私的図書館

本好き人の365日

七月の本棚 4 『朝びらき丸東の海へ』

2004-07-25 22:22:00 | ナルニア国物語
この世界の果てってどうなっているのだろう?

大昔から人は、自分達の住む大地の果て、海の向こうのそのまた先を想像して、様々な世界観を作り上げてきました。

大きな亀の上で象がおぼんのような大地を支えている?
大地は平らで、海が滝のように流れ落ちていて、星が天球に張り付いている?
大地は球体で、真空の宇宙に浮かんでいる?

しかし、ギリシアの哲学者。プラトンはこう考えました。


 この世界は真実の世界の影にすぎない。真に美しく、滅びさることのない世界、魂の故郷が存在する。


この世界を作っている永遠の型(イデア)のある世界。それこそが真実の世界であり、世界はこのイデアの世界の写しなのだ、と。

さて、「ナルニア国物語」のご紹介です♪

今回は、いまや立派な王様となったカスピアンと、ルーシィとエドマンド、そして二人のいとこのユースチスが大海に乗り出す物語。

『朝びらき丸東の海へ』です☆

カスピアンのお父さん(前々ナルニア王)の友人だった七人の貴族を捜すためにナルニアを旅立ち船出した”朝びらき丸”。

だけど同行する、ものいうケモノ、ネズミの騎士リーピチープには、もっと大きな望みがありました。
東の海の果てまで行き、偉大なるライオン、アスランの国を見つけようというのです。

子供たちを乗せた”朝びらき丸”の航海には色々なことが起こります。

嵐に大波、飢えに渇き、ドラゴンに魔法使いに海底で暮す海の人々。

海の上でもナルニアの世界には魅力がいっぱい♪

毎回気になるナルニアへの扉も、今回は意外な方法で子供たちの前に現れます。

その中でも新しいキャラ、ユースチスからは目が離せません。

ナルニアの世界をなかなか認めようとしないユースチス。「家に帰せ!」「イギリス領事はどこだ?」ともう大騒ぎ。
臆病なくせに強がりのユースチスはなにかと問題を起こしてルーシィとエドマンドを困らせます。

物語が進むにつれ、知られていなかった世界がしだいに明らかになっていく様子には読んでいてドキドキ☆

いったいナルニアの世界の果てとは、どうなっているのでしょう?

船乗り達は、大きな滝になって海が流れ落ちていると信じていますが、それを聞いてもリーピチープは恐れません。

この世の果てを少しでも見られるものなら、アスランの国をひと目見られるものなら、どんな危険も犯すだけの価値はある。

様々な困難と不思議な島々。

星の導きによってたどりついたスイレンの花の咲き乱れる海原の果てに、子供たちが、そしてリーピチープが見ることになるこの世の果てとは?

作者のルイス先生の奇想天外なアイディアの数々には脱帽します。

そしてその中に込められた、確かなメッセージ。

人の持つ弱さと強さ。その攻めぎ合いのドラマが子供たちの中でも展開されます。

作者の考える、このナルニアの世界観もしだいに明らかになってきて面白い☆

そのヒントはプラトンの考えた、あっと驚くような世界観、あのイデア説の中にも見られます。

この世界は真実の世界の影なのだよ…

ちなみに、今我々が使っている”アイディア”という言葉は、この”イデア”という言葉からきています。真実の世界にあるもともとの”姿”が頭の中で形になる(思い出した)という考え方です。

永遠の真理、永遠の美、そして永遠の善なる世界。

大帝の息子であり、人々の罪のために殺された人。

再びよみがえり、時に子ヒツジと呼ばれる人。

子供たちの住む丸い世界(地球のことです)では別の名前で呼ばれている偉大なライオン、アスランの住む国。

さあ、あなたも竜の舳先を持つ船、”朝びらき丸”に乗って、荒波ゆれる大海原へ冒険の旅に出かけませんか?

きっとおしゃべりなしゃべるネズミ、リーピチープが喜んで迎えてくれますよ☆









C・S・ルイス  著
瀬田 貞二  訳
岩波少年文庫