波打ち際の考察

思ったこと感じたことのメモです。
コメント欄はほとんど見ていないので御用のある方はメールでご連絡を。
波屋山人

反タバコ団体は、ムーミンやシャーロックホームズも絶版に追い込むのか。出版社は表現者を守るのか。

2009-12-29 23:05:00 | Weblog
ぼくはタバコを吸わない。
タバコの煙をかぐと、気分が悪くなり、呼吸が苦しくなる。
だけど、喫煙者の絶滅を求めて攻撃を行おうとは思わない。

かつて、タバコを吸うことはひとつの文化として存在していた。
芸者遊びも男色も、博打も飲酒も喫煙も、多くの人に受け容れられ、文化として発達していた時代がある。
ぼくは現代の価値観に合わなくなったからといって、全てを否定しようとは思わない。

悪者をやっつけることは気持ちいい。
自分を肯定的な立場に置き、満足することができる。
だけど、「正義」とか「良いこと」、「悪」とか「悪いこと」などといったラベルを貼り付けると、対象物の中身や仕組みについて認識することを忘れがちになる。

今朝の新聞で、「喫煙描写の児童誌 指摘受け販売中止」という記事が目についた。
童話の登場人物が、子どもたちの前で喫煙していることが問題なのだそうだ。

http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20091229-OYT1T00086.htm
■愛煙家おじいさん登場、児童誌が販売中止に
 福音館書店(塚田和敏社長)は28日、月刊「たくさんのふしぎ」の2010年2月号として発売した「おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり」(文・絵、太田大輔)を販売中止にすると、ホームページで発表した。
 対象年齢は小学校3年生からで、発明家のおじいちゃんが2人の孫に江戸時代の暮らしを説明する内容。おじいちゃんはたばこ好きの設定で、喫煙したまま孫たちと同席する場面が何度も描かれている。
 喫煙に反対する団体などから「たばこを礼賛している」「たばこ規制枠組み条約に違反する」といった指摘があり、同社は販売中止を決定した。
 ホームページでは、塚田社長名で「(たばこは)小道具として使用したものであり、喫煙を推奨したりする編集意図はまったくありません」と説明。「しかしながら、子どもの本の出版社として配慮に欠けるものでした」と謝罪した。
(2009年12月29日05時08分 読売新聞)


10年前だと絵本でのパイプ喫煙シーンは問題視されなかったけど、世の中の価値観が変化して、問題視されるようになった。

しかし、「とんでもない」「ひどい」「ありえない」などという非論理的な言葉を発して抗議する人は、なぜそれが否定されるべきだと考えるのか、その構造をもっと客観的に考えてもいい。

青森県タバコ問題懇談会(山崎照光、久芳康朗、鳴海晃代表世話人)を運営する八戸市「くば小児科クリニック」の久芳康朗さんのブログには、一般の人たちから批判的なコメントが集中している。
ネット上でも久芳さんは見識がない、独善的だ、などと苦言を呈している人が多い。
いくらタバコが嫌われていても、自分の正義に何の疑問も抱かない一方的なタバコ排斥は、その攻撃性や偏狭さが問題視されるのだろう。

久芳康朗さんが、福音館書店代表取締役社長に宛てたメール文面もブログに掲載されていた。正しいことをやっていると認識している人は、時として高所から物を言うような抗議を行う。
出版流通も法律も知らない人が、法的な手順を無視して、脅しをかけているように読める。
福音館書店の人はそんな人との交渉に疲労を感じ、企業が総会屋に屈するように、頭を下げてしまったのかもしれない。

http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/44c2eef735f81878d953002adba35d25#comment-list
> 貴社発行の「たくさんのふしぎ」を長年定期購読して愛読しておりましたが、
> 2010年2月号「おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり」(太田大輔文・絵)は
> 全編にわたってストーリーとは関係なく喫煙シーンが頻繁に描かれ、本文にも
> タバコ・パイプを礼賛する内容が記されており、子ども向けの絵本としては
> あり得ない恥ずべき絵本となっています。
>
> 販売する価値がないどころか悪影響を及ぼす絵本を定期購読だからといって
> 無理やり買わされる筋合いはありません。
> 書店を通じて返品しますので代金を返金してください。
> 定期購読も中止します。
>
> また、巻末のクレジットからタバコ会社(JT)の関与が疑われ、内容から判断して
> WHOタバコ規制枠組み条約(FCTC)に違反するものと考えられます。
> 「たくさんのふしぎ2010年2月号」をただちに発売中止し、全て回収・返金すると
> ともに、タバコ会社の関与および金銭の授受の有無などについて明らかにすべきです。
> 上記の処置がなされなければ、ネット上および様々なチャンネルを通じて
> 福音館書店の不買運動を続けさせていただきます。
>
> 私自身も子どもの頃から愛読し、子ども向け出版社として伝統のある福音館書店が
> このような形で存続の危機を迎えたことを大変残念に思います。
> もしこれを危機として捉えることができないとしたら、それこそ存続の危機で
> あることは間違いありません。
(略)

