Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士 ピアノリサイタル 12/5@浜離宮朝日ホール

2012-12-06 00:33:30 | ピアニスト 金子三勇士
浜離宮朝日ホール、開館20周年記念イベントとして金子三勇士、
二台のスタインウェイDタイプ、1957年製のウォールナット木目、2001年の黒塗り、
を使い分け、演奏曲目はすべてピアノソナタという今回のリサイタル。
ソナタはバルトーク、ベートーヴェン、シューベルト。

一曲目はバルトークのピアノソナタ。
今年の三月末に埼玉県内のコンサートホールで初めて披露したが、
その時よりも勢いが増し、ずっとこなれた印象で、
観客の気持ちを一気に惹きつける。

二曲目、ベートーヴェン ピアノソナタ 第8番ハ短調「悲愴」
一曲目共々、先月発売された2ndアルバムに収録されている。
この曲はこここのところ、ほぼ毎回リサイタルで演奏するのを聴いてきているが、
やはり第2楽章の優しさにはうっとりと聴き入る。
金子三勇士、既に自分の曲として独自の世界観を作り上げている。

休憩の後、ピアノは木製のウォールナット素材に変わる。
シューベルト、ピアノソナタ 第21番変ロ長調。
先ほどのクリアな音質とは異なり、柔らかみのある音から滑り出していく。
金子三勇士、ここのところ、この曲の練習、曲の解釈にずっと取り組んできて、
この日が初めての観客の前での演奏となる。
第一楽章にある旋律にクリスマスのメロディーが含まれる。
この楽章の演奏を終えた後、少しの間三勇士は目頭をぬぐっていた。
汗ではない、演奏しながら泣いてしまったのだ。

第二楽章、第三楽章と進むうちにピアノの響きが変わってくる。
激しい部分、軽快な曲調の部分でそこは著しく感じられた。
弾きこむことで演奏者とピアノが一体となり音が変化していくこと、
ピアノにも血が通ってくる。

演奏を終えて金子三勇士、
「ヨーロッパのクリスマスは日本とはまた少し違い、
寂しいような印象もある。
それを演奏しながら思い出してしまって・・・」
と言葉に詰まり涙。

「この雰囲気の後に次のアンコールというのも何なのですが。」
との言葉に三勇士の気持ちを思いしんみりした会場からは暖かい笑い声がこぼれる。
選んだ曲はバッハ・フランス組曲よりサラバンド。
ピアノの音と演奏者、観客の気持ちにこの曲はぴったりと重なった。

ヨーロッパのクリスマスはかつての日本のお正月のようなイメージ。
お店は締まり、家族や親類の集まりが中心。
そしてハンガリーの冬は寒さが厳しく日照時間も短い。
金子三勇士のクリスマスの物悲しい印象とは、
家族と離れて一人ピアノの練習のためにブタペストに滞在した学生時代、
そんな思い出から来るのだろうか。
それでもその時の辛さこそが、
彼をこの日にこれだけ観客を感動させるピアニストへと導いたに違いない。