塔の4月号は年に一度の塔短歌会賞、新人賞の発表号。今年の塔短歌会賞は金田光世さんの「川岸に」。言いたいことの真ん中はあけておいて、周りから迫ってくるような詠いぶり、選択された言葉のバランスがとてもいい連作だと思った。
次席の中田明子さん「さながらひかりの水面」、岡部かずみさん「ゆるゆる流る」はじめ、候補作の逢坂みずきさん「いびつなホタテ」、川本千栄さん「北からの風」、𠮷澤ゆうこさん「硫黄島」それぞれ力作揃いだった。
選考のようすがそれぞれの選者の声が聞こえるような臨場感あふれるもので、読み応えがある。賞が決まるまでのプロセスや心の動きがわかってスリリングだった。こんなふうに丁寧に選のようすが再現されるというのは信頼できるなぁと思う。
30首の連作なので、そこから数首を書き写してもよさは十分には伝えられないと思うけれど、いいなぁと思った歌を。
金田光世「川岸に」
・麻酔より目覚めし昼の明るさをあなたの声で記憶している
・洋梨が剥かれゆくような明るさに別れ来し人を一人一人思う
・岸の向こうゆうぐれはスープ 静寂にレモンを搾りひと匙掬う
中田明子「さながら光の水面」
・ひとつまたひとつ銀のスプーンをなくして秋の川匂う家
・うすければそれだけやさしい小麦茶にことばだってそう、息吹きかける
・対岸に住むだれのことも知らないでそれでも川景色分けあってゆく
岡部かずみ「ゆるゆる流る」
・麻薬なる鎮痛剤のつめたさが骨のすきまをなぐさめてゆく
・いつの間にかツバメは消えて秋なんだ我がみじかく死んでるうちに
・ぺたりぺたりスリッパの音ひびかせて歩き慣れない魚があるく
逢坂みずき「いびつなホタテ」
・ぺらぺらの歌集の表紙 むき出しのわたしの心 いびつなホタテ
・桃一個まるごと食べて楽しかった一人暮らしをしていた夏は
川本千栄「北からの風」
・爪先立ちで私を待っていた人はもういない 砂の毛布で眠れ
・硝子器の沈黙の中アルコールランプの芯は自分を燃やす
𠮷澤ゆう子「硫黄島」
・大波の来たれば底に潜ること父に習ひて幾度せしか
・かの夏のスクール水着大き過ぎわれの身体を遅れて布は
いい歌がほかにもたくさんあった。みなさん、おめでとうございます。
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