謙三 (照れて)そうは言われたって、まあこの際だ、お言葉に甘えてジュン、今日はまあゆっくりしてって下さいよ。汗かいちゃうなこりゃ。<o:p></o:p>
よね ジュンは……どうもしっくりいかないわね、ジュンは将校さんなんですってね。<o:p></o:p>
謙三 将校、ほんとかい。<o:p></o:p>
清子 少尉さんよ。<o:p></o:p>
謙三 そんじゃ英さんと同じだよ。大したもんだ、日本人でアメリカの将校なんて。<o:p></o:p>
清子 日本人じゃなくて日系人なのジュンは。<o:p></o:p>
ジュン キヨコ、ボクの心は日本人です。<o:p></o:p>
よね キヨコ?(謙三の膝を突っつく、謙三よねを睨む。清子平然)<o:p></o:p>
謙三 そりゃそうだ、なんたって御両親は日本人だもんな。それでなにですかい、大和魂でもってやっぱり戦ってきたんですね?大和魂にあの物量じゃ鬼に金棒だ。こっちの大和魂が負けるのはしょうがないや。<o:p></o:p>
清子 お父ちゃん、そんな戦争の話止めてよ。<o:p></o:p>
ジュン カマイマセン、パパさん二世部隊は日本軍に鉄砲ムケマセン。<o:p></o:p>
謙三 てえと?<o:p></o:p>
ジュン ボクタチ二世、ソノカワリ日本のことイッショウケンメイ勉強シマシタ。文化・歴史・地理・精神・人情・風土・文学・芝居・映画・家族・家庭・教育・思考・言語、その外タクサンタクサンイッパイの事勉強シマシタ。<o:p></o:p>
謙三 また随分とならべましたね。それは大変でしたな。それで?<o:p></o:p>
よね そんなにたくさんの事勉強してなになすったんですか、鉄砲撃たないで?<o:p></o:p>
ジュン 二世部隊は紙とペンで戦いマシタ。<o:p></o:p>
謙三 てえことは……<o:p></o:p>
清子 宣伝工作とかするのよ、ねえジュン。<o:p></o:p>
謙三 なるほど、日本軍で言う宣撫班ってやつだな。<o:p></o:p>
ジュン ハヤク戦争オワラスタメニ、日本のヘイタイさんにイッパイ話しました。勉強役にタチマシタ。日本の兵隊のココロヨクワカリマシタ。ハヤク戦争終われば、ボクノ両親ハッピイです。キヨコのパパさんママさんもいっぱいハッピイです。<o:p></o:p>
謙三 なるほどねえ。<o:p></o:p>
清子 それだけではないのよ。<o:p></o:p>
よね それだけじゃないって、まだ他に何をなすったんです?<o:p></o:p>
清子 二世部隊は沢山の日本