大木昌の雑記帳

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菅内閣誕生(1)―練りに練った執念の首相の座―

2020-09-17 08:32:16 | 政治
菅内閣誕生(1)―練りに練った執念の首相の座―

2020年9月14日自由民主党は菅義偉氏(71)を総裁に選び、16日の臨時国会で
第九九代首相に指名され、菅内閣が発足しました。

この新内閣はまだ誕生したばかりなので、その評価は現時点では何とも言えません。以下
に、現時点での私の個人的な感想を書いておきます。

菅氏はこれまで、総裁選に出馬すること(首相の座を狙っていること)をずっと否定して
きました。

ところが、安倍首相の突然の辞任したため、急遽、次期の総理総裁を決める必要が生じま
した。この時になって、菅氏は総裁選に出馬することを発表しました。

この時の出馬会見で菅氏は、「熟慮に熟慮を重ねて判断」し、安倍政権を支えてきた一人
として「やむを得ず出馬に至った」ことを強調しました。

しかし、『週刊朝日』(9月18日号)の「菅義偉 “首相”のギラつく野心」と題した記
事や、『週刊ポスト』(25日号)の「菅義偉『姑息な新宰相』“アベ官邸乗っ取りの全
内幕」などの記事によれば、出馬会見での言葉はにわかに信じられません。

というのも、そこには「菅氏は自民党の二階俊博幹事長と水面下で手を握り、早い段階か
ら次期総裁のイスを虎視眈々と狙っていた思惑が垣間見えるからだ」という(『日刊ゲン
ダイ』2020年9月9日号)。

これについて、『東京新聞』(2020年9月15日)が詳細に報じています。それによると、
今回の首相選出の3か月前、まだ安倍首相(当時)の健康上の問題はまったく話題にもな
っていなかった、今年の6月17日、国会が閉幕したその夜、菅氏、二階幹事長両氏と森
山裕国対委員長、林幹雄幹事長代理は膝を突き合わせた。そして以下のような会話が交わ
されたという。

二階氏はすでに菅氏の野心を見抜いており、「次はあんたしかしない」、というと菅氏は
「首相が四選出馬しないなら目指したい」と本音を明かし、二階氏らは支援を誓った。

菅総理総裁への決意表明と二階氏による菅首相選出へのレールが敷かれ、菅首相誕生が規
定路線として決まった瞬間でした。

ただこの時点では、四氏の念頭にあったのは、任期満了にともなう来年秋の総裁選でした。
ところが、安倍首相は8月28日、突如、病気を理由に辞任を発表します。

退陣発表に先立って、安倍首相は官邸で麻生氏と会い、「緊急再登板」(つまり首相に再
登板)を打診したが、麻生氏は固辞しました。続いて、安倍首相は「次は菅さんだね」と
伝えました。これは事実上の後継指名でした。

さて、6月の二階氏を含む4人の会談と結論(菅首相の実現)について安倍首相が知って
いたのかどうかは分かりません。私は知らなかったと思います。

この際、安倍首相が菅氏を指名した最大の眼目は「石破氏つぶし」でした。政権幹部は、
それまで政権中枢から排除されてきた「石破氏が天下をとれば、(安倍)首相への報復が
必定だ」と漏らしています

8月28日の、安倍首相辞任発表の翌日、29日には二階氏、森山氏、林氏の三氏は菅氏
の求めに応じて集まり、その場で菅氏が「総裁選に出るのでよろしくお願いします」と伝
えました。菅首相誕生への最終確認でした。

6月からの「腹合わせ」で二階氏のシナリオ通り(二階派幹部)、自民党7派閥のうち
5派閥が、勝ち馬に飛び乗るように我先に菅氏支持に回わりました。

では「石破の追い落とし」は、どのように行われたのでしょうか?一つは、総裁選挙は地
方党員も含めたフルスペックの方法ではなく、両院総会で国会議員と各県3票の地方票に
よる投票、とすることでした。

