大木昌の雑記帳

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東京都知事選-もう一つの闘い-

2014-03-08 09:35:28 | 政治
東京都知事選-もう一つの闘い-

東京都選挙管理委員会は2014年2月9日に投開票した東京都知事選の最終結果を10日に発表しました。投票率でみると,今回は46.14%で,
前回2012年12月の都知事選62.6%を大幅に下まわり,過去3番目の低さでした。(注1)

今回は16人が立候補しましたが(注2),事実上,立候補届出順で,宇都宮健児,田母神俊雄,舛添要一,細川護熙の4人の闘いとなりました。

結果はすでに知られているように,当選は,元厚生労働相の舛添要一氏(65)=自民・公明(都議連)支援=で211万2979票を獲得し、
有効投票者数の43・4%(小数点2位を四捨五入)を占めました。それでも,全有権者の20%に過ぎないのです。

2位は,前日弁連会長の宇都宮健児氏(67)=共産、社民推薦=が98万2595票で,得票率は20・2%,3位は元首相の細川護煕氏(76)は
95万6063票で、得票率19・6%でした。そして4位は元航空幕僚長の田母神俊雄氏(65)は61万865票で、得票率12・5%でした。

都知事選の結果については,ほぼ意見や感想は出尽くした感があります。とりわけ,舛添氏に関しては,自・勢力の基礎票が230万票ある,
と言われこれはほぼ安定的な組織票とも考えられます。

したがって,脱原発(反原発を含む)を掲げる有力候補者が細川氏と宇都宮氏の二人になったとき,票が割れることがほぼ確実となり,一部週刊誌では,
告示と同時に当選者は(舛添氏に)決まる,と断定していました。

自民党が政権党から陥落して一番苦しいときに“自民党に将来はない”,と言って自民党を飛び出した舛添氏が自公両方に選挙協力をお願いして回ると
いうのも不思議な光景ですが,逆に,その舛添氏を全面的に支援するというのも,さらに理解できない対応です。両者に共通しているのは「節操のなさ」
で,実に有権者を馬鹿にした話です。

それでは,舛添氏が勝った要因は何だったかといえば,自公の組織票と,元厚生労働大臣を経験している(従って福祉に明るいというニュアンス)
という点を協調したこと,そして東京オリンピックを成功させるという主張でしょう。

今回は,候補者の間に,特に際だった選挙公約や主張に違いが見えにくかったので,将来の年金・医療など福祉に不安を抱く中高年層には重要な判断基準
になったと思われます。

しかし,考えてみれば,舛添氏の厚生労働大臣の時,何か特別なことをやったかと言えば,通常業務をこなしてきたという以外,取り立てて注目すべきこと
はありませんでした。

原発に関しては,将来は脱原発にむかうことになるでしょうといいつつも,いつ頃までにという期限を定めない曖昧な言葉で濁してしまいました。

こうして舛添氏は,実質的に原発再稼働容認のメッセージを,支援者の自民党に送っていたのです。

ところで,脱原発を訴えた細川氏は,2位の宇都宮氏よりも得票数が少なく,3位でした。この二人の違いはなんだったのでしょうか?

まず,同じく脱原発を掲げる宇都宮氏は,もっとも早く立候補の意志を発表し,選挙運動を開始しました。次に,宇都宮氏は共産党,社民党の組織票を得る
ことができましたが,

次に,自民党も公明党も共産党・社民党は選挙期間には政治家が全面に出て応援演説をしましたが,細川氏には表だった政党からの応援はありませんでした。
しかも,宇都宮氏は脱原発以外にも,保育,雇用問題,労働者の待遇と労働環境の改善など,幅広いテーマを扱っています。

このため,宇都宮氏は各世代からまんべんなく票を得ているのに対して細川氏は60代以上の人からの投票が過半数を占めています。

細川氏については,幾つかの問題点があったと思います。まず,年齢ですが,細川氏は現在76才で,有権者にとってみれば,都知事という激職を本当に果た
せるのか,という疑問を抱いても不思議ではありません。

