文化庁長官講演会でPR活動
3月7日(水)午後2時から、近藤誠一文化庁長官による講演会が群馬県富岡合同庁舎で行われるのに伴って、1階入口ロビーに「富岡製糸場と絹産業遺産群」の6枚のパネルを並べて、大勢の来場者が来られるなか解説を中心に活動を行いました。
講演会前後の限られた時間を使っての活動でしたが、来場された方々に、大いにPRができたのではないかと思います。また、来場者のなかには、顔見知りの伝道師も数多く見られ、心強くも感じられました。
午後2時からの近藤文化庁長官の講演会には、私たちも会場である3階の会議室へ移動し聴講することにしました。
「世界遺産の動向と日本の戦略」と題して、約70分ほどでしたが、講演内容の要旨は次のようなものでした。
1. 世界遺産とは
(1) ユネスコ憲章前文
“戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない”
(2) 世界遺産条約(1972年)
・人類全体のために、特別の重要性を有する遺産(自然・文化)を保全
→それに相応しいものをリストに登録(目的は保存、登録は手段)
・保全は国際社会の任務
・各国による遺産の認定、保護、将来世代への継承と国際援助
(3) 登録のためには
●登録基準(文化遺産には6つの基準)
●真実性
●完全性
●保全体制
●比較研究
(4)問題点
●目的は高邁だが、現実は基準とその解釈をめぐる意見の相違
→西欧中心の価値観との批判
●世界遺産リストの地域アンバランス
●世界遺産委員会の選挙制度
-途上国の不満
→委員会の政治化
→イコモス(国際記念物遺跡会議)との相互不信
2. 日本文化の特徴
(すべての文化財・文化表現に共通しているもの)
●自然観(人間は自然の一部、無常観)
●あいまいさの受容(黒白、善悪二元論を排する)
●目に見えない価値(思想、精神性、歴史的ストーリー)の重視
●絶対的平和思想
●他文化の吸収と洗練化
3.日本文化と世界文化遺産の接点
-石見銀山と平泉の登録をめぐってー
(1) 5つの特性と6つの基準
(2) 石見銀山:逆転登録の鍵
・緑の鉱山
-日本の思想(自然観)と世界の問題意識(環境問題)のマッチ
-短いメッセージ性
(3) 平泉:何故最初(2008年)の審査で「記載延期」になったか?
・自然観の意味が理解されず(浄土思想、文化的景観)
・目に見えないストーリーが、そのあいまいさ故に評価されず
(周辺地域の資産)
・絶対的平和思想も十分評価されず
・外国文化の吸収と洗練化も理解不十分
(4) 平泉:昨年「登録」となった背景(勝因)
・浄土思想や庭園の意義(自然観と外国文化との融合)を明確化し、それを体現した寺院と庭園に焦点
・各資産をつなげるストーリー(絶対的平和思想に基づく街づくり)を断念
・対象資産の絞り込み(9→6)
「自然観」は浄土思想の説明に具体的に反映
「外国文化との融合」は明確に評価
「あいまいさ」は回避
「目に見えない価値」は断念
「絶対的平和思想」も前面に出さず
4.今後の日本の戦略
(1)短期的に登録件数を増やす
●世界遺産委員会の流れ(価値付け、保全要件の厳格化)の理解と予測
●日本文化を知らないひとへの合理的・科学的説明の工夫
-旧陸軍的自己満足(みんなで協力したのだから、駄目でも仕方ないの回避)
●官民、地元の連携(価値の証明、比較研究、保全措置の説得)
→14戦14勝の経験・知見を最大限生かす
(2)長期的には世界遺産条約や世界遺産委員会の運営への国際貢献
●締約国とイコモス(国際記念物遺跡会議)との対話の促進(イコモス会長の招待)
●世界遺産委員会の政治化の軽減
●日本的(東洋的)価値観の浸透を図る(資産をつなぐスト-リーの理解)
-世界遺産の深まりに貢献
5.終りに
世界遺産を目指す意義
●故郷の宝の再発見・再認識・再評価(戦後の日本で軽視されてきた)
●地域の活性化
-若者にとっての魅力
-経済・産業振興
●文化芸術・文化財(有形・無形)一般の評価
-地域の連携と誇り
-考古学的・歴史的・芸術的価値を超える評価(先人の知恵)
→これらを生かす工夫を…
と、締めくくられ、講演は終了しましたが、近藤長官は、最後に群馬県が取り組んでいる
「ぐんま絹遺産」のネットワーク化する施策について“すばらしい”との評価をしてくれ
ました。
近藤文化庁長官には、この日「富岡製糸場と絹産業遺産群」構成4資産の視察もされた
とのこと、また、講演会終了後に行われた記者会見で、世界遺産登録の推薦に向けた状況
について「マラソンに例えれば、30キロを過ぎて先頭集団にいる」「合理的な価値付けと
保全体制を整えられれば早期の推薦が可能」と語られたようです。(S.N)
(中島 進 記)