ファミリー・レッスン

2012年05月22日 | 日記
世界的バリトン歌手のディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが18日に亡くなったという記事が昨日の新聞に載っていました。87歳の誕生日が目前だったそうです。彼以降のリート歌手で彼の影響を受けなかった人はいないと言われますが、声による言葉と音楽の表現の可能性を究極まで開拓した、本当に稀有の声楽家でした。一つの時代が終焉したという感慨が去来します。残念ながら生演奏を聴く機会はありませんでしたが、彼のレコード、CDの恩恵にあずかった一人として、世界中のファンの方々と共に心からの感謝と哀悼の意を捧げたいと思います。
さて、今日はヨーロッパから子連れで一時帰国中のKさんのご希望で、Kさんのご実家にお伺いして、Kさん、Kさんの義理の妹さん、そのお嬢さんお二人、計4名のヴォイス・トレーニングをしました。お嬢さん方は小学生と幼稚園児です。Kさんのお子さん(1歳半)も一緒に(と言ってもレッスンするわけではありません。一緒に部屋にいるだけです、もちろん)。グループレッスンのヴァリエーションですが、こんなに年齢差のあるグループはあまりありませんよね(笑)。どういうアプローチにしようかなと思いながら伺いましたが、結局定石通りにやることにしました。
まずはストレッチから。最近使っている、ペアを組んでストレッチをしながら声を出す方法を試みました。お子さんたちに「裏声」を出してもらうのが最初の狙いです。大人が楽しそうにやっていると子どもは自然に真似します。最初は気後れしている感じもありましたが、構わずどんどん大人主体で進めました。次いで呼吸の練習。胸式呼吸と腹式呼吸の原理をレクチャーしながら実際にやってもらいました。Kさんは合唱団で歌っているので慣れているようですが、4人ともどんどん呼吸が深く長くなっていきます。今度は呼吸と声をシンクロさせる練習。これもなかなか上手です。身体がだんだん温かくなってきたようです。
呼吸と声がうまくシンクロするようになったら、ヴォイトレの半分は達成できたようなものです。次の課題は「下あごの力を抜くこと」。これが一番の難関です。brbrbr...とリップロールを試みてもらいましたが、難航しています。こういう場合は舌根をゆるめなくてはいけません。舌のストレッチを何種類かやって再度トライ。だいぶうまくいくようになりましたが、腹筋や背筋が弱いと、それを下あごで代償するので力が抜けません。そこで、あおむけに寝て足を組み、お腹に引きつけるようにする「横隔膜を鍛えるトレーニング」と、うつ伏せに寝て腰回りの筋肉や中臀筋を動かす練習をやりました。身体の緊張が取れ、筋肉が動きやすくなったようです。
その他、ワインコルクを奥歯に挟んで上あごを上げる練習や、口蓋垂を上へ引き上げ、喉頭を広く開ける練習もやりました。上体を前屈させて頭部に共鳴させる練習、顎関節の動きをよくして側頭骨に共鳴させる練習もやりました。Kさんは来週にはヨーロッパに帰られるので、エクササイズをできる限り網羅的にやっておこうと思ったのですが、少々詰め込みになってしまったかもしれません。やっておきたいことはもっといろいろありましたが、1時間でできるのは最大限このあたりまでかな、というところで終わりにしました。お子さんたちにとってはちょっと意味不明なレッスンだったかもしれませんが(笑)、Kさんも義妹さんもとても喜んで下さって、また来週お伺いすることになりました。
ファミリー・レッスンという新しい形態のレッスン、初日はかくして終了。夜のレッスンでしたが、一日の疲れがスカッと吹っ飛び、身も心も軽くなって帰途につきました。

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4 コメント

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フィッシャー・ディスカウ (ばんぺいゆ)
2012-05-23 01:08:01
訃報を知り今までに味わったことのない心の空洞を感じました。シュワルツコップと共に強く私の心に息づいていたからだと思います。1970年・東京文化会館で聴いた演奏は忘れられません。今朝、その時のプログラムを久しぶりに取り出してみていました。
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Unknown (吉田)
2012-05-23 07:57:38
ばんぺいゆさんは彼の演奏にじかに触れられたのですね。どんなに素晴らしい経験だったことでしょう。羨ましいです。シュヴァルツコップが亡くなった時、心のこもった感動的な追悼文を寄せたフィッシャー=ディースカウを、今度は誰がどんな言葉で送るのでしょうか。千万語を費やしても彼の真価は語り尽くせないような気がします。
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後日談 (‘K‘です)
2012-05-24 23:40:05
今日は姪っ子のピアノレッスン日でした。帰ってからいつものように復習で弾いてたんですが、今日はなんと曲「ハッピーバースデー」に合わせてその子の母親(義妹)が歌ってるんです。‘今までと声が違う~‘なんて言いながら。。。。きのうも、お風呂の中で娘と声を出す練習をしたとか。

初回のレッスンでは、来週ドイツへ帰る私のことも考えてレッスンしていただいて、合唱をやってる私はすごく勉強になったものの、彼女にとってはどうだったんだろうと思わないこともなかったけど、自分の持つ声を出すこと、出せるということの楽しさを体験できたようです。私もそうだったけど、歌に自信がないほどその時の嬉しさも人一倍です!

また、姪っ子たちにも、今はまだちんぷんかんぷんでも、いつか歌い方について悩む時が来た時に、家族で受けた李佳先生のレッスンを思い出してもらえたらと思ってます。
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Unknown (吉田)
2012-05-25 07:08:00
Kさん、嬉しいコメントを有難うございました。母と娘が肌を触れ合わせ、声を合わせて歌った思い出は、いずれお子さんの心の宝になると思います。私にもそういう思い出があって、人生の節目節目で私を支えてくれましたから。愛されて育った思い出が歌と結びついている。そんな素晴らしい経験を演出されたKさんに、心からの拍手を送りたいと思います。
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