杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

花田少年史/幽霊と秘密のトンネル

2007年02月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2006年8月公開作品

近所でも有名な腕白少年・花田一路(須賀健太)は、母・寿枝(篠原涼子)とケンカの毎日。そこに父(西村雅彦)、祖父、姉も加わり、は貧しいながらも賑やかな日々を送っていた。ところがある日、一路はトラックと衝突し病院へ運ばれる。悲嘆に暮れる家族を下に見ながら天へと昇っていく一路だったが、女子高生の幽霊・聖子のおかげで奇跡の生還を果たす。しかしその影響からか、一路は幽霊が見えるという怖い能力を授かってしまうのだった。

公開中も評判が良く、新作で並んでもいつもレンタル中だったけれど、ようやく借りられました

冒頭、髪の長い花田少年が登場。腕白ぶりに舌を巻いていると、事故のシーンに。病院で髪を剃られたのか、次の家でのシーンはくりくり坊主姿で

髪といえば、父ちゃん役の西村さんが笑えます若い頃の姿で思いっきり長髪姿で登場するんだもの。これって彼の希望が入っているってことは・・ない? また、この「若い頃」というのが90年代という設定で、最近観た「バブルへGO!」を連想してしまいました。渋谷・道玄坂109がぁぁ

幽霊が見えるようになった花田少年と、彼を取り巻く人たちとの間に起こる騒動を通して、ゲラゲラ笑ったり、ほろりとさせられたりの、なかなか楽しい作品です。
が・・・後半、ちょっとふざけすぎというか、これは子供向けにデフォルメされているのだろうなと思わせるシーンが多くなって、ちょっと引いてしまう部分も。
(海のシーンでは、そこに持っていく設定の強引さや、悪霊との戦いとか・・海中なのに、どう見てもそれって足がついてるでしょ!という作りは笑える)

夏休み公開の、子供を狙った作品なので、仕方ないのだけれど、前半の雰囲気を維持出来ていたら、もう少し質の高い作品に仕上がったのじゃないかなぁ、なんて生意気な感想で

婆ちゃん役のもたいまさこや、友だちの父さん役の杉本哲太、悪霊役の北村一輝など、脇役も個性的で、面白かったです。

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キンキーブーツ

2007年02月27日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年製作 アメリカ/イギリス 107分

父親の突然の死により、倒産寸前の靴工場を相続した優柔不断な青年チャーリー(ジョエル・エドガートン)。工場の起死回生に頭を悩ませる彼は、偶然出会ったドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)からインスピレーションを得て、ドラッグクイーン用のセクシーなブーツを新商品として開発しようと思いつく。 (シネマトゥデイより)

劇場で観たかったけれど、近場でなくて諦めた作品なので、新作をレンタル。

実話を元に書かれた作品ということで、話の内容に現実味が加わっています。撮影で使用した工場も、実際の工場が使われているそうです。
映画の方はラストがハッピーなところで終わっているけれど、現実の方はその後、規模縮小となり、順風満帆とはいかなかったようです

主役のチャーリーは美男じゃないし、やや自己中で優柔不断だし、とても好みのタイプではない むしろローラの方に感情移入しやすいかも 

ロンドンのSOHOでドラッグクイーンの頂点に立つローラ(彼女?)も子供の頃、父親に男らしくと育てられた苦い過去を持ち、チャーリーの工場のあるノーサンプトンの田舎町でも浮きまくる存在で、自分自身に自信が持てずにいます。そんな彼と、偉大な父親の影から抜け出せず「ボクに何が出来る?」が口癖のチャーリーが出会って、互いに変わっていく様子もさり気なく描かれています。

チャーリーの婚約者と工場の従業員のローレンとの関係は、お決まりの恋愛モノの常道って気もしないでもないけれど・・これも実話??

