波打ち際の考察

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波屋山人

芸術の立場

2007-08-04 17:27:48 | Weblog
「文学や芸術に立場が考えられるとすれば、たったひとつしかない。それはあらゆる悪もデカダンスも受けいれ、包みこんでしまうという立場だ」

この吉本隆明の言葉は、長い間私の座右の銘のようなものになっていた。この言葉に、共感していたから、学生時代のレポートに引用したり、入社試験のエントリーシートに記入したこともある。

1993年8月29日に角川春樹がコカイン事件で逮捕されてすぐ、9月5日に吉本隆明は新聞のコラムに、「芸術の立場」と題した次のような文を寄せた。


■角川春樹について
コカイン容疑/屈指の俳人/芸術の立場
文学や芸術に立場が考えられるとすれば、たったひとつしかない。それはあらゆる悪もデカダンスも受けいれ、包みこんでしまうという立場だ。この立場はときとして法や政治や社会的な常識や良俗やこころの健常からはみだしたり、それらのものと背反したりすることがありうる。だがそれは文学や芸術の価値をおとしめるものではない。
産経新聞コラム「社会風景論」より


吉本隆明氏が1996年の8月3日に西伊豆で遊泳中におぼれ重体となってからもう11年。
1924年11月25日生まれなので現在82歳。
1942年1月8日生まれの角川春樹も65歳。逮捕時は51歳の若さ。
月日が流れるのは早いものですが、今読んでも、共感する文です。


客観的に見ると、常識やルールというものは社会組織を守るために作り出されたものです。
芸術というものはそれを超えた立場。
芸術家は、社会的常識から逸脱する場合もあります。

芸術家や芸能民は社会的ルールを維持する官僚やサラリーマンと違い、自由に社会的ルールの壁を乗り越えて価値を見つけ、広い世界と交流します。
そして、社会的ルールを守る人々も芸能民を見て楽しみ、社会的枠組みの外側を眺めて精神のバランスを保ちます。
100%社会的ルールを逸脱しないという人は精神的に壊死してしまいますから。

国家とか会社とか組合とかサークルとか暴力団とか学校とか宗教団体とか、どの組織もその組織を自ら壊そうとはしません。
生物は免疫系や神経系のはたらきによって体の組織を守り維持するけど、同じように国とか会社もルールや罰則などによって組織や秩序を維持しています。

維持しようとする者がいない組織は、すべて形を失います。
組織を維持しようとしない組織などは存続できませんから。
だけど、世界は組織だけで成り立っているのではありません。
組織だけが世界ではないのです。

社会組織を守るルールや常識だけがこの世界の価値ではないということを、芸術家や芸能民は知っています。
だから、芸術家や芸能民は時として反社会的なことをしてしまう場合もあり、必然的に被差別民扱いされていた例も世界中に多くあります。


永遠に続く組織というものもなく、混沌の中からある一定の動きがあらわれ、秩序が生まれると組織というものになりますが、やがて衰弱し、消えていきます。そして混沌のなかからまたあらたな秩序が生まれます。
世の中にはそのようなパターンに満ち溢れています。

組織の維持に熱中するのもいいけど、たまには一連の流れを遠くから眺めてみるのもよいかと思います。
一連の流れの一部にだけ目をうばわれていると、全体の流れを見失うないがちになります。
全体ばかりを見ていても世捨て人みたいになりがちですが。


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