杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

42 世界を変えた男

2014年05月27日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年11月1日公開 アメリカ 128分

1947年。ブルックリン・ドジャースのゼネラルマネージャーを務めるブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)は、黒人青年ジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)と契約、彼をメジャーリーグ史上初の黒人メジャーリーガーとして迎える。だが、白人以外には門戸を開かなかったメジャーリーグにとって彼の存在は異端なものでしかなく、チームの選手たちはもちろん、マスコミや民衆からも糾弾される。そんな状況ながらも、背番号42を誇るようにプレーするジャッキーの姿は次第に人々の気持ちを変えていく。(シネマトゥデイ)


黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画です。
当時、メジャーリーグは白人にだけ許された世界でした。
ブランチがその悪しき慣習を打ち破ろうと考えたのは、彼が大学時代に経験した、才能ある黒人のチームメイトが差別により道を閉ざされたことがきっかけだったようです。
彼が選んだのは高い技術を持ち野球を愛するジャッキーでした。。(宗教に馴染みの薄い日本人にはいまいちピンとこないけれど)同じ宗派であることも要因の一つです。

喧嘩早さを封じることを条件にメジャーに迎えられたジャッキーですが、状況はただ一人敵陣に乗り込むようなもの。チームメイトは彼を入れることを拒絶し上層部に署名嘆願までする始末
映画に出てきたエピソード以上に壮絶な差別発言やいじめのようなこともあったと推測されます。
そんな四面楚歌の環境の中、ジャッキーはただその野球の腕で周囲の反応を変えていくのです。
決して怒らず紳士的な態度を崩さないジャッキーですが、一度だけ、相手チームの監督の野次罵倒に耐えかねてベンチ裏でバットを壁に打ち付け怒りを爆発させます。でもやがてチームメイトたちも彼の才能と人柄を認め、ジャッキーを仲間として受け入れていくようになる、その過程が自然に描かれていました。

ジャッキーにとって、彼に続く黒人選手たちや子供たちのお手本になるべく節制することを強いられたその人生は決して平坦ではなかった筈で、とても強い意志と忍耐を持つ人だったのだと思います。ジャッキー自身に腕と運がなければ簡単に放り出されてしまう、そんなシビアな勝負の世界で頑張って認められたのは素直に賞賛に値すると思います。そんな彼を支えた妻のレイチェル(ニコール・ベハーリー)の存在も大きかったことでしょう。二人の間にある確かな愛情と戦友とも呼べる絆も随所に描かれていました。
また、彼の広報担当を任ぜられた野球記者で同じく黒人のウェンデル・スミス(アンドレ・ホランド)も、差別と闘った同志といえます。黒人ジャーナリストは記者席に入ることを許されなかったため、スミスはスタンドに座って膝の上に置いたタイプを打ちます。ジャッキーの活躍は閉鎖的な野球界を打破する大きな一歩となることを彼は自覚して、そのための応援を惜しまぬ覚悟でした。

ジャッキーの才能を最初に認めたレオ・ドローチャー監督(クリストファー・メローニ)や投手のラルフ・ブランカ(ハミッシュ・リンクレイター)、フィラデルフィア・フィリーズの監督の野次罵倒に耐えるジャッキーに代わり監督に抗議したセカンドのエディ・スタンキー(ジェシー・ルケン)など、徐々に周囲の反応が変化していきます。シンシナティでの試合で地元出身のショートのピーウィー・リース(ルーカス・ブラック)が観衆がヤジを飛ばした時、ジャッキーの肩に手を回して彼を認めているというアピールをして驚かせたことが大きなターニングポイントとなります。(ピーウィーが彼に来た一通の脅迫状をリッキーに見せると、彼は束になったジャッキーへの脅迫状をピーウィーに見せます。それによってジャッキーの置かれている理不尽な状況をピーウィーも身をもって知ることになるのね。人は自分の身に降りかかって初めて事の善悪を理解するのかもしれないなぁと思わせられるエピソードでした。)

チーム全体がジャッキーを仲間と認めるようになる瞬間を、チームメイトとシャワーを浴びるシーンで表現していたのが印象的でした。日本なら同じ湯船に入る的な表現になるのかな

当時のユニフォームや野球場の雰囲気などもできるだけ忠実に再現されているそうです。

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晴天の霹靂

2014年05月26日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2014年5月24日公開 96分

轟晴夫(大泉洋)は場末のマジックバーで働く、39歳のさえないマジシャン。母には捨てられ、父・正太郎(劇団ひとり)とは絶縁状態の彼に突然もたらされた父の死の一報。父が住んでいたダンボールハウスを訪れ、惨めな日々を生きる自分との姿を重ね合わせて涙する晴夫に一閃、晴天の霹靂!そして気付けば40年前の浅草にタイムスリップ。そこで出会ったのは若き日の父と助手を務める母(柴咲コウ)だった。スプーン曲げで人気マジシャンとなった彼は、ひょんなことから父とコンビを組むことになる。そして母の妊娠。次第に明らかになる自身の出生の秘密。果たして彼を待ち受ける結末とは・・・。


劇団ひとりが、自身の書き下ろし小説を初監督で映画化しています。
『陰日向に咲く』も良かったのと、役者も芸達者揃いなので興味を持ったのですが、前宣伝ほどの「泣き」はなかったかな。そもそもタイムスリップして若い両親と出会った時点で先の展開が読めちゃうんだもんなぁ。そういえば話の設定は結末は違うけれど『地下鉄に乗って』と似てる気がするんだけど・・。