服装倒錯者というのはなんだか大仰な言い方だなぁ
キンキーは「変態の、性的に倒錯した、奇妙な、変わり者の」を意味するとか。転じてキンキーブーツとは、エナメル・超ハイヒールなセクシーブーツのことでドラッグクイーン御用達ブーツを指すそう。 

正直な話、こういう「際物」を作っても大量生産→商売繁盛とはいかないでしょう。けれど、こういう人と違ったことをする勇気にはを贈りたいな。

ミラノ見本市でのシーンはドラッグクイーンたちの華麗なダンスやミラノ市内のロケーションなど、楽しい見所がいっぱいです
チャーリーのブーツ姿には失笑を禁じえませんが・・

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バーティミアス/ゴーレムの眼

2007年02月26日 | 
ジョナサン・ストラウド作 金原 瑞人・松山 美保訳  理論社
2004年11月発行 683P

「サマルカンドの秘宝事件」から2年、ロンドンの街は度重なる爆破事件に悩まされている。魔術師の支配に抵抗するレジスタンスのしわざか? エリート魔術師となった14歳のナサニエルは調査にのりだした-。魔術師に恨みを抱くレジスタンスの少女キティとその仲間たちや土で出来た巨人ゴーレムを操る謎の人物など、事件は複雑に絡み合っていく・・その真相は?

ナサニエルがますます野心家の傲慢な魔術師に「成長」していて、バーティミアスならずともため息をつきたくなる
また、この巻では謎の少女キティの過去が明かされる。この気の強い少女と、傲慢な少年の間にあって、一番まともなのがバーティミアスというジンのような気がしてくるから面白い

物語は「サマルカンドの秘宝」事件を絡めて、最終巻への謎を残し、続きを早くと思わせる上手い作りだ

あとがきにこのファンタジーが映画化される予定でハリウッドで製作進行中とか。日本公開は未定だそうだが、ぜひとも観たいものです。特にバーティミアスを誰が演じるか、CGなら誰が声をあてるか、とっても興味があります

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マゴニア

2007年02月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年3月公開作品 オランダ

日曜日毎に、少年は父と会い、父から雲の上にあると伝えられる国・マゴニアの物語を、語ってもらう。かつて美声を誇った祈祷師と、その歌声を奪った青年の物語。広大な砂漠に暮らす親子と、その地を訪れた都会の夫婦の物語。雲の垂れ込める港町で、かつて愛した船乗りを待ち続ける女の物語。それは、狂おしいまでに愛を、そして自由を求める人々の物語だった。少年は父の物語の世界と現実を行き来しながら、やがてマゴニアの真の姿を知る…。

「マゴニア」とは、中世の人々が厳しい現実に耐えるために、天空に思い描いた想像上の国のことだそうです。父が語るおとぎ話の中にある希望と現実の真実にやがて少年は気が付きます。

三篇のオムニバスはどれも希望の物語であり、「希望は最後に消えるもの」という真実は切ないけれど、それを失わないことが大切だということも少年は知ったのでしょう

正直、ちょっとわかりにくいかも

祈祷師の弟子がかつての美声を失っても過去にしがみついている師匠へ現実をつきつけるシーンは切ないけれど、彼はただ正直だっただけ・・・そして彼を許すことなく、自分の力(コーランを全部そらんじている)を示して逝く師匠と町を去る弟子・・・

自分と年老いた(おそらくは)祖父しか知らない青年が、ある日車の故障で助けを求めに現れた白人夫婦により、別の世界を知り、家を出て行く姿・・残された祖父と彼の間に降る雨は悲しみなのか・・・

かつて自分を愛してくれた男の幻を追い、待ち続ける女のもとへ、遂に現れたその男は、やはり彼女にとっての幻でしかなかった、そして彼女を本当に愛していた男が去って気付くこと・・・

更にこの三篇の登場人物が意外な場所で結ばれる時、少年の父の真実も見えてくる。うーーん、やっぱり難解だ

冒頭に出てくる様々な結び目と結び方が印象的です。結び方が色々あるように、人生においても、あの時の選択が・・ということもままある筈。

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隠し剣鬼の爪

2007年02月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2004年10月公開作品

幕末の東北・海坂藩の平侍、片桐宗蔵(永瀬正敏)は、母と妹の志乃(田畑智子)、女中のきえ(松たか子)と、貧しくも笑顔の絶えない日々を送っていた。年月が流れ、商家に嫁入りしたきえが、嫁ぎ先で酷い扱いを受けて寝込んでいることを知った彼は、やつれ果てたきえを背負い連れ帰る。その頃、藩に大事件が起きた。かつて、宗蔵と同じ剣の師範に学んだ狭間弥市郎が、謀反を起こしたのだ。宗蔵は、山奥の牢から逃亡した弥市郎を切るように命じられる…。

藤沢周平原作の山田洋次監督三部作の一つ。
レンタルしようと思いつつ、ズルズルしてたら地上波放送がありましたいや~~良かった!「たそがれ~」も「武士の一分」も観たからこれで三部作制覇だわ

