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私的図書館

本好き人の365日

僕とTくん

2006-01-28 23:19:00 | 本と日常
自分の話は照れくさいけれど、今日は友達の話。

重松清さんの小説『きよしこ』を読んで、このことを書かなくっちゃいけないと思ったから。
誰のためというわけじゃなく、自分のために…

彼との思い出は小学校の頃から始まる。

同級生は全部で49人。
信号機もないような田舎で、金融機関といえば農協と郵便局だけ。
郵便配達の人が来たら、お茶を出してもてなすような、そんな山あいの土地で僕らは育った。

彼(仮にTくんと呼ぶ)とは5年生まで別のクラスで、特に親しかったわけじゃない。

Tくんは中学生になった頃から荒れはじめ、卒業する頃には、いわゆる誰もが認める不良になっていて、かなり先生たちを困らせた。

小学生の頃もいたずらばかりして、みんなに嫌われ始めていたけれど、それはまだどれも幼い、たわいのないものばかりだった。

そんなTくんも字と絵だけはうまかった。

僕もその当時から絵を書くことが好きだったので、六年生で同じクラスになった時、自然と一緒に遊ぶようになった。

宇宙戦艦ヤマトをエンピツで下敷きに書いたり、当時はやっていたガンダムのシールを駄菓子屋で買って来ては、Tくんと僕と、もう一人の友達と三人で、買ったばかりのシールの図柄を見比べ、放課後になっても一生懸命ノートに模写したりしていた。

Tくんは兄貴肌で、けっこう面倒見がよかったりして、僕はTくんみたいになりたいと、その絵を真似たり、平仮名の「さ」を二回(ふた筆)で書くTくんを見習って、(僕は三回、横棒を引いて、縦棒を下ろし、最後に斜めに線を引くので、どうしても最後の線が離れてしまっていた)家で平仮名の「さ」を書く練習をした。

そんなTくんが、一度だけ家に招待してくれたことがある。
日曜日なのに、家族の人はいないらしく、僕ともう一人の友達とTくんだけだった。

そこでTくんはタバコを持ち出して来て、「吸ってみよう」と言い出した。
家の中ではまずいと思ったのか、僕ら三人は外に出て、田んぼの土手に隠れるようにしてそれぞれタバコに火を付けた。

全然おいしくはなかった。
むしろ不味くて、のどがイガイガして、吐き出したくなった。
それは他の二人も同じだったらしく、二口三口吸ってみんなやめてしまった。
だけど、なんだかいけないことをした高揚感に包まれていたことは確かで、共犯者になったという、友情みたいなものもなんとなくあったんだと思う。
でも、それは同時にとってもさみしい友情で、三人の間には嬉しさは微塵もなかった。

それから家の中に入り、今度はイタズラ電話をしてみよう、ということになった。
実はそのあたりのことはよく思い出せない。
困ったことになったぞ、と思ったのは憶えているのに、誰が最初に電話したのか、Tくんたちが実際に電話をしたのかも憶えていない。

ただ、僕は確実に黒電話のダイヤルを回した。

デタラメにダイヤルしたはずなのに、電話に出た女の人は、「もしもし」という僕の声に気付いて、「あら、○○くん」と答えて来た。
なんのことはない、無意識に何回もかけたことのある自分ちの隣の家の電話番号を回していたのだ。
しかもたまたま、その家に妹が遊びに行っていて、気を利かせたおばさんは、僕が何も言わないうちに、妹に電話を替わってくれた。

妹に何を言ったのか、とにかく電話を切った僕に、Tくんは、もう一度かけろとは言わなかった。

思い出の中のTくんの家は閑散としていたように思う。
温かい色合いのものは何もなかった。
おもちゃも、本も、Tくんの居場所を示すような空間はどこにもなくて、僕たちは玄関の床の上に座っていた。

そんなことがあって、しだいに「おえかき」もしなくなっていった。

Tくんのいたずらは度を超すようになり、ある時、便所掃除用の消毒液をその場で一緒に掃除していた友達にかけようとして追いかけっこになった。
僕もさんざん追いかけられ、みんなの前でとうとう泣いてしまった。
消毒液をかけられるのが本当に嫌だった。
女の子の前で泣かされ、すごく恥ずかしく、情けなかった。

もうこれは許しておけない。
そう思った僕は、Tくんを図書室に呼び出し、決闘をすることにした。

運動会のテントを借りるため、みんなが500mほど離れた中学校に行く日を選んで、僕とTくん、そして立会い人の友達、かつての三人で先生の目を盗んで図書室に忍び込んだ。



…長くなったので二回に分けます。