杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

バンブルビー

2019年03月25日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2019年3月22日公開 アメリカ 114分

父親を亡くした哀しみから立ち直れない思春期の少女チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、18才の誕生日に、海沿いの小さな町の廃品置き場で、廃車寸前の黄色い車を見つける。自宅に乗って帰ったところ、その車が突如、変形《トランスフォーム》してしまう。驚くチャーリーを前に、逃げ惑う黄色の生命体。お互いに危害を加えないことを理解した瞬間、似たもの同士のふたりは急速に距離を縮める。チャーリーは記憶と声を失い“何か”に怯える黄色の生命体に「バンブルビー(黄色い蜂)」と名前をつけて、かくまうことに決める。ボロボロに傷ついたバンブルビー(声:ディラン・オブライエン)と、心に傷を抱えたチャーリー。思いがけない友情が芽生えるのだが、しかし、予測不能の事態に巻き込まれていくのだった-(公式HPより)


「トランスフォーマー」シリーズのキャラクターの一人(一体)のバンブルビーを主役に、シリーズの始まりを明らかにする物語です。1作目の主人公サムとバンブルビーが出会う以前の1980年代を舞台に、バンブルビーとチャーリーの交流と友情、彼らに待ち受ける予想外の運命が描かれます。監督はマイケル・ベイではなく、「KUBO クボ 二本の弦の秘密」のトラビス・ナイトで、初の実写映画なんだそう。

シリーズに登場するキャラの中では小柄で愛嬌のあるバンブルビーが好きです。予告でも流れているように、チャーリーの留守中にガレージから居間に入って、好奇心からあちこち触りまくるバンブルビー。でも自分のサイズと重量を失念しているので派手に壊しまくり、パニクっている姿が可笑しいやら可愛いやら また、砂浜で「隠れる」練習をする姿も笑いを誘います。

映画では、冒頭にメガトロンでの戦いと撤退が描かれ、バンブルビーが先発隊として地球にやってきたことが明らかにされます。彼を追いかけてきたディセプティコンの攻撃で発声機能を失いますが、チャーリーが着けてくれたラジオのチューニングで会話をしたり、シャッターとドロップキックに攻撃されて彼女が危険に晒されると勇敢に戦う姿がかなり「男らしい」のです。

チャーリーは亡き父のことが忘れられず、母(パメラ・アドロン)の再婚相手のロン(スティーブン・シュナイダー)を素直に受け入れられません。彼女は才能のある飛込選手でしたが、父の死がきっかけで引退していて、家族にも壁を作っているんですね。そんな彼女が記憶を欠いたバンブルビーと出会って、心に傷を抱えた者同士惹かれ合うのです。

チャーリーに気があるけれど、シャイな性格のためアプローチできずにいたメモ(ジョージ・レンデボーグ・Jr)も、バンブルビーの変形する姿を見てしまったことから彼らと友達になります。チャーリーの弟のオーティス(ジェイソン・ドラッカー)も協力者になるんですね

一方、バンブルビーと遭遇し、彼を敵とみなすセクター7配属のバーンズ少佐(ジョン・シナ)は、バンブルビーを追って地球にやってきたディセプティコンの甘言に騙されたパウエル博士と共に彼を追跡します。パウエル博士はディセプティコンの科学力に心酔するのですが、後に彼らの企みを知って自分の過ちに気付くものの後の祭りの最期を遂げます。科学者の常ではありますが、純粋な探求心と未来への想像力は反比例するんですかねぇ

トランスフォーマー同士の戦いも自由自在に変形してスピード感がありますが、戦い自身にはあまり興味がないのでそこは敢えてスルー。

戦力的にはやや劣るバンブルビーですが、愛するものを守るという強い気持ちを持つとき、飛躍的にその能力がUPします。

でも私的には、チャーリーと一緒に隠れる練習をする姿や、留守番をしていて意図せずに部屋を滅茶苦茶にしてしまい狼狽しているバンブルビーの方が愛嬌があって魅力的です。 声を失っていたバンブルビーにチャーリーはラジオのパーツを取り付け、音楽を声代わりに会話することができるようになるのも、後の物語に繋がっていますね。

車に変形しているときのバンブルビーはビートルでしたが、チャーリーと別れて去っていくときはカマロになります。(シリーズ一作目の主人公サムが出会うのはカマロのバンブルビーですね)車種の変更は(軍を含めた)敵の追跡をかわすためでもあるけれど、彼自身の成長を示しているのかもね。

もう一度、シリーズ一作目を観たくなりました


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クリスマス・カンパニー

2019年03月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2017年製作 フランス=ベルギー 100分

人間界から遠く離れたサンタクロースの世界。クリスマスの4日前、サンタクロース(アラン・シャバ)とお手伝いのエルフたちは、人間の子どもたちへのプレゼントの準備に大忙しだった。ところが、プレゼントを作っていた9万2000人のエルフたちが一斉に倒れてしまう。これまで寝ている子どもたちにしか会ったことのない大人嫌いのサンタクロースは、エルフたちの治療に必要なビタミンCを手に入れるため、仕方なく人間界へと向かうが……。

