私的図書館

本好き人の365日

十二月の本棚 2

2003-12-13 22:14:00 | 日々の出来事
学生時代、行き帰りの電車の中は、本を読むのにはうってつけの空間でした。(電車といってもディーゼル機関車でしたけど…)

窓からのぞく現実の田舎の風景や、曲がるたびにゆれる電車の振動を頭の片隅に追いやって、胸躍る冒険や、心はずむロマンス、遠い過去や遙か未来の物語に夢中になっていたものです。

今回ご紹介する本は、そんな私の学生時代のお気に入り。
いっきに広大な宇宙空間に連れ出してくれる、痛快スペース・オペラの傑作!

ジェイムズ・H・シュミッツの『惑星カレスの魔女』です☆

表紙のイラストは、なぁ~んとあの宮崎駿。
中年になったアスベル(っぽい男の人)と、アスベルとナウシカの子供のような顔立ちの少女(衣装は、もろナウシカ風)と共に、宇宙船が描かれているんだけれど、これがどう見ても宇宙船に見えない(笑)
だって、蟲の羽(というより、ラピュタのロボット兵の腕)みたいな物がついてるんだもの☆
表紙になっているのは一部分だけなので、全体像が見てみたい!

ま、表紙の話はこれぐらいにしといて、内容の紹介に移りましょう。

これが文句なく面白いです!

まず、主人公のパウサート船長。
商業宇宙船、ベンチャー号を駆る不運の人。
典型的な巻き込まれ型の主人公で、よせばいいのに、余計な正義感を出してカワイイ奴隷の少女を助けたりするもんだから、故郷では犯罪者にされるは、帝国からは追われるは、海賊には目を着けられるは、はては銀河系規模の大戦争に巻き込まれちゃうのだから、その人生はまさに大河ドラマ並み♪

帝国から危険視されているウィッチ、題名にもなっている惑星カレスの魔女が登場しますが、この幼い三姉妹がとっても魅力的☆
幼いからといって油断すると、軍隊も海賊もとんでもない目に会わされます。

最初は三姉妹の長女、マリーン。
飛び抜けた力はないものの、予知能力に優れ、オールマイティーな能力の持ち主。
しっかり者のお姉さんとして、クセ者の妹達のたずなを引き締めます。
はじめに奴隷として登場し、パウサート船長に気に入られるのも彼女で、これからの活躍を期待させながら、なんと物語の中盤以降は名前しか登場しなくなるという、意外性を発揮(笑)
三姉妹の長女っていつも損な役回りが多いってことを実証してくれるキャラです。

次女のゴスはテレポート能力と、シーウォッシュ・ドライブ(簡単に言うとワープみたいな物)の専門家。
帝国も海賊も、この”謎の駆動装置”が欲しくてたまらない。
たまに宝石なんかを、黙ってお店からテレポートさせたりするけれど(それで船長と大ケンカ!)、その能力のおかげで、ベンチャー号は何度も危機を逃れます。
帝国も、まさかこの十歳くらいの女の子が宇宙船を銀河の端から端まで移動させる力の持ち主だとは気が付かない。
猫のようなしなやかな体と、しなやかな精神を持ったこの少女が、ほとんど準主役級の活躍を見せてくれます☆

最後は末っ子のザ・リーウィット。(「ザ」は必ず付けること!)
この神経質で周りに敏感なおチビちゃんは、言語能力に堪能で、どんな宇宙人の言葉でも、ちょっと会話しただけで理解し、すぐにスラングでしゃべったりできる(それですぐ相手を怒らせる)。
さらに、口笛を吹いて物を壊すという、トラブルを起こしてくれと言わんばかりの能力まで持っているのだから、もう手に負えない。
この子のおしゃべりは、楽しいです♪

さらにさらに、異なる宇宙からやって来た巨大宇宙船マナレットと、クラサ生物の一種で、「虫天気」を引き起こすヌーリス虫。
人間宇宙の出来事を自分達の夢の産物だと思い込んでいる「クラサ的存在」のヴァッチなどが登場して、宇宙狭しと騒動は広がっていきます。
そうそう、「クラサ」というのは、ゴス達の能力の基となっているエネルギーの一種のこと。
チャクラとか、「気」の発展したものだと考えればいいのかな。

この「クラサ・エネルギー」を操る能力を、パウサート船長も持っていることが判明し、カレスの小さな魔女の指導の下、しだいにその能力を目覚めさせていくのですが、船長の力は、この宇宙に迫っている危機の謎をも、しだいに明らかにしていきます。

消える惑星。
ヌーリス虫の正体。
マナレットの中でうごめく恐ろしい陰謀。
ヴァッチ達の「ゲーム」

その世界観の設定も見事ながら、なんといってもこの登場人物達の掛け合いが面白くって愉快です。
電車の中でも、思わずニヤニヤしてしまいそう。

大宇宙を舞台に繰り広げられる、小さな魔女と、不運な男の愉快痛快スペース・オペラ。

本屋さんで見かけたら、ぜひ手に取ってやって下さい。
きっと、あなたにとって、まだ見たこともない楽しい世界が開けるはずですから☆



ジェイムズ・H・シュミッツ  著
鎌田 三平  訳
新潮文庫

十二月の本棚

2003-12-13 07:56:00 | 日々の出来事
剣と魔法のファンタジー!

