アメリカ雑感(1)―ピッツバーグで感じたこと―
思いがけない所用で12月16日から27日までアメリカのピッツバーグを訪問し、
考えさせられることを見聞きしました。
これら見聞きしたことの一部でも、文章にするととても長くなりますが、これから
何回かに分けて書いて行きたいと思います。
ピッツバーグは、アメリカ東部のペンシルバニア州の南西部にあります。ペンシル
バニア州は、 東をニューヨーク州と、北は五大湖の一つ、エリー湖を経てカナダ
と接するアメリカの北東部の一角を占めています。
歴史的には「鉄鋼王」「カーネギー・ホール」で有名なカーネギー家の本拠地の一
つであり、トマト・チャップをはじめ種々の調味料、スープなどの製造業で有名な
ハインツの本拠地でもあります。
都市部の人口は30万人ほど。ここにはピッバーグ大学を始め、カーネギー・メロ
ン大学を始め、いくつかの大学、さらにフェイスブック社の調査研究所などがあり、
市は、大学や私的公的な機関も含めて知識・情報産業の育成に力を入れています。
今回の渡米の一つの目的は、アメリカの医療事情、とりわけガン治療の現状を知る
ことでした。
これから、折を見てピッツバーグの生活の色々な面を書いてゆこうと思いますが、
今回は、家屋と日常生活で気が付いたことを幾つか思いつくままに書いてみます。
まず、私が強い印象を受けたのは、今回、私がお世話になった家の住宅地区にある
家屋が、一軒一軒、とても大きかったことと、それぞれが非常に個性的な建築物に
なっていることでした。
とりわけ特徴的なのは、6割くらいの家が赤茶色のレンガ作りか、ちょっと古そう
な家は、イギリスなどで見られる石作りでした。そして、大部分の家は屋根裏部屋
を含めて3階建てとなっています。
この住宅地区は、特別に富裕層が住む地区ではなく、主に中流階層が住む地区で一
軒の敷地の面積が、日本的に言えば、150~200坪くらいで、そこには母屋と、
前庭(道から5メートルほど)、母屋、車庫、そして裏庭があります。
そして、大部分の家には屋根裏部屋がついて、3階建てになっています。
車庫は、大きな車2台が入る家屋になっていて、これだけでも日本の小さな一軒屋
くらいあります。
ただ不思議なのは、大きな車庫があるにもかかわらず、家の前に道には路上駐車し
ている車がずらりと並んでいることです。これは、街の中でも商店街でも同じです。
道が広いので、路上駐車しても交通の妨げにならないのでしょう。
印象的だったのは、この前庭には多くの場合、樹木、樫の木(オーク)が、生えて
いることです。ピッツバーグにも「オークランド地区」があるので、北米は樫の木
に覆われた原野がひろがっていたようです。
私が見た一軒の家の前庭には、直径が80センチくらいもある巨木が3本も生えて
いました。しかも、枝切などしていないので、葉の落ちた木の枝がまるで空を覆う
ように伸び放題になっていました。樫の木に次いで多かったのは、これもしばしば
巨木となったマロニエでした。
私が行ったころは、雪も降っていてマイナス10度以下で、家の暖房は、薪の暖炉
(実際には、これは補助的)とガスや電気のヒーターが24時間作動していました。
こうした家が一体いくらいするのか聞いてみた所、大体、日本円で5000万円か
ら6000万円くらいだそうです。
このようなことをこまごまと書いたのは、アメリカの中流家庭の家のおおざっぱな
イメージをもってもらうことです。
アメリカ人は移動を面倒がらないので、他の地に仕事があれば、それほど抵抗なく
家を売って移動してゆくようです。
私が歩いてみて回った、ごく近くの家並みだけでも、「売り家」(For Sale)の家
が2軒ありました。
そして、ところどころに、家の前に下の写真にあるような小さな看板が掲げられて
います。これは、私たちは黒人や女性、同性愛者、ユダヤ人を差別しません、全て
の人を受け入れます、ということを外に向かって表現した住人のメッセージです。
一般的には、ピッツバーグは、古い産業が廃れて町が「錆び付いて」しまった、最
近の言葉で言えば「錆び付いた地域」(ラストベルト)の一角で、保守的でトラン