ゴルシフテ・ファラハニ


アラン・シャバが監督・脚本・主演を務める、人間嫌いのサンタクロースが倒れたエルフたちを救うため人間界で奔走する姿を描いたファンタジーコメディです。サンタのコメディといえば思い出すのは「ブラック・サンタ」ですが、これはサンタに扮する人間が主人公で、「本物」のサンタのコメディを観たのは久々な気がします。

おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルでポップなサンタの国の描写がとても素敵 もちろん悪人も出てきませんから子供にも安心して見せられる・・・かも。

子供たちに配るおもちゃの準備にてんてこ舞いのエルフたちに、サンタは我儘の言い放題。限界を超えたエルフたち(全員同じ顔)が一斉に倒れてしまいます。慌てたサンタに妻のワンダ(オドレイ・トトゥ)は、ビタミンCがあれば治るとアドバイス。渋々人間界にビタミンCを求めてやってきたサンタがある一家と出会い、一緒にビタミンCを集めることに。薬局でビタミンCサプリを手に入れようとして不審者扱いされ警察に連行されたサンタが、正直に自分の身元を語ったらますます怪しまれるくだりは笑えます。

このサンタ、エルフのことも人間界のこともわかっていないというか、知ろうともしてこなかったんですね~~。無邪気ともいえるその態度や行動は、我儘や傲慢さと裏返しでもあります。まぁ、子供と同じと考えたら許せる?

そんなサンタに無償で協力するのは警察署で出会った弁護士のトマとその家族です。子供たちは素直にサンタのことを信じますが、親の方はやっぱり疑います。でも屋上にソリとトナカイたちがいるのを見て信じるんですね。サプリとはいえ、大量購入にはかなりの金額が必要なのに、気前よく買ってあげるあたりは尊敬だわ そんなトマたちの好意を当然と受け止めるサンタにイラつくぞ。

彼の弟のジェイはマジシャンですが何かと問題を起こす厄介な男。案の定、サンタの何でも詰め込める籠を勝手に拝借したことで大問題が!籠をなくしたことで自暴自棄になったサンタを説得したり、警察から追われたりの騒動の末、トマがネットで大量注文したビタミンCと共にサンタのおうちに帰るのですが(トマ一家も一緒)、ジェイがビタミンCの箱を放り出していたため、大ピンチ!そこへトマの子供たちがサンタに贈ったプレゼントのビタミンC入りのお菓子が登場します。(ちょっと考えたら、同じ顔のエルフが一人倒れただけで全員倒れちゃったんだから、薬も一人分で良いんですよね)元気になったエルフたちとクリスマスのプレゼントを届ける様子もファンタジックでした。

人間嫌いのサンタは世間知らずで自分の殻に閉じこもった子供と重ね合わせることができます。違う種類の他者(大人)と触れ合うことで一回り成長するお話でもあるかなまぁ、深く考えなくてもクリスマス映画として気楽に観るのが一番かも。


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いつだってやめられる 7人の危ない教授たち

2019年03月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年6月30日公開 イタリア 105分

神経生物学者のピエトロ(エドアルド・レオ)は大学での職を追われ、恋人に打ち明けることもできず、ふとしたきっかけで思いついた新しいドラッグを開発することを決意。自分同様才能がありながら不遇をかこつ研究者仲間を集めてチームを結成する。新開発のドラッグは大人気となり、大きな富をもたらすが、ドラッグ市場を牛耳るボスに目を付けられたことから、次から次へと予想だにしない事態が発生する。ピエトロとその仲間たちは事態の収拾に奔走するが…(公式HPより)


社会から弾き出された学者たちが、合法ドラッグでひと儲けしようとする姿を描いたイタリア製クライムコメディ。

研究に人生を捧げてきたのに、大学から研究費を削減され失職したピエトロ。家庭教師代を生徒に払ってもらうこともできない気弱な彼は、恋人に本当のことが言えず思わずついた嘘のせいでますますピンチに追い込まれます。切羽詰まった彼は、自分の知識を生かして合法ドラッグを製造することを思いつきます。 (イタリアの法律では、保険衛生省が公表している違法成分リスト外のドラッグを、警察が取り締まることができないんですね

自分同様、社会から不遇な扱いを受けているかつての研究仲間のアルベルト(ステファノ・フレージ)やラテン語学者のマッティア(ヴァレリオ・アプレア)とジョルジオ(ロレンツォ・ラヴィア)、考古学者アルトゥーロ(パオロ・カラブレージ)、数理経済学者バルトロメオ(リベロ・デ・リエンツォ)、人類生物学者アンドレア(ピエトロ・セルモンティ)ら専門家たちを集めて作ったドラッグは大人気に。このメンバーがまた強烈な個性の持ち主たちで、その会話だけでも笑えます。ディスコで若者たちにドラッグを売りさばく様子もコミカルに描かれています。