母に棄てられたと聞かされて育った晴夫は、母に対して恨みがましい気持ちを持っていましたが、実は母が命懸けで自分をこの世に送り出してくれたことに気付きます。父が真実を彼に告げなかったのは、彼を苦しめないようにとの親心からだったのです。(捨てられたというのも傷つくと思うんだけどな~~
ともあれ、両親の思いを受け止めて、これまでの投げやりな人生を変えようと思い立つ彼の姿は、出生の日のオーデションでの見事なマジックに象徴されていました。大泉さんは4カ月の練習を経てあの素晴らしいマジックを披露しています

コンビを組んだ二人のマジックショーもボケと突っ込みのトークが面白かったです。二人ともさすが芸人、本職だもんねぇって・・あれ?大泉さんは芸人じゃないかぁ

再び現代に戻った晴夫を待っていたもう一つの真実は、タイムスリップして父と出会った時のエピソードにリンクしています。こういう遊び心も芸人さんならではの発想かも
さて、父は「ペペ」のことを覚えていたのかしらん?

主題歌は Mr.Children「放たれる」です。

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悪の法則

2014年05月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年11月15日公開 アメリカ 118分

メキシコ国境付近の町で弁護士をしている通称カウンセラー(マイケル・ファスベンダー)は、恋人ローラ(ペネロペ・クルス)との結婚も決まり人生の絶頂期にあった。彼は実業家のライナー(ハビエル・バルデム)と手を組み、裏社会のブローカー、ウェストリー(ブラッド・ピット)も交えて新ビジネスに着手する。その仕事は巨額の利益を生むはずが……。(シネマトゥデイより)


普通の弁護士だったカウンセラーですが、恋人との結婚を機にグレードアップした生活を目論んで裏ビジネスに手を出したことから人生の転落が始まるんですねぇ
友人のライナーに麻薬ビジネスの話を持ち掛けられ、ブローカーのウェストリーの忠告も聞かずに飛びついたのは、目先のお金に目がくらんで冷静な判断が出来なくなったのねローラは世間知らずで、恋人がどんな仕事に手を染めようとしているのか気付きもせず、単純に高価な指輪とプロポーズを喜びます。二人にはセレブな未来しか見えていなかったのです。

しかし、運び屋が何者かに殺され麻薬と金が消えたことから彼らの運命が暗転します。
組織は彼が裏切ったとみなし、報復に出ます。ウェストリーはいち早く状況を察知しカウンセラーにも危険を知らせますが、このときもカウンセラーの動きは鈍い。素人の彼には状況の深刻さがまだ実感できていないの。やがてライナーが殺され、ローラが拉致されて彼女のスナッフ・フィルム(殺される様子を記録したもの)が送り付けられ、慟哭するカウンセラーには最早選択の余地は残されていなかったのです。

彼らを破滅に導いたのはライナーの恋人のマルキナ(キャメロン・ディアス)です。
元ダンサーの見事なボディを使いライナーを虜にして悪の道に手引きし、その上前を撥ねるやり方は、まさに悪女と呼ぶに相応しい堂に入ったもの。彼女がライナーに見せる車上での大胆なポーズは想像の余地がある分、より刺激的
姿をくらましたウェストリーを殺し屋を雇って消し、お金を奪うやり方も冷徹非常。まさに不条理な世界。

実生活で夫婦のハビエルとペネロペが、パートナーを変えて演じています。さすがに直接的な濡れ場シーンはないけれど、役者って普通の神経じゃできない大変な仕事よねぇ

教訓:人間地道が一番


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カナンの試練

2014年05月25日 | 
栗本薫(著) 角川文庫

黒髪に銀冠をとめ、肌は絖よりも白く、絹の旅衣を纒った世にも稀に美しい、パロスの闇王国の王子ゼフィール。そして彼と奇妙な運命の糸で結ばれた、草原の国トルースの公子ヴァン・カルス。ジェイナスの許しを請うために、二人の旅は果てしなく続く。三千年の昔に栄えていたカラクダイの古代帝国の廃都“カナン”に封じられた謎を巡って展開される美しくも妖しい幾多もの神秘。異形の者たちが蠢く未知の次元に、彼等はいったい何を見るのか―。現代の語り部が豊かなイマジネーションで紡ぎだす、剣と魔法の物語。(「BOOK」データベースより)


表紙は天野さんで、1巻はゼフィール王子の正面の顔、2巻では横顔が描かれていて、3巻には後ろ姿が描かれる筈でしたが、作者の死去により未完となっています。残念~~

1.リリス
猫の女はかつて地球に侵攻してきた異星人の末裔だった。

ダネインの大湿原を進む小舟の中にいたのは王子じゃなくって謎の女。やがてある島に辿り着くが、女を見た島民たちは「ラースラの魔物」と呼び彼女を殺してしまいます。全ては夢か現かといった感じで終わる短編は、グインの生まれた星とも繋がりそうなお話ですが、もう続きを読める筈もなく・・