プ支持者が多い地域ですが、こうしたメッセージを堂々と外に向かって発している
人々もいるのです。
日常生活は、基本的には日本とそれほど変わりませんが、大きく変わるのは、買物
であれ通勤であれ、中流以上の階層の人たちは、基本的に移動は自家用車です。
しかし、全ての人が自家用車を持てるとは限りません。そのような人々は、バスを
利用することになります。
実際には、バス停でバスを待っているのは、ほとんどがアフリカ系の人びとでした。
今回は彼らが住んでいる住宅地に行く機会はありませんでしたが、次回に渡米する
きかいがあったら、是非訪ねてみたいと思います。
アメリカ社会は、1%の富裕層と99%の貧困層と、表現されることがあります。
それほど極端ではなくても日常の消費生活には貧富の格差がはっきりと表れます。
日常食品を買うスーパー・マーケットが中流以上と以下の階層の人によって、はっ
きり分かれます。
とりわけ、野菜や果物などの生鮮食品について言えば、無農薬で健康的な「有機」
(organic)の表示のあるものを主力とする店と、何も表示のない商品を売ってい
る店とがはっきりと分かれています。
もちろん、「有機」野菜や果物の値段は、そうでないものより、ずっと高くなって
います。
ピッツバーグにも、貧困層向けの生鮮食品をうっている店が集まっている区画があ
り、そこでは治安が悪かったそうです。
そこに、食料品や衣料、ホームセンター的な商品を扱う、大手の総合的大型店舗が
この地域の近くに進出して以来、この区画から徐々に貧困層向けの店が撤退しはじ
めて、今ではその面影もなくなっています。
このように、物理的に追い出すのではなく、“結果として”そのような店が撤退し、
それを利用していた人たちの姿が消えてゆくことを、 “gentlification” という
造語で表現しています。
これは造語なので、何とも日本語訳は難しいのですが、もじからすると「紳士的に
する」というほどですが、敢えてニュアンスを訳すると、「平静で、清潔で品格の
ある場所にする」といったほどの意味になるでしょう。
もっと露骨に言えば、私は、不潔で治安の悪い地区の「浄化」が本音なのではない
かと思います。
ところで、旅行者がピッツバーグのようなアメリカの都市で動き回る際に注意しな
ければならないのは、車にタクシーと書いていたり、車の屋根にタクシーの表示灯
を付けて街の中を流しているタクシーはめったにない、ということです。
実際、私の滞在中、このようなタクシーは1台しか見ませんでした。それでは住民
でタクシーを利用する時は、日本でも問題になっている「ウーバー」をフマホで呼
ぶことになります。
すると、近くにいたウーバーのタクシーが応答し、瞬時にスマホに顔と名前、車の
写真、そして、到着時間(分単位)で表示され、さらにGPS機能で、呼んだ場所
までタクシーがどこまで走っているかがリアルタイムで表示されます。
支払いは全て銀行口座からの引き落としなので、利用者は、まず銀行口座をもって
いることが前提で、ウーバーと予め契約していることが必要です。
ということは、旅行者がウーバーを利用することはできないし、現地の住民でも、
信用があってウーバーという会社が信用できる銀行口座をもっている場合でないと
利用できません。そのような人は、バスを利用することになります。
私を案内してくれた人と乗った時に聞いたところ、ほとんどのウーバーのドライバ
ーは定年退職した人たち(特に興味深いのは、退役軍人が何人かいたことです)で
した。
アメリカ社会では、富裕層はとても健康で快適な生活ができますが、貧困層にとっ
てはかなりの厳しく不便な生活を迫られる、という印象をもちました。
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住宅街の景観 一軒の家の前庭に生えている3本の巨木
赤レンガの家(もちろん個人の住宅です) 人気の石作りの住宅
家の前に掲げられた看板のメッセ―ジ(私たちは黒人、女性の権威は人間としての権利、 別のメッセージ版(あなたがどこから来た人であろうと、あなたは私たちの隣人です)