というのも、議員プラス地方党員全員の総裁選を行えば、地方に人気がある石破茂氏が勝
つ可能性があったからです。これを避けるために二階氏は緊急事態を理由に、そして幹事
長の立場を利用して後者に導きました。この時点で石破氏の目は全くなりなりました。

石破追い落としのもう一つは、総裁選の際に、菅氏を支持する派閥から20票ほどがもう
一人の候補者、岸田文雄氏に流され、石破茂氏を何としても最下位の3位に落とし、来年
の総裁選への立候補の芽を摘んでおこうとする反石破勢力によって実行されたことが分か
っています(『東京新聞』2020年9月15日)。

さて、私は総裁選・首相選出の裏話、それ自身にはあまり興味はありませんが、安倍首相
の思惑とは別に、二階―菅ラインで密かに菅首相へのシナリオが書かれ、実行されたこと
は、今後の菅内閣の運営を見てゆく際に、心に留めておく必要があります。

私個人として、官房長官としての菅氏について、ある種、本能的な恐怖と不気味さ、そし
て暗さを感じてきました。

菅氏は、官房長官としての記者会見の際、あまり正面を向かず、分厚なノートのようなも
のに目を落としながら、ほとんど無表情で抑揚のない話し方をします。こうした雰囲気か
ら私は、菅氏とロシアのプーチン大統領と同様の印象をもっています。

2017年5月に、それまで政府の加計学園問題に関して批判していた文部事務次官(文部官
僚完了のトップ)が新宿歌舞伎町の出会い系バーに通っていたことを話したとき、唇の端
のほうで、かすかに薄笑いを浮かべているように私には見えました。

ついでに言えば、前川氏はそこで決していかがわしい行動をしていたわけではありません。

この時の一瞬の映像に私は、芯から菅氏の不気味さを感じ、背筋が寒くなる思いをしまし
た。そしてこの時の菅氏の表情は今でも脳裏に焼き付いており、不気味さの感覚は今でも
ずっと続いています。

この出会い系バーに通っていた、という情報事態は読売新聞の記事(2017年5月22日の
朝刊)を引用する形を取っていますが、それでは読売新聞はどこから情報をえたのか、な
ぜ、前川氏の行動を監視していたのでしょうか?

私は直感的に、ここには誰かが指示をして前川氏をマークしていたのではないか、と思い
ましたが、この点についてメディアはフォローしていません。

歌舞伎町の関係者は、この出会い系バーには、それまでにも警察にマークされていたよう
だ、と語っています(注1)。

それでは、なぜ警察はこのバーをマークしていたのでしょうか、誰の指示で警察は監視活
動をしていたのでしょうか?

真実は闇の中で、本当のことは分かりません。しかし、最近菅氏の総裁選に関連して幾つ
かの記事を読んで、なぜ、菅氏から受ける印象が暗いイメージをもつにか何となく腑に落
ちました。『日刊ゲンダイ』2020年9月9日号)は次のように書いています。

    危機管理という名のもとに菅が重用した「官邸ポリス」と呼ばれる警察官僚、警
    察権力との関係にも底知れぬ闇を感じざるを得ない。    
そして、政治ジャーナリストの伊藤博敏が『日刊ゲンダイ』に書いた「政権の闇」と題す
るコラム記事を引用して、
    「菅」を支えるのが公安警備畑の警察官僚だとすれば、ただでさえ華のない菅政
    権が、地味で暗いものになるのは避けられまい。

もう一つ、ジャーナリストの北丸雄二氏が『東京新聞』2020年9月4日に書いた「第5次
アベ内閣」と題するコラムで、この内閣(もちろん菅氏も含まれます)は
    内閣情報調査室で反対勢力の情報を握り、内閣人事局で官僚人事を握り、内閣法
    制局でほしいままの法解釈を手中にする無敵の第五次アベ内閣が継続するらしい
と書いています。

