2019年9月27日公開 オーストラリア・アメリカ・インド合作 123分 R15+
インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュン(デヴ・パテル)は、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日も、いつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、“楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を、無慈悲な銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)は、ある命がけの決断をするのだが──。(公式HPより)
2008年のインド・ムンバイ同時多発テロでテロリストに占拠されたタージマハル・パレス・ホテルでの人質脱出劇の映画化です。
テロリストたちがムンバイに上陸するシーンから始まります。まだ若い子供と言える年齢の彼らはイスラム過激派組織の指導者に洗脳され、自分たちの行いこそが正義だと信じ込まされています。利用客でごった返す駅や旅行者に人気のレストラン、病院、映画館なのでの同時多発テロが行われ、その一つがタージマハル・ホテルでした。ためらいなく銃口を向けるテロリストたちの前に次々と犠牲者が倒れていきます。彼らの狙いは観光で訪れていた英米などの外国人。この五つ星ホテルはそんな富裕層の外国人が大勢宿泊していたのです。
映画では、ホテルの従業員のアルジュンの視点で、宿泊客を守り逃すために、プロとしての矜持を持って残ったホテルマンたちの姿が描かれています。同時に、アメリカ人建築家のデヴィッドと妻のザーラ(ナザニン・ボニアディ)が、部屋に残している乳母のサリーと乳児の息子を救うために決死の覚悟で向かう姿も描かれます。
乳児の鳴き声がテロリストたちの耳に一切届いていないのは少し出来すぎな感もありますが、息詰まるような切迫した状況にハラハラ感が半端ない!!
サリーと息子を守るため、敢えてテロリストに捕まったデヴィッドの運命は、ハリウッド映画ならまた違っていたかもですが、現実はやはりそういうことになるのでしょう
登場したときは横柄な金持ちのロシア人に見えたワシリー(ジェイソン・アイザック)は意外にも紳士でした。(実はロシアの軍人だった過去を持つ設定ですが、彼の矜持は犯人たちに屈しないという点に凝縮されていて、その能力を脱出の方に向けても良かったのでは?と思ってしまいますが、作中でザーラを守るという役割を与えられていたのかなぁ)
オベロイ料理長(アヌパム・カー)が従業員を集めて協力を仰ぐシーンで、「帰りたい者は帰って構わない、そうしても恥ではない」との言葉に多くの従業員が残ることを選びます。それは「お客様は神様」(この和訳は別の人を連想させてちょっと・・なのだけど)というホテルマンとしての精神を皆が共有していることの証でもあります。
避難した部屋の中で、客同士の不安によるトラブルも描かれます アラブ語を話すザーラに疑いの目を向けるイギリス人の老女は、アルジュンのターバンや髭の姿も恐がります。シーク教徒のアルジュンは、彼女にターバンは自らの誇りの象徴であることを話しつつ、不安を取り除くためならターバンを外しますと言うと、彼女はそのままでと答えます。(重症を負った女性客を脱出させる際に、怪我の手当てのためにターバンは外されますが、その彼女は勝手に逃げ出し射殺されてしまうという・・)対テロ部隊が到着するには数日かかるという状況の中、実際はもっと色んなトラブルがあったと想像しますが、それでも従業員と客同士が助け合い、団結したからこそ、その多くが助かったといえるでしょう。
夫と息子が心配で部屋を出たザーラと彼女を心配して追いかけたワシリーですが、テロリストに捕まり人質として監禁されます。そこには夫もいましたが、敢えて他人のフリをするんですね。見張りは負傷したテトリストの一人ですが、隠れ部屋が見つかり応援に向かう際に人質全員を殺すように命じられます。次々銃で撃たれる中、ザーラは彼の前でイスラムの祈り(コーラン)を唱えます。異教徒に対しては女でも容赦なかった彼ですが、初めて躊躇いが生まれます。それ以前に、今回の行為に対する報奨金が家族に届いていないことを知り頭をもたげた疑いが、彼女の祈る姿でこの行為自体への疑問が生じてきたことが観客に伝わってきます。結局彼はザーラを殺すことなく部屋を出て彷徨い、テロ対策部隊の突入により射殺されてしまうのですが、もし彼が負傷していなかったとしたら、最期まで我こそが正義だと思って死んでいったのかしら?他のテロリストたちも、自らが殺される側になって初めて死への恐怖が実感となったように描かれていました。
地元警察も手をこまねいていたわけではなさそうですが、犯人たちの重装備に比べ、彼らは拳銃ひとつ。対テロ部隊は1300kmも離れたニューデリーにいる状況は何とももどかしい。アルジュンと出会い、監視カメラのある部屋に辿り着きますが、彼らもその多くが銃弾に倒れてしまいます。(この部屋をテロリストたちに知られなかったというのは奇跡というべきか )
対テロ部隊の到着で事態はクライマックスへ。避難部屋の存在を知られ危険が迫った客と従業員は決死の脱出に出ます。最後まで客を庇って銃弾に倒れる従業員、誘導する料理長。閉じ込められていたサリーと赤ん坊も無事救出されます。煙が充満する部屋の窓から身を乗り出し助けを求めるザーラも無事救出され、愛息の元へ。
大変な数日を乗り越えたアルジュンが向かったのは愛する妻子の待つ家でした。
ホテルは事件の二か月後にはレストランを再開し、二年後には完全復活を遂げたそうです。ラストはその美しい外観を映して閉じます。
テロリストたちは一人を除いて全員射殺されていますが、首謀者はいまだ捕まっていないという事実に憤りがこみ上げてきます。無垢な若者に狂信的な考えを植え付け殺戮に走らせた者こそ、神の罰をと願わずにいられません。