片桐の親友・島田役の吉岡秀隆と妹役の田畑智子のほんわか・ふわんとした温かさが嬉しい

開国だ、攘夷だと新しい時代の波が東北の小藩にも及んで来ようかという時代、江戸から教官を迎え、西洋の戦術を学ばせられる藩の武士たちの様子がコミカルに描かれているのも面白いです

家老・堀将監役の緒形拳の悪役姿もちょっと新鮮かも

剣の奥義については・・え?それって必殺仕事人じゃないの?そもそも大刀小刀じゃないしと思いましたが・・

片桐ときえの身分違いの恋は、互いに胸に秘められたまま進んでいくのですが、海への遠出シーンは不器用で慎ましやかな二人の想いを視覚的に表現してしみじみと見せてくれます。

対極に、狭間夫婦の打算やその裏に隠された妻の夫への哀しい愛情を描くことで、物語に深みを与えている気がしました。

三部作共に、下級武士だが剣はそこそこ強い男と、その不器用だけれどまっすぐな愛を描いて、どれも心に残る作品ですね~~

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バーティミアス-サマルカンドの秘宝

2007年02月22日 | 
ジョナサン・ストラウド/作  金原瑞人・松山美保/訳
2003年12月 出版 613P 22cm  理論社

魔法使いたちが支配する、ロンドンが舞台。
泣き虫だけど、負けず嫌いな12歳の魔術師見習いナサニエルは、妖霊バーティミアスを召還して、邪悪なエリート魔術師サイモンに復讐するため、『サマルカンドの秘宝』を、盗み出すことを命じた。だがそのことがとんでもない事件を巻き起こして・・・

悪魔を操ることで力を得る魔術師が、政治を仕切る世界。
プライドだけはメチャ高いひよっこ魔術師見習いのナサニエルと、中級妖霊(ジン)の根性悪だけどどこか憎めないバーティミアスのコンビが繰り広げる冒険に、いつの間にか引き込まれて読んでました。

元々は本屋で平積みされているのを目にして、ちょっと面白そうかなと図書館で借りてみたものです。これ、三部作なのね

600ページもあるけれど、それほど細かい字じゃないし、小学生高学年向けなので肩も凝らないで楽しめます。

何より、脚注が本の下段にあるのが斬新
バーティミアスの憎まれ口が何とも楽しく、子供受けする口調だと感心

でも内容は驚くほどダーク&シリアスだったりもする
子供向けと侮ることなかれけっこうニヒルな大人にも通用する政治批判や、人間批判も見え隠れしてます

さ~今夜から第二巻「ゴーレムの眼」だよん

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ドリームガールズ

2007年02月21日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年2月17日公開 アメリカ 130分

ブロードウェイ・ミュージカルの映画化

1962年デトロイト。エフィー(ジェニファー・ハドソン)、ディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)、ローレル(アニカ・ノニ・ローズ)は、コーラスグループ“ドリーメッツ”としてオーディションを受ける毎夜を過ごしていたが、カーティス(ジェイミー・フォックス)に見出され、ジミー・アーリー(エディ・マーフィ)のバックコーラスになる。やがて、カーティスをマネージャーにドリームガールとしてデビューを飾り次々にヒット曲を放ち、トップスターの仲間入りを果たすが…。

基本、ミュージカル苦手です 好きなジャンルの歌やコメディは何とかOKなんだけど、恋愛やシリアスは 
今回は予告映像が気に入ったので、劇場へ行きました。途中、歌に飽きた(捨てないで~愛してる~みたいな曲はダメなんだもん、私)点を除けば、まぁ楽しめました

思いっきり黒人だった彼女たちがだんだん、垢抜けていくにつれて、何だか肌の色まで薄くなった気がするのは、目の錯覚でしょうか?でもエフィー(の外見だけ)はあまり変わっていなかったけど。
特にビヨンセが綺麗になっていくのよね 

容姿はともかく、歌を愛でる作品なので、その点は十分に高評価だと
出演者のどの人をとっても水準以上の歌声かと特にジェニファー・ハドソンのパンチの効いた歌声は好きな人にはたまらんでしょう。個人的には時たま うるさいほどの声量 

ジェイミーが、ショービズ界の負の部分を担当していたので、女性たちの表舞台は綺麗にまとめられていましたね え?その曲歌っちゃ拙いでしょと思ったら、知らなかったのね~とか

