大木昌の雑記帳

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憲法改正と安倍首相の「戦後レジームからの脱却」(1)-憲法改正の動きの背景-

2013-05-03 11:02:40 | 政治
憲法改正と安倍首相の「戦後レジームからの脱却」(1)-憲法改正の動きの背景-


最近マスメディアは,自民党が憲法改正の手続きを定めた96条の変更について頻繁に取り上げています。

96条の改定は,憲法の改正に対するハードルを下げ,より簡単に変更できるようにするためです。

ここで,なぜ,安倍首相と自民党は,憲法改正への動きを強めるようになったのかを考えてみる必要があます。

自民党は平成24年4月27日,「日本国憲法改正草案」を決定しました。これは,昨年の衆議院議員選挙の争点にはなりませんでしたが,
自民党の公約には入っていました。

ちなみに,「改正草案」という言葉は,いかにも正しいものに変える,というイメージがありますが,これはあくまでも自民党が「正しい」と考える,
という意味で,客観的には「改定」とすべきでしょう。ここでは,「草案」という言葉をつかうことにします。

安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を旗印に,歴代の自民党首相の中でも際だって憲法の改定の必要を強調し,これに向けて突進しています。

「草案」の中身を検討する前に,安倍首相が改憲にがむしゃらに突き進むなぜなのか,その背景を歴史的な経緯を含めて考えてみたいと思います。

安倍首相はこれまでも,「戦後レジームからの脱却」を唱えてきました。

安倍首相がいう「戦後レジーム」とは,敗戦後の占領下で導入された,さまざまな制度や法律,主義や理念などを指し,自民党も安倍首相も,
日本国憲法を,占領軍によって押しつけられたものと見なします。

新憲法には,財閥解体,農地改革(地主の土地を旧小作に配分する),学校教育制度などなど,多数の項目が含まれます。たに

日本の占領は,形式的には連合国と連合軍によって行われたことになっていますが,実態はアメリカ軍と政府によって実施されました。

占領の主たる狙いは,日本が二度と戦争を引き起こさないよう,その芽をつみ取ることにあったといえます。

その要点は,軍事力を保持させないことと,国民を戦争へ駆り立てることに寄与した「封建制」を打破し,民主化を進めることでした。
この中核ともなったのが,新たな憲法の制定でした。

こうして,連合国軍最高司令官総司令部の監督の下で日本人により新憲法が作成され,昭和22年(1947年)5月3日に発布されました。

新憲法(「日本国憲法」)の基本理念は,平和主義と基本的人権の尊重を基調として,「立憲国家」を築くことにありました。

「立憲国家」というのは,憲法によって国民が権力者(権力を握っている政府や行政)の勝手な行動をさせない仕組みを持つ国家体制のことです。

王や独裁者が,勝手に権力をふるう王国政治や独裁制度とはここが根本的に違います。

自民党は,戦後の憲法は「押しつけ憲法」であり,自民党は日本人による「自主憲法」制定することを党是としてきました。

戦後の新憲法が,アメリカの自由主義・民主主義にたいする理想主義的な理念も影響が反映していたことは確かでしょう。

ここで,現行の日本国憲法を「押しつけ憲法」とみるかどうかは意見が分かれるところです。

しかし,経緯はどうあれ,そこに謳われている理念は,発布以来,日本人に広く受け容れられ,世界でも一定の評価を得てきました。

だからこそ,戦後65年以上も,事実上政権を担当してきた自民党も,具体的に憲法改正には乗り出せなかったのです。

最近のテレビや新聞で,改憲に関する報道は頻繁に行われていますが,現在という時代背景の中で,なぜ,
安倍首相が改憲に突っ走ろうとしているのかについては深く論じられていません。

改憲は安倍首相がづっと抱いてきた個人的な思い入れでもありますが,安倍氏が国会議員になって以来ずっと,
改憲のために具体的に草案の作成作業を続け,運動をしてきたわけではありません。

具体的な時期は分かりませんが,改憲への機運が本当に高まったのは,ここ5~10年ほどではないでしょか。

そこには,日本経済が長期の不況に喘いでいる状況にたいすして国民の間に自信の喪失と鬱屈した気分が蔓延していること,
そして,これがもたらす,国際社会において日本の地位が低下していることにたいして危機感を抱くようになったことがあると思われます。

まず,戦後日本の誇りの源泉は,その経済力でした。高度経済成長期を経て,長期にわたってGDP世界第二位の地位を維持してきました。

当時,海外に旅行で出かけた日本人が,まさに札束で横っ面をひっぱたくように,東南アジアで買い物する姿を目の当たりにして,
私は非常にショックを受けました。

しかし,「失われた10年」とも「失われた20年」とも言われる経済の低迷のため,国民の生活は一向に豊かにならないどころか,
賃金はずっと下がり続けています。

これによって,経済的繁栄に裏打ちされた日本人の自信は,経済的衰退とともに大きく傷つき失われつつありました。

他方,日本の経済は年ごとに後発国に追いつかれ,ついに2010年,日本のGDPは中国に抜かれ,世界第二位から第三位へ転落してしまったのです。

この危機感は,一般国民よりもむしろ安倍氏をはじめ自民党や政治家に強かったのではないでしょうか。

日本とは逆に,順調な経済成長に裏付けられて,中国は日増しにその力を誇示するようになりました。

今から9年前の小泉政権時代,すでに中国船の尖閣諸島への進出は行われていたのです。

このころから,政府は中国の行動に強い警戒心を持つようになっていました。

それが,2010年以降になると中国はさらに頻繁に,そして大規模に尖閣列島周辺に出没するようになったのです。

同年9月には,中国漁船が日本の海上保安庁の船に激突した事件は映像が公開されたこともあって,記憶に新しい光景です。

そして,2012年には香港の漁船の船員が尖閣島へ上陸し,2013年になると,中国の海洋監視船が大規模かつ頻繁に領海を侵犯するなど,
尖閣をめぐる中国の行動はエスカレートの一途をたどっています。

このような動きに対して,2013年4月23日の予算委員会で安倍首相は,中国の漁民などが、「領海に入って上陸するといういかなる試みにも,
断固たる対処をすると当局に指示している」と述べ,さらに踏み込んで 「万が一、上陸するとなれば、強制排除するのは当然のことだ」
とも述べました。

ここには,中国の進出にたいする危機感がはっきりと表れています。

尖閣問題と並行して,竹島に韓国の大統領が上陸するなど,日本人の気持ちを逆なでする問題が発生発生しました。

こうした一連の出来事は,多くの日本人に,「中国けしからん」「韓国けしからん」といった,ある種の「ナショナリズム」を喚起したものと
思われます。

安倍首相は,領土問題をきっかけに日本人の間に芽生えた「ナショナリズム」の高陽を追い風に,この際,一気に改憲への道を走ろうとしている
ように見受けられます。

以上を要約すると,安倍首相と自民党が改憲に突き進んでいるのは,一方で経済が停滞して世界の中での地位の没落にたいする自信喪失と,
中国や韓国の経済成長を背景にした政治・軍事的な攻勢にたいする危機感と,それに対する対抗意識が主な背景ではないかと考えられます。

このような国内外の状況を背景に,安倍首相の言動は,一方で人気取りでもある景気(必ずしも「経済」ではない)を浮揚させて経済の立て
直しを図り,日本人が再び自信を取り戻し,他方で改憲により国家主義を強調し軍事的にも強い日本を構築しようとしているように見えます。

次回から何回かに分けて,自民党の「日本国憲法改正草案」の中身を検討したいと思います。
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