よね そう決め付けては実も蓋も無いね、邦夫は邦夫なりに目算があるのかないのか、今はただ我武者羅に突っ走っているだけなのさ。あたしたちは直ぐこうだと決めてかかる。いけないよ、もう少し落ち着いて成り行きを見ようよ。<o:p></o:p>
謙三 ばかに母さん悟っちゃったじゃないか。<o:p></o:p>
清子 そうよ、慌てることはないわ、二人して困ればお母ちゃんに相談持ちかけて来るわよ。<o:p></o:p>
よね そうなったら嬉しいねえ……あんた。<o:p></o:p>
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暗転<o:p></o:p>
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(6)<o:p></o:p>
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舞台は紗幕が降り、下手一角にスポットが当たりテーブルに椅子が二脚。英輔とジュンがコーヒーを飲みながら話している。<o:p></o:p>
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英輔 お呼び出しして申し訳ない、お忙しいところ。<o:p></o:p>
ジュン 英さん、堅苦しいハナシカタヤメマショウ。ジュン、英輔とヨビアイマショウ。<o:p></o:p>
英輔 それは有り難い、それのが話が早い。<o:p></o:p>
ジュン お互い、清子のフレンドね、イヤ一寸チガウね、ボクハ清子と目下熱愛中ヨ、英輔ボクノライバルないですよね。<o:p></o:p>
英輔 飛んでもない、幼馴染ってだけだよ安心しなよ。そんな事より今日は邦夫の事で来たんだ、邦夫知ってるよね。<o:p></o:p>
ジュン 邦夫?おう清子の弟、将来のギテイね会ったことない、会いたいデスネ。<o:p></o:p>
英輔 今にいくらでも会わしてやるから、じっくり俺の話聞いてくれ。<o:p></o:p>
ジュン オーケーよ。<o:p></o:p>
英輔 よし、口挟まないで先ずは聞いてくれ、いいな。邦夫は今PXからの横流し物資を、闇市に流す仕事に手を染めているんだ。勿論一人じゃない、相棒、相棒分かるな?邦夫と同じく予科練崩れだ。二人は米兵と組んで段々大胆に規模を広げてんだ。ヤバイんだ、米兵の名前も所属部隊も訊きだして分かっている。ここに書いてある三人、PX勤務で古顔だ。俺はこのルートを断ち切って邦夫をまともな生活に戻したいんだ。これは清ちゃんは勿論、あの家族の願いなんだ。そこでだ、ジュンに頼みたいのはこの三人に、この紙には取引場所や日時が詳しく書いてある、これを突き付けて脅しをかけて貰いたいんだ。<o:p></o:p>
ジュン オドシ……ダケナノ?<o:p></o:p>
英輔 ここんところが肝心なんだ、よく聞いてくれ、検挙されては困るんだ、調べで、邦夫の名前が出れば、彼も挙げられる。そうなると清ちゃんのパパやママが泣く破目になる。ジュンの力でうまく米兵三人を邦夫たちから引き離し、縁を切ってて貰いたいんだ。あくまで邦夫が表に出ないように、そのルートを消して貰いたのさ。<o:p></o:p>
ジュン よーくワカッタ、ボクこう言えばイイネ、三人に、そうそう友達に二世のMPイルヨ、将校ヨ、彼そばにおいて三人呼び出して、モチロン憲兵隊でなくボクノオフィスね、言うね、オマエタチ横流しの証拠コノトオリアル。刑務所イヤナラスグコノコトカラ手をヒケ。さもないと刑務所ダケナイ、軍歴剥奪、不名誉除隊、懲罰労役、銃殺、オドシのこと一杯アルヨ。三人ふるえあがるよ英輔。<o:p></o:p>
英輔 有り難い、分かってくれて。だが銃殺はオーバーだ。<o:p></o:p>
ジュン ソウネ、ソシテ最後に今回はオマエタチの輝かしき軍歴に照らしてオオメニ見て、穏便に内々にスマスとイウコトネ。<o:p></o:p>
英輔 完璧だ。さすがた。しかし、よく俺の気持を察してくれたな。<o:p></o:p>
ジュン よくワカルヨ、マエ言ったダロウ日本人の気持勉強シタ。義理人情気持ネ、<o:p></o:p>
英輔 軽蔑するかい?<o:p></o:p>
ジュン ソンナコトナイ、ソノ気質ネ尊敬スルヨ。<o:p></o:p>
英輔 尊敬?お世辞じゃないのかい。<o:p></o:p>
ジュン トンデモナイ、ボクお世辞と坊主の髪イッタコトナイヨ。<o:p></o:p>
英輔 (苦笑い)参ったな…ジュン(頭を下げ)有難う、恩に着るよ。<o:p></o:p>
ジュン 恩にキルコトナイヨ、邦夫アウトロー抜ければ清子ハッピー、ボク好青年ギテイ出来る。(改まって)コレ取引ナイヨ英輔、ボクタチノ結婚オチカラゾエオネガイイタシマス。ボク除隊ナッタラ花嫁サン連れてカエル、アメリカのパパやママに手紙書いた、トテモ喜んでイマス。<o:p></o:p>
英輔 分かった。その話はこの事が片付いたらゆっくり話に乗るよ。誓うよ。それじや先を急ぐからこれで失礼するよ。<o:p></o:p>
ジュン ソウ、コンバン清子ト勤め終わってからデイトよ、ボクノ一心岩をも通すよ。<o:p></o:p>
英輔 その意気でやっくれジュン。<o:p></o:p>
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スポット消え紗幕上がる。年も新しく代わり、正月飾りの笹が冷たい夜風にかさかさと<o:p></o:p>
寂しげに音をたてている。七草も過ぎ笹の根元の松が色あせて倒れ掛かっている。謙三が最後の客を送り出し、何やら愛想を言って暖簾を下げ店に入って行こうとする。その背中に下手からの女、乳飲み子を背に謙三におずおずと声を掛ける。<o:p></o:p>
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女 すいません、旦那さん。<o:p></o:p>
謙三 (吃驚して振り返る)誰だい?ああ屋台の、どうなすった、寒いから早くお入り。<o:p></o:p>
女 ちょっとお願いが……<o:p></o:p>
謙三 まあ話は中でだ。おい、母さん、屋台のその、かみさんが……<o:p></o:p>
よね あらどうしたの、ああ、焼酎がご入用なんだね。<o:p></o:p>
女 何時もすいません、必ずお返しに上がりますから……<o:p></o:p>
よね いいんだよ、都合がついた時返してくれれば、あんた上から出して遣っておくれ。<o:p></o:p>
それより旦那さん今夜は?商売一人なのかい?<o:p></o:p>
女 はい、親分さんの当選祝いで行ってるんです。<o:p></o:p>
謙三 (一升瓶をテーブルに置いて)金一封持ってかい。<o:p></o:p>
女 (消え入るように)はいっ。<o:p></o:p>
謙三 全く、あんたもそうだが旦那も大変だな、なにかと。さっ、屋台からっぽにしちゃいけねえ、早くお行き。(女、焼酎を抱え何度も頭を下げながら帰って行く。清子座敷から下りて来る)19<o:p></o:p>