2.カナンの試練
何もかもがうまくいかない日というのはあるもので・・・虫の居所が悪いカルスはつい王子と喧嘩別れをしてしまいます。すぐに後悔して後を追ったものの、王子はラグエの町でカラクダイの古代帝国の魔術師サルーに呪いをかけられ拉致されてしまいます。カナンの財宝を狙う一隊と行動を共にして王子を救おうとしたカルスは、古代帝国で赤い盗賊ユリウスと出会い、一緒に戦い王子を救出するのですが・・・。

赤い盗賊といえば思い出すのがイシュトやはりグイン・サーガの前章としての意味合いを感じてしまいます。 
王子の血を吸った「死者の珠」。その後の話が最後に再び登場しますのでいわば「前編」といった趣かしら


3.ルカの灰色狼
カルスの過去のお話ね草原の国の貴族の息子だったカルスは愛するラナ公女の死に絶望して山に籠ります。まだまだ青い若造というわけ。そこで老狼に出会い、気が合って一年ほど共に暮らすうち、人より狼に近づいていくカルス。でもある時狼の群れに襲われている人間を助けたらそれが父の家臣で、世継ぎの公女を失った祖国が隣国に狙われ危機に瀕していること、血筋を絶やすなとの父の言葉を伝えて息を引き取るの。山を下りる決心をしたカルスに突如襲いかかった老狼は、後継者と目した彼を失いたくなかったのか?それとも彼が心残りなく山を下りられるようわざとそうしたのか?カルスは深く考えることをしません。だって考えても仕方のないこと、もう賽は投げられたのですからね。


4.迷路島
雇った船は海賊船だった。ゼフィール王子とカルスは、海賊たちを切り捨てて難を逃れるが、難破してしまう。辿り着いたのは悪名高い迷路島で・・・。

醜く肥え太り色欲に溺れる王とその迫害をただ黙って受け入れる民衆の図がここにも。
例によって王に囚われた王子を救おうとして「シムハラの呪われた怪獣トゥールゴルス」の棲む地下に閉じ込められたカルス。一緒に閉じ込められた踊り子のリーヤからユライア王女とウルトゥスの悲恋伝説を聞かされ、ウルトゥスの剣を拾った彼は、闇の中で王子の導きの声を聞きこれに従ってトゥールゴルスを退治します。彼を地上まで案内したのは発狂する前に命を絶って欲しいとカルスに頼んでいたリーヤの魂でした。迷路の司祭の名はグラチウスで3000年も生きているという設定。あのグラチウスとは随分キャラが違うしあっさりやられちゃうんですが


5.死者の珠
カナンの試練によって魂を死者の珠の中の異次元に封じられたゼフィール王子は、生者の珠を持ったカルスを同じ世界に呼んで助けを求めるが・・・。

「カナンの試練」後、魂の抜けた人形のようになった王子は日が経つとともに弱っていき、カルスは王子を救うためカナンに戻ることにします。カラクダイの山中でやぎ男ヌホとその母親の魔女ザーザ婆と出会ったカルスとユリウスは彼らに歓待を受けますが、「死者の珠」を手に入れた山岳党のコルフが「生者の珠」を狙って母子を殺してしまいます。
ヌホは母親が黒魔道の力を得るためヤギと交わって出来た子供で、人々から忌み嫌われていた息子に優しく接してくれたカルスに恩義を感じた母親が、ヌホの体内に隠していた「生者の珠」をカルスに渡して息絶える場面が泣けます

両方の珠が出会った時、場面は「カリンクトゥムの扉の果て(真紅の世界、言語に絶する悪夢)」に遷り、宇宙を感じさせる描写となるのでした魔道は突き詰めれば宇宙のパワーに繋がっていくのかしらん

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チョコレートドーナツ

2014年05月23日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2014年4月19日公開 アメリカ 97分

1979年カリフォルニア。歌手を夢見ながらもショーダンサーで日銭を稼ぐルディ(アラン・カミング)はゲイであることを隠して生きる弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)と出会う。また同じ頃に、アパートの隣の部屋に住むダウン症の少年マルコ(アイザック・レイヴァ)が母親から疎んじられていることに気付く。その母親が麻薬で捕まりマルコが施設に入れられると知ったルディは、彼を保護しようとポールに助けを求め、それがきっかけで三人は家族のように寄りそって暮らし始める。しかし幸福な時間は長く続かなかった。ゲイであるがため、法と偏見が立ちはだかり、ルディとポールはマルコと引き離されてしまい・・・。

自由と平等の国の筈なのに、差別や偏見も強烈なのがアメリカです。
しかも、この物語に登場するのは同性愛・ダウン症といったマイノリティな人たちです。
若くもなく美しくもないゲイカップルとお世辞にも可愛いとは言い難い14歳の少年の取り合わせは、正直観ていて惹きつけられるものではありません。しかし、次第に彼らの内面・人間性に気付いていくと、もう外見なんてどうでも良くなるから不思議

ルディは自分がゲイであることを隠そうとはしません。彼の生い立ちについては触れられていませんでしたが、おそらくは辛く不当な扱いを受けてきたと思われます。そんな中でも誇りを失わず頭をあげて前を向いて生きたきた人に見えます。彼がマルコに手を差し伸べたのは、愛情に飢えた過去の自分を見たからかもしれないし、母性本能かもしれません。

