私的図書館

本好き人の365日

五月の本棚 4

2003-05-11 22:43:00 | 哲学
「ソフィーの世界」三回目は、『無意識』の世界にメスを入れた、ジークムント・フロイトの『夢判断』からです。

「若い男が従姉妹から風船を二つもらう夢をみた。さあ、この夢を解いてごらん。」
「…風船が二つ欲しかった。わけじゃあないわよね。」
「ちがうだろうね。だとしたら、わざわざ夢を解く必要もない。」
「じゃあ…本当はこの人は従姉妹が欲しい。二つの風船は彼女のおっぱい!」
「うん。その解釈はおそらく正しい。フロイトは夢は変装した願望の変装した充実だ、と言っている。」

生まれてすぐの私達は欲望にストレートに生きている。でも、成長するに従い、両親や社会から「いけません!」とか「ダメ!」とか言われ、道徳上の命令を突きつけられて、『良心』といわれるものを育てていく。これが『超自我』と呼ばれるものだ。と、フロイトは言います。

『超自我』は我々がけがらわしい、あるいはふさわしくない願望を抱くと、これを抑圧し、心の奥に追いやってしまう。
こうして無意識に押し込まれた願望が、様々な心の病を引き起こす原因ではないか。

さらにフロイトは続けます。
特定の誰かの名前を度忘れする。話しながら服の端をいじくる。何気なく部屋に置いてあるものを配置替えする。言おうとしたことがスラスラ出てこない。一見さり気ない言い間違いや書き間違いをする。こうした行動はすべて無意識の意思表示だ。とフロイトは考えました。

「こうした無意識の衝動に有効な対策は、不快なことを無意識の中に押し込めようとしゃかりきにならないで、意識と無意識の間のドアを少し開けておくことだ。」

不快なことを意識から閉め出すことにエネルギーを使いすぎると、精神的にも疲れ果ててしまう。心の扉を開いて、不快なこととでも向き合い、無意識を意識することで、問題を直視することが出来る。
それが心を健康に保つコツなのかも。

「でも、少佐は一つ忘れている。」
「なにを?」
「これが少佐の変装した夢でもあるってことさ。ぼくは少佐の無意識のずっと奥まで潜り込んでやる。」

ソフィー達の計画は、ヒルデをも巻き込んで、いよいよ佳境に入っていきます。

「ソフィーの世界」の残りページもあとわずか。
最後のページをのぞく誘惑と戦うヒルデのように、どうぞ、最後までお付き合い下さい。

無意識の存在に気が付くと、他人の言動も少しは理解できるかも。
それともこれも思い込み?

初期のギリシャ哲学から中世までで千年。
キリスト教中世は千年つづき、さらに時は流れる。
そんな三千年の歴史に根ざしてこそ、私達は空っぽの空間の根無し草ではなくなる。それがわかってこそ、裸のサル以上の一人前の人間になれるのだから。





ヨースタイン・ゴルデル 著
須田 朗  監修
池田 香代子  訳
NHK出版


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