上記の文面では、発売中止と、回収・返金を要求し、その処置がなければ不買運動を続けさせてもらう、と宣言している。
出版社にとっては頭の痛い問題だ。
抗議者は自分たちに正当性があると信じ、いくら出版社が説明をしても、理解しようとはしない。そして暴力的なまでの抗議行動を行う。
問題が大きくなると売上げにも影響が出てしまうかもしれない。

大阪のNPO法人「子どもに無煙環境を推進協議会」(若林明会長)も福音館書店に文書を送っているようだ。
日本語としてかなり不適切な表現が多い文面だけど、このNPOも、本の回収と編集者・責任者の処分を求めている。
タバコを罪悪視しているのだろう。
なぜか文中に上記の「くば小児科クリニック」久芳康朗さんのブログが紹介されている。連携して活動しているのだろうか。

http://muen2.cool.ne.jp/jyoho/jyoho.cgi?log=&v=151&e=msg&lp=151&st=0
> 福音館書店 御中
>
>『たくさんのふしぎ』2010年2月号への抗議(子どもの受動喫煙について)
>
> 『たくさんのふしぎ』2010年2月号「おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり」
> を拝読し、とても驚いています。
> http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/efab983a0f4c6a6200cd6d3f24db4860
>
> 子ども達にパイプタバコの受動喫煙を平然と浴びせかけているシーンが数ページも
> あり、許せないと思います。
> ましてパイプタバコの煙は紙巻きタバコより刺激性が強いですし、作者なり
> 出版社の無知では済まないです。
(略)
> 私たちは子どもを受動喫煙から守るための諸活動を20数年にわたり行って
> いますが、児童書でこんなにも平然と子どもに受動喫煙を浴びせかける場面は
> これまでに無かったように思います。無知で済まない「子どもに受動喫煙を
> 浴びせかける悪質な意図」も感じざるを得ません。
>
> 1.この本の早急な回収を求めます(販売・配本済みのものも全て)。
> 2.子ども達へ謝罪を求めます。この謝罪を社会に公表してください。
> 3.JTのたばこと塩の博物館とのつながりの経緯と連帯責任の釈明を求めます。
> 4.今回の発刊に至った経緯の公表と編集者及び御社の責任者の処分を求めます。
>
> NPO法人 子どもに無煙環境を推進協議会  2009.12.26

NPO法人日本禁煙学会も抗議した様子。
福音館書店の社長の他に、文部大臣や全国学校図書館協議会会長などにも文書を送っている。福音館書店がダメージを受けるように、よく考えてある。
http://www.nosmoke55.jp/action/0912fukuinkan.doc


反たばこ団体の圧力に屈し、子ども向けの本では、喫煙シーンがなくなるのかもしれない。
彼らは、シャーロック・ホームズやムーミン、ワン・ピースの本やDVDについても、各出版社に発売中止や回収を求めるのだろうか。

ホームズも、スナフキンもムーミンパパも、サンジも、タバコをふかしている。
彼らの姿に憧れて、パイプやタバコをはじめた者も多いだろう。
子どもたちが喫煙に対してプラスイメージを持ってしまうかもしれない。

ぜひ、どんどん出版社に抗議をしてもらえればと思う。
出版社も、抗議されたら頭を下げてやりすごすごせばいいと考えるような、ヤワな会社ばかりではない。

エロ表現や暴力表現、差別表現や皇室報道などで鍛えられた人たちは、価値観とは何か、価値観と価値観の衝突で何が生じるか、社会問題として表出する構造とは何か、などといったことについて、抗議者よりもはるかに深い認識を持っている。

そうでない編集者や経営者や法務担当者も、表現者を守るということを真剣に考える必要がある。
自分たちが責任を持って発行した本に対して批判があれば、編集者や責任者は抗議や非難をしっかり受け止め、表現者を守るべきだ。
抗議者と一緒に表現者に襲いかかってくるような人は、編集者をやる資格はない。

表現者を守れない出版社には、表現者も失望するだろう。
そのような出版社はやがて表現者からも一般人からも支持を得られなくなる。

ぼくは、表現者を守る人でありたいと思う。
一般常識も表現者の考え方も理解し、表現者が攻撃を受けないように表現方法を工夫したい。
もし攻撃されるようなことがあっても、きちんと応対できる論理を準備しておきたい。
そういう意識がなければ、出版や放送に携わるべきではないと考える。