エディ演じる女好きで陽気なシンガーが、妻と愛人の両方に歌いかけてバレるシーンが笑えたし、彼の出演部分は大体において楽しかったです。

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二人のトスカーナ

2007年02月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2003年2月日本公開 イタリア 102分

1943年、両親を交通事故で突然失ったペニーとベビー姉妹はトスカーナの伯母夫婦の元に引き取られた。音楽と芸術を愛する伯母夫婦は、自分達の娘と同様に2人にも愛情を注ぎ、2人はのびのびと自然に囲まれた田舎での新しい生活を楽しんでいた。しかし楽しい日々は長くは続かなかった。第二次世界大戦末期、ナチスの手が平和なトスカーナにも迫っていた。そして突然の悲劇がこの一家を襲ったのだった…。 (Gagaより)

主にペニーの視点から語られていくトスカーナでの生活は、戦時中の重苦しさより、子供たちの のびやかで、どんなことにも楽しみを見つけてしまう無邪気さをより強く印象付けています。

伯父の屋敷には他にも画家のマヤおばさんとその夫のアルトゥロ、ピアノ教師のピット先生など、大勢の人が出入りしています。特に年齢の近い使用人の子供たちや従姉のアニーと自然の中を駆け回る姿が生き生きと描かれ、ペニーの「私は(叱られるばかりで)愛されていないのでは」との悩みから起きる騒動を通して、周囲の大人たちの優しさも伝わってきます。

ユダヤ人である伯父がクリスチャンではないことを幼い姉妹はまだ理解出来ず、教区の司祭の言葉に小さな胸を痛め、「伯父さんを救うため」に小さな事件を起こしたりもする、その様子がユーモラスでもあり、やがて起こる悲劇の伏線ともなっているのでした。

ドイツ軍の侵入により、屋敷にもドイツ兵がやってきた緊迫した状況下でも、ペニーたちの好奇心は臆することなく、ドイツ兵が我が物顔で動き回る屋敷の内外でいつも通りに遊ぶ。こういう時の子供の無邪気さは強さとも思えるほどドイツ将軍をお茶とお菓子でもてなして伯父の助命を願い出ようとする、その発想が

そして、終戦の知らせが届いた日の一家に訪れた悲劇。パルチザン入りしていた伯父の留守中にそれは起こる。首にかけたクルスが運命を分けるその酷い場面は、ペニーから笑顔を奪い去るのでした

トスカーナの自然が素晴らしく、子供たちの無邪気さが愛らしいほどに、戦争の残す傷の深さや、伯父夫婦の立派さが際立ってくる作品でした。

イザベラ・ロッセリーニ(イングリッド・バーグマンの娘なのね。マーティン・スコセッシとの結婚歴もあるのね~)が気丈で愛情ある伯母役です。

原作はロレンツァ・マッツェッティ著「Il cielo cade」

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アミスタッド

2007年02月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1997年製作 アメリカ 155分
監督: スティーブン・スピルバーグ

19世紀半ばに起きたアミスタッド号の反乱で捕らえられ、アメリカで裁判を受けることになったアフリカ人のシンケ(ジャイモン・ハンスウ)たちと、彼らを救おうとするジョッドソン(モーガン・フリーマン)、弁護士ボールドウィン(マシュー・マコノヒー)や、シンケらの正当性を認めることが国や自分の立場を危うくすると思う現役大統領ヴァン・ビューレン(ナイジェル・ホーソーン)を通して、アメリカの原点を描き出し、南北戦争の引き金をなった事件を振り返る歴史物語となっています。

シンケはライオンを倒し村で英雄となるが、拉致され奴隷船テコラ号でキューバへ連れてこられ、スペイン人のルイズ(ジェノ・シルバ)とモンテス(ジョン・オーティス)に買われ、53人の仲間と共にアミスタッド号に乗せられ、ここで自由を得るために反乱を起こします。彼らの悲惨な航海の日々、奴隷売買の実情が判明するシーンは酷いけれど目を逸らすことが出来ません

弁護士ボールドウィンは、シンケたちがアフリカで生まれたことを証明することで、非合法な拉致は法律的に無効だと主張するのです。当時の法律では、奴隷の子として生まれた者のみ売買が許可されたとか