一夜限りの関係だったルディがオフィスに現れた時、ポールは脅しにきたのだと思ってしまいます。自分がゲイであることを心のどこかで恥じているポールには、ルディのマルコに対する損得なしの愛情がこの時はまだわからなかったのです。ルディに軽蔑されて初めて、ポールは自分の過ちに気付きます。元々正義を信じ世の中を変えようと弁護士になった人ですから、心が決まればルディのために一肌脱いじゃいます服役中のマルコの母親から保護監督権を得て、三人は束の間の幸せに浸ります。それはどこにでもある家族の姿に見えます。マルコが好きな人形のアシュリー、ディスコダンス、ハッピーエンドのおとぎ話、そしてチョコレートドーナツ(邦題はここからきてるのね)。走馬灯のように流れる一つ一つの場面が笑顔で溢れんばかりです。

ところが、ポールの上司が二人の関係に気付いたことから三人の蜜月は終わりを迎えます。
ゲイのカップルに子供を任せられないという世間と家庭局の偏見が彼らを引き裂いたのです。
必死に審理にこぎつけたルディとポールは、マルコが通っていた学校の教師やルディの同僚、聞き取り調査員らの好意的な陳述を得ますが、それでもなお判事はゲイのカップルにはマルコを渡せないとの判断を下します。

それでも諦めず、新たに弁護士を捜す二人が見つけたのが有能な「黒人の」弁護士です。ゲイ・ダウン症、そして黒人。まさに差別の図鑑があったらまっさきに出てきそうな取り合わせです。ところが、今度は審理そのものが却下されてしまいます当局が服役中の母親と裏取引をして仮出所させてまで、彼らにマルコを渡すことを拒んだからです。母親に勝る保護者はいない。それが裁判所が、世の中が認める正義です。

しかしヤク中で育児放棄の母親に引き取られたマルコは幸せになったのでしょうか。失意の中にも歌手の道を歩き始めたルディの歌声に乗せて、ポールが書いた関係者への手紙の内容が胸に突き刺さります。
同封された新聞の片隅に載った小さな記事には一人の少年の死が書かれていました。
ポールの手紙を読む元上司、判事らの表情の中に彼らの後悔を感じることができたなら少しは慰めになるでしょうか?

マルコの幸せを本当に考え望んでいたのは、行政側でもなくまして母親でもありませんでした。二人がゲイのカップルだというただそれだけで、他のどんな利点も考慮せず、彼らはマルコの幸せを取り上げてしまったのです。

劇中流れるルディの歌声、彼が歌うボブ・ディランの曲が、その胸の内を切ないまでに現していて圧倒されます。

うん、素晴らしい映画です。

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ザ・ワーズ 盗まれた人生

2014年05月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年3月9日公開 アメリカ 96分

ロリー(ブラッドリー・クーパー)は作家としての成功を夢見ながら、なかなか芽が出ないでいた。しかし妻のドラ(ゾーイ・サルダナ)は、そんな夫の才能を信じ、どんなときも彼を支えていた。ロリーは新婚旅行先でとある骨董屋を訪ね、薄汚れたアタッシュケースを見つける。そのなかには、彼が書きたいと切望していたような、魅力的な悲恋を描いた一束の原稿が入っていた。ロリーは罪悪感を抱きながらも、その原稿を自分のものとして出版する。すると瞬く間にベストセラーとなり、ロリーは金と名声を得る。作家としての評価もうなぎ上りになったころ、1人の老年の男性(ジェレミー・アイアンズ)がロリーを訪ねてくる。彼は、あの原稿を執筆した本人だと告げる……。


作品を評価されず、かといって小説家の夢を諦めることもできないロリーは、新婚旅行で訪れたパリで妻から贈られた古鞄の中から、彼が望む理想の小説原稿を見つけます。思わず一字一句違わずタイプしたその原稿を妻が読んでしまい、それをロリー自身の作品と誤解して絶賛したことから魔が差し、彼はその作品を自分のものと偽ってしまうの。出版された小説はベストセラーになり彼は一躍売れっ子作家の仲間入りをし、ゴージャスな暮らしができるようになるのですが、心の中に疚しさが残ります。

そんな彼の前に一人の老人が現れ、その小説の作者だと名乗るの。でも老人はロリーを責めたり脅したりするためにやってきたのではありませんでした。彼はロリーにその物語は自分の若い頃の話だと言い、ロリーが盗んだのは小説だけでなく老人の人生そのものだと告げて去るのです。

ロリーが図太く腹黒い人間だったら、口を拭って生きていけたかもしれません。でも彼は老人の小説が売れたことで逆に自分の作家としての才能の限界を感じるようになっていました。彼にはこの小説以上の作品が書けなかったからです。苦悩する彼の様子を訝しく思った妻に、ロリーは小説の作者が自分ではないことを告白してしまいます。
この夫婦がどうなったかは描かれていませんが、おそらくロリーは愛も地位も失うのでしょう。
偽りの仮面をつけたまま生きるにはロリーは弱く善良だったのだと思いたいです。

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四十九日のレシピ

2014年05月13日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年11月9日公開 129分

熱田良平(石橋蓮司)の妻・乙美が急死して2週間が過ぎたころ、派手な身なりのイモ(二階堂ふみ)が熱田家に突然現われ、亡き妻から四十九日を無事に迎えるためのレシピを預かっていると言い出し、良平は目を白黒させる。そこへ夫(原田泰造)の不倫が発覚し離婚届を突き付けてきた娘の百合子(永作博美)が東京から戻って来て……。