さらに細川氏が連立政権の首相になって世間の注目浴びたのは1993年,今から20年以上も前です。当時,政治に関心があったと思われる20代後半以上の人は,
現在50代より上の世代です。実際,細川氏に投票した人の過半数は60代と70代でした。

次に,細川氏は,立候補の届けを告示ギリギリに行いましたので,選挙運動期間が,事実上告示から投票日までの2週間しかなかったことです。

なお,細川氏には強力な応援者として小泉純一郎氏がつきました。

小泉氏は,かつての2005年の衆議院議員選挙では「郵政民営化」一本のワン・イシューで選挙戦を闘い圧勝しました。

今回の都知事選でも,「脱原発」一本で闘う戦術を採りましたが,やはり有利な風は吹きませんでした。小泉氏も現在は72才,多くの有権者にとって,
政治家としては「過去の人」という印象を与えたことは疑い得ません。

今回の都知事選でも,「脱原発」一本で闘う戦術を採りましたが,やはり有利な風は吹きませんでした。小泉氏も現在は72才,多くの有権者にとって,
政治家としては「過去の人」という印象を与えたことは疑い得ません。

細川氏は,民主党その他の政党の間接的な支援を得てはいましたが,実際には選挙演説などの応援はしませんでした。これも細川氏に不利だった要因の
一つです。

今回の選挙で元航空幕僚長,つまり軍人の田母神氏が61万票もの票を得たことはとても注目すべき事実ですが,これについては,別の機会に譲りたい
と思います。

ここでは,細川・小泉氏の脱原発,反原発の訴えはなぜ,多くの支持を得られなかったのを考えてみたいと思います。ここで,「反原発」の問題を重視
するのは
次のような理由によります。

今回の選挙は東京都知事選ではありましたが,実はその背後でもう一つの闘いがありました。東京都知事は,日本の首都の首長であり,それだけでも
巨大な権力と重要性をもっていますが,今回の選挙で争ったのは,その地位をめぐる闘いだけではありませんでした。

細川氏が選挙で訴えたのは,直接的には「脱原発」を全面に出していますが,これはあくまでも象徴であり,直接の争点にはしませんでしたが,
「憲法9条改訂」「集団的自衛権の発動」などを目論む安倍政権に対する賛否を問う闘いでもあったのです。

だからこそ,自民党も公明党も,これまでのいきさつを一切無視して,勝てそうな舛添氏を必死で応援したのです。

象徴とはいえ,原発問題は細川氏の最大の争点ですから,ここでは「脱原発」の訴えがどの程度説得力をもったのか,あるいはもたなかったのかについて
考えてみる必要はあります。

わずか2週間の選挙運動で,しかも組織票もなく「脱原発」という1点だけを訴えて95万票強の票を取ったことは,それなりに一般の有権者の支持を
得たということも言えます。

しかし,それでも細川氏の得票は,同じく脱原発を訴えた宇都宮氏よりも少なかったのは,何かが欠けていたからだろうと思います。

細川氏が主張する,原発が危険性をはらんでいること,放射性廃棄物の処分は現在,どの国も未解決であることは全く正しいと思います。

現在,原発が可動していないのに経済も社会もちゃんと回っているのだから,原発は要らない,という論理も筋が通っています。

そして,脱原発は,たんにエネルギーの問題であるだけでなく,生活のあり方,社会のシステム全体にかかわる問題だ,とも言っています。
これも全く正しいし,私も大賛成です。

しかし私には,細川氏も小泉氏も,正しいことを訴えれば,かならず人々は納得してくれるはずだ,そして投票してくれるはずだ,
という前提があったように思えます。しかし人は,正しいことを言えば納得し,投票してくれるとは限りません。