アフリカ生まれの英国軍人コヴィ(キウェテル・イジョフォー)の通訳を得て、ジョッドソンとボールドウィンはシンケと心の交流を図ります。Give us free!(俺たちに自由を!)というシンケの叫びが重く法廷に響きます。

ついに判事は彼らに無罪を言い渡すのですが、目前に迫った大統領選挙で奴隷解放論者と見なされ大票田である南部の支持を得られなくなると恐れた大統領は最高裁へ上告。当初協力的だった奴隷解放論者の富豪・タパン(ステラン・スカルスゲールド)も彼らと袂を分かつのです。まったく、いつの時代も権力者の欲は己自身の保身なのね

ここに至って重い腰を上げた元大統領ジョン・クインシー・アダムズ(アンソニー・ホプキンス)。シンケの言葉を借り、「過去からの声に耳を傾けよ」自由の国・アメリカを築いた先人たち、建国の始祖たちの、自由を求めた闘いを決して忘れてはならないと論じ、見事彼らの自由を勝ち取るのでした。

小さな事件のように見えて、歴史を揺るがす大事件でもあったアミスタッドの反乱は、然し、この映画で初めて知った歴史事実。 奴隷制は綿花栽培の労働力として必須であったアメリカ南部と工業的発展による労働力確保が出来た北部とでは相容れない争点だったのは想像に難くありません。

スペイン船籍であるアミスタッド号の「積み荷」の返還を求めるスペイン女王(アンナ・パキン)は若干10歳かそこらの小娘に過ぎません。奴隷商人や謝礼としての所有権を主張するアメリカ人将校など、奴隷を一人の人間と見ずに商品・積荷としか認識しない人々と奴隷制の正当性を主張する南部人には、到底共感は出来かねるのです 

だからこそ、建国の精神に立ち戻り、人は本来自由であり、何者にもその権利を脅かされないという選択をした当時の良識ある人々への尊敬の念も湧きます。

ちょっと気になったのは、シンケの仲間の一人が聖書の挿絵をもとに想像するキリストの生誕物語の部分。字が読めない彼らは挿絵からこういう人だったろうと想像する場面が、キリスト教国らしい展開かなぁと

奴隷売買は正当な行為であると考えるスペインはカトリックの国でしたよね?アメリカ北部は清教徒の興した国。ここにも宗教的意味合いが濃く出ているような・・

マシュー・マコノヒーがなかなか愛嬌のある人物を演じ、アンソニー・ホプキンスの元大統領の温和な人柄も史実に基づく設定だそうです。

ともあれ、アメリカの歴史の一端に触れたと感ずる作品でありました

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サムサッカー

2007年02月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2006年9月日本公開 アメリカ 96分 

オレゴン州郊外に住む17歳のジャスティン(ルー・プッチ)は、いまだに親指を吸うクセ(サムサッキング)が治らず悩んでいた。かかりつけの歯医者ペリー(キアヌ・リーブス)に「親指が苦くなる」催眠術をかけられ、一時的に親指しゃぶりは止められたものの、不安がつのり挙動不審になった彼は精神病と判断され、抗うつ剤を処方される。薬の効果で見違えるほど活動的で、頭脳明晰な優等生に変身するが…。

ジャスティンは典型的な中流家庭、少し年の離れた弟と共に両親の愛情を注がれて育った17歳です。けれど、内向的で自分に自信が持てない彼は、精神的な不安を指しゃぶりで紛らわせつつ、そんな自分から脱却したいとも思っています。
そんなよくある青年像を淡々とした(然し愛情のある)眼差しで捉えた物語

周囲の大人たち・・父や母や学校の先生・歯科医などもそれぞれに悩みを抱え、自分に自信が持てずにそれでもりよく生きて行こうと努力していることに、彼はやがて気付き、一段成長していく様子がとても自然に描かれています。

優等生のどこにでもある悩み、と言えば みもふたもない のですが、この年頃の男の子の成長物語と大らかに受け取っておきましょう他人に感化されやすい=感受性が鋭いのようにね

母親役がティルダ・スウィントン彼女は好みの女優さん
キアヌ演じる歯科医は意地悪で大人気ない所も見せますが、ジャスティンと同じく彼も成長していったんだと感じさせる展開になっています。
ジャスティンの弟君の告白がちょっと感動彼が一番大人なんじゃないかと思っちゃいました

『大切なのは答えのない人生を生き抜く力』なんだね

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世界最速のインディアン

2007年02月15日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年2月3日公開 
ニュージーランド=アメリカ  127分

