最近、なるべく乗客の少ない電車を選んで通勤している。なるべく早めの時間に乗り、混んできそうになったら乗り換える。そして比較的すいている駅のベンチに座って20分ほど朝読書をする、というスタイルになっている。そして地下鉄に乗り換えて会社の最寄り駅までいく。
待合室はなんとなく空気が澱んでいる気がして、避けている。朝からエアコンにあたるのも身体がしんどくなるかなと思って。
家にいるときや、電車に乗っているときより集中できるのもいい。それまで聴いていた音楽もストップして読むからかも。仕事の前に心をクリーンにしておくのもとてもいいみたい。すっきりと仕事がはじめられているように思う。
7月の後半は同人誌「西瓜」の創刊号を読んでいた。読み物としてのバランスがとてもいいと思った。参加している人数も作品の数も。連載が3本と特集(笹川諒歌集『水の聖歌隊』を読む)、当月評。だいたい、作品評というのは前号のものを掲載しているというのが多いけれど、同じ号の作品についてそれぞれのメンバーが読みあっている。斬新だ。前号のものを読むときはどうしても連作のなかの数首を引用したりしていて、全体にはなかなかあたれないけれど、こうして同じ号に載っていると、引用された歌の前後を読み直したり、もう一度連作全体を見たりできる。自分が読み飛ばしていた歌があれば、味わいなおせる。
・念力で壁が崩れてゆく都市の絶叫と降りしきる硝子片 曾根毅「暗い光」
・あおあおと眠ってしまう君のなか森にひとすじ川がはじまる 岩尾淳子「春の路銀」
・ちよつとこれも食べてみてつてラーメンのうつは持ちあぐきみの両手は 染野太朗「餃子天国」
・それからのふた月ぼくはなんどでもきみを謝らせたきみがこはれても 同
・きみよりも大切なものなどないといふ幻想にきみをなんどでもこはす 同
・切り口は花瓶の底に触れてゐてスイートピーのたもつ直線 門脇篤史「揺らぐ」
・この国のくらきちからに冷やさるる異国のみづと硬貨をかへる 同
・怒るたび羽根が散るからこの部屋ももう楽園になってしまった とみいえひろこ「穴」
・巣箱から飛び立つ鳥を受け止める空はことばを持たないけれど 野田かおり「巣箱」
・冷蔵庫の裏のホコリは見えないし見えないものは存在しない 三田三郎「生活マンシップ」
・泥棒に入られたなら警察を呼ぶ前に洗うべき皿がある 同
・いつかわたしもあんな遺影になる時がくる真昼間の月の白さに 嶋田さくらこ「春を踏む」
・あやうさはひとをきれいにみせるから木洩れ日で穴だらけの腕だ 安田茜「叫声」
・その奥は泥のつまった子宮だと汗にまみれたひとに言いたい 同
・きみの街は凍雪だらう街灯に集まつて降る淡雪が見ゆ 楠誓英 「暗渠となる」
・ボウリング場去りし廃ビルの屋上に巨大なピンは残されたまま 同
・いちねんじゅう水の張られているプールみたいに冷たい躰を抱いて 鈴木晴香「西瓜のほうに目隠しを」
・西瓜なら食べれば種が出るでしょうアップデートでアプリが増える 土岐友浩「パビリオン」
・水月公園(すいげつ)の水のぬるさに手をひたす春のひとりの傭兵として 笹川諒「春霖」
・どこからか西日のとどくソファには横目づかいの人形置かる 江戸雪「重さ」
・巻尺が巻き戻されて椅子の上わずかな重みを抵抗として 同
・母はもう父には逢えぬしゃらんしゃらん私があえないよりも逢えない 同
それぞれ個性的で、バラエティに富んでいて読んでいて楽しかったり、深く考え込んだり、遠い記憶が蘇ったりした。長くなるから少しずつまたあらためて書きたい。
岩尾淳子さんの連載「みちくさ古典 京極派のうたを読む①」。敬遠していた古典がぐんと親しくなった気がした。京極為兼に対する岩尾さんの思い入れや親しさや共感といったもろもろの感情が文の中に流れていて、そこに巻き込まれていく心地よさがある。
・思ひみる心のままにことの葉のゆたかにかなふ時ぞうれしき
引用されていた為兼の歌。この歌に出会えて私も嬉しい。「ゆたかにかなふ時」のために、私たちは歌を作っているんだろう。