杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

寝台特急はやぶさ60分の1秒の壁

2023年05月04日 | 
島田庄司(著) 南雲堂

1.寝台特急はやぶさ60分の1秒の壁
双眼鏡で覗きをしていた男が、豪華マンションの浴室で顔の皮をはがされた若い女の死体を発見!だが、割り出された死亡推定時刻に彼女は、「はやぶさ」に乗っていた。不可能を可能にしたトリツクは何か?時間の壁と“完全犯罪”に敢然と挑む捜査一課の吉敷竹史の前に、第二、第三の殺人が…。

被害者が殺害推定日時に個室寝台特急に乗車していたというトラベルミステリーの謎が解けた後も犯人を巡って二転三転する展開が面白かった。
吉敷の推測は半分当たっていたわけで、被害者が実はある目的をもってアリバイ作りをしていたことや、複雑な家族関係、姉妹の確執などが次々明らかになり目が離せませんでした。第二、第三の殺人をした人物は第一の殺人者に比べたら衝動的・短絡的です。吉敷たち警察が、偽の脅迫手紙で犯人を誘き出すのはちょっと強引な気もしますが・・。

2.嘘でもいいから殺人事件
嘘でもいい、インチキでもいい、殺人事件を!テレビ界にこの人あり、“やらせの三太郎"と異名をとる迷ディレクターとスタッフが東京湾の無人島で遭遇した奇々怪々な大事件。

作者が若い頃に書いたユーモアミステリ。1話のシリアス路線とは全く異なる作風に戸惑いましたが、最後にどんでん返しのある筋書きは似ていました。
猿島は横須賀から船で行く無人島で、BBQなどの観光で訪れる人が多いと聞いています。80年代前半のバブル期のTV業界人が登場し、いかにも軽薄なバラエティ製作の裏側を見ているような気分になりました。そういえば当時は「何とか探検隊」とか怪し気な番組が大流行りでしたっけね(^^; 皆がそうとは言いませんが、やっぱり「やらせ」だったのかと思ってしまったぞ。

島にただ一つ建つ別荘で起こる密室殺人と死体消失の謎。消えた死体が再び現れ、別の一人が消えるというまさにミステリーな展開ですが、語り口がとにかくコメディチックなので、怖さはありません。島にいる間には犯人もトリックも謎のままですが、犯人がわかってみれば、確かに行きの船で伏線は仕掛けられていました。それにしても日本刀で首を切断はいくら多少の武術の心得があるとはいえ、普通考えつかないだろ?と思ってしまいましたが。

3.出雲伝説7/8の殺人
山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体!なぜか首はついに発見されなかった。捜査の結果、殺された女は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたらしい。休暇で故郷に帰っていた捜査一課の吉敷竹史は、偶然にもこの狂気の犯罪の渦中に…。

吉敷竹史シリーズ2作目は、列車の乗り継ぎや時刻表で謎解きするトラベルミステリーです。そういえば、昭和のミステリードラマはこの時刻表トリックが大流行りでした。
早々に、死体がばらまかれた経路・順路が吉敷により解明され、容疑者も絞られるのですが、二つの寝台列車のトリックがなかなか解けずにいます。でも、ちょっと視点を変えるだけで、殺害場所がどこかは簡単に推理できると思うのですが・・・。バラバラというのが重要ポイントではあります。
犯人の被害者への強い殺意の理由には同情の余地はあるけれど、動機が単純なだけに、どんなトリックを用いてもやがて暴かれるのは必須だったような😓 

4.漱石と倫敦ミイラ殺人事件
英国に留学中の夏目漱石は、夜毎、亡霊の声に悩まされ、思い余って、シャーロック・ホームズの許を訪ねた。そして、ホームズが抱える難事件の解決に一役買うことになる。それは、恐ろしい呪いをかけられた男が、一夜にしてミイラになってしまったという奇怪な事件であった! 

夏目漱石のロンドン滞在とシャーロック・ホームズの活躍時期が重なることや、漱石の最後の下宿とホームズの住居ベーカー街221Bが近いことから着想を得たフィクションで、ワトソンの未発表原稿が発見され、国会図書館に眠っていた漱石の「倫敦覚書」と共に語られるという形式で、漱石がしばしば下宿先を変えたことや、シェークスピア研究の大家クレイグ先生の存在も加味された内容です。

章ごとに、漱石とホームズ・ワトソンが語り手となるのですが、漱石はホームズをコカイン中毒で精神に異常をきたした人物と捉えているのに対し、ワトソンの記述ではホームズは名探偵そのものです。
生き別れた弟を探し出し、一緒に暮らしだした財産家の未亡人の屋敷で、一夜のうちに弟がミイラ化して死亡するという超自然的な事件の謎を、漱石とホームズが協力して解決する展開。一種の密室殺人と思われましたが、結局は財産目当てに身代わりを立てた犯人の目的を正しく見抜いたホームズの圧勝でした。
ホームズの女装や奇抜な行動は映画でも登場していましたが、漱石の目には精神異常者に見えたわけですね😓 

吉敷刑事が登場する1と3は光文社カッパ・ノベルズから出ていて、これはトラベルミステリーのジャンルで安定感があります。対して2と4は集英社から出ていて、斬新さがあります。
個人的にはトラベルミステリーの方が面白かったかな。






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