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2013年参議院選挙(2)-選挙結果は何をもたらすのか-

2013-08-03 05:16:50 | 政治
2013年参議院選挙(2)-選挙結果は何をもたらすのか-


前回の「2013年の参議院選挙(1)」では,参院選の結果から,国民が何を選択したのか,そして,自民圧勝は何を意味するのかを
大ざっぱにみました。

そこでは,自民圧勝をもたらした国民の選択とは,単純化してしまうと,“景気が上向くのではないか”という,いわば目先の金銭の
問題だったことを指摘しておきました。

今回は,それでは,この選挙結果は日本という国家と私たちに何ももたらすのかを考えてみたいと思います。その前に,安倍首相が
選挙期間中に盛んに語っていた,大目標について触れておきたいと思います。

それは,「ねじれの解消」によって「決められない政治」を打開し「決められる政治」を実現する,ということでした。

これには背景があります。2009年の政権交代まで自民党は参議院で過半数割れの「ねじれ」のため,政策の遂行に苦労したという怨念に
近い感情があります。

そこで今回の選挙では「ねじれの解消」という,本来は選挙の争点ではあり得ないテーマを前面に押し出して選挙戦を展開しました。

ただ,自民党が言う「決められる政治」「スピード感のある政治」というのは法案を通すことで,現実に政策をスピーディーに実行する
ことを意味しているわけではありません。

たとえば,昨年末に政権を取って以来,福島や三陸地域の復興,特に被災者にたいする補償や援助などはあまり進んでいないのが現実です。

さらに私は,そもそも「ねじれ」は政治において悪いことなのか,という点に大いに疑問を感じます。アメリカでもイギリスで,他のヨー
ロッパ諸国では与党と野党が「ねじれ」ている事は珍しくないし,むしろ普通です。「ねじれ」は特定の勢力の独裁と暴走を抑える防波堤
なのです。

もし,与党が両院で多数を占めてしまえば,確かに与党の思い通りになりますが,それが国民の利益になる保障はありません。

政治はあくまでも,国民のために存在するのであって,そのために政権与党は野党勢力と国民を忍耐強く説得することが使命なのであり,
それこそが民主政治の本質なのです。

もし,与党勢力の思い通りに国会を運営したいというのなら,それは政治の本質の放棄です。実際に,公明党と連立を組んで参議院でも
安定多数を確保した今,安倍政権は理論的には何でも決めることはできるのです。

さて,前回の記事で,今回の選挙で自公の圧勝をもたらした,もっとも重要な要因は,民主党に対する失望と,国民の多くが(といっても,
自公合わせも25%ほどですが)抱いていた「景気の回復」への願望であったことを書きました。

考えるべき重要案件としては憲法問題も,国防軍の問題も,TPP問題など多数ありますが,今回は自民党に勝利をもたらした「景気の回復」
を豪語するアベノミクスの中長期的な影響について考えてみます。

まず,前回も書いたように,選挙当時の円安は一部の大企業,特に比重が大きい自動車産業の大企業には追い風となったことは確かです。

しかし,勤労者の7割を占める中小企業にはその効果は及んでいませんし,今後,次第に及んでくる保障はまったくありません。

さらに,マスメディアに登場するエコもミスたちは,一般の国民に景気の回復の効果が及ぶのは2年後くらいでしょうと言っていますが,
これさえ根拠があるわけではありません。

むしろ,現行の「異次元の金融緩和」は,物価の上昇を通じてインフレを克服しようとしているので,一般の勤労世帯の所得が上昇したとして
も,その時には物価も上昇しているはずですから実質的な所得の増加にはならない可能性があります。

物価の上昇以上に所得が上昇するためには,物価の上昇以上に生産性(企業の利益)が上昇しなければなりません。高度経済成長期には輸出を
テコにこのような事が起こりました。

