熊澤良尊の将棋駒三昧

只今、生涯2冊目の本「駒と歩む」。配本中。
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昨日の続き、書き駒について

2012-03-03 06:01:23 | 文章
3月3日(土)、曇り。

将棋界の一番長い日が終わって、いよいよ名人戦の季節へ。
リターンマッチ開始は1ヶ月後。
注目です。

ーーーー
「書き駒」のこと。
まだまだ書ききれていないことが多いですが、要約しながら続けます。

そもそもは、手近かな木材を利用してめいめいが、作った駒で将棋が遊ばれた時代があった。
将棋が生まれた頃から鎌倉時代あるいは戦国時代の頃です。
僧侶や武士など文字が書ける者は自給自足で駒を書いたり、字が上手な人に頼んで書いてもらうこともあった。
室町時代の日記にも、公卿仲間から頼まれて駒の文字を書いたという記述もしばしば。
そのような公卿が、優美な和様文字で書いた漆書きの駒は、超高級駒として天皇や公卿たち上級武将たちに持て囃された。
その代表が安土桃山時代の「水無瀬駒」です。

江戸時代でも初期の頃は、字が上手な公卿の手によって、漆書きの高級駒が作られていた。
やがて余裕が生まれた庶民にも遊びとしての将棋が広まり、駒の需要が拡大。
江戸時代の半ばでは、それに伴って、安価な駒が多く求められ、作られるようになる。
「悪貨は良貨を駆逐する」の例えもあるように、能筆家の公卿による駒つくりが衰退し、駒つくりの「職人」が誕生し取って代わる。
その代表は「ごんた駒」と呼ばれる独特の略字駒であり、「天童駒(番太郎駒)」のルーツとなる「安清駒」であったり。

一方、昔ながらの「水無瀬駒」に倣った高級志向の職人も。
駒尻に「兼成卿写」と記された書き駒も残っている。
やがて彼らは、公家のような優美な文字は書けなくても、それに近い駒を作る方法を思いついた。
字母紙と呼ぶ型紙を張り付けて、文字を彫る。
彫ったままを仕上げれば「彫り駒」。
彫ったところに漆で平らにすれば「彫埋め駒」。

やがて明治時代に入ると、その上から漆で書きなぞる方法を思いつく。
「盛上げ駒」の誕生である。
パッと見には、優美な公卿の「書き駒」と変わらない。
しかも、長年使っているうちに文字が擦り切れてしまう「書き駒」の欠点も無く、以来、高級駒の代名詞となった。

さて、かく言う小生も「盛上げ駒」指向には変わりが無く、ズーッと「盛上げ駒」を作り続けている訳です。
しかしあるとき水無瀬神宮を訪れて、400年前に作られた本物の「兼成筆の水無瀬駒」を眼にする機会がありました。
その時、現代の「盛上げ駒」とは一味違う活き活きした優美な肉筆文字の書きぶりに甚く感動。
「このような書き駒が書けるようになりたいものだ」との思いでした。

ところで「盛上げ駒」と「書き駒」との違いは何か。
通常の「盛上げ駒」は塗り絵のようなモノであり、本当の「書き駒」は一気に書き上げた肉筆文字。
しかも漆なので技量的にも、その違いは大きいと思いました。
つまり、生きた文字であるかどうかです。
以来、憧れと言いますか「兼成卿の水無瀬駒」が生涯の目標と決めました。

目標達成のためには、先ずは筆の練習が基本です。
昔の公卿は、幼いころから手習いを積んで鍛え上げた。
あのような素晴らしい文字が書けるようになるのは、その結果なのです。

小生の場合は、なまくらなものですから、どこまでたどり着けるか全く見当がつきません。
とにかく「盛上げ駒」を作りながら、二つを心がけることにしました。
その一つは、駒はクルクルと廻さないで、正対したまま文字を書くこと。
もう一つは、墨継ぎならぬ途中の漆継ぎは、出来るだけしないようにする。

その方法で「書き駒」を作ったのが、それから20数年ほどが経った平成12年の「大局将棋」。
804枚もの駒を「彫り駒」や「盛上げ駒」で作ることは、全く考えないことでした。
これまで練習してきた「書き駒」の技を、これに活かしたい。
前にも書きましたが、結果はマズマズ。
これで、少しは「書き駒」が作れるようになった、と思いました。

だが、あれは少し小振りな駒でした。
バタさんから「普通のサイズの書き駒は作れないのですか」と質問がありました。
答えは「その通り」。
小さな文字なら一気に書けますが、太い文字はまた別。
筆の大きさ(太さ)にもよりますが、太い文字を漆継ぎ無しで書くことは非常に難しい。

小生にとって「大きな文字を一気に書く」のは、簡単ではないのです。
文字の大きさのちょっとした違いで、結果が大きく変わります。
難易度は20倍くらい。
ですから、普通サイズの「水無瀬兼成・八十二才」のレプリカは気合を込めて作るのですが、中々思い通りにには行きません。
大きな文字だと、作りかけては止めにしたりすることが多い。
その点、小型の根付けとか雛駒なら気楽に書けても、まだまだ技量が足らないと言う訳です。

自作の駒の大きさが比較できるように、写真をアップします。
中央が「極小雛駒」。
その右側の「玉将・歩兵」はレギュラーサイズ。
左下4つの「チョッと小振りな書き駒」は、レギュラーサイズの8割方の大きさです。

今日は、ここまで。
続きは、また。
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駒の写真集

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