言葉遣い

2012年01月26日 | 日記
先日の生涯学習フェスティバルの発声セミナーを受講され、「個人レッスンを」とのご希望で今日初めてレッスンにみえた70代の女性Nさんは、とても言葉遣いの美しい方でした。長年日舞をやっていらっしゃるそうです。昨日、高校生のT君が、コンビニの店員さんが「~のほう」という言い方をするのがとても気になる、と言っていたのを思い出し、Nさんのような生きたお手本が身近にあれば、若い人にも美しい言葉遣いが自然と身につくだろうに、と思ってしまいました。
言葉は生きていますから、使われているうちに使われ方が変わってくるのは自然の成り行きです。年輩者はよく「日本語の乱れ」を指摘し、嘆きますが、それは「乱れ」と言うより「揺れ」や「変化」かもしれないので、明らかな誤用でなければあまり目くじらをたてるのも大人げないような気がしないでもありません。
と言っておきながらナンですが、実は私、言葉には人一倍神経質なたちでもあります。自分では結構いい加減な言葉遣いをしているくせに、他人の言葉遣いは気になる。以前某大学でレポートや卒論の書き方の指導マニュアルを作る仕事に数ヶ月間従事したことがあり、若者が日本語を使いこなせていない実情には少々心を痛めています。
若い人たちの話し言葉を聞いていて、自分とは違う言い方を新鮮に感じたり、「うまい!」と感心したりすることもよくあります。「まぎゃく」という言い方を初めて聞いた時は、「正反対」という意味だということがとっさにはわからず、一瞬置いて「なるほど、短くていいなあ」と思いました。ただ、漢字で「真逆」と書くと、私などは「まさか」と読んでしまいますが(笑)。
「やっぱり」を「やっぱし」、「その代わり」を「そのかわし」と言うのは滑舌の関係だろうと思います。ら行は言いにくいですから。私は「やっぱ」になることが多いです。言いにくい音は無意識に省略してしまうんですね。
いい歳の大人が、相槌をうつのに「です、です」と言ったり、「だから」というところを「なので」と言ったりされるのを聞くと、この人若いなあ、と思います。「です」は「そうです」の省略ですね。言葉が磨滅して短くなっていく現象は理解できます。しかし、「だから」が「なので」に転換される理由はよくわかりません。字数も言いやすさもそんなに変わらないのに、「なので」が話し言葉界を席巻しているのはなぜでしょう?どなたか教えて頂けませんか。
さて、T君の気にしている「~のほう」については、今日、笑える経験をしました。ガソリンスタンドでの会話です。「こちらのほうへどうぞ。」「レギュラー満タンでお願いします。」「車内、灰皿やゴミのほうございませんか?」「このゴミを捨てて頂けますか(携帯用ごみ箱を渡す)。」「はい。ごみ箱のほう、お返し致します。」「(雑巾を渡してくれながら)こちら、中拭きのほうにお使い下さい。」「ありがとうございます。」「満タンのほう、入りました。1,742円のほうになります。」「(1,752円を渡して)はい、これでお願いします。」「1,752円のほう、お預かり致します。こちら、10円のほうのお返しになります」「ありがとうございました。」「どちらのほうに出られますか?」「左手に出ます。」「左のほうですね、誘導しますので、こちらのほうからご移動下さい。」以上。感じの良い若い男性の店員さんでしたが、昨日の話を思い出し、笑いをこらえるのに苦労しました。昨日の話というのは、T君は「右のほうにご移動下さい」というのはいいとしても「こちら、レシートのほうになります」というのはおかしい、というのです。私などは「右のほう」も気になるタイプで、「右手にご移動下さい」が本当だろうと思ってしまうのですが、T君は「方角や方向を表す場合は「~のほう」も許容される」と言いたいのかな、と思ったので、今日の会話の中でも、これは方角についている「~のほう」なのか、それ以外の「~のほう」なのか、とつい分類しながら聞いてしまいました。店員さんゴメンナサイ(笑)。
「~のほう」以外にも違和感を感じる言い回しはいろいろあります。もう10年以上前のことなのに鮮明に覚えている会話が2つ。一つは、年下の男性から「ぼくも頑張らさせていただきますので、吉田さんも頑張られて下さい」と言われたこと。もう一つは、コンビニで支払いに1万円札を渡したら、「こちら、1万円からでよろしかったでしょうか?」と言われたこと。前者は意味は理解できましたが、後者は何を言われているのか全然わからず、何かマズイことをしてしまったのかと凍りつくような気持ちでした。今では、誤用とはいえよく耳にする言い回しになってしまいましたが。これは何でも、コンビニの接客マニュアルにあった「Could you~?」という仮定法の表現を過去形として直訳したのが間違いの始まりだったという話です。なるほどね。
言葉のついた音楽である歌を生業とする身としては、美しい言葉遣いを大切にする気持ちを失ってはならないと思いますが、言葉とは、言葉を超えたものを表現するためのツールです。「ありがとう」という言葉ひとつ取っても、それは感謝の気持ちの伝達手段なのですから、言葉尻を捉えて批判するより、相手の意を汲むことの方が大切だと私は思います。しかし、正確で美しい表現は人格を作ると思いますから、若い方は特に、Nさんのような方と積極的にお話して表現力を磨くといいいですね。――私も、ですが(笑)。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
~ほう。 (T)
2012-01-27 00:53:07
若い人たちはなんでも略したり間違った言葉をつかったりしてもなにも疑うどころか自分もつかわなきゃ!てなったりするんですよねー。お気に入りに登録することを、フェイボリットをくずしてファぼるって聞いたときにはおどろきでしたね。NHKもなんか変な感じの略らしいですよー 笑
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Unknown (吉田)
2012-01-27 07:15:06
ファぼる!?さぼる、と間違えそう(笑)。さぼる、も「サボタージュする」の略ですものね。「あけおめ」、「メリクリ」、「アニソン」etc...うまい!と思わず膝を叩きたくなりますが、自分では気恥かしくて使えません...年ですかね(笑)。NHKは「日本放送協会」だから短くはなっていますが、低燃費を「TNP」と言うのは、短くもなっていないじゃないか!?短縮も極まると逆行して、わざと長くする方に行くのでしょうか。「さ入れ」言葉もそうですね。「頑張らさせていただきます」なんて、よく舌をかまないなと感心します(笑)。言語現象というのはホントに面白いですね。
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