外国から帰ってくると...

2011年11月24日 | 日記
今朝レッスンに来られたJさんは、先日、ドイツ在住の娘さん夫婦を訪ねてドイツへ行って来られたので、今日は約1ヵ月ぶりのレッスンでした。帰ってきてすぐにちょっと体調を崩され、まだ本調子ではないそうですが、いざ声を出してみるととてもいい響きです。口の奥がよく開いていて、息が喉に残らず、全部響きに変わっている感じです。高い声も全く問題なくきれいに出ます。「今日はすごくいいですね」と言うと、「はい、何の苦もなく声が出る感じです」とおっしゃいます。体調が万全でないのに声がよく出るとは不思議だな、と思いましたが、ハタと「そうだ、ドイツ帰りだからだ!」と思い当たりました。
私の師匠は3人の妹さんが皆ドイツ在住で、娘さんもドイツ人と結婚してドイツにお住まいです。それで時々ドイツに行かれますが、「ドイツに行って帰ってくると声がよく出るのよね」とおっしゃいます。「多分、ずっとドイツ語を聞いているからだと思うわ」とおっしゃていました。
そういえば、イタリアに留学していた同級生のO君も同じことを言っていました。帰国後の彼に久し振りに会った時、「イタリアのレッスンって日本とだいぶ違うでしょ?」と尋ねたら、「まず、しゃべっている言葉が違うからね。」と言うのです。あの朗々とした、世界で一番音楽的と言われるイタリア語の世界で生活をし、四六時中イタリア語を浴びているだけで自然と歌う時のフォームが変わってくるそうです。
もうひとつ面白い話があります。以前、語学研修のためドイツに1ヵ月ほど滞在した時、語学学校の同じクラスに日本人の留学生がいました。よもやま話のついでに、私がヴォイス・トレーナーであることや、日本人が西洋式の発声を学ぶ時に最も大きなハンディとなるのは音声学的な意味での日本語であることを話したところ、「そうなんですか。私は1年半前からドイツに住んでいるんですけど、こちらに来て半年目ぐらいに日本から母が訪ねて来た時、1週間ぐらい母と日本語ばかりしゃべっていたらアゴが痛くなって...なんでだろう、と思っていました。日本語ってアゴに力が入るんですか?」と言うのです。へえ~、半年間全く日本語をしゃべらないでドイツ語に浸っていると、日本人でもアゴの力が抜けるんだ、と改めて新鮮な驚きを感じたものです。
昨日レッスンにみえた韓国人のYさんも、「韓国語の母音の中に、日本語の発音ととても似ているけれど微妙に違うのが2つあるんですけど、私はもう23年も日本に住んでいるので、その発音ができなくなりました」とおっしゃっていました。日本語は母音の種類が少なく、eの発音が2種類あるイタリア語や、ウムラウトがあるドイツ語などと違って、口形を微妙に変えて様々な母音の違いを出す必要がないので、口の中が狭くなるのです。韓国語も中国語も、日本語より母音の数が多いそうです。
口の中が狭いことや、下顎に力が入っていることがどれほど声楽発声に悪影響があるかは案外知られていません。大学時代にイタリア人声楽家の公開レッスンを聴講した時、一人の受講生が「「ウ」の発音が違っています。あなたのは「ウ」じゃなくて「ユ」になっています。「ウ」と正しく発音しなさい」と注意されていました。しかし何度やってもなおらず、先生が途中であきらめてしまったのを覚えています。イタリア人には、なぜ日本人は「ウ」が「ユ」になってしまうのかわからないので、なおし方もわからないのです。日本語の「ウ」は口の前の方で発音しますが、イタリア語やドイツ語の「ウ」は、日本語の「オ」に近いぐらい口の奥行きを深くして発音します。口の中が広いのでとてもよく響きます。
昨日の中学生の独唱コンクールでも、イタリア語の「ウ」の発音が「ユ」あるいは「イ」に聞こえる人が何人かいました。音楽教育の中で日本語の発音特性についても少しは教えた方がいいような気がします。

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