風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

シーサイドホテル

2010年04月19日 | 詩集「風の記憶」
Umi5


窓から海が見えます
そんなことを書いて
絵葉書を出したことがあった


海の色あいの漠々として
隔たった広がりの先に
私の手はさまよってしまう
海にも塵が降り積もるらしい


半島のかたちは変わらなくて
裸の女が仰臥している
乳房に似てまるく突起した稜線を
修験者たちは越えていくらしい


フェリーの航跡が
白く伸びてゆく
あのひと筋は記憶に似ている
指を濡らして戯れた日々の
言葉は潮風に輝いて
ひとつずつ異なった貝の形をしていた


いつしか
色の層がはがれてゆき
さざめく潮がゆっくりと沈められて
風景がこんなに静かになってしまった
記憶もこうして
化石になるのでしょうか


どこへ行くのでもない
私もやっと旅行者になれる
足跡も残らない旅で
ここはシーサイドホテル
6階の605号室


(2004)


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