<参考>福音館書店の「おしらせ」
http://www.fukuinkan.co.jp/oshirase/goodsid20909.html
『おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり』は、主人公のおじいちゃんがタバコ好きという設定になっており、おじいちゃんがパイプをくわえ喫煙したまま孫たちと同席している場面も複数描かれています。これは、過去と現在をわかりやすい形で関係づける小道具として使用したものであり、喫煙を推奨したり、子どもたちの受動喫煙を肯定したりする編集意図はまったくありませんでした。しかしながら、喫煙による健康被害と受動喫煙の害についての認識が足りず、このような表現をとってしまったことは、子どもの本の出版社として配慮に欠けるものでした。深くお詫び申し上げます。
(略)
巻末にある「協力」は、江戸時代の風俗に詳しい研究者個人として時代考証をお願いしたものです。「たばこと塩の博物館」やその運営母体である日本たばこ産業株式会社と、この作品の企画意図との間には、一切関係はございません。



コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 薄毛差別解消運動 | トップ |  »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
最終的にタバコは根絶されるべきだと考える人間として (yabe_shinichi)
2010-01-01 03:48:26
件の抗議はたしかに攻撃的にすぎると思いますし、過去のタバコ表現を改変することにも反対しますが、新しくタバコ表現を増やすことについてはまた別の問題です。これほどタバコ(というより20世紀に始まったシガレットの大量消費)の害や規模の大きさが明らかになっている今、安易にタバコに肯定的な表現を行うことの意味や責任について、表現者がどれほど認識しているか疑問です。

このような話があります。

http://www.geocities.jp/uen2003ehime/page029.html
> ● 映画の脚本家がタバコを魅力的に演出したことを謝罪(2002.8)
>  ハリウッドの脚本家(Screenwriter)で、映画"Basic Instinct"や"Showgirls,"
> などの撮影に携わったJoe Eszterhasさんは映画の中でタバコを魅力的に演出したこ
> とを謝罪しました。8月9日の Associated Press の報道です。
>  長い間タバコを吸い続けてきたEszterhasさんは、先日、喉頭癌の治療を受けて
> いることを公表しました。「私の多くの映画の中で喫煙シーンは重要な部分となって
> いました。なぜなら私が攻撃的な喫煙者だったからです。」「喫煙は悪い少年のイメージの一
> 部でした。喫煙、飲酒、パーティ、ロックンロール、これは私が長い時間をかけて築
> き上げたものです。」彼は語りました。
>  57歳のEszterhasさんは、映画産業に、映画の中で喫煙を促すことを止めるよ
> う呼びかけています。「私の手は血で汚れています。(訳注;人を殺したという意
> 味。)ハリウッドも同じです。」彼は語りました。「私は数えることが出来ないほ
> ど多くの人々を殺した殺人者の共犯でした。私は神との契約により、これを事実であ
> ると認めます。私を許してください。他人が私と同じような犯罪を犯すことを止めさ
> せるよう努力します。」

表現の自由は決して無条件に与えられるものではないでしょう。今回の場合、児童書なのですからなおさらです。タバコをなくすには、新しく喫煙者を生みださないようにすることが一番いいのですから。フィクションの喫煙シーンと子供の喫煙の因果関係を示す研究もいろいろあるそうですし。

ちなみに、なぜそれほどタバコを目の敵にするかといと、それだけ深刻だと考えているからです。このままではタバコは21世紀中に10億人を殺し、世界第一の死因になると警告されています(http://www.who.int/tobacco/mpower/2008/en/index.html)。日本でも、今年だけで著名人が何人タバコが原因で亡くなくなったことか。無名人はその数千倍でしょう。表現の自由というのは程度問題ですが、私にしてみれば、タバコは通り一般のエロ表現や暴力表現などとは被害規模が桁違いで、同一視できません。
はじめまして〓 (saiko)
2010-01-30 11:57:42
初めて見知らぬ方のブログにカキコミさせてもらいますので失礼があったらすみません。

ちなみに私は非喫煙者でタバコの煙が苦手です。
難しい話は出来ませんがマンガ『ワンピース』が大好きで読んでますがサンジのに惹かれたことはないんですよね。
年頃の少年達は真似してしまうものだとしたらサンジも禁煙することになっちゃうのかぁとしょうもないことを考えてしまいました
考えてみよう (さえ)
2011-05-05 21:00:36
現在、戦い相手を殺す場面のゲームが多いが、何故このような暴力が容認され、子供のおもちゃとして売られている。現に子供は殺戮をゲームとはいえ平気で行っている。これはたばこより危険である。なぜこれを問題視しないのか。常識ある子ならタバコは大人が吸うものと分かっている。そのようなつまらぬことを問題視して肝心のことが見えていないのではないか。ここまでくればまるでファシズムではないか

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事