当時は韓国や中国,インド,シンガポール,台湾などはまだ日本の競争相手になっておらず,ヨーロッパ諸国もまだ完全には復活していません
でした。

これにたいして戦後いち早く経済再建に乗り出した日本は,国際貿易において非常に有利な国際環境に恵まれていました。

しかし,現在では新興工業国の追い上げが激しく,当時とは国際環境が全く異なります。

したがって,現在の政策によって,自民党に投票した人たちの願望を叶えてくれることには大いに疑問が残ります。

それよりも深刻なのは,巨額の財政赤字です。これは将来,国民経済全般と私たちの暮らしを確実に圧迫してくることです。

日本は,歳入の不足分を国債を発行することで(借金で)賄ってきました。これまで国債は主に銀行が買い,ある程度は個人も買ってきました。

こうして積もり積もった国債の債務残高は約1000兆円と見積もられています。

これは国の借金であり,日本の財政赤字です。この借金の大部分は,長期にわたる自民党政権時代に公共事業を中心とした,いわゆる「箱物行政」
「土建屋国家」の体質によって積み上げられた金額なのです。

これに加えて,安倍政権は「異次元の金融緩和」を実施し,日銀は毎月7兆円分,政府が発行する国債の7割を購入しています。

計画では今後2年間で270兆円も,国債によって貨幣供給量を増やそうとしています。言い換えると,さらに赤字国債(借金)を増やす
ということです。

270兆円というのは国家予算の3倍にも相当します。「大胆な金融緩和」を最初に打ち出したアメリカの中央銀行に相当するFRBでさえ,
市中への貨幣供給量の増加を3兆ドルと,国家予算の規模に留めているのです。

しかし,日銀はいつまでも国債を買い続けるわけにはゆきませんから,いつかは買い上げ額を減らさなければなりません。その時には現行の低い
利子では買い手がないため国債価格は暴落し,金利は上昇します。この結果は国民生活のあらゆる分野に及びます。

まず,数百兆円もの国債を抱える銀行にとっては大打撃となります。倒産の危機にさらされる銀行もあるかもしれません。また,現在の借金を
国民一人当たりに換算すると,赤ん坊から老人まで全ての国民1人あたり800万円以上になります。しかも,元金の返済に利子の支払いも加
わり,借金はどんどん増えてゆきます。

こうして現在では,元利の支払いが税収でまかなえないため,その不足分を賄うために再び国債(赤字国債)を発行することになります。

一般会計の歳入に占める税収の割合は平成3年度に86.8%であったものが,昨年には42.4%へ激減しました。

逆に言えば,歳入の半分以上の58%ほどを国債(借金)でまかなっているのです。(注1)

では,この膨大は借金を誰がどのようにして返してゆくのでしょうか。もちろん,最終的には国民が負担する以外にありません。

一つは,景気が回復して企業の収益が上がり,法人税が増える,労働者の賃金が上がる,というプラスの連鎖が続けば,徐々に借金を減らして
行く,もっとも理想的なシナリオです。しかし,大企業の7割はさまざまな租税優遇措置を利用して法人税を払っていません。(注2)
そのうえ企業は内部留保を積み増しするだけで,労働者の賃金を挙げる気配がありません。

「異次元の金融緩和」がもたらす財政赤字への疑念に対して安倍首相は世界に向けて,これはインフレ誘導ではなくデフレ脱却政策であると説明
してきました。

しかし,日本の巨額の赤字を抱える日本が財政の健全化に失敗すると,国債は急落(金利は急騰)し,日本経済が混乱し,その影響は世界に波及
します。

この状況にドイツのメルケル首相は,6月のG8サミットで,「日本の財政健全化の実現に強い懸念を表明しました。それにたいして安倍首相は,
9月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で財政再建計画を説明する予定ですが,各国の理解を得ることは非常に難しい状況にあります。
(『毎日新聞』2013年7月27日)

