波打ち際の考察

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波屋山人

思考の停止

2011-01-08 11:58:50 | Weblog
昨年よく目にした表現のひとつに「思考の停止」という言葉があった。
物事を疑ったり仕組みを掘り下げて認識することなく、与えられた状況を当たり前のように受け入れて発言する人たちがいる。
彼らに対して不満を感じる人は、「思考停止状態になっている」と批判した。

だが、どれだけの人が「自分は思考停止状態ではない」と言えるだろう。
ほとんどの人は、一定のレベルで思考を停止している。
逆に言えば、どこかで思考を停止しないと、物事を認識したり、思考を積み重ねていくことができない。
言葉や物を認識した時点ですでに思考の停止は始まっている。

例えば、目の前の食卓を見て「ごはんがある」と認識する人は多い。
ところが、「ごはん」は「炭水化物を主成分とした穀物を水分と共に加熱したもの」であり、さらに「澱粉(C6H10O5)nと水(H2O)」を主成分とした分子構造の混合物と認識することもできる。
さらに拡大して見れば陽子や中性子の様子まで見えてしまうかもしれない。

形のない陽子や中性子のことまで意識しながらごはんを眺める人はほとんどいない。
多くの人は、人間の目で認識できる色や質感で「ごはん」にリアルさを感じている。
そのレベルで認識を停止しているからこそ、ごはんがおいしそうに見えるのだとも言える。


物事を批評する場合でも、多くの人が無自覚に「肯定・否定」の判断を行っている。
なぜ自分がある意見やある事象に対して肯定的発言を行うのか、否定的態度をとるのか、意識していなくてもそこにはすべて原因と結果がある。

犯罪は許されない、とか表現の自由は守るべき、とか差別とか薬物とか暴力はゼッタイダメ、と言う人は、自分の判断基準が何に基づいているのか自覚はあるのだろうか。
その自覚がない人が自分と意見の違う人に対して「思考停止状態だ」と非難するのは、耳垢が目ヤニのことを汚いと言うようなものではないだろうか。

誰だってある一定のレベルで思考停止にならざるを得ない。
そのことを謙虚に認識してこそ、意見の違う人との話はかみ合うようになる。
あるいは、言葉や物の形や構造に意識的な表現を行うことができるようになる。

一昔前の学生運動世代の人たちのように、怒りや不満といった感情を前面に出して攻撃的な発言を行う人もいるが、まずは、自分がなぜ怒りや不満を感じるのか、その因果関係を化学式のように確認してみてはどうだろか。

怒りは暴力的だし、不満も執着心。そのようなものはなくても議論はできるし、自分や世の中を変えることはできる。


思考を停止しないでいつまでも掘り下げていくと、論理を積み上げることは難しい。
対象物を眺めていると、どんどんその対象物が溶解していくように見える。
ごはんを見てその分子構造を想像してしまう人は、おにぎりをつくったりお弁当を作ることは困難だ。

思考を停止しないで、世の中の正しいことや悪いこと、社会的評価の高いことも低いこと、心理的に心地よいこともひどいことなどを、分解してその構造を突き詰めていく。
言語で表現される抽象的な概念についてその構造を掘り下げていく。
そういったことを極限まで行うと、0と1、on と off、フィットとフィットしない、肯定と否定、などといった概念だけで世界の仕組みを表現することができるかもしれない。

基本的に、あらゆる生物は、自分の生命を維持することを目的としている。
生命の維持に適切なものは肯定、不適切なものは否定。
自分の生命や自分の所属する共同体の維持発展に適切かどうかによって肯定と否定が決まる。
ときには共同体の維持存続が個々の生命の維持に優先される場合もある。

もしかしたら自分や共同体の消滅を肯定する人もいるかもしれないが、そこには自分や共同体を無くすことによってもっと大事な何かを肯定するという意識がある。
だが、そのような傾向をもつグループは存続して行くことができないのでやがて忘れ去られる。
自分や共同体の生命維持を肯定する生物だけが後世まで存続していくことができる。

世の中には絶対的に肯定される正義も絶対的に否定されるべき悪もない。
思考を停止しなければいつかそういう認識にたどり着くのではないだろうか。


追記
文科系の研究者は、周囲の常識や自分の思い込みに影響されている人が多いかもしれないけど、いずれは理系の研究者のように科学的な手法を研究に導入するようになるかもしれない。

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