伊吹有喜の小説の映画化です。ドラマも作られたそうですが見ていません
題名から残された家族が母親のレシピからその人生を振り返る的内容かと思っていたのだけど違いました。

二度目の妻にも先立たれ茫然自失の良平の前に突然現れたイモは、勝手に乙美の部屋に上がりこんでレシピを探し出してきて「四十九日の法要は思い切り楽しい宴会に」して欲しいと頼まれたからそれまでお世話します、バイト料も貰ってるしと言い放つの。唖然とするうち彼女のペースに巻き込まれる良平。そこへいわくありげな娘の百合子がやってきます。

百合子は不妊治療中です。それなのに夫が不倫相手を妊娠させた!これは傷つきます。望んでも得られないのは彼女の落ち度ではないのです。周囲はそんな百合子の事情を知りませんから、伯母の珠子(淡路恵子)などは早く子作りしたらなどとせかす始末。これは辛いです。

渡されたお弁当のコロッケパンからソースが垂れていてることに文句を言って、持たずに出たのが最後だったと後悔している良平は、乙美のレシピを使って家事をするイモを見ているうちに、百合子を元気付けるためにも賑やかな四十九日にしようと決心します。昔乙美に世話になったという日系ブラジル人のハル(岡田将生)も加わって準備が進められますが、乙美の年表を作ろうとして空白が多いことに気付いた百合子は、子供を生まなかった乙美と自分を重ねてショックを受けます。その空白を埋めようと乙美の生い立ちを調べるうち、義母の(実子を持たなかった)人生が決して不幸だったわけではないと気付いていくのです。
実はイモやハルは実母から疎まれて育っていて、百合子が乙美に愛されて育ったことと対になっています。血の繋がりだけが絆じゃないよと訴えたいのかな。

戦災で祖父と二人だけ生き残った乙美は、母から何も教わることができませんでした。そんな自分が百合子の母になれるのかと戸惑い、幼い百合子に拒絶されながらも懸命に母であろうと努力をしてきたのです。祖父を介護し看取って老人施設で働いていた乙美。近所の互助施設でボランティアをしていた乙美。出来上がった年表は多くの人との絆に満ちた幸せな女性の人生です。乙美を母と呼べずにきてしまった百合子が母と呼べたその時、(乙美はもういないけれど)本当に親子になれたんだね。

乙美のレシピカードがとっても素敵。料理だけじゃなく家事一般についてわかりやすく描かれていて、可愛い挿絵もメルヘンチックです

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WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~

2014年05月12日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2014年5月10日公開 116分

大学受験に失敗し高校卒業後の進路も決まっていない勇気(染谷将太)は、軽い気持ちで1年間の林業研修プログラムに参加することに。向かった先は、携帯電話が圏外になるほどの山奥のド田舎。粗野な先輩ヨキ(伊藤英明)のしごき、虫やヘビの出現、過酷な林業の現場に耐え切れず、逃げようとする勇気だったが……。(シネマトゥデイより)


「GOOD JOB!」に引っかけたとわかりますが、その後の「神去~」が???だったのですが、神去というのは地名で なあなあは 適当に、とかぼちぼちのニュアンスなんですね

受験に失敗した勇気、友達は慰めてくれたけど、既に自分たちの大学生活に心は飛んでるし、彼女からはあっさり別れを告げられるしでどん底気分でいた彼の前に一枚のパンフが可愛い林業娘(長澤まさみ)がにっこり笑いかけて誘ってるその笑顔に釣られてやってきたのは携帯も圏外のド田舎
パンフのあの娘は「イメージ」と言われ、研修にも身が入らず遂には逃げ出そうとするのですが、その時乗っけてくれたバイクのライダーが「あの娘」。しかも思いっきり蔑まれたものだから、逆に一念発起して続けることに。あぁ青春だねぇ

研修を乗り切り、配属先を「あの娘」が着ていたジャンパーに書かれていたところに希望したけれど、そこは更に山奥の神去地区で、おまけに研修で散々しごかれた恐い先輩の家だった。これも青春。
初っ端から「ヒル」の洗礼を受けた勇気は、ここでも逃げようとするけど、町まで車で2時間じゃ無理~毎日容赦なくヨキにしごかれながら、次第に「山の男」になっていくのでした。

元カノが大学のサークル仲間を連れてやって来た時、初めは一緒になって浮かれていたけれど、林業や地区の人たちを小馬鹿にする態度に怒り彼らを追い返します。そんな勇気の変化と、地区の有力者(柄本明)に都会者と嫌われていた勇気が、彼の孫を助けたことがきっかけで受け入れられていくエピソードはありがちな設定だけど自然な流れです。(勇気が何気なくお地蔵様にお供えしたおにぎり半分が伏線になっているのがファンタジック。)

山の男と認められ祭りの参加を許された勇気の当日のドタバタも笑えます。
諏訪大社の御柱のような儀式で、まるでジェットコースターのようと思っていたら案の定・・・という流れでした。いや~ほんとだったらめっちゃ恐いわぁ

一年が過ぎ、家に帰るために別れを告げた勇気でしたが、都会の雑踏の中に居場所がないことを感じます。そんな時、どこからか懐かしい木の香りが・・それは家の新築現場でした。彼は自分の将来をしっかり見つけたのね。