政府が9月のG20で説明する予定の中期財政再建計画の概要が7月26に明らかになりました。それは,2015年度の財政赤字を,10年度比で
半減する財政健全化目標を達成することで,そのために13年度の赤字財政約34兆円を,15年度に約17兆円まで圧縮するというものです。

しかし,歳出と歳入の具体的な金額は盛り込んでいない上,歳出抑制や増税など,計画実現に向けた具体的策にも触れていません。

つまり,現段階では財政赤字が年ごとにどのようにして半減してゆくのかについては,具体的な根拠を示していないのです。

しかし,一般会計の歳出のうち,4分の1は赤字国債への元利払いに当てられているのが現状では,1000兆円の借金を返すのは容易なことでは
ありません。

一般家庭で言えば,収入よりも借金の方が多い赤字家計が常態となっているのです。結局,日本が財政破綻を回避して財政の健全化を図るには,
ではどうして歳入を増やすのか。

まず,確実にそして最も手っ取り早く歳入を増やす方法は,消費税を上げることです。政府は平成15年には今より3%上げて8%に,16年には
10%に消費税を上げる計画ですが,これでも景気の動向によって実現できるかどうか分かりません。本当に消費増税を中心に赤字の減少を考える
なら,消費税率を15%とか20%に上げる必要があるかも知れません。

ところが,消費税を上げたために消費が落ちる可能性も大きく,トータルで税収が増えないことも大いにあり得ます。

次に歳出を抑える方ですが,これも極めて困難です。その一つの理由は,自民党が「国土強靱化法」の名の下に,今後10年間で200兆円の公共
事業を実施しようとしていることです。自民党の復権で,従来どおりの「土建屋国家」も復活したのです。これこそ自民党議員が待ち望んでいたこ
となのです。

そこで,政府がねらっているのは,歳出の中でも特に大きな比重を占め,さらに増え続ける可能性があう社会福祉予算を削ることです。

なかでも,年々1兆円も増大する年金の支払いを減らすことは主要な課題で,そのためには,受給開始年齢をさらに引き上げ,かつ支給額を減らさ
なければなりません。さらに年金受給者でも,ある程度以上の収入があれば減額するといったことも考えています。

この他,高齢化とともに増え続ける医療費についても補助の削減,貧困者への生活扶助の減額,親族に扶養能力があれば生活保護は受けられないよ
うにする,母子家庭への補助を減額する等,要するに生活かんする様々な国家的な給付を減らし,できる限り自己責任,自己負担の方向に持ってゆ
こうとしています。

現実に,8月2日,政府の社会保障制度改革国民会議は,民主・自民・公明の3党合意を無視して,給付減と自己負担のアップを打ち出しました。

年金の減少,医療の自己負担増に加えて,「異次元の金融緩和」により貨幣価値は確実に下がりますから,老後の蓄えも日々,目減りしてゆきます。

高齢化にともなう年金や医療の増額は仕方がないとしても,不要・不急の土木工事のために巨額の国債を発行し,さらに借金を増やし,その付けを
国民に押しつける可能性が大です。

現在,復興予算として組まれた巨額のお金の多くはゼネコンや土建業界に流れているし,中にはほとんど復興と関係ない事業に,子供だましの理屈
をくっつけて使われています。

それでも経済が回復して,国民が安心して暮らせる社会が実現できればいいのですが,どう考えても今回の参議院選挙で勝利した自民党が掲げる
「アベノミクス」は莫大な財政赤字を増やして,経済は一層の混乱をたどることしか考えられません。

今回の選挙で自民党を選択してしまったということは,以上のような不安とリスクを,私たち国民が自民党に信任を与えたといことです。
私たちはそう遠くない将来,「こんなはずではなかった」という苦い思いをさせられるのではないか,と心配しています。


(注1)財務省のホームページより。http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.htm 2013/07/28 参照)
(注2)http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/economic_confe/list/CK2013012502000167.html (『東京新聞』電子版 2013年1月15日)2013.7.25.参照。
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