お金が入ったら当然使いたくなるのが人間。急に羽振りがよくなったピエトロを恋人のジュリア(ヴァレリア・ソラリーノ)が怪しみます。彼女だけではなくドラッグの元締めのムレーナからも目を付けられ、ジュリアを誘拐されてドラッグとの交換を要求されます。その原材料調達のために、薬局に強盗に入ることを計画した彼らが調達した武器がエルミタージュ博物館所蔵の剣や銃。ところが、薬剤師がピエトロの生徒だったことから慌てた彼らは強奪に失敗します。

ピエトロは窮余の策で、試作品のドラッグをムレーナに飲ませて信用させ、砂糖で作った偽ドラッグを渡してムレーナを嵌め、当局と取引して自分ひとりが罪をかぶる代わりに仲間を見逃してもらうのです。まぁ、自分が誘ったせいでこうなったのだから当然ではありますが、彼は決してずるい男ではないんですね

この作品、三部作ということで、冒頭の刑務所での面会シーンが次作へつながっているようです。やっぱり全部見ないとね


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ロンドン、人生はじめます

2019年03月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年4月21日公開 イギリス 102分

ロンドン郊外の美しいヒースが広がるハムステッドの住宅街。高級マンションで暮らすアメリカ人の未亡人エミリー(ダイアン・キートン)は、悠々自適の一人暮らしとはいかず、夫亡きあと発覚した浮気や借金のこと、減っていく貯金のこと、老朽化したマンションの修繕費用のこと、上辺ばかりのご近所づきあいなどお金や生活の様々な問題に直面していた。屋根裏部屋からヒースを眺めていたある日、髭もじゃの男が暴漢に襲われるのを目撃するエミリー。翌日、森の中を訪れた彼女は、手作りの小屋で17年間暮らしているというドナルド(ブレンダン・グリーソン)と出会う。ドナルドの家が不動産の開発業者の標的となり、不法占拠していた彼は立ち退きを迫られているだけでなく嫌がらせを受けていた。そんな事情もあり警戒し拒絶するドナルドにエミリーも始めこそ拒否感を抱く。だが、庭でのディナー、気ままな読書、森でのピクニック…と余計なモノを持たず手作りの暮らしで満足する彼の温かい人柄に触れエミリーは惹かれていく。(公式HPより)


ハムステッドはロンドン中心部にあって、広い公園とお洒落なショップが建ち並ぶ緑の多い高級住宅なんだそう。この公園「ハムステッド・ヒース」はロンドン最大の公園で、手つかずの原生林が残る風光明媚な場所としても知られ、古くから作家や詩人が暮らした場所としても有名で、今も俳優やミュージシャンが多数住んでいるんだそうな。映画『ノッティングヒルの恋人』のロケ地の一つとしても有名だそうですね。そんな超高級地にあるハムステッド・ヒースで暮らしていたホームレスの男性が周囲に助けられその場所の所有権を手にし、一夜にして資産家になったという実話を基に映画化された作品です。

エミリーは夫の死後に彼の浮気と借金を知ります。アメリカ人の彼女にとって、夫と暮らした高級マンションは住人たちとの中身のないうわべだけの付き合いも含めて自分らしく生きられない場所のようです。双眼鏡で目にした事件を通報したことからドナルドを知った彼女は、自然に囲まれ、自分で作った小さな家で自由気ままに暮らすドナルドに次第に惹かれていきます。彼の不愛想で頑固な顔の下に隠れている温かで率直な人柄が、これまでエミリーが接してきた人たちよりも好ましく感じたんでしょうね。

ドナルドの対称として登場するのが、自称親友のフィオナ(レスリー・マンビル)がお節介で紹介してくれた会計士のジェームズ(ジェイソン・ワトキンス) いかにもな物腰やきどった態度についつい失笑してしまうけれど、でも彼自身は決して悪い人間ではないのよね。 

エミリーにとって高級レストランでのジェームズとの食事より、ドナルドの家の庭でのディナーや釣りやピクニックの方が自分らしくいられる時間だというのは頷けます。

立ち退きを迫られているドナルドの力になるべく立ち上がるエミリー。それまで夫の添え物だった彼女が、自ら行動を起こし始めるのね。

実はこの立ち退き騒動にフィオナの夫が関わっていて、あれこれ問題も起こる中、ドナルドがある一定年数以上前から暮らしていたことを立証することができて、彼は裁判に勝利することとなります。

立ち退かなくても済むことになったドナルドはこの森の中の家でずっと住み続けることを希望しますが、この土地に拘る理由(昔好きだった女性を忘れられない)を知るエミリーは、新しい人生を始める良い機会だと、他に移ることを提案して喧嘩になり、二人は別れてしまうのですね。

