大木昌の雑記帳

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自然農と健康野菜-野菜の栄養価が下がっている?-

2014-03-02 07:16:45 | 食と農
自然農と健康野菜-野菜の栄養価が下がっている?-

私たちが毎日のように食べている野菜は,命を維持するのに欠かせない食品です。食品の中でも,タンパク質や脂
肪は肉からも摂れますが,たとえばビタミンCやB群などは,植物性食品から摂取します。

しかし,この栄養価は以前と比べて下がっているということも指摘されてきました。

日本では戦後間もなく食品の栄養評価が,当初は占領軍の指示で行われ1950年(昭和25年)にまとめられました。

この最終報告は『日本食品標準成分表』として1951年に出版されました。

その後,1982年には同名タイトルで第四訂が,そして2000年には第五訂が出版されました。

こうして,私たちは食品ごとに1950年から2000年までの栄養価の変化をたどることができます。

ただし,1950年の調査対象となった食品の数も,また栄養素の検査項目も少ないので私たちの関心のある野菜や栄養
素を全て知るこ
とはできません。

とりわけ,私が特に重要視している微量要素のうち,鉄を除けばマグネシウム,銅,マンガン,セレンモリブデン,
クロム,亜鉛などの金属類が第五訂までは計測されていません。

これらの微量要素(金属類)は,身体の維持にとって重要な役割を果たしていると思われますが,その全容はまだ明
かではありません。

以上のような限界をもってはいますが,それでもこの50年間に生じた変化の一部をかいま見ることができます。

たとえば「ほうれん草」を見てみましょう。100グラム当りのビタミンCは1950年の150mgから1982年の65mg,2000年の
35mgへと,この50年間に5分の1へ激減しています。

また,ほうれん草は鉄分を含む野菜として知られていますが,鉄も同様に13mg→3.7mg→2.7mgと,これも4分の1から
5分の1へ激減しています。

緑黄色野菜の代表で,ビタミンAを多く含むニンジンにしても,1950年から2000年までに約5分の1に減少しています。

参考までに1982年から2000年までの,その他の野菜のビタミンC量を見てみると,
トマト……20mgから15mg
ニンジン……7mgから4mg
ブロッコリー……160mgから120mg
チンゲンサイ……29mgから24mg
大根……15mgから12mg
モヤシ……16mgから8mg
パセリ……200mgから120mg
ニガウリ……120mgから76mg
ニラ……25mgから19mg
小松菜……75mgから39mg
シシトウガラシ……90mgから57mg
シソ……55mgから26mg

といった数値に低下しています。 ビタミンC以外でも、ビタミンA、鉄分、カルシウムなどの栄養素が低下しています。

栄養価が下がった原因については、さまざまな要因が挙げられています。まずは土地がやせてしまっていること。化学
肥料などの使用により,土に含まれているはずの栄養素が減り、野菜に十分な栄養が吸収されなくなったと言われてい
ます。

また、人工栽培が増えたこと、流通過程の問題で早く収穫することなども要因に挙げられています。(注1)

こうした意見に対して,実際には栄養価は減っていないとする見解もあります。それは,以前は旬の野菜を食べ,その
時の栄養価を測定したのに,現在では通年の平均値で測定している。

もし,旬の野菜を測定すれば栄養価は同じはずだ,従って,測定年度の違う栄養価を同列に評価するのは間違いだとい
う見解です。(注2)

もう一つ補足しておくと,野菜の栄養価はそれが獲れた場所によっても時期によっても,同じ野菜でも品種が微妙に異
なることもあり,そもそも平均値で判断することには無理があるとも言えます。

それを考慮したとしても,やはり私たちが日常食べている野菜の栄養価は下がっていると考えざるを得ません。

まず,1950年との比較は難しいとしても,1982年と2000年とは同一基準で測定しているはずで,それでも,上に示した
ビタミンCの量の減少に見られるように確実に減っています。

さらに,私たちは必ずしも「旬の野菜」を食べているわけではありません。トマトにしても1年中食べることができま
すが,これはほとんどが太陽を十分に浴び,自然の温度で育ったものではなくハウス栽培だからです。

したがって,旬の野菜だけを取り上げて栄養評価をすることも,現実的には無理があります。

野菜を栽培する土壌の化学分析が行われていない現状では,一般論としては言えませんが,化学肥料を与えて土を休ま
せることなく酷使していること,とりわけ作物の産地化(特定地域での特定作物の集中的栽培)が進む最近の趨勢から,
土がもつ特定の栄養素が欠落してゆく可能性もあります。

