熊澤良尊の将棋駒三昧

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大山名人著「勝負のこころ」

2024-06-24 17:40:29 | 文章

6月24日(月)、晴れるも雲多し。
このところ、ちょっと外出した車の合間時間に、大山名人著「勝負のこころ」を読んでいます。
新書版の200ページほどの昭和51年の本ですから、買い求めて半世紀近く。購入した当時は一読したと思うのですが、明確な記憶はありません。
内容は大山名人が内弟子としての修業時代にも触れられて、兄弟子の升田幸三さんとのことも、触れられています。
執筆は53才の時。
18年守った名人位を失って、それまで自分の周りにいた人々が次々と踵を返したように離れて行く。そんな寂しく落ち込んだ気持ちのことも書かれていて、読み返すと随所に興味深く面白い。
その中には「駒」のこともいくつかあって、内弟子の修業時代には「駒磨き」が日課で、稽古で使われた駒をいつも10組ほどを磨き上げるが、これが案外時間がかかっていて、それが毎日続いたとのこと。
後年、大山名人は「強くなりたければ、良い盤駒を持つこと」と、よく言われていたが、高価で良い道具を持てば丁寧に扱うし、一手一手を丁寧に指すことにもなる。それが棋力アップにつながるという考えでした。

「駒」でもう一つ触れているのが「盛り上げ駒の文字、漆」のこと。
チョッと長くなるが、その部分を引用すると。
ーーー
盛り上げ駒は、電気の加減で一方から見るとひどく光ることがある。光っていてひどく見にくい。チカチカ光る位置に座って対局すれば、長時間ジーっと見つめるのだから、目の神経を疲れさせ気持ちまでイライラさせられてしまう。そこで私は対局前夜に行って電気をつけ、自分の座る側から将棋盤の線と駒の文字の光具合を検討する。少し光りすぎると思えば、ちょっと盤の位置をずらしておく。(中略)勝負に臨むに際しては、出来る限り悪条件は取り除いておく。それが勝利に近づく第一歩である。
ーーー

ところで、この記述が頭に残っていたのかどうかは覚えていないが、私は大昔、タイトル戦で徳島県のホテルで泊まった折り、夜中に急に起きだして、明日使われるであろう持参した「駒」をバッグから取り出し、天井のスポットライトの下で確かめたことがありました。
周りが薄暗くスポットライトだけが、やけにピカッとした部屋で、それは丁度、ホノ暗い部屋で盤上にのみ煌々と照らされた対局中の駒を見る如くで、それを連想しての行為でした。
スポットライト下で見た漆の文字は、ピカッと輝いて「光り方がきつすぎる。これでは良くない。テカりを鈍くしなければいけないが、どうしてそれをするかだ」。瞬間的にそう思いました。
あいにく、駒づくりの道具や機材は持ってきていない。
でも、閃いたものがありました。部屋に置いてあった「紙のマッチ」です。
使ったのは軸の方でなく、軸を摺りつける赤茶色の薬剤が塗布されている平たい「摺り板」の方。あの、少しザラザラした感触が利用できると思った。
まず、いくつかの「摺り板」を指でほぐしてゆき、柔らかにして、それで一つづつ、文字の表面を優しく撫でたのです。

結果はヨシヨシ。
翌日の検分と本番はパス。
と言うことで、とっさの思い付きは目論見通りになりましたが、その時の対局者が誰だったかは、うっすらとしか覚えていないのです。
「忘却とは忘れ去ることなり」と言いますが、この時のことは、今も思い出すことがあります。







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3 コメント

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Unknown (権兵衛)
2024-06-24 21:35:44
「勝負のこころ」は、私も持っているはず、読んだはずです。
熊澤様を真似て、もう一度読み返してみようと思います。
訪問の際、持参した「錦旗」の駒を1枚1枚丁寧に磨いくださいました。駒への愛情を感じました。ありがとうございました。
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Unknown (やまちゃん)
2024-06-25 02:52:44
タイトル戦のとき、駒を持って四国の会場に行かれて、それを使ってもらうことは、行く前から約束されていたのでしょうか?
返信する
Unknown (熊澤です)
2024-06-25 18:12:13
私の駒を使ってはどうかと、タイトル戦の主催新聞社に推薦してくれる人が居まして、この時は主催新聞社から内定があったということで、私が持ち込んだわけです。
このような有難いケースは当時、時折りあって、この時も幸運に恵まれました。
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