化学は真実であることを信じます)。
思いがけない所用で12月16日から27日までアメリカのピッツバーグを訪問し、
考えさせられることを見聞きしました。
これら見聞きしたことの一部でも、文章にするととても長くなりますが、これから
何回かに分けて書いて行きたいと思います。
ピッツバーグは、アメリカ東部のペンシルバニア州の南西部にあります。ペンシル
バニア州は、 東をニューヨーク州と、北は五大湖の一つ、エリー湖を経てカナダ
と接するアメリカの北東部の一角を占めています。
歴史的には「鉄鋼王」「カーネギー・ホール」で有名なカーネギー家の本拠地の一
つであり、トマト・チャップをはじめ種々の調味料、スープなどの製造業で有名な
ハインツの本拠地でもあります。
都市部の人口は30万人ほど。ここにはピッバーグ大学を始め、カーネギー・メロ
ン大学を始め、いくつかの大学、さらにフェイスブック社の調査研究所などがあり、
市は、大学や私的公的な機関も含めて知識・情報産業の育成に力を入れています。
今回の渡米の一つの目的は、アメリカの医療事情、とりわけガン治療の現状を知る
ことでした。
これから、折を見てピッツバーグの生活の色々な面を書いてゆこうと思いますが、
今回は、家屋と日常生活で気が付いたことを幾つか思いつくままに書いてみます。
まず、私が強い印象を受けたのは、今回、私がお世話になった家の住宅地区にある
家屋が、一軒一軒、とても大きかったことと、それぞれが非常に個性的な建築物に
なっていることでした。
とりわけ特徴的なのは、6割くらいの家が赤茶色のレンガ作りか、ちょっと古そう
な家は、イギリスなどで見られる石作りでした。そして、大部分の家は屋根裏部屋
を含めて3階建てとなっています。
この住宅地区は、特別に富裕層が住む地区ではなく、主に中流階層が住む地区で一
軒の敷地の面積が、日本的に言えば、150~200坪くらいで、そこには母屋と、
前庭(道から5メートルほど)、母屋、車庫、そして裏庭があります。
そして、大部分の家には屋根裏部屋がついて、3階建てになっています。
車庫は、大きな車2台が入る家屋になっていて、これだけでも日本の小さな一軒屋
くらいあります。
ただ不思議なのは、大きな車庫があるにもかかわらず、家の前に道には路上駐車し
ている車がずらりと並んでいることです。これは、街の中でも商店街でも同じです。
道が広いので、路上駐車しても交通の妨げにならないのでしょう。
印象的だったのは、この前庭には多くの場合、樹木、樫の木(オーク)が、生えて
いることです。ピッツバーグにも「オークランド地区」があるので、北米は樫の木
に覆われた原野がひろがっていたようです。
私が見た一軒の家の前庭には、直径が80センチくらいもある巨木が3本も生えて
いました。しかも、枝切などしていないので、葉の落ちた木の枝がまるで空を覆う
ように伸び放題になっていました。樫の木に次いで多かったのは、これもしばしば
巨木となったマロニエでした。
私が行ったころは、雪も降っていてマイナス10度以下で、家の暖房は、薪の暖炉
(実際には、これは補助的)とガスや電気のヒーターが24時間作動していました。
こうした家が一体いくらいするのか聞いてみた所、大体、日本円で5000万円か
ら6000万円くらいだそうです。
このようなことをこまごまと書いたのは、アメリカの中流家庭の家のおおざっぱな
イメージをもってもらうことです。
アメリカ人は移動を面倒がらないので、他の地に仕事があれば、それほど抵抗なく
家を売って移動してゆくようです。
私が歩いてみて回った、ごく近くの家並みだけでも、「売り家」(For Sale)の家
が2軒ありました。
そして、ところどころに、家の前に下の写真にあるような小さな看板が掲げられて
います。これは、私たちは黒人や女性、同性愛者、ユダヤ人を差別しません、全て
の人を受け入れます、ということを外に向かって表現した住人のメッセージです。
一般的には、ピッツバーグは、古い産業が廃れて町が「錆び付いて」しまった、最
近の言葉で言えば「錆び付いた地域」(ラストベルト)の一角で、保守的でトラン