なぜなら,個々人は,それぞれ価値判断をもっているからです。また,“原発の問題がどれほど有権者にとって切実な問題であるか”,が問題です。
少なくとも,今回の都知事選という選挙で,細川氏も小泉氏も,有権者の心に届く言葉で語りかけることができなかったと言えます。

私は,「脱原発」の1点に争点を絞ったというその理由だけで3位に甘んじたとは思いません。問題は,原発がなければ経済成長も豊かな生活も
不可能である,という「原発推進の物語」を突き崩すだけの,説得力のある「脱原発の物語」を提示できなかったからだと思います。

この際,地震帯の上に乗っているような日本列島で原発を稼働することが極めて危険で不合理であること,使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理を考
えれば,原発は決して安い電力ではないこと,一旦事故が起これば人・物・環境へ収拾のつかない被害を及ぼすことなど,原発のマイナス面を強調す
するだけでは有権者の心は動かないのです。

そうではなくて,原発は安い,日本の経済を社会を維持するには原発が必要不可欠であるという「原発推進の物語」を超える,説得力があり共感を呼
ぶ「脱原発物語」を提示する必要があったのに,できなかったといえます。

たとえば,脱原発によって,どのように素晴らしい生活のあり方や社会のシステムが得られるのか,どんなプラス面,利点があるかという,
いわば「脱原発の物語」を分かり易く語りかける必要があったのです。

この点に関して細川氏も,応援団長の小泉氏も準備不足であったことは否定できません。

今回の都知事選挙の結果をみて自公連立政権は,脱反原発,反原発は押さえ込めるとの自信を深めました。最近の自民党内の雰囲気は,原発再稼働は
当然のことで,原発の新設さえも可能だ,という風に,一気に原発推進に向かっています。

それだけでなく,自民党は安倍内閣が信任されたとの自信も深めたようです。憲法解釈の変更による集団的自衛権の合法化へと,これも一気に突き進
んでいます。

都知事選で舛添氏に投票した人たちは,自分がこのような選択をしたとは思っていないと思いますが,結果的には自民党のもっとも理想的な筋書き通
りになったのです。
これこそが,今回の都知事選のもう一つの,非常に重要で深刻な闘いだったのです。



(注1)最も低かったのは1987年(鈴木俊一氏が当選)で43.1%, 次が2003年(石原慎太郎氏当選)の44.9%でした。
(注2)参考のために,全立候補者を以下に示しておきます。
 
       年齢  所属  職業・経歴・その他
○ひめじけんじ (61) 無所属 自営業
○宇都宮健児  (67) 無所属 前日弁連会長/共産党と社民党が推薦
○ドクター・中松(85) 無所属 発明家
○田母神俊雄  (65) 無所属 航空自衛隊の元航空幕僚長
○鈴木達夫   (73) 無所属 弁護士
○中川智晴   (55) 無所属 一級建築士
○舛添要一   (65) 無所属 元厚生労働相/自民党東京都連と公明党東京都本部が
  推薦
○細川護熙   (76) 無所属 元首相/民主党、結いの党、生活の党が自主的に支援
○マック赤坂  (65) スマイル党 政治団体代表
○家入一真   (35) 無所属 IT会社役員
○内藤久遠   (57) 無所属 元自衛官
○金子 博   (84) 無所属 元会社社長
○五十嵐政一  (82) 無所属 一般社団法人理事長
○酒向英一   (64) 無所属 元市役所職員
○松山親憲   (72) 無所属 元高校教諭
○根上 隆   (64) 無所属 政治団体代表
(届け出順)

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【「いぬゐ郷だより」2】
3月6日は,2月の大雪で農道脇の竹が倒れ,農道を塞いでしまったので,竹切りををしました。(写真)



3月8日は,佐倉に借りた放置たんぼの手入れと,稲作の準備を始めました。
3月9日は,幕張にあるコミュニティーファームでの畑作の畝立てと植え付けをします。
これからとても忙しくなりますので,お手伝い下さる方は是非参加して一緒に自然農を体験してください。

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