家人の依頼で名古屋駅前に出た。大型書店で文庫本の新刊を探すのだ。我が町の本屋はきっと在庫なしで取り寄せになるだろうという。同級生が経営していた本屋も店頭販売を止めてもうずいぶんになる。先代から実績のある学校教科書の商いと年金があれば年寄は暮らせるというのだろう。商人の高齢化で、従来型個人経営は急速に消えていく運命なのだ。
さて、年末の名古屋駅は買い物客でけっこうな賑わいを見せていた。目ざす書店もビルの階上にあるにもかかわらず利用客で溢れている。若者も多い。日本人は本を読まなくなったというが、ぶらり立ち読みの好きな客はいるのだ。
頼まれた本は塩野七生の《十字軍物語》。家人は塩野の本をほとんど読んでいて、自分の本棚にはすらりと並んでいる。古代欧州史が好きだというのはちょっと変わっている。
検索機で本のありかを印刷させたはいいが、B14という棚の位置がわからない。しばらくウロウロして、結局、書店の係員に案内してもらう。本は平台にあったからすぐ見つかった。《一》《二》の二冊で1500円、ハードカバーの一冊分だ。最近は文庫本の値段も案外高い気がするから、これだけで嬉しくなった。
本を買った後、子供の絵本コーナーに寄ってみた。今朝のTVで紹介されていた「MOE絵本屋さん大賞 2018」の一位受賞作、ヨシタケ・シンスケの『おしっこちょっぴりもれたろう』を、それこそ「ぶらり立ち読み」したかったからだ。
タイトルからして掴まれるではないか。子供の絵本だが、大人(特に若い女性)が読んでいて人気が出ているのだという。「尿漏れ」は人間たるもの、老いも若いも、男も女も、普遍的な悩みなのだからだろうか。出版がPHPだというのも「大人」の読者を意識している気がする。
「もれてるって言ったってちょっとだけだし、ズボン履けばわかんないよ」「でもいつもお母さんに怒られるんだよなあ……」という素朴なモヤモヤから、「みんな普通の顔して、実は困ってることあるんじゃないの?」と、主人公の男の子が“仲間探し”に出かけるという内容。
というWEBの説明通り、自分もワカルワカルである。前立腺の調子が悪く、おまけに寒い季節だ。尿意は突然に来る。こうなると半パニックだが、幸い大型書店にはトイレも併設されているから安心だ。
平積みの一冊を手にして読み始めたら止まらなくなり、結局、最後まで読み終えてしまった。途中から、中年の夫婦連れが横に立ち、頁をめくっている。子供ではなく爺婆が三人、絵本に没入する姿は、他からどう見えたことだろう。
絵本の最後は、禿げ頭のおじいさんが出てきた。こちらの予想どおりだ。もうちょっと意外な終末が来てもよかったと勝手に思いながら本を平台にもどした。
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