ニュージーランド南部のインバカーギルという小さな町に住むバート(アンソニー・ホプキンス)は、早朝からバイクの爆音を轟かせ、雑草をガソリンで焼く近所迷惑な老人。とはいえ、優秀なエンジニアだった彼は、自ら改良したバイクで、数々の国内記録を残していた。清貧な暮らしだが、温かい人柄から町の人々に慕われるバートの夢は、米国ボンヌヴィルの大会で世界記録に挑戦すること。愛車“インディアン”号と共に『聖地』へ向け出発したのだが・・

映画のモデルとなったバート・マンローは、1967年に68歳で1000cc以下の部門で世界最速記録を達成した伝説のライダーとか
型破りでも、温かく誇り高い人柄で行く先々の人々を魅了し、夢を切り開いていく老人をアンソニー・ホプキンスが好演しています。

本当に人柄が人の善意を呼ぶかのように、困ったことが起きると必ず助けの手が差し伸べられるので、安心して観ていられました。
25年間夢見てきた大会への出場が叶い、手放しで喜ぶ様はまるで少年のようですし、アメリカへ渡りボンヌヴィルまでの旅の途中でもしっかり人生を楽しんでいるのも

優秀なエンジニアだった彼は、その気になれば十分楽な人生を送れたのでしょうが、夢に向かってひたすら突き進んだ結果の清貧生活。まるで永遠の少年のような性格と、愛嬌ある立ち居振る舞いが印象に残ります。

塩平原を時速300km以上で走る映像はとても迫力があり、恐いほどのスピード感 大会に参加出来る様、あれこれ世話をしてくれた「仲間」たちにも爽やかな感動を覚えます。競争というより、一人一人が自分の限界との勝負、スピードへの挑戦という意味合いが強い大会だからかもしれませんね

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バブルへGO!! タイムマシンはドラム式

2007年02月14日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2007年2月10日公開

国の借金が800兆円に膨らみ破綻寸前の2007年、元カレの借金を背負わされ、母・真理子(薬師丸ひろ子)まで突然亡くして八方塞がりの真弓(広末涼子)を、財務省官僚の下川路(阿部寛)が訪ねる。実は真理子は死んでおらず、諸悪の根源であるバブル崩壊を阻止すべく1990年にタイムスリップしたまま行方不明になっていると言う。17年前に戻って真理子を探してほしいと頼まれた真弓が乗り込むタイムマシンは、なんと古びたドラム式洗濯機だった! (goo映画より)

正直に言うとバブル期は子育て期だったので、この超豪華で軽薄な時代の洗礼は全然受けていないのです、私。
ジュリアナも扇子もお立ち台も就職率200%も未経験

でも、面白かった~~!!
当時TV画面で見ていた六本木や豪華客船でのパーティにトレンドドラマに出てくるような部屋。特にタクシーを捉まえるために1000円札を手にアピールしてたり、ボディコン・ワンレン・太眉のお姉さんたちは男子じゃなくてもです

ホイチョイ・プロダクションズといえば『メッセンジャー』の前のまさにバブル期の数々の作品を思い出します。
『私をスキーに連れてって』 (1987年) スキー
『彼女が水着にきがえたら』 (1989年) スキューバダイビング
『波の数だけ抱きしめて』 (1991年) ミニFM

織田裕二にはまって彼の作品を追いかけていた時にこの一連の作品もビデオで観ました~あと織田君といえば「卒業旅行・ニホンから来ました」や「就職戦線異状なし」もあったなぁ。特に「就職~」はバブリーな大学生活と優雅な就活が今思えばため息の出る羨ましい環境だったと

横に逸れてしまった

バブルの崩壊は止められなくても、もっとましな未来を選択するため、過去に戻ってやり直そうというのが、「バブルへGO!」のメッセージです。

札束を振りかざし、総浮かれ騒ぎ状態のバブル期の日本のえぐさ、えげつなさを今になってようやく笑えるゆとりが出てきたということかなぁ

飯島愛とラモスはディスコのシーンで、飯島直子もちらっとですが別シーンで出演。劇団ひとりも面白演技(ちょっと過剰だけど)してます。

阿部ちゃんは軽薄なイケイケ男役の方が渋い現在役より断然お似合い 広末ちゃんが一児の母には思えない若さを惜しげもなく披露して、またそれがとっても可愛いの私生活では色々週刊誌ネタになることが多いヒトですが、女優としてはやっぱり凄いよ
薬師丸母さんは・・・野暮ったい女性役ですが・・・うん、キャラのせいよね?でもとっても似合ってるのが哀しいかも