しかし勇気の親も色んな意味ですごいぞ。息子を信頼しているのか放任しているのか?
帰宅する息子のために作っていた好物のハンバーグ、食べずに戻っちゃダメだよぉ~と心の中で突っ込んでみました基本コメディだから

粗野な木こりのヨキを演じる伊藤君の肉体美も

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人類資金

2014年05月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年10月19日公開 140分

金融ブローカーを名乗って詐欺を繰り返す真舟雄一(佐藤浩市)の前に、石優樹(森山未來)という青年が現れ、終戦後、ひそかに回収された旧日本軍の秘密資金(M資金)を管理しているという財団「日本国際文化振興会」が真舟を呼んでいると伝える。半信半疑のまま財団のビルを訪ねた真舟は、高遠(観月ありさ)率いる防衛省の秘密組織の人間に襲撃を受ける。石の助けでその場を逃げた真舟はそのまま本庄一義(岸部一徳)に引き合わされ、「10兆円のM資金を報酬50億円で盗み出してほしい」と依頼され・・・。


敗戦直前に旧日本軍が隠匿したとされる財宝「M資金」を巡り繰り広げられる陰謀を描いたサスペンス作という触れ込みでしたが、経済系に疎いせいか、内容が頭に入らず退屈さえ感じてしまいました唯一良かったのは石が国連本部で発言したシーンかな原作は福井晴敏の書き下ろし小説だそうで、ビンセント・ギャロも出演していて豪華なんですがね

本庄のバックにいるのがM(香取慎吾)であり、彼の祖父がM資金発足に関わった財団の初代理事長だったり、高遠とも旧知の仲だったりと、要は財団内の内輪もめかよ!な印象が拭えません。
石は語学堪能で格闘技にも長けているのですが、実は日本人ではなく、かつてMに命を救われたことから彼に絶大なる信頼を置いているの。貧しい発展途上国である彼の国を巡り大国が陰謀を巡らす中で、Mの投じた未来投資が実を結びそうな展開ではありますが、う~~ん・・現実にはどうなのかな?

真舟が彼らの計画に乗ったのは、カネでカネを買うマネーゲームが蔓延る世界を変えたいという“M”に共感したから。破格の報酬とM資金の正体を知りたいという欲求も後押ししています。

M資金は投資顧問会社代表を務める笹倉暢彦(仲代達矢)が率いる“財団”により管理されていますが、その実権はニューヨークの投資銀行が握っているという設定は、日本がアメリカの手先として使われているという皮肉かしら

M資金を盗み出すためにターゲットにされたのが、先物取引の失敗を財務操作で損失隠しをしている財団の極東支部の鵠沼(オダギリジョー)です。しかし計画はささいなミスから、アメリカ側のマーカス(ヴィンセント・ギャロ)に見破られ清算人=暗殺者(ユ・ジテ)にMは拉致され、本庄も殺されてしまうの窮地に陥った真舟ですが、このことが逆に高遠や笹倉(Mの父)を味方につけることになり、国連での逆転劇に繋がるという・・・少々強引でご都合主義ですが、小さな一歩が未来を変える力になるんだよというメッセージは伝わってきたかな

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スーサイド・ショップ

2014年05月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年9月7日公開 フランス・ベルギー・カナダ  79分

世の中が絶望の空気に覆われ自殺者が後を絶たない都会の片隅に、トゥヴァシュ一家が営む自殺専門用品店がありました。首つりロープ、腹切りセット、毒薬といった、自殺するのに便利なアイテムを扱う商売を代々しているせいか、父ミシマ、母ルクレス、長女マリリン、長男ヴァンサンの皆がネガティブ思考で、一度たりともほほ笑んだことがなかったのです。そんなトゥヴァシュ家に末っ子のアランが生まれます。両親の必死の教育にもかかわらず良く笑う無邪気で明るい性格に育った彼は何とか家族を幸せにしようとある計画を思いつき・・・。


ジャン・トゥーレの小説「ようこそ、自殺用品店へ」の映画化だそう。本は未読です。
いかにもフランス人らしい辛らつなブラックユーモアなのですが、軽快なミュージカル仕立てと手の込んだ作画が内容の重さ暗さにベールをかけています。子供向けかと思っていたら、マリリンが全裸で踊るシーンはあるし、そもそも生きる希望もなく死を望む都市の人々という設定自体が子供に理解できるか疑問だ~ということでこれはやはり大人向け作品なのでしょう。お父さんがミシマという名なのは思いっきり三島由紀夫を意識しているとしか思えない。自殺道具にハラキリの刀があるし、日の丸鉢巻まで登場するんだもんな このセンスはたまらなくフランス的だわ

生きることは辛いこと、早くこの世に別れを告げて悩みや苦しみのない天国へ行きたいと死に急ぐ人々が大挙して訪れる自殺用品専門店という設定自体がぶっ飛んでますが、そんな一家に生まれた末っ子は根っからのポジティブ思考でいつも笑っている明るい元気な男の子なの。彼にとっては何故皆が死にたがるのか理解できません。根暗な家族がアランを異分子扱いしてもへっちゃら、仲間を集めて何とか自殺をする人を止めようとします。

自分も死にたいけれど、店にやってくるお客さんのために死ねないジレンマを抱えていたお父さんはとうとう病気(鬱)になって寝込んでしまいます。そんな時、アランの仕掛けた悪戯(店の品物を壊してしまうことを悪戯と呼べるならね)で商売が出来なくなり、そのどさくさの中でマリリンが愛する人と巡り逢い、一家でクレープ屋に商売替えしちゃうという・・・そんなのあり?