エミリーは夫との思い出を断ち切るかのようにマンションを売って、郊外の自然豊かな家に移ります。彼女は自分自身の人生を始めたのです。 と思ったら、ドナルド再登場!彼は土地の権利を売って小さな船を買い、その上にあの「家」を積んでエミリーの元を訪れます。彼にとって大切なのは土地への執着ではなく、自分で一から建てたあの家と、そこで知り合ったエミリーだったというわけですね


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パグ・アクチュアリー ダメな私のワンダフル・ライフ

2019年03月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年11月3日公開 イギリス 94分

ロンドンで暮らす高校教師サラ(ビーティ・エドモンドソン)は恋人募集中。ある日、サラの祖母が他界し、飼っていたパグ犬パトリックを相続することに。これまでペットを飼ったことのないサラはパトリックの世話に悪戦苦闘しながらも、パトリックのおかげで恋が急展開し……。(映画.comより)


祖母の遺言で彼女の愛犬パトリックを相続することになったサラ。必死に抵抗してみるけど結局押し付けられてしまいます。そして犬を飼ったこともないサラの悪戦苦闘の日々が始まります。

嫌々でも、一応面倒は見るし、散歩にも連れて行くサラは決して悪い飼い主じゃないのね それにしてもパトリックのお行儀の悪さは好奇心旺盛と言い換えても目に余るものがあります だけど、その大胆な行動がサラの人生を豊かにしてくれるんですね

彼女の男を見る目は選びは上手とは言えない、それは人生とも重なっているように見えます。恋人に浮気され、公園で会った男性も、一人は生徒の母親の浮気相手で、もう一人は俺様獣医師だもんな~ 演じているのはエド・スクレインとエイドリアン・スカーボロー。どっちがどの役だったっけ?

特に獣医師とのデートは最悪。自分から誘ったのに食事は割り勘で、自分の自慢話に終始、家に誘うと仕事以外で犬は診ないとのたまう始末。サラじゃなくとも二度目のデートはごめんって言いたくなりますね 

ペット禁止のアパートをパトリックのせいで追い出されてしまいますが、教師仲間の兄の「家」を借りることができます。この家がなんと船なんですね イギリスって運河?川?沿いにたくさんの船が係留されていて、人が住んでいることもあるのかな?そういえば別の映画でもこんなシチュエーション観たような

部屋に残しておくと何をするかわからないパトリックを高校に連れて行ったサラですが、ここでもパトリックは問題を起こしてしまいます。(チョコって犬には毒なのね)でもそのおかげで獣医師と急接近するんですけどね。生徒とは友達関係を築いていきますが、変化を嫌う教師には敵視されてしまいます。国語教師のサラの授業の題材は「ジェーン・エア」。彼女の解説は簡潔で現代的でウィットもあり面白かったです。 こんな授業ならちょっと受けてみたくなりました。

ワンちゃん仲間のお爺さん(かなり厄介な性格ですが)のためにチャリティマラソンを完走しようとするサラ。その姿は決して美しくはないけれど必死さは伝わります。パトリックがいなくなったり、実家でひと悶着あったりの前振りで遅れてスタートした彼女を、ゴールでは皆が待っていて激励します。彼女を嫌っていた教師までもがサラを応援するんですね。(まぁこのくだりはいかにもな展開ですけど) 公園でくだんの獣医師がさりげなく励まして伴走してくれるシーンが良かったかな 彼も根は優しいんですね

ロマコメにしては恋の要素は控えめで、その分パグ犬の可愛さが強調されています。初めは躾られていない駄犬に見えますが、次第にサラにとってかけがえのないペットになっていくのが伝わってきました。犬の行儀も飼い主の愛情次第ってことかしら


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恋は雨上がりのように

2019年03月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年5月25日公開 111分

高校2年生の橘あきら(小松菜奈)は、アキレス腱のケガで陸上の夢を絶たれてしまう。偶然入ったファミレスで放心しているところに、優しく声をかけてくれたのは店長の近藤正己(大泉洋)だった。 それをきっかけにあきらは、ファミレスでのバイトを始める。バツイチ子持ちで、ずっと年上の店長に密かな恋心を抱いて…… あきらの一見クールな佇まいと17歳という若さに、好意をもたれているとは思いもしない近藤。しかし店長への想いを抑えきれなくなったあきらはついに店長に告白する。近藤は、そんな真っ直ぐな想いを、そのまま受け止めることもできず・・・・。真っ直ぐすぎる17歳、冴えない45歳。ふたりに訪れる、人生の雨宿りの物語。(公式HPより)

 
冴えないファミレス店長に片思いした女子高生の恋の行方を描いた眉月じゅん原作の同名コミックの実写映画です。
28歳も年上の店長に恋をしたあきらは、その想いをストレートにぶつけます。いつも不愛想なあきらの思わぬ告白に動揺する店長。そりゃそうだよね~~娘くらいの年の子の想いに応えられるわけがない・・のが社会人の常識でございます。
 
