そば鳴り

2012年07月21日 | 日記
昨日と今日、別々の生徒さんから同じことを言われました。口の奥がよく開いて頭に抜けた良い響きが出た時、「その声、とてもよく響いていますよ」と言う私に、お二人とも訝しげな顔で「これでいいんですか?何だか自分の声が遠くに聴こえるんですけど」と。
よく言われることですが、自分によく聴こえる声というのは往々にして遠くまで届かないのです。「遠くまで通る声」とは「自分の身体から離れて遠くへ飛んでいく声」ですが、日本人はこれに関して大きなハンディキャップを持っています。それは、日本人は下あごが硬く、しかも口の奥が開きにくいということです。これは音声的な意味での日本語の影響です。声は緊張しているところに集まって来るので、下あごが硬いと声が下あごに集まります。つまり下あごが鳴っているわけです。また、口の奥が開いていないと、息が頭(副鼻腔)の方に抜けて行くための道が塞がって胸に落ちてきます。下あごや胸が鳴っているということは頭部共鳴が薄い、すなわち後頭骨や側頭骨や頭頂から空間に飛んでいく響きが少ないということです。ところが、そういう声は自分や自分の近くにいる人にはとても大きく立派に聴こえるのです。
つまり、自分から離れて遠くまで飛んで行っている声ほど自分には小さく聴こえ、下あごや胸にとどまっている声ほど自分には大きく聴こえる、というわけです。後者のような声を業界用語で「そば鳴り」と言います。
そば鳴りしている人の近くで歌うと自分の声が聴こえないので不安にかられて大声を出してしまい、後で声が嗄れてしまう、ということが合唱の場合によく生じます。一人で歌っている時も、自分に聴こえないと不安になるのでつい大声で歌ってしまいがちです。しかし、そば鳴りの声は喉を傷めやすく危険です。
以前、演劇をやっている友人が面白いことを言っていました。バリトンのコンサートに行き、後方の席に座って聴いたところ、ステージから飛んでくる声が自分の席の2~3列前にストンと落下するのが手に取るようにありありとわかったそうです。「私の席まで声が届いてこないのよね~、あれはどういうわけなのかしら」と言っていたのが印象的でした。前方で聴いた方たちは「素晴らしい声」と思われたかもしれません。声の良さに幻惑されて、そば鳴りの声を良い声と思ってしまわないよう、意識の改革が必要ですね。

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4 コメント

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Unknown (くみ)
2012-07-22 03:58:43
そば鳴り、って言うんですかー、なるほど。母語が日本語であるというハンディをしっかり意識して、めいっぱい口の奥を開けねば!!
そういえば、時々遠くでドイツ人が(ほかの人や犬を)大声で呼ぶ時の声を耳にすることがありますが、いつもではないけど、すごくよくいい声だなあと惚れ惚れすることがあります。あれってきっと口が奥の奥まで?ちゃんと開いてるんでしょうね。。。
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Unknown (吉田)
2012-07-22 07:56:57
くみさん、お久しぶりです。ドイツ語って子音が多いから声帯が鳴っている時間が少なくて、耳にさわさわと心地よい音がたくさん聴こえてきますよね。幼稚園や小学校のそばを通っても、日本のような阿鼻叫喚ではなくて(笑)森の中の葉擦れのような気持ち良い響きが聴こえてくる、と音大時代の合唱の先生がおっしゃっていました。日本の「大声大会」なんか、音響的には正直言って聞くに堪えないヒドイ声です。
ところでくみさん、妹さんからちょっとご相談頂いていたことがあるので、恐れ入りますが私の個人メールに妹さんのメルアドを教えて頂けませんか。
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Unknown (ドレミファそら豆)
2012-07-23 21:09:33
プロ(?)のコンサートに行っても、ときどきそば鳴りに近い歌い方をされる人がいます。
私も・・・そば鳴りにならないように練習を重ねてはいるんですが、なかなか難しいです。
息の勢いの問題でしょうか??
つまりは・・・やっぱり体の使い方???
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Unknown (吉田)
2012-07-23 22:56:32
下あごに力が入っているとそば鳴りの声になりやすいですね。あと、息の抜けが悪いこと。口の奥が開いていないと、たとえ息にスピードがあっても蝶形骨の方に抜けきらないので、そば鳴りします。日本人は骨格的にも言語的にも下あごに力が入りやすく口の奥が開きにくいので、プロでも結構そば鳴りの人が多いです。
そら豆さんは口の奥がよく開くようになられたので、もうそば鳴りの声ではありませんよ。
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