思い通りに育たないアランに対して憎しみと愛情がない交ぜになった感情を持つお父さんも、子供たちを慈しみ、どの子も等しく愛するお母さんも、どこにでもある普通の親で共感できます。
姉のマリリンが愛を知って明るく前向きになったことで一家に転機が訪れ、方針転換、商売替えというラストは少し安易に見えますが、こっそり元の商売を続けているお父さんを描くことでしっかりスパイス効かせてました

キリスト教圏で自殺を扱う作品自体が異質な気もしますが、笑いや前向きな気持ちが生きるために必要で大切なんだというメッセージを伝えるための逆説的な手法ということなのでしょうか?
だけどこの映画、どう考えても日本人受けはしないだろうなぁシニカルさは嫌いじゃないけれど、お父さん以外の登場人物の掘り下げがないため、展開が雑に感じたのが残念

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ウォーキング with ダイナソー

2014年05月06日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年12月20日公開 イギリス=アメリカ 88分

一つの化石に導かれタイムトラベルした7000万年前のアラスカ――厳しい冬を生き抜くために南へ向かう草食恐竜パキリノサウルスの群れに、耳に大きな穴があいた一際小さな身体のパッチ(木梨憲武)がいた。やがて彼は、群れのリーダーである父を亡くし、兄や仲間ともはぐれて迷子になってしまう。大きな肉食恐竜や自然の脅威と闘いながら、仲間に会うために旅を続けた彼は、様々な困難を乗り越え、幼い子供だったパッチはたくましく成長するが、やがて群れの間で、新たなリーダーの座をかけた争いが起き・・・。


冒頭は現代で、化石に興味のない息子が案内人(鳥)に導かれ7千年前の時代に移っていくのは英BBC製作ものではお馴染の展開かな

パッチが優しい両親、体の大きな兄やGFジュニパーと過ごす子供時代から、様々な試練に耐えて成長し、やがて兄とリーダー争いをするまでになる姿が描かれています。最先端のCGと実写を組み合わせて作り上げられた恐竜ワールドを楽しめました。

パキリノサウルスの他にもゴルゴサウルス、アンキロサウルスなど沢山の恐竜が登場し、ナレーションは福君が担当していました

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カローンの蜘蛛

2014年05月06日 | 
栗本薫(著) 角川文庫(刊)

辺境の「赤い街道」を行き惑う、類稀れなる美少年と若き勇者の二人連れ。それは、パロスの闇王国の王子、ジェイナス神の申し子ゼフィールと、草原の国トルースの貴族ヴァン・カルスの世を忍ぶ仮の姿であった。神の禁忌に触れ、贖罪の放浪を続ける二人の行手には、美しくも妖しい神秘の数々が待ちうけていた…。〈語り部〉栗本薫が豊かなイマジネーションで紡ぎだす、剣と魔法の物語。“トワイライト・サーガ”開幕。(「BOOK」データベースより)


グイン・サーガより数千年後の時代を描いています。ゼフィーールはナリスを思わせますが、カルスはグインではなく草原の男ですからスカールですね。

数々の冒険を経て王子と別れた後のカルスが、酒場でキタラ弾きの紡ぐ過去の自分たちの物語を聴きながら思い出に浸るという形で始まる物語は5章あります。ヤヌス神はジェイナスと名を変えていますが、ドール、ヤーン、モスは同じね。パロス、トルース、アグラーヤなどの国々の名前も変わっていないようです。

『カローンの蜘蛛』
ダールの大原生林の中で豪雨に見舞われる危険を避けて、封印された禁忌の宮殿に踏み込んでしまった闇王国パロスのゼフィール王子とトルースの貴族ヴァン・カルス。廃墟と見えた宮殿には古代帝国カローンの呪いがかけられていた。

自らの出自を疑い、帝位を継ぐため父を殺して血をすすった報いを受け呪われたコルラ・サーンの宮殿に迷い込んだ二人が、彼の呪われた息子である蜘蛛に襲われ逃げ込んだ地下の宮殿でコルラ・サーンに王子が捕まり、カルスは落とし穴で妖蛇と戦いこれを撃退し王子を救うというお話。

『蛇神の都』
蛇神の王国「セムリア」の都市セルスに迷い込んでしまった二人は、折しも三十年に一度の狂気の祭り「セムの日」に遭遇する。血と淫楽の地獄に染まり、美しい少年少女が生け贄として蛇神に捧げられる中にゼフィール王子の姿があった。

この日の狂気をやり過ごせたらまた30年は安楽の日々とはいえ、目を覆いたくなる陰惨な血と暴力の描写です。
もちろん美の化身のような王子は当然の如く生贄の主賓。でも魔道で地霊を呼び出し神を偽って難を逃れます。
独裁者に抗うことをせず諦めの中で邪な生に執着する民衆の姿はこの物語だけでなく度々出てきますが、その最後はどれも滅びなのよね
 
『滅びの島』
廃墟で眠りに落ちたゼフィール王子とカルスは、次元を超えてダリア島に流れ着く。滅びの予言を受けて、狂った王により舟が破壊され港が埋められた島で、人々は退廃的な生活を送っていた。