戸惑う姿が妙に可愛らしい店長ですが、あきらの真っ直ぐさに、失いかけていた人生への夢や情熱が彼の中で再び頭をもたげていきます。
実は彼は小説家になりたいという思いを断ち切れずにいたのですね。
親友で、有名作家になった九条ちひろ(戸次重幸)に何十年ぶりかで会って本音を言うことができたのも、あきらがきっかけですね。
 
あきらを心配する幼馴染のはるか(清野菜名)や、あきらを目標にしてきた倉田みずき(山本舞香)は、あきらに陸上に戻って欲しいと働きかけます。リハビリ次第でまた走れるようになるのも夢じゃないらしい バイト仲間であきらに片思いのタカシ(葉山奨之)やちょっかいを出す加瀬(磯村勇斗)には目もくれず、一途に店長に想いをぶつけるあきらの姿が…若い!!若くてイタイ いやいや、どうしても親目線で観てしまう
 
まぁ、彼女の恋が実るわけじゃないのですが、失いかけていた夢を取り戻して人生に再び輝きを見出していく二人の姿は好感が持てました。

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チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛

2019年03月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年10月6日公開 アメリカ=イギリス 105分 R15+

17世紀のオランダ・アムステルダム。遥か東の国から来た珍しく美しい花―チューリップ―を、人々は我を忘れて手に入れようとした。民衆は大枚はたいてチューリップへの投機に熱中し、球根の値段は上がり続けた。その中でも特に高価なのが、希少な縞模様のチューリップ。それを人々は“ブレイカー(色割れ)”と呼んだ。この神々しく、真紅の縞模様が入った白い花が、人々の運命を変えていくことになる― 孤児として聖ウルスラ修道院で育った美しい少女、ソフィア(アリシア・ビカンダー)。彼女は成人し、富豪で有力者である商人、コルネリス・サンツフォールト(クリストフ・ヴァルツ)に嫁ぐこととなる。しかしながら、いつまでたっても子どもを授からないソフィアとの生活にコルネリスは焦りを感じる。また、子どもが出来ないソフィアは、ソルフ医師(トム・ホランダー)に助けを求めるが、彼はいつも真面目に診察してくれず、はぐらかすばかり。一方、サンツフォールト家の女中、マリア(ホリディ・グレインジャー)は、魚売りのウィレム(ジャック・オコンネル)に恋をし、日々の逢瀬に幸せを感じていた。日々の気晴らしとして、コルネリスは絵画商人マテウス(マシュー・モリソン)に頼み、ソフィアとの肖像画を描いてもらうことを思いつく。そのマテウスが紹介したのが、将来を嘱望されている若手画家、ヤン・ファン・ロース(デイン・デハーン)であった。階段から降りてくるソフィアの姿を見た瞬間、恋に落ちたヤン。彼の横柄な態度に最初は嫌悪感を抱いていたソフィアだったが、絵を通じて向き合う時間の中で、徐々に彼に惹かれるようになっていく。時を同じくして、魚売りのウィレムは、愛するマリアとの結婚の為、一攫千金をかけてチューリップ売買の世界に飛び込み、球根の所有権証明書を手に入れる。それは一般的な白いチューリップの証明書のはずだった…。ウィレムはチューリップの証明書への署名をもらうため、所有者であるウルスラ修道院の修道院長(ジュディ・デンチ)の元を訪れるが、修道院に咲いていた花の中には、白と真紅のブレイカーが1輪咲いていた。“マリア提督”と名付けられた奇跡の球根の証明書を入手し幸せを手に入れたはずのウィレムだったが、ヤンとの逢瀬を続けるソフィアの姿をマリアだと勘違いし、傷心のなか酒場で財布を盗まれてしまう。恋人も財産も失ったウィレムは、そのままアムステルダムから姿を消すのであった。愛するウィレムを失ったマリアは、失意の中で自分が彼との子どもを授かったことをソフィアに告白するが、これを聞いたソフィアは、ある計画を思いつく。それは、マリアの子を自分の子どもだと夫に信じ込ませる計画であった。一見無謀とも思えるこの計画は、ヤンやソルフ医師を巻き込み、人々の人生を大きく動かすことになる。妊娠の発覚により妻と夜を共に過ごせなくなったコルネリスは、仕事という嘘をつきユトレヒトの女に会いに数週間家を留守にする。この間幸せな日々を送るソフィアとヤンであったが、ソフィアを幸せにするためにどうしてもお金が必要なヤンは、チューリップの球根を盗みにウルスラ修道院へもぐり込むが、捕まってしまう。球根を諦めきれず自らチューリップ売買に乗り出していくヤンであったが、その結末は―。チューリップへの熱と、愛する人への想いが交わる中、それぞれの人生が交錯していく。(公式HPより)


フェルメールの絵画の世界に着想を得た、デボラ・モガーの小説「チューリップ熱」の映画化で、球根ひとつが邸宅一軒分の価値になった世界最古の経済バブルともいわれる17世紀の 「チューリップバブル」を背景に、豪商の若き妻と無名の青年画家の許されざる愛の行方を描いた作品です。

