内田康夫の『風の中の櫻香(さくらこ)』を読んだ。ひところは内田の小説にはまって、最初は古本屋にあるものを片っ端から読んだし、新刊が出ると必ず買って読んだ。一応、これまでに発表されたものはほとんど読んだので、新刊を見つけないと読めない。この本は、たまたま久慈市に行った時、「宮脇書店」という大手書店の店先で見つけ買っておいたものである。
奈良の由緒ある尼寺・尊宮寺(半跏思惟像があるので有名なそうだ)の養女として迎えられた櫻香(さくらこ)は、尼僧・妙蓮たちに大切に育てられた。尼になることに疑問を抱くことなく育った櫻香だったが、中学生になると不審な事件が相次ぐ、「櫻香を出家させるな」と書かれた差出人不明の手紙。突然声をかけてきた見知らぬ女性―。不安を覚えた妙蓮は、浅見光彦に相談を持ちかけ、謎に包まれた櫻香の出生の秘密を浅見光彦が解明するという話し。内田作品の面白さは、謎解きが単純ではなくしかも結末が必ずしも勧善懲悪でもないこといつきるだろう。そもそも兄が警察庁の刑事局長の弟で、ルポライターという浅見光彦そのものがありえない存在なのだが、警察につかまっても最後は、「刑事局長の弟さんで名探偵の浅見光彦さん」で話がついてしまうあたりは、「この紋所が目に入らぬか」の水戸黄門を思い出してしまうのだが、ある意味結論がはっきりしていて安心して観ていられるので良いのかもしれない。
最近は、時代小説の方に重点が移っている感じだが、内田康夫はじめミステリーも面白ければ読むつもりはあるので、面白い作品をぜひ書いてほしい。本読みマニアのお願いである。