う~~ん、島から逃げられないのにどこから奴隷を連れてくるんだ?
こちらも自ら未来を切り開こうとせず、今を貪欲に味わい尽くそうとする民衆が登場します。
カダール王の魔手から王子を救おうとして捕えられ地下牢に入れられたカルスが出会ったのは滅びの予言をした当人のロブ・コシャでした。闘技場で知恵を尽くして民衆をカダールの支配から解き放ったまでは良いのですが、時既に遅く予言通りに噴火が起こり島は沈んでいきます。絶体絶命かと思われたその時・・・。
時の歪、次元の裂け目に落ち込んだのか、それとも呼ばれたのか

 
『暗い版図』
宿場で防疫検査のために足止めを食ったことに腹を立て悪態をつくカルスに王子は自分の話を始めます。
14歳になった王子が夜ごと見る夢は、邪悪な悪夢だった。それでいて惹きつけられる自分に不安と恐れを抱いた彼は、町の占い者を訪ねる。

ジェイナスとドールは人間を使って賭けをしていて、王子もその賭けの対象者だったってことね。王子の誕生にあたり、ジェイナスは光を、ドールは闇を与え祝福しますが、彼が14歳になった時、どちらかを選ばせるというのです。ドールの見せた果てない闇の中の甘美な誘惑に打ち勝って光を選んだ王子ですが、覗き込んでしまった悪の光景が彼に少なからず影響を与えたことが示唆されます。単純に少年の成長物語ではないところが凄いのですが

『双子宮の陰謀』
パロスは王の病により、不穏な空気が流れていた。傭兵として将軍に雇われたカルスは、第二王子が魔道の力を使って王位を奪おうとしていると聞かされるが、事実は、弟を妬む兄の皇太子を、王族の血を引く大臣が利用して王座を狙っていたのだった。司祭や魔道士ゾルムの思惑も絡み、三つどもえの争いの中でゼフィール王子はカルスに助けを求める。

再び酒場でキタラ弾きが王子とカルスのなれそめの物語を語ります。二人の出会いと何故放浪の旅をすることになったのかが描かれていました。
黒死病(体が墨のように崩れ溶けてしまう悲惨な病)をまき散らすゾルムを白魔道で滅ぼし、ロンザニア兵の侵攻を知らせようとした二人は将軍たちに捕らえられ処刑されそうになります。王子は将軍と司祭を仲違いさせて窮地を脱し、父を救うのですが、この時凡愚の兄の命を父に移すというジェイナスの禁忌を冒したために都を追放されてしまったのね 『暗い版図』で登場したザイム老がこちらでも王子に助言をしています。ザイム老=ジェイナスだっけ?

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まほろばの王たち

2014年05月02日 | 
仁木英之(著) 講談社(刊)

家を焼かれた物部の姫・広足(ひろたり)は、験者(げんじゃ)の集団である賀茂の一族の長・大蔵(おおくら)に弟子入りすることになった。蘇我氏への反乱を企む鎌足に雇われた大蔵は、蘇我の神を討ち滅ぼし、宮中に残っていた妖を殲滅していく。一方的に相手を痛めつける大蔵を見て、妖に治癒の呪を唱えてしまう広足。形勢が逆転し瀕死の大蔵が助けを求めたのは、賀茂の行者・小角だった。青い光をまとい現れた青年は、広足に問う。「娘よ。何故、古き者を助けた」答えられない広足に対し、小角は大蔵を助けてほしいなら、広足自身を捧げろと言う。広足が頷いたのを見て、小角は天竺の術を使って妖と対話し、飛鳥の宮から離れるよう願った。そして妖が退き、宮殿に鎌足と中大兄王子が駆け込んできたとき、さきほどまでいたはずの小角の姿は消えていた。そして五年後、広足のもとに一本の木簡が届く。「約束の時は至れり」かくして賀茂役小角と物部の末裔・広足、そして山の神々との冒険が始まる。


飛鳥時代といえば聖徳太子を思い浮かべるのですが、物語はもう少し後の世ですね
広足は蘇我に滅ぼされた物部の末裔で、多少の呪術の心得はあるけれど特に優れた能力の持ち主というわけではないようです。しかし彼女の才能は何と言っても飯炊きにあります。どんなに優れた人でも、神でさえもお腹は空くわけで、どうせ食べるなら美味しくて力が出るものが食べたいわけで、彼女の真の才能がその料理の腕にあるわけそうだよね~~胃袋を握るものが男を制するってのは普遍だぁね

鎌足と中大兄王子が大和に留まらず日本を統べることを念頭に「道」を作っているのに対し、古き者たちはその生活をそのままに平穏に暮らしたいと望みます。大蔵が己の野望のために両者を対立に持ち込もうとする企みを阻止するために小角と広足、古き神たちが活躍します。
古代神話に近い時代設定ですから大海人皇子の従者・蹴早が人狼だったり、山の神様たちや鬼まで登場しても違和感ありません。「もののけ姫」や「千と千尋~」に登場する古き神々を思い浮かべてしまうなぁ 讃良は4~5歳の設定ですが、あまりにも大人びていてとても幼児は思えない描写です。彼女に比べたら大海人皇子(彼女より数歳上)は気の強い年相応の男の子に見えました。
(歴史的には大海人皇子の方が実は年上だったとかの説もあるようですが・・

国造りのためでも、平和に暮らしている者を脅かすのはいけませんぞ

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