物語はマリアの回想という形で進んでいきます。慎ましやかだったソフィアが、ヤンと出会って大胆な計画を実行するまでになるのはまさに恋ゆえですが、それにしても身勝手過ぎるぞ コルネリスは確かに金でソフィアを妻に迎えたけれど、妻には誠実な夫に見えたので余計にソフィアが不実に見えてしまいました。

ヤンの描く絵の中のソフィアのドレスはフェルメールが好んで描いた青。フェルメールブルーです。(まだ駆け出しのヤンがこの高価な絵具をふんだんに使えたのもコルネリスが前払いしていたのかなとか想像すると何だか可笑しいような気の毒なような

ウィレムとマリアのカップルは、貧しいながらも互いに愛し合っていましたが、マリアの外套を借りてヤンとの逢瀬に向かうソフィアを彼女と誤解したことから、財布を盗まれた上に海軍に入れられてしまうウィレム・・おいおい!! 突然恋人が消え、しかも妊娠がわかって動揺するマリアに、子を授からないソフィアは大胆な計画を提案します。それは互いの身を守るための策でもありました。

腹に詰め物をして妊婦を装うソフィアはともかく、マリアのお腹はどう取り繕ってもばれるだろ??と思うのですが、結局ばれずに出産しちゃうんですね~~。ソルフ医師(この人本当に医者かよ!!ないい加減さです)や助産婦まで巻き込んだ大芝居にコルネリスはすっかり騙されてしまいます。

以前、コルネリスはソフィアに前妻が出産で子供ともども亡くなった時に自分は子供の命を優先してしまったと告白しました。でもソフィアの「出産」では、彼は妻の命を助けてくれるようソルフ医師に嘆願します。ここに至ってソフィアは自分が大きな罪を犯してしまったことに気付くのですね。 自らの死を偽装してまでヤンと新しい人生を始めようとした彼女ですが、結局はヤンの元からも姿を消してしまいます。

一方、海軍から戻ったウィレムとマリアの会話を聞いたコルネリスも真実を知ってしまいます。ところが彼は原因は自分にあるとソフィアを赦し、マリアが産んだ子を跡継ぎとして育てるよう書き置いて外国へ旅立ってしまうんです。そんな都合の良い話ってある~??

数年後、運河に落ちたマントを見てソフィアは死んでしまったものと思っていたヤンは、修道院の壁画の依頼を受けます。そこで院長が目くばせをした先には・・・ソフィアがいます。あらら~結局彼女は修道院にで戻っていたんですね。

この院長、なかなかの食わせ者。ソフィアをコルネリスに「売った」のも彼女だし、教皇の委託を受けてチューリップを院内で栽培し取引していたのも彼女ですからね。 

それにしても元祖バブルのチューリップ売買はなかなか興味深い代物でした。いつの世も投機の対象が何であれ、熱に浮かされて大儲けするのも大損するのも自己責任ですね


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となりの怪物くん

2019年03月09日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年4月27日公開 105分

行動予測不能な超問題児で“怪物”と呼ばれる春(菅田将暉)と、ガリ勉&冷血の雫(土屋太鳳)は、二人とも恋人はおろか、友達もいない。二人は高校1年生の4月、雫がとなりの席で不登校の春の家に嫌々プリントを届けに行ったことがきっかけで出会う。それ以来、春は雫を勝手に“初めての友達”に認定し、さらに唐突に「シズクが好き」と告白。仕事で家にいない母親に認められるために、幼い頃から勉強だけを信じてきた雫にとって、友達や恋人などはただの邪魔な存在でしかなく、はじめは無関心だったが、やがて春の本当の人柄に触れ、次第に心惹かれていく。そして春と雫の周りには、夏目(池田エライザ)、大島(浜辺美波)、ササヤン(佐野岳)ら、いつしか個性豊かな友達が増えていった。初めての友情、初めての恋愛。そして、春のライバル・ヤマケン(山田裕貴)の登場により、初めての三角関係も巻き起こり、二人の世界が変わっていく。それは春と雫にとって、初めて“みんな”で過ごす時間だった。そんなある日、春の兄・優山(古川雄輝)が春のもとに現れたことがきっかけで、春は絶縁状態だった父親の元へ突如連れ戻されることになり、雫の前からも姿を消してしまう。なぜ、春は“怪物”になったのか?そしてその真実が明らかになったとき、春と雫の恋の行方は −−−?(公式HPより)


ろびこ原作のコミックの実写映画化です。社会人になったヒロイン・雫が当時を振り返るという回想形式で進んでいきます。神戸の絶景デートスポットとして有名な諏訪山展望台のヴィーナスブリッジも登場。西野カナの歌が効果的に挿入されています。彼らの通う高校の制服のビビットなオレンジ色が強烈 こんな制服実際にあったらちょっと異様。 キャラ的には、春が身を寄せていた従兄の三沢満善(速水もこみち)が良いなぁ

春の予測不能で突飛な行動は、アスペルガーじゃないかと 純粋過ぎるが故に周囲に理解されず孤独だった春は、母親の愛情を求める雫の寂しさを感じ取ったのかも 

そもそも、ガリ勉&冷血だったら、春のようなタイプの人間は初めから拒絶しそうなもので、そうしないのは雫の方も本当は友達を求めていたからでしょう。

春の父親(佐野史郎)が政界で権力を持つ人で、春を利用しようとしていたり、兄が春に対して複雑なコンプレックスを抱いていたりと波乱はありますが、まぁ物事は収まるところに収まるってことで・・・ラストは一気にそこに落ち着きますか!!でした 


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スターリンの葬送狂騒曲

2019年03月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年8月3日公開 イギリス 107分

“敵”の名簿を愉しげにチェックするスターリン。名前の載った者は、問答無用で“粛清”される恐怖のリストだ。時は1953年、モスクワ。スターリンと彼の秘密警察がこの国を20年にわたって支配していた。
下品なジョークを飛ばし合いながら、スターリンは側近たちと夕食のテーブルを囲む。道化役の中央委員会第一書記のフルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)の小話に大笑いする秘密警察警備隊長のベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)。スターリンの腹心のマレンコフ(ジェフリー・タンバー)は空気が読めないタイプで、すぐに場をシラケさせてしまう。 明け方近くまで続いた宴をお開きにし、自室でクラシックをかけるスターリン。無理を言って録音させたレコードに、ピアニストのマリヤ(オルガ・キュリレンコ)からの「その死を祈り、神の赦しを願う、暴君よ」と書かれた手紙が入っていた。それを読んでも余裕で笑っていたスターリンは次の瞬間、顔をゆがめて倒れ込む。
お茶を運んできたメイドが、意識不明のスターリンを発見し、すぐに側近たちが呼ばれる。驚きながらも「代理は私が務める」と、すかさず宣言するマレンコフ。側近たちで医者を呼ぼうと協議するが、有能な者はすべてスターリンの毒殺を企てた罪で獄中か、死刑に処されていた。仕方なく集めたヤブ医者たちが、駆け付けたスターリンの娘スヴェトラーナ(アンドレア・ライズブロー)に、スターリンは脳出血で回復は難しいと診断を下す。その後、スターリンはほんの数分間だけ意識を取り戻すが、後継者を指名することなく、間もなく息を引き取る。この混乱に乗じて、側近たちは最高権力の座を狙い、互いを出し抜く卑劣な駆け引きを始める。表向きは厳粛な国葬の準備を進めながら、マレンコフ、フルシチョフ、ベリヤに加え、各大臣、ソビエト軍の最高司令官ジューコフまでもが参戦。進行する陰謀と罠――果たして、絶対権力のイスに座るのは誰?!(公式HPより)


1953年の旧ソ連を舞台に、独裁者スターリンの死によって巻き起こった政権内部の争いを辛辣かつコミカルに描き、ロシアで上映禁止となって話題を集めたブラックコメディです。

緊張と恐怖が支配する独裁社会で日常的に行われる残虐行為に、権力者たちの感覚も麻痺しています。そこに生まれる不条理なユーモアを単純に笑い飛ばすことができるのはよほどお気楽な人だかも。ヒステリックなまでの滑稽さの中にある不気味さとユーモアはまさにブラックコメディの真骨頂です。当事国での上映禁止も頷けるといったもの 

倒れたスターリンを見下ろしながら、側近たちはどの医者を呼ぶべきかも判断できずにいます。これまで毒殺の疑いで名医と呼べる者はことごとく投獄され、残ったのは藪医者ばかりなんですものね 表面的には、さもスターリンを心配しているように装いながら、側近たちの頭にあるのは、次の椅子!権力闘争の始まりです。誰と組んだら有利になるのか、誰を蹴落とさなければならないのか・・腹の探り合いと化かし合いの様子は俯瞰で見る分にはコメディですが、実際現実に起きたら笑いごとじゃないですね

スターリンの娘に取り入ろうと、我先に迎えに走る姿は滑稽そのもの。スターリンのバカ息子ワシーリー(ルパート・フレンド)の方が、まだましに見えるほど

どこぞの独裁国家に限らず、政府が情報をコントロールする怖さについて、笑いながらも背筋に冷たいものが走る気がしました。

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グリーンブック

2019年03月06日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2019年3月1日公開 アメリカ 130分

時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・“リップ”・バレロンガ(ビゴ・モーテンセン)は、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。(公式HPより)


人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ジャズピアニストとイタリア系白人運転手の2人が旅を続けるなかで友情を深めていく姿を、実話をもとに描いた作品です。トニーの実の息子のニック・バレロンガが製作・脚本を手がけています。

アカデミー賞全5部門でノミネートされ、作品賞・脚本賞・助演男優賞受賞作品ということで、平日昼なのにほぼ満席状態でした。でも私がこれを選んだのはヴィゴが出ているから 次に内容が面白そうだったからです。アカデミー賞のノミネート云々は後で知った話

題名になったグリーンブックとは、1936年から1966年までヴィクター・H・グリーンにより毎年出版された黒人が利用可能な施設を記した旅行ガイドブックのこと。(公式HPより)つい半世紀前まで黒人差別が堂々とまかり通っていた南部では、泊まるホテルも食事するレストランも衣料品店までもが分けられていたのだということを改めて突き付けられますが、作品は決して暗くはなく、そういった差別さえも滑稽に描かれています。
 
インテリで超紳士なドクターと、腕っぷしが強く機転もきくけれどとにかくがさつなトニー 出自も性格も全く違う二人は、当然ながら初めは衝突を繰り返します。
トニーは、初めは黒人が口をつけたコップをゴミ箱に捨てるような男でした。このシーンを入れることで、イタリア移民でも白人という点で優位性を感じていることが観客に印象付けられます。用心棒として雇われていたクラブが改装のため閉鎖され無職になったため、渋々ながらも給料に惹かれて引き受けたトニーですが、ドクターと旅するうちに、彼が抱える孤独や出自故のいわれなき差別や迫害を目のあたりにして、彼に対する見方が変わっていくんですね
ドクターの方も、トニーの粗野な振る舞いに閉口しますが、徐々に彼の真っ直ぐで曇りのない人間性を認めていきます。
 
南部に深く入るほどに、差別はあからさまになっていきます。夜間外出さえ認められていない洲ではただ車に乗っていたというだけで逮捕されてしまう始末。(トニーがキレて警官を殴ったのが直接の原因ではありますが)この時はケネディ司法長官のコネを使って釈放されますが、こういう些末な事件で司法長官の手を煩わせたと恥じるドクターと無邪気に驚くトニーの姿も対照的です。更に後半で、ドクターは留置されることに。この時、トニーは警官に賄賂を贈って彼を釈放させますが、その行為をドクターは責めて、険悪な状態に
 
毎夜、カティサークを一瓶空けるドクター。この描写は彼の孤独を端的に表現しています。子供の頃にピアニストとしての才能を見出され、ソ連でクラシックの英才教育を受けた彼ですが、アメリカで成功するために路線変更を余儀なくされ、白人上流社会に受け入れられず、黒人社会にも溶け込めないドクターが、その孤独を吐き出すシーンも圧巻でした。この時初めてトニーとドクターは互いの立場を超えて深く理解しあったのかも。
 
でも、彼と一緒にステージに立つ伴奏の二人オレグ(ディミテル・D・マリノフ)とジョージ(マイク・ハットン)はドクターのことをちゃんと理解してくれているんです。またそうでなければ一緒に演奏しないよね そういう意味ではドクターは決して孤独ではないと思います。
 
落ちていた商品をくすねたり、フライドチキンの骨や紙コップを車窓から放り投げたり、ピザは切らずに折りたたんで食べたり、喧嘩早かったりと、確かにトニーはお金もなく、無学でがさつですが、彼の周囲には友人や家族・親族がいて、その誰からも頼りにされ愛されています。 演じるヴィゴは、まさに粗野なイタリア人中年男性そのものの風采。ムチムチな肉体とでっぷりしたお腹は精悍さの欠片もなく、シャツとパンツ一丁でベッドに寝そべり、誤字だらけの手紙を書く姿が笑えます。
 
手紙と言えば、愛妻家らしく、旅先でマメに手紙を書くんですねまるで小学生の作文のような内容だけど、彼らしさ満開です。そこにドクターが女性が泣いて喜ぶ・・・実際妻のドロレス(リンダ・カーデリニ)が感激してるシーンも挿入されています・・文学的な文章を伝授します。旅の終わりの頃にはトニー自身の文才も飛躍的に高まっています。
 
二か月に渡る最終公演の日、会場の控室は調理場の物置で、黒人のドクターはレストランでの食事も拒否されます。これにはドクターも腹に据えかねますが、やっぱり先にキレたのはトニー 演奏をボイコットした二人は、トニーの家族が待つNYへと車を走らせます。雪道でパトカーに停められた時は「またか」と思わせますが、今度は正反対の暖かな対応になっていて感動ポイントです
 
帰宅したトニーの賑やかな家族との団欒と、豪華な自室で一人のドクター。この対比を見せておいてのラストがまたでした。
 
ドクターが弾くピアノの演奏も見所の一つです。その指先が紡ぎだす踊りだしたくなるような音、心をわしづかみにされるような激しく切ない音、無学なトニーでもわかる「天才」の芸術がそこにありました。(たぶん、ドクターの演奏を聴いた瞬間からトニーは彼への偏見を捨てたんじゃないかと思わせてくれます。)
 
笑って、ちょっと切なくて、でもやっぱり幸せになる、そんな映画です。

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