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ジーニアス・ファクトリー

2007年02月13日 | 
ジーニアス・ファクトリー 「ノーベル賞受賞者精子バンク」の奇妙な物語
ディヴィット・プロッツ著 酒井泰介訳  早川書房

知られざる「ノーベル賞受賞者精子バンク」の興亡を、創設者である大富豪、それに加担した大物科学者、利用者たちの生涯と重ねて紹介。
取材のためには自分で精子バンク・ドナーを体験することも辞さない著者が、バンクで人生が変わった人々の生活に踏み込み、共感豊かに現代社会の家族像を考察するノンフィクション。   <表書きより>

今日はとっても真面目に考察。
でも、きっかけはポポロ3月号に載っていた中居君の「読んでためになった本」の一つがこれだったこと。他は「生きながら火に焼かれて」と「野村ノート」。
「野村~」は野球好きな彼にしては当然な本ですが、本書と「生きながら~」は思いっきりノンフィクション、しかも重い!
こういうメディアに露出させる顔と、実際の生きる姿勢のギャップがたまらんのよ

精子バンク・・・そういえば、昔むか~し、聞いたことがあったようなそれは海の向こうのお話で、自分とは全く関わりあいのない世界で。それは幸運にも自分の子供を持つことが出来たことや、日本で表立っては論じられていない事柄であることが、耳目を閉ざしていた種類の話題でもありました。

本書は1980年代にカリフォルニアに創設された精子バンク「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」により誕生した子供たちのその後についての探索の旅であり、創始者のロバート・グラハムが優生学的な天才児の量産を狙っていたことへの結果を問う内容でもあります。

結論から言って、存在が確かめられた子供たちは、優秀な父方の遺伝子を引き継いだ故に、子供自身の能力が開花していると証明されるようなことはないのです。明らかに優れている人間もいるが、凡人と変わらないものもいる。ただ、彼らに共通しているのは、母の知性も高く、彼女らの子供に対する愛情や手のかけかたが人並み以上だったことです。

優れた遺伝子は精子を介して伝わるというロバートの男性優位で差別的な考えは、遺伝学の新学説である刷り込み理論(知性は母親の遺伝子により伝わり、感情や行動は父親のそれによる)の前では時代遅れということになるのね今では卵子バンクもあるなんて・・・まさに生命を操る時代

精子ドナーの情報は母子に知らされないことが原則だったとはいえ、成長する我が子に真実を話せば、では誰が自分のドナー父なのか知りたくなるのは当然の成り行きで、そこに閉鎖されて手がかりの途絶えた現実が立ち塞がり、故に精子探偵のような役柄を筆者が演じることとなるのですが・・・

精子バンク側の情報管理の杜撰さは読んでいて腹が立つより呆れるほどのもので、子供たちが同じドナーから生まれた人間を結婚相手に選ぶことだって全くないとは言い切れないのに、どうしてここまで鷹揚なのだろうと

もちろん、遺伝学上の父に対して何の感慨も抱かない母子もいるでしょうし、家庭が円満なら尚のこと必要性を感じないかもしれません。筆者に接触してきたケースでは、離婚率が高く、戸籍上の父との間がしっくりいっていない家庭が殆どだったことは、やはり留意すべき点だと思います。

本書ではモデルケースとして何組かの母子とそのドナー父の事例が挙げられていますが、その一人が書いたeメールの文面の「結局家族関係で大切なのは、血縁や法律上の関係などではなく、誰が自分を家族として認め迎え入れてくれるかだと思うのです」という言葉が全ての問いかけの答えになるのではないでしょうか。

知らないうちに、生命の神秘は単なる科学の産物となり、より秀でた(と考えられる)DNAを求めて、通販ショッピングのように売り買いされる時代がくるのでしょうか。というより、もう十分そんな時代なのかしらん

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レジェンド・オブ・ゾロ

2007年02月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年製作 アメリカ 126分

カリフォルニアがアメリカ合衆国への仲間入りをしようとしていた1850年。民衆の自由獲得を機に引退し、家族を愛する男=アレハンドロに戻ることを決意した正義の男・ゾロ(アントニオ・バンデラス)の前に現れたのは、アメリカ滅亡を企む秘密結社だった。そのリーダー・アルマン伯爵(ルーファス・シーウェル)は邸宅に“秘密兵器”を集積し、作戦を決行する機会を窺っていた。やがてアルマンの陰謀に気付いたゾロだったが…。   <Gagaより>