プ支持者が多い地域ですが、こうしたメッセージを堂々と外に向かって発している
人々もいるのです。
日常生活は、基本的には日本とそれほど変わりませんが、大きく変わるのは、買物
であれ通勤であれ、中流以上の階層の人たちは、基本的に移動は自家用車です。
しかし、全ての人が自家用車を持てるとは限りません。そのような人々は、バスを
利用することになります。
実際には、バス停でバスを待っているのは、ほとんどがアフリカ系の人びとでした。
今回は彼らが住んでいる住宅地に行く機会はありませんでしたが、次回に渡米する
きかいがあったら、是非訪ねてみたいと思います。
アメリカ社会は、1%の富裕層と99%の貧困層と、表現されることがあります。
それほど極端ではなくても日常の消費生活には貧富の格差がはっきりと表れます。
日常食品を買うスーパー・マーケットが中流以上と以下の階層の人によって、はっ
きり分かれます。
とりわけ、野菜や果物などの生鮮食品について言えば、無農薬で健康的な「有機」
(organic)の表示のあるものを主力とする店と、何も表示のない商品を売ってい
る店とがはっきりと分かれています。
もちろん、「有機」野菜や果物の値段は、そうでないものより、ずっと高くなって
います。
ピッツバーグにも、貧困層向けの生鮮食品をうっている店が集まっている区画があ
り、そこでは治安が悪かったそうです。
そこに、食料品や衣料、ホームセンター的な商品を扱う、大手の総合的大型店舗が
この地域の近くに進出して以来、この区画から徐々に貧困層向けの店が撤退しはじ
めて、今ではその面影もなくなっています。
このように、物理的に追い出すのではなく、“結果として”そのような店が撤退し、
それを利用していた人たちの姿が消えてゆくことを、 “gentlification” という
造語で表現しています。
これは造語なので、何とも日本語訳は難しいのですが、もじからすると「紳士的に
する」というほどですが、敢えてニュアンスを訳すると、「平静で、清潔で品格の
ある場所にする」といったほどの意味になるでしょう。
もっと露骨に言えば、私は、不潔で治安の悪い地区の「浄化」が本音なのではない
かと思います。
ところで、旅行者がピッツバーグのようなアメリカの都市で動き回る際に注意しな
ければならないのは、車にタクシーと書いていたり、車の屋根にタクシーの表示灯
を付けて街の中を流しているタクシーはめったにない、ということです。
実際、私の滞在中、このようなタクシーは1台しか見ませんでした。それでは住民
でタクシーを利用する時は、日本でも問題になっている「ウーバー」をフマホで呼
ぶことになります。
すると、近くにいたウーバーのタクシーが応答し、瞬時にスマホに顔と名前、車の
写真、そして、到着時間(分単位)で表示され、さらにGPS機能で、呼んだ場所
までタクシーがどこまで走っているかがリアルタイムで表示されます。
支払いは全て銀行口座からの引き落としなので、利用者は、まず銀行口座をもって
いることが前提で、ウーバーと予め契約していることが必要です。
ということは、旅行者がウーバーを利用することはできないし、現地の住民でも、
信用があってウーバーという会社が信用できる銀行口座をもっている場合でないと
利用できません。そのような人は、バスを利用することになります。
私を案内してくれた人と乗った時に聞いたところ、ほとんどのウーバーのドライバ
ーは定年退職した人たち(特に興味深いのは、退役軍人が何人かいたことです)で
した。
アメリカ社会では、富裕層はとても健康で快適な生活ができますが、貧困層にとっ
てはかなりの厳しく不便な生活を迫られる、という印象をもちました。
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住宅街の景観 一軒の家の前庭に生えている3本の巨木
赤レンガの家(もちろん個人の住宅です) 人気の石作りの住宅
家の前に掲げられた看板のメッセ―ジ(私たちは黒人、女性の権威は人間としての権利、 別のメッセージ版(あなたがどこから来た人であろうと、あなたは私たちの隣人です)
化学は真実であることを信じます)。