特に,光合成によって補うことができない微量要素(金属類)などは,土を酷使することにより年々の収穫ごとに確実
に減少してゆきます。

これからは,これらの要素にも注意を払う必要があるでしょう。

本来は,日々の食物から必要な栄養素を摂取するべきですが,欧米,特にアメリカではサプリメントがごく日常的に
利用されています。

その背景には野菜の栄養素が欠落していることを人々が知っているからでしょう。日本でも,遠からずそのような時代
が来るかも知れません。

ところで,こうした栄養素の化学成分とは別に,私たちはその野菜が本当に健康的かどうか,そして何よりも美味しい
かどうかも大切な問題です。

そして,健康野菜かどうかに関しては,栄養価とは別に,農薬や肥料に化学物質が入っているかどうか(栽培過程で投
入したかどうか)が問題です。

とりわけ,いわゆる「有機野菜」の問題については,このブログでもかつて書いたように(注3),現在,野菜栽培に
一般に使われている有機肥料は家畜(牛,豚,鶏など)の糞尿を発行させたものですが,その家畜が食べている飼料に
は薬がたっぷりと入っています。

無肥料栽培の野菜と食べ比べてみればはっきり分かりますが,牛糞堆肥を使った野菜は,一種独特の甘味があります。

それでは,健康な野菜とはどんな野菜なのでしょうか?化学物質(とりわけ有害な農薬成分)が無く,栄養価が高いこ
とが理想です。

個々の農家はいちいち栄養価を計っているわけではありませんが,自分が農薬や化学肥料を使っているかどうかは分か
っています。

そして,その野菜が元気かどうか,美味しいかどうかははっきりと分かっています。これらの点を石井吉彦氏は,無
肥料,無農薬で自分の栽培した野菜を継続的に食べ多人たちの健康を追跡調査して,アトピーなどの疾患が確実に減
少したことを実証しています。(注4)

また,河名秀郎氏は,興味深い実験をして野菜の「健康度」を調べています。

彼は,①農薬や化学肥料を使った一般栽培の,②は有機肥料を使った,③農薬も肥料も使わず育てた自然栽培の,キュ
ウリやニンジンを煮沸したビンに入れて,どうなるか経過をみます。

彼は当初,②の一般栽培のものが最初に腐ると思っていたそうですが,最初に形が崩れ腐ったのは有機栽培の野菜だっ
たのです。

化学肥料のものは形を残しましたが,有機肥料のものは形すらほとんど留めなかったのです。オーガニック認証をとっ
たにも関わらず,です。

匂いについてみると,一般栽培のものは鼻をつくようなケミカル臭,有機栽培の方は何とも表現しがたい,糞尿のよう
な匂い,とてもとても嗅いでいられるものではなかったそうです。

ちなみに,自然栽培のものは,どこかほんのり甘く,決して不快な匂いではなく,腐敗ではなく発酵して漬物になって
いたそうです。

石井氏はよく,有機(オーガニック)認証をとった野菜は一番気を付けなければ,言いますが,それはこの実験を見て
も分かります。

河名氏の表現を借りると,よく庭先で見かける柿の木は,なんの手入れもせず肥料も与えていないのに毎年実をならし
ます。

これを可能にしているのは,栄養も含めた自然のバランスが保たれているからです。

しかも,腐敗実験をすると,庭先の柿の実は,発酵して柿酢になるが,買った柿は腐敗したのです。

もう一つ,彼がよく引用する言葉あります。野山の植物は「枯れる」のが普通なのに,スーパーなどで売っている野菜
は「腐り」ます。

自然の植物も自然栽培の農産物も,そこに集まる菌も自然のバランスをたもっているからです。

自然栽培とは結局,その土がもっている元々の栄養を自分の力で吸い上げてきた野菜のことです。

これにたいして,有機栽培や一般栽培(慣行農法ともいう)では,人工的に栄養を与えるので,自然のバランスを壊して
しまいます。

虫がつくのは,その余分な部分を食べにくるからだ,ということになります。

したがって,その虫を退治するために殺虫剤が必要となる,という悪循環を繰り返すことになります。

ただ,ここで困難な問題は,私たちが手に入れることができる種や苗のほとんどは,すでに薬品で処理されているため,
土壌消毒や殺虫剤をつかわなければ,十分な収穫を得られないようになってしまっていることです。

これからは,自分の力で地中から栄養分を吸収した,元気のよい,栄養価の高い,そして有害物質の入っていない,
健康野菜が,本当に価値ある食品として登場することと思います。



(注1)http://news.mynavi.jp/c_career/level1/yoko/2013/01/post_2874.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm
(注2)http://m3q.jp/t/1255 
  http://ameblo.jp/nougyoukonnsaru/entry-11467033888.html
(注3)この点に関しては,本ブログの2012年4月9日「有機野菜は健康野菜か?-「有機」栽培の真相-」で書いています。
(注4)石井吉彦『元気な種で育てる究極野菜の誕生』(ナチュラルシードネットワーク,2010年)。
(注5)河名秀郎『ほんとの野菜は緑が薄い』(日経プレミアシリーズ,2010年)

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【いぬゐ郷だより1】
私も含めて8人ほどの仲間と「いぬゐ郷」というグループをつくり,自然農を行っています。「いぬゐ郷」の詳細については以下のHome Page とFacebookを御覧下さい。
今年は,畑に加えて水田稲作も行います。誰でも参加できるオープンシステムです。今後,活動内容を【いぬゐ郷だより】として随時紹介してゆきます。

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