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本好き人の365日

かこさとし 『未来のだるまちゃんへ』(文藝春秋)

2014-07-01 19:02:42 | 日本人作家

2014年7月1日。日本政府は臨時閣議で従来の憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使を容認することを決定しました。

記者会見で安倍晋三首相は「いかなる事態にあっても国民の命と平和な暮らしは守り抜いていく」と意気込みを語りました。

守るためには集団的自衛権は必要だそうです。

日米開戦を告げるラジオ演説をした東条英機首相は国民に「自存自衛を全うするため、断固として立ちあがるのやむなきに至ったのであります」と語りました。

国を守るためには戦うしかないと。

敗れて目覚めたんじゃなかったのか・・・救われませんね。

 

太平洋戦争での戦没者は日本側が300万人余。

運よく生きて帰ってきたうちの祖父はシラミだらけで、祖母と曾祖母は着物を煮たりして大変だったといっていました。

戦時中の金属供出でまじめな愛国者だった祖父や祖母は家にあった金目の物をすべて供出。
ところが金持ち連中はちゃっかり隠していて、戦後それを元手にいい物を食べていたと、何十年たっても祖母はこぼしていました。
祖父は新聞やTVを信用するなと孫たちに説き、亡くなるまで銀行さえ信用していませんでした。 

政治家も新聞も、負けたとたん手のひらを返して、それまでの自分たちの言動と正反対のことをいいだしたんですからね。

軍国主義を教えていた学校の先生も、教科書を黒くぬりつぶせと子供たちに命じました。

 

大人たちは信用できない。

 

敗戦時19歳だった絵本作家の”かこさとし”さんはそう思ったそうです。

代表作は『からすのパンやさん』、『だるまちゃんとてんぐちゃん』など。

うちにもありました!

長く読み継がれていますよね。

かこさとしさんは、大正15年(1926年)生まれ。

先日出版された、かこさとしさんの『未来のだるまちゃんへ』(文藝春秋)を読みました。

 

 

 
著者 : かこさとし
文藝春秋
 

 

 

戦時中はやはり軍国少年で、航空隊に入ることを希望していたのに近眼のため入れず、同期で航空隊に配属された友たちは特攻で亡くなったそうです。

戦後、自分が生き残ってしまったことの罪悪感に苦しんだというかこさん。

絵本作家となり、アジアの各国に行く機会があると「私は日本兵のなり損ねです。もしかしたら皆さんに迷惑をかけていたかも知れない。今日はお詫びにきました」と挨拶されるそうです。

そんなかこさんをあたたかく受け入れてくれる現地の人々。

 

工学博士でもあるかこさんは、会社員時代原発関係の仕事もしていたそうです。

原発を作ることばかりに力をそそぐ会社や政府。その時かこさんは、技術者として当然あるべき情報がないことに疑問を持ちます。放射性廃棄物の膨大な処理費について、万一の事故についての数値、情報がまったくない。

その時すでに創作活動をしていたかこさんは、原発を推進する作品を描いてくれないかと頼まれ引き受けようとしました「いいですよ。そういえばこの数値の情報が無いので欲しいのですが」というと、それっきりその話は無くなったそうです。

そして起きた地震に津波、福島第一原発の爆発。メルトダウンに放射能汚染。

ここでもまた「原発の安全神話」が一夜にしてくつがえされました。

 

生きるとは、こんなにも面白く楽しいものなのだ。

 

88歳になるかこさんが、絵本にこめた思い。

子供たちに伝えたいと思っている思い。

たまに「弟子にして下さい」なんていう人が来ると、「自分なんかのところじゃなく子供たちの弟子になりなさい」というそうです。

子供たちに教えられた・・・

かこさんの作品は、たくさんの子供たちがモデルとなっています。

子供たちは「天使」じゃない(苦笑)

スカートはめくるし、悪い言葉はすぐマネるし、騒ぐし、泣くし、あばれるし。

逆に聞き分けのいい子、おとなしい子を見ると何か抑圧されているんじゃないかと心配になってしまう。

人間はいけないこともする。失敗もする。怪我もするし、人を傷つけることもある。

それを教えられ、注意され、学び、技術をみがく。

「子供は純粋無垢で天使のよう」なんていう大人がいたら、それは何にもわかっていない。

 

あぁ、こういう人だからあんなにも長年人々に受け入れられる絵本が描けるんだ・・・と思いました♪

 

かこさんが友達のおもちゃをじっと見ているのを不憫に思った父親が、立派なおもちゃを買ってきてしまい、かこさんはガッカリします。

かこさんはじっと見て(これなら自分で作れそうだ)と思っていたのでした。

望まないプレゼントに、父親の期待。逆に父親に無駄使いをさせてしまった、とかこさんは心を痛めます。

こういう思い、すごくわかる!

自分の子供だからって、親が何でもわかるわけじゃないんですよね!

いやむしろ「親はわかってくれない」が当たり前なのかも(苦笑)

しかたなく親の前では喜んでみせるんですが、子供が親に気を使っている(笑)

 

私の祖父母は二人とも鬼籍に入って久しいですが、こういう戦時中の話を聞くことができるのはあと何年でしょうか。

誰かさんの記者会見がむなしく空虚にしか聞こえなかったのに対して、かこさとしさんの話は心にしっかり響きました。

久しぶりに『からすのパンやさん』が読みたくなってしまった♪

私から妹へ、そして妹の子供たちに引き継がれたので、いまやもうボロボロですが(苦笑) 

 

さて、未来の子供たちに引き継げるものを、この国の大人たちは残せるかな?

 

 



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
かこさとし絵本 (春庭)
2014-07-05 10:38:55
かこさとしさんお絵本、今でも何冊もとってあるのです。孫によんでやろうととってあるのに、孫に読む機会はなさそうですが。

今度新しい原子力関連の政府委員になった教授、これまで原子力推進派だったそうで、推進派に対してたくさんの企業からの寄付を受け取ってきたのだそうです。そんな人を、これからの原子力を考える委員に任命する政府、国をまもるためといいながら、戦争をしないと決めた憲法をねじまげる政府。

しかし、そういう政府を選んだのは国民だと思うと、力がわきません。私はこういう与党にも、これまで平和へいわと言い続けたすえに、権力にすこくりよって首相のいいなりになる政党も、信用できないけれど、他の人たちはこういう政党がいいとして選んだのですものね。次の国政選挙2016年7月の参院選までに、いったいどれほど好き勝手な法案を通すのでしょう。

あそーが、「ナチが政権をとったときのように、選挙に勝ちさえすれば、こっそり憲法を変えることができる」と、言ったことが失言ではなく、実現していることをひしひしと感じます。
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春庭さん、ありがとう☆ (ホーク)
2014-07-19 23:40:38
かこさとしさんの絵本、素敵ですよね。
大人も子供も楽しめるお話にかわいい絵で、私も大好きです。
この本で、かこさとしさんがずっと前の戦争のことを考えてこられたということを知りました。
原発や憲法解釈にしても、権力が強行して決めてしまう今の構造は怖いですね。
震災復興や年金、福祉の問題が棚上げされてしまわないか心配です。
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