菅氏は霞が関の人事権を掌握し、政権の意に沿わない官僚は「移動してもらう」(左遷す
る)ことを明言しており、ある省庁幹部は「首根っこをつかまれ、官邸に意見を言いにく
い空気が続く」とことを危ぶんでいます(『東京新聞』2020年9月15日)

前出の前川氏は、安倍政権の権力を支え、内政を仕切っていたのは実質菅氏だったから、
このような体質は、菅内閣ではさらに強化されると警戒しています(『日刊ゲンダイ』
2020年9月9日号);(注2)

私は、もし菅政権が、官僚を左遷の恐怖で支配し、自由な議論を抑え込むことになれば、
日本にとって非常に大きな損失だと思います。

なぜなら、恐怖による支配下では官僚のモチベーションも下がり、優れたアイディアで
も出てきにくくなります。官僚は、ただ官邸の指示通り、無難に仕事をするだけになり
ます。しかし、本来は、自由闊達な議論こそが国を良くする源泉です。

先日、官庁にインターンで働いている東大生が、その省庁の優秀な官僚がどんどん辞め
ている、と語っていました。

さらに、菅官房長時代の菅氏の記者会見で記者の質問に対する答え方がとても気になっ
ていました。

映画監督の想田和弘さんは菅氏の答え方について、「コミュニケーションを一切遮断し
ている」と批判してきた。中でも繰り返された「ご指摘はあたらない」「まったく問題
ない」という説明を問題視します。

どんな質問をしても木で鼻をくくったような回答が返ってくるだけだと追及ができなく
なり、あたかも『無敵』に見える。だが、実は対話の土俵に乗るのを拒むもので、記者
の背後にいる国民とも対話する気がないという姿勢の表れだ」と話す。会見の主催は内
閣記者会で、「記者は質問を工夫し、追及しなければ」と注文を付ける(注3)。

これは菅氏が質問への答え、説明することを事実上拒否している姿勢で問題だと指摘す
る一方、質問する記者も工夫すべき、と注文を付けています。

私もまったく同感です。

たとえば、12日に開かれた記者クラブ主催の公開討論会で、森友、加計学園や首相主
催の「桜を見る会」について聞かれ、森友問題の公文書改ざんについて菅氏は「財務省
で調査し、検察でも捜査した。結果は出ている」、だから追加の調査はしない、と答え
ています。

財務省の調査が本当に適切であったか、検察の捜査が公正であったか、という問題もあ
る。この点に関して石破氏は、検察がどうのこうでではなく、70パーセント以上の人
が納得していないのだから、それを説明するのが政治の責務だ、としごくまっとうな反
論をしていました。

加計学園問題にしても「法令にのっとって、オープンなプロセスで検討が進められたこ
とが明らかになっている」、だから第三者による再調査は必要ない、とこれまでの回答
を繰り返しました(『東京新聞』2020年9月13日)。

そして、世論が納得しているか認識を聞かれたのにたいして、「世論というより、やは
り政府」と答えています。つまり、世論がどうあれ、政府の意志決定が優先すると、言
っているのです。この姿勢にも私は大いに疑問と不安を感じます。

菅氏が、全て過去の問題は決着済みだから、再調査する必要はないという態度を今後も
取り続けるとしたら、そして、今までのように「木で鼻をくくったような」回答しかし
ないとすれば、国民の菅政権に対する信用は失われてしまうでしょう。

(注1)NEWSポストセブン( 2019年4月7日 7時0分 )
https://news.livedoor.com/article/detail/16278770/
(注2)『サンデー毎日』デジタル版 2020年9月10日 05時00分(最終更新 9月10日 11時57分)
  https://mainichi.jp/sunday/articles/20200907/org/00m/010/003000d
(注3)『朝日新聞』(デジタル)2020年9月15日 20時36分
https://www.asahi.com/articles/ASN9H6JVDN9HUTIL00S.html?ref=hiru_mail_topix2_6

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