この作品は劇場公開時に観ています(2006年1月25日鑑賞)が、DVDの特典映像が充実していると聞き、またもう一度観たくなってレンタル

当時もゾロの子供ホアキン(アドリアン・アロンソ)の愛くるしさとチビゾロ的な活躍を楽しみましたが、今回もやはり彼に魅了されました。そして愛馬トルネードの漫画チックな描写・・(ワインを)呑む・(パイプを)喫う・(目を)剥く・・に大笑いも同様

前作で荒削りな若者だったアレアンドロも10年が経ち、中年の域に差し掛かってはいても、ラテンの熱い血に変わりはない。バンデラスも冒頭の馬車との追いかけっこや、爆走する汽車での剣劇は出来るだけスタントではなく自身で演じたとか。

また、この汽車は博物館から借り出したものをディーゼルで牽引し、CG処理を施したり、精巧な模型を作って爆破シーンを撮影したりしたそうです。

伯爵邸の庭で行われた華麗な舞踏会シーンでは400人を超えるエキストラを入れての撮影。気球風船に照明を仕込んだ仕掛けなど、面白い裏事情も特典に入れられていました

キャサリン・ゼタ=ジョーンズも勝気で美しいエレナを生き生きと演じています。前作よりファイトシーンが増えているのも楽しいかも

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ふりむかない男

2007年02月10日 | 
グイン・サーガ外伝 20 アルド・ナリスの事件簿2
栗本 薫 著 早川書房 文庫本(2006年01月 発行 334P)
 
クリスタル大公アルド・ナリスはマルガにいた。レムス王への反逆の罪に問われ、きびしい拷問によって右足を失うことになってしまったナリスは、パロの宰相を辞し、後任をヴァレリウスに託して、マルガで療養の日々をおくっていたのだ。発端は、見舞いに訪れたフェリシアから聞いた、最近クリスタルの巷をにぎわせている奇怪な事件だった。身動きならないナリスが頭脳をフル回転させて奇妙な謎をあばいてゆく痛快ミステリ。   (裏表紙解説より)

グインの最新版がまだ予約待ちなので、外伝の方を
ナリスさまが拷問で傷めた体を静養しているマルガでの「安楽椅子探偵」もの。

彼の大好きなカラム水が絡んだ事件の謎を解く筋立てで、幽霊話に端を欲した肝試しで亡くなった若者たちと、カラム水で財をなした豪商の悲劇が繋がっていくお話。謎解き自体はそれほど斬新な内容ではないけれど、グインシリーズの中でもしばしば登場する「カラム水」についての薀蓄がけっこう面白かった

カラム水というのは、現実世界でいう「珈琲」に似たものかなと想像しながら読んでいるのだけれど、当たらずとも遠からず、な感を強くした次第

登場人物は事件に関わる人間たちの他はナリスとヴァレリウスが中心で、特に二人の会話のニュアンスが興をそそるんだなぁ まだヴァレリウスはナリスに対して盲愛的になる一歩手前の状態のようで、つけつけとものを言う彼の性格はそのまま、ナリスにもそんなヴァレリウスを面白がる描写が見られる。この辺はずっとこのシリーズを読んできた人にしか判って貰えないかな

グインシリーズの登場人物の中で美形で知的好奇心旺盛なナリスさまはもちろん好きの筆頭に上げられるのだけど、容姿はともかく、その性格で、魔道師ヴァレリウスは次点位に好みなんですね~私。

そのヴァレリウスが文中で「もともと私は人間が好きなので、誰が本当は誰に殺意を持っているなんてこと、知りたくないんですよ」、「誰が本当の幽霊かなんて知りたくなかったーーそれを知ることで、私はそいつの怨念をともに分かちあい、背負い込んでしまう。・・そんなたくさんの無念の、これがどれだったかなんて、自分の苦しみだけで精一杯なんだから、幽霊の苦しみや無念まで背負い込んでやるほど力のない自分を、申し訳ないとは思いましたが・・」という箇所がある(別々のシーンでのセリフですが)けれど、「あぁ、だから彼が気に入ったんだ」と一人ごちたのでした

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