杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

母性

2023年05月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年11月23日公開 115分 G

女子高生が自宅の庭で死亡する事件が起きた。発見したのは少女の母で、事故なのか自殺なのか真相は不明なまま。物語は、悲劇に至るまでの過去を母と娘のそれぞれの視点から振り返っていくが、同じ時間・同じ出来事を回想しているはずなのに、その内容は次第に食い違っていく。(映画.comより)


湊かなえの同名小説の映画化ですが、あらすじ紹介だけ読むと死んだ女子高生とその母の物語と誤解してしまいます。

ニュースになった事件をきっかけに、教師の清佳(永野芽郁)が自身の過去を振り返ります。彼女の母親のルミ子(戸田恵梨香)は、娘よりも自身の母(大地真央)を愛していました。

一方、教会の懺悔室でルミ子は神父(吹越満)に娘との関係を告白しています。ルミ子は、母から受けた無償の愛を、そのまま清佳に注いできたのだと言います。

“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”のそれぞれの視点で綴られる回想は、徐々に食い違っていきます。ルミ子の母の死の状況がそれぞれの視点で語られますが、壮絶な真相にはちょっと引いてしまうし、それを知った清佳が自殺を図った時も、ルミ子の中では母から受け継いだ命を消さないことの方が重要だったのではと思ってしまいました。

母性から想像するのは母の子供への無償の愛や、母親が持つ本能的な我が子を大切に想い守りたいと思う感情です。でもそれは母親の一方的な想いであり、受け手である子供の側からみたら束縛であり呪いであるかもしれないということをこの作品は伝えているように感じました。

ルミ子の母親が注いだ娘への無償の愛が、娘を歪ませてしまったというのが何とも皮肉です。ルミ子の中に母性は芽生えることはなく、どうしたら母を喜ばせることができるかを常に考え、結婚も我が子でさえもそのための手段でしかなかったのです。
当然、夫の妻への愛情は醒め、ルミ子の友人と不倫をする有様。それに気付いて抗議する清佳にも平然としています。母に愛されていないと感じていながらも、その母を弁護する清佳の心情の奥にはやはり愛されたいという願望があるのだと示されるこのシーンが切ないです。

母といえば、もう一人、ルミ子の夫の母=義母が登場しますが、嫁に辛くあたる意地悪な姑の反面、自分の娘を溺愛していました。娘が駆け落ちして家を出て行ったことで余計に辛く当たるようになりますが、終盤、認知症を患った義母の世話を甲斐甲斐しくするルミ子を娘と認識しています。ルミ子の方も義母を実母の代わりとして愛されたいと思っているのが透けて見えます。どこまで行っても彼女は「娘」にしかなれないのですね。

清佳は「女性は母と娘の二種類だ」と考えています。物語の最後で、妊娠した清佳が選ぶのは果たしてどちらなのでしょう。母の愛を受けられずに育った彼女が母となった時、我が子に母性を感じることができるのか、ルミ子を反面教師とできるなら良いのですが、母親と同じ道を辿るなら救われないかなぁ。あまり希望を感じさせない結末です。

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