Ruby の会

シニアライフ~能楽・ボランティア・旅行・食べ歩き・演劇などを綴っています

加賀宝生 × 京金剛~夢の競演~

2015-12-21 | 能楽

 師走も残すところ10日ばかり、年末年始の準備も頭のどこかにちらつく頃となりました。クリスマスカードも早めに発送し、後は年賀状、最低限度の大掃除、そして正月飾りをすませて…千葉でお正月をと思っています。その正月飾りに欠かせない床の間の「天神様」。今日はその道真様のお能についてお話しします。

 菅原道真は平安前期の貴族で学者、私達には、「学問の神様」として親しまれています(宇多天皇に仕え、文章博士、蔵人頭、参議などを歴任したそうです)。が、藤原時平の讒言により大宰府に左遷され、同地で死亡。死後都ではさまざまな天変地異が起こったため、北野天満宮に祀られ、天満神として崇められることになりました。

 この物語を基にして作られたお能が「雷電」です。つまり、道真の怨霊が雷神になって宮中を暴れ回る、と言う筋立てです。が、宝生流では、大後援者である、加賀前田家が道真の子孫であると称していることから、話の後半を改作した「来殿」と言う能を演ずるようになり、「雷電」を廃曲としました。すなわち、道真の怨霊が、神号の授与を喜び、舞を舞うという穏やかなストーリーです。2,3年前の、高岡・瑞龍寺燭光能でも、「来殿」が奉納されています。

 一方、金剛流では、観世、喜多、金春流と同じように、「雷電」を演じますが、ある時宝生の「来殿」と同じ筋立ての「妻戸(つまど)」を正式演目にして、「雷電」を廃曲にした時期がありました(今は両方を演じるそうです)。 

 さて、↑のポスターは、12/12(土)、金沢・石川県立能楽堂で行われた「加賀宝生 × 京金剛 ~夢の競演~」のものです。 
 ”ともに二十代の若い才能あふれる能楽師が、いま手を携え、能の未来を切り拓こうとしている。
宝生流二十世宗家 宝生和英、金剛流二十七世若宗家 金剛龍謹が石川県立能楽堂でタッグを組む「合同演能会」が開催されます。”

 とPRされていますが、この日の催しは、金剛と宝生がわざと演目を取り替えて演ずるような面白みのある舞台でした。若きホープだからこそできる試みで、私たちはそれを充分に堪能させてもらいまし。

 〈能のあらすじ〉 比叡山の僧、法性坊は菅原道真の師であった。天下のため護摩供養をしていると道真の霊があらわれ「自分は冤罪で左遷され死にいたったので、雷となって内裏に行き恨みをはらそうと思う」と述べる。そして「朝廷は悪霊退散のために法性坊を招くだろうが、もし呼ばれても参り給うな」と願う。法性坊は「比叡山は天皇の祈願所であるため、三度勅使が来たら断れない」と答える。それを聞いた道真の霊は、本尊の前に供えてあったざくろを噛み砕き、寺の戸に吐きかけると扉は燃えあがった。法性坊が法力で消し止めると、道真の霊は走り去る。(ここまでが前段)

 (妻戸):後段は通夜して待つ僧正の前に、天満天神となった道真の神霊が現れ、神号授与の君恩を喜び舞い、北野に降臨して天長地久の世を守ることを誓う。
 (
雷電):後段は内裏で雷となった道真の霊が暴れまわり、法性坊の法力と対決する。最後は朝廷から「天神」の神号をおくられ、礼を述べて黒雲に乗り立ち去る。

 ストーリーの違い、演者の違い(シテ方、ワキ方、囃子方、地方)を自然に比較しながら、楽しく観能しました。「謡・宝生、舞・金剛」と言われるそうです。「妻戸」の後段、あの長い早舞がとても美しく優雅で、眠気どころか食い入るように見つめました。お囃子も緩急、音色とも飽きさせません。
 一方、「雷電」の後段は、後見により作り物の台が2台運ばれます。その台を紫宸殿、弘徽殿などの宮中の建物に見立て、飛びまわりながら暴れる雷と法性坊との対決が繰り広げられます。台から飛び降り、跳び上がるシテの軽快さ、敏捷な動きが見せどころです。
 ↓は、2,3年前に家元が復曲され、TVで紹介された家元(和英師)とワキ(森常好師)による「雷電」の映像です。    

 休憩後、二人のホープの「アフタートーク」がありました。 この企画を上演するまでのいきさつ、苦労、今日の緊張感など。特に龍謹さんは”アウェイ”での公演は緊張されたようです。また各流派の歴史、お二人の育ちなども。金剛流若宗家の龍謹さんはお父様から指導を受けておられます。宝生流宗家の和英さんは、「父には教えてもらえなかったが、その代わり4人の師からそれぞれの指導を受け、引き出しが多くなると言うか、一つひとつを自分の芸に生かせるように励んでいる(違っていたらすみません)」と仰っていました。金沢での「雷電」は初めて。まして金剛流の演能も初めて。お若い二人(和英さんが少し年上だそうです)の前向きの試みを応援したいもの、と観客一同は思ったことでした。 

 ↓は、瑞龍寺燭光能の「雷電」の私のブログです。

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