そんな物語を読んでみたいと、お思いのあなた! まずはこの本をお手に取ってご覧下さい。
アーサー王? 指輪物語?
いえいえ、それらの作品も確かに捨てがたいですが、私がお薦めする一押しはこれ。

レイモンド・E・フィーストの超大作ファンタジー。

リフトウォー・サーガ『魔術師の帝国』(上・下)です☆

指輪物語を差し置いて、なんとナマイキな…と、お思いのファンタジーファンの方もいらっしゃるでしょうが、面白いのだからしょうがない♪
指輪物語には挑戦してみたけれど、あの分厚く重厚な内容と、論文じみた各設定の細かさに、途中ではね返された人も多いのでは?
私も三回読みましたけれど、いまだにその壮大な物語の世界には、モリアの坑道みたいな底知れぬ魔力を感じますね。
読むたびに発見があって、そのあまりの奥深さにタジタジになってしまいます。(ま、そこがイイんだけどね♪)

『魔術師の帝国』に始まる、このリフトウォー・サーガシリーズ。
最初の50ページくらいは「なぁんだ、よくあるファンタジー物か」くらいの印象なのですが、本編の二人の主人公、パグとトマスが<徒弟選び>の関門に立たされるあたりから、いっきに物語世界の中に引き込まれてしまいます♪

物語の”一方”の舞台となるのは、二人の暮らすミドケミアという中世ヨーロッパをベースにした世界。
十四歳になった少年は、それぞれの適性を見込まれて、職人や兵士としての訓練を受けます。それが<徒弟選び>
体の丈夫なトマスは、願い通り、武術長官の徒弟に選ばれますが、孤児で体の小さいパグは、人々からうさんくさいと思われている魔法使いの弟子として引き取られることになります。

そして始まる徒弟としての少年達の厳しい生活。
城でみかけた妖精の女王にすっかり心奪われたトマスは、いつか大戦士になって、妖精の国を訪れることを夢見、パグも負けじと、いつか王国一の魔法使いになってみせると宣言して、互いに大笑いする二人。

しかし、つかの間の平安は、一隻の異国の船が、海岸に打ち上げられたことで終りを告げ、二人はこの世界全体を揺るがす、大きなうねりの中に巻き込まれて行くことになるのです☆

森で魔法と共に暮らす妖精に、鉱山を掘り、うまいビール造りに長けた小人達。
ダーク・パス・ブラザーズと呼ばれる妖精とよく似たモレデール族にゴブリン、トロール。
ファンタジーの魅力をギュッと押し込めたこの物語の圧巻は、なんと言ってもその世界観の壮大さでしょう。

”裂け目”と呼ばれる時空の通路から押し寄せる異世界の敵。
そのもう一方の世界、異世界ケレワンは、魔法使いが絶大な権力を握る、まさに魔術師の帝国だった!
見知らぬ異世界で、パグはたった一人でどうやって生き延びるのか?

そして一方、最後の黄金竜から、竜の貴族と呼ばれたヴァルヘル族の金と白のヨロイを受け継いだトマスは、やがて、かつての持ち主、アシェン=シュガーの記憶と力に支配されていく。
アシェン=シュガーを通してトマスが知ることになるミドケミアとケレワンの過去。
このままトマスが狂戦士となれば、世界は灰燼に帰してしまう…
彼は過去の力に打ち勝つことができるのか?

そして二つの世界に隠された秘密とは?

どこからともなく現れる謎の魔術師マクロス・ザ・ブラック。
長い寿命と永遠の若さを持つ妖精の女王アグララナ。
ケレワンの人々が恐れ敬う”偉大なる者”

さらにさらに、王国の世継ぎをめぐる権謀術策や迫力ある攻城戦。雪山での戦いや、狭い坑道での死闘と、その魅力はとどまることを知りません。
本当、読んでいて止まらなくなりました。
お願い、眠らせてくれ~って感じ(笑)

ときたま顔をのぞかせるラブロマンスも、好み☆

女心に、にぶいパグは、魔法と違ってそっちの方面は苦手みたい♪
奥手なくせに、なぜか女の子にモテル彼は、知らず知らずのうちに女の子をイライラさせてしまいます。
心配した男友達に聞かれてパグは答えます。

「いったい何があったんだい?」
「わからないんだ。ただ…ただ…今日、ぼくを蹴ったんだ」

鈍いぞパグ!(笑) 
女の子にいきなり蹴られたのに、何を怒っているのかわからず、何も言い返さないパグの態度は、さらにイライラに拍車をかけてしまいます。
「女の子にとって、きらいな男に言い寄られるより嫌なことは、好きな男に注目してもらえないっていうことさ」
友達に笑われ、せかされて、夜中に彼女の部屋に忍び込むことになるパグのなんともなさけないこと。

こんなことで本当に世界を救えるのか(笑)

作者のファーストは、これがデビュー作というのだから驚きです。
緻密なストーリーに、多彩な登場人物。それらの織りなす物語のなんと壮大でなんと面白いことか。

ファンタジーが読みたくなったら、ぜひこの本を。

リフトウォー・サーガは第二部『シルバーソーン』
第三部『セサノンの暗黒』と続きます。

さらに『王国を継ぐ者』『国王の海賊』という続編もあるのですが、欲張らないで、まずはこの三部作からどうぞ。



レイモンド・E・ファースト  著
岩原 明子  訳
ハヤカワ文庫