風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

みずたまり

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
Mizu


女は絵を描いた
池を描いた
川を描いた
海を描いた
けれども池も川も海も
大きな水たまりになってしまう


少女だった頃
白い画用紙に水色のクレヨンで
線を引くようにして雨を描いた
雨と雨はつながったり離れたり
重なったり曲がったり
ついには
クレヨンの雨だらけになって
少女はわっと泣きだした


あらあら また水たまり
母の声がする


泣きたくなるといつも
母の声が聞こえてくる
雨を描いている
飛沫のような衝動が
ときおり白い記憶を引っかくのだ


女は乱れてはいけません
母の声が聞こえる


雨がふると女は
ぼんやり雨を眺めてしまう
えのぐを滲ませていくように
雨の重なりの中に浮きあがってくる
髪も乳房もすっかり濡れて
顔が流れてしまうほどに泣いている
雨に打たれる少女
そんな絵を描いてみたい


雨よ降れ
もっと降れ
濡れて濡れて
うんと濡れるがいい
おもいきり泣くがいい
泣けばいいのだ


雨はますます激しくなって
女は体が濡れてくるのを感じた
髪から腕から滴っている
いつのまにか足元には
小さな水たまりができている


(2004)


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