かにきわどい描写もありますが、主題はそこではないことは明白です。
両親に捨てられ祖母と暮らすさっちゃんは、幼馴染の児童養護施設育ちのりゅうちゃんのことが大好きでした。暴力でしか自分を表現することができないりゅうちゃんは、どんどん世間からはみ出していくけれど、さっちゃんのことを守るという気持ちだけは最期まで持ち続けています。
傍から見れば危ういけれど、当人たちはとても純粋なのです。
啓太 が二人の子供だと判明する仕掛けも良かった。
りゅうちゃんに貰った2匹の魚はその日のうちに1匹になってしまうのですが、その魚に思わずりゅうちゃんを重ねてしまいました。彼はこの町では生きられず、彼女はこの町でしか生きられないことを暗示する結末です。

・夜空に泳ぐチョコレートグラミー
こちらは啓太が主人公。
りゅうちゃんが大阪にいるという噂を聞いたさっちゃんが大阪に引っ越そうと考えていることに気付いた啓太は、資金の足しにしようと新聞配達のアルバイトを始めます。配達先で出会った同じクラスの晴子は、気弱で身体も小さな子。頑強で怖いばあちゃんの後ろにいつも隠れていましたが、ばあちゃんが認知症になって施設に入ったことで変わります。頑張って強くなっていじめっ子に立ち向かうようになる晴子を啓太と同じく応援したくなります。展望台で、ばあちゃんの飼っていたチョコレートグラミーの意味が語られる時、晴子が孵化したという冒頭の一文がすんなり収まる気がしました。ばあちゃんがいなくなったことで晴子はばあちゃんの妹に引き取られることになり転校していきます。実の子を愛せない親もいる現実もあることにも触れられていました。

・波間に浮かぶイエロー
サヨの恋人は、ある日突然電車に飛び込んで自殺します。恋人の気持ちを少しでも知りたいと訪れた現場の駅近くの喫茶店『ブルーリボン』の店主に拾われ、働き出して3年が経ったある日、店主の芙美を元同僚で妊娠中の環が訪ねてきます。
派手でエキセントリックな外見に驚きながらも「約束」を楯に面倒を見ろと要求した環は、暫くサヨの部屋に同居することになります。
「おんこ」になる前の芙美は、同僚だった環に片想いをしていました。彼は、子宮外妊娠で倒れたことで不倫が知られ会社を去る環に、一生貴女が好きだと告げて何か一つ願いを聞いてあげると約束していたのです。
それから15年が経ち、夫の不倫に気付いて家を出てきた環が見たのはおんこになっていた高橋君というわけです。

若い頃とは真逆の立場に立たされた環は、あの時の不倫相手の妻のような強さを持てないことを思い知った彼女は、自分を好きと言ってくれた人に会うことで自分に自信を持つ勇気を貰いたかったのですね。

自分は結婚しているくせに別の男の愛も欲しいと要求する環を嫌な女だと思いながらもどこか憎めないと思っていたサヨの気持ちは環に筒抜けでしたが、展望台の公園でのピクニックで本音を曝け出した二人の間には確かな絆が生またのではないかしら。夫と向き合うために店を出ていく環。きっとこの夫婦はやり直せると感じさせます。

実は芙美は高橋君ではないことが最後に明かされます。
本当の高橋君と芙美は同じ施設で育ち、一緒に店を経営していましたが、高橋君は病気で亡くなります。その彼の願いを芙美が受け継いでなりすましていたのです。
「カメル-ンの青い魚」のさっちゃんは年の離れた妹や娘のような存在で、啓太のことも何かと世話してきたと書かれています。
店の「ブルーリボン」の名前が、ハナヒゲウツボの別名であることも明かされます。この魚が男から女に性を変えるそうで、自分の性が受け入れられず苦しんでいた芙美と彼を良く理解していた高橋君の気持ちが込められた店名なのだなと気付かされます。

・溺れるスイミー
幼い頃家を出て行った父親は、一つ所に留まり誰かと共に生活することのできない人でした。父の性質を受け継ぐ唯子は、トラック運転手の元ヤン・宇崎(「カメル-ンの青い魚」のりゅうちゃんと殴り合った相手)と出会います。強面だが優しい宇崎も、同じ性分と知った唯子は、彼からのプロポーズ(一緒に長距離トラックに乗りながら暮らす)に喜びますが、一瞬の後断ります。
唯子は、場所だけでなく誰かと共生することも辛い自分に気付いたのです。
父が亡くなった知らせを受けた母は、その遺骨を電車に置き去りにしました。誰かと共生できない父の末期の強烈な記憶が唯子を母や町に縛り付けています。だからこそ自分は父のようにはなるまいという思いが彼女を支配しているのです。でもいつか彼女はそんな自分に疲れ果ててしまう気がしますが・・。

・海になる
桜子は3回の流産の後の死産で、子供が望めなくなりました。そんな彼女を夫は責め暴力を振るうようになります。最低の夫ですね。
最悪な状況に陥る度に偶然出会う清音は、桜子にとって「死神」に等しい存在だったのですが、実は彼女の救世主でもあったのです。傷を舐め合うことで、桜子だけでなく清音も現実に向き合う勇気を持つのですね。
後年、離婚し清音と再婚した桜子は助産師の資格を取って「うみのいりぐち」という産院営み、姉の孫である晴子(「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」の女の子ですね)を預かる事になります。
前半の桜子のあまりにも悲惨で理不尽な状況が辛過ぎるけれど、穏やかな日だまりのような結末にようやく安堵させられました。



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