杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ヒポクラテスの試練

2023年05月08日 | 
中山七里(著) 祥伝社文庫

浦和医大法医学教室に城都大附属病院の内科医・南条がやって来た。急死した前都議会議員・権藤の死に疑問があるという。埼玉県警の古手川刑事は甥による毒殺の証拠を摑むが、光崎藤次郎教授が司法解剖から導き出した答えは恐るべき感染症だった! 感染源特定に挑む新米助教・栂野真琴が辿り着いた驚愕の真実とは――!?(公式HPより)


一、米の毒
権藤の甥による毒殺の疑い(工業米に含まれていたアフラトキシン)で解剖したところ、爛れた肝臓に隠れ蠢いていた寄生虫、エキノコックスが確認されます。通常、感染から死亡するまでの期間は長く、その間には何か自覚症状がある筈ですが、権藤の体内のエキノコックスは成体ではなく幼虫でした。光崎教授は突然変異を疑うと同時に、発生源を突き止めなければパンデミックになると感じます。
自覚症状がないまま突然悶絶死させる突然変異体って・・・読んでいるだけでも恐怖を感じます。😱  
これまで遺体=解剖室の中での見事なメス裁きに特化していた教授が、今作では病院や警察を動かし、議員たちの口を開かせるために自ら赴くという姿をみせます。パンデミックを何としても防ごうという決意をひしひしと感じさせます。

二、蟲の毒
発生源をつきとめるため、光崎教授は埼玉県警に協力を要請します。渡瀬との間に暗黙の了解ができていて古手川が働かされるんですね😓 
彼の捜査で、前都議会議員以外にも突然変異種に寄生されている可能性のある議員たちが浮かび上がります。彼らには4年前のアメリカ視察団のメンバーという共通点がありましたが、何故か日程の詳細な記録は残されていませんでした。議員たちのもとを訪れた古手川と真琴が、エキノコックスの危険性を説明し問い詰めても彼らは一人として口を開こうとせず、その頑なな態度に疑惑が決定的になります。

三、職務に潜む毒
四、異国の地の毒
発生源を突き止めるべく、NYに赴き彼らの視察場所を調査することになった真琴とキャシー。キャシーの旧友のNY検死局副局長ペギョンから、前任の所長も同様に肝臓がんの急変で死亡していたと聞き、感染源はNYだと確信します。前局長と議員たちが食事をした高級レストランで話しを聞くと、彼らが訪れたのは猛暑の真夏だったため生野菜は提供していなかったとわかり、振り出しに戻ったかに見えましたが、従業員の女性から彼らがレストランの後でもう一軒行くと話していたと聞きます。そこはなんと韓国系の高級売春宿でした。
そりゃ~議員たちは行き先を言えない筈ですね。
税金を使った視察先での売春行為という都議たちの呆れた行動に憤りを感じながら、売春宿で韓国料理の犬料理が提供されていたことを知った二人は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のグレッグと一緒に犬肉の卸業者を訪ねます。そこで彼らは、劣悪な環境で檻に入れられている犬が食用ではなく野良犬だと気付き、これがエキノコックスの感染元だと突き止めます。

自由の国アメリカの人種差別の実態に触れ、キャシーの生い立ちを知って動揺する真琴です。日本にも差別はあるけれど、これほどあからさまではないものね。

五、人の毒
NY市内が野良犬の大量殺処分に驚く中、キャシーが旧友ペギョンに突きつけた事件の真相が哀しい。
ペギョンは、今回の事件以前に検死したキムという売春婦の体内からエキノコックスの卵を採取していたのです。そしてそれを局長や都議たちの料理に混ぜて食べさせていました。韓国人である彼女は差別主義者の局長から散々にヘイトスピーチを聞かされて憎悪が募っていたのです。

都議たちを巻き添えにしたのは彼らが児童買春目的で訪れていたことが理由です。売春だけでも破廉恥なのに幼女趣味とはまさにばれたら身の破滅。死んでも口を割れないわけね。😡 

真琴と古手川は電話の中で「これは蟲の毒ではなく人の毒だ」というような会話を交わします。確かに直接の死因は寄生虫の毒素による肝臓がんですが、そもそもの発端となったのは差別という感情が生んだ憎悪ですものね。

小説が発表されたのは令和2年6月。コロナ禍の最中ということで、ウィルスと寄生虫の違いはありますが、パンデミックの恐怖という意味では実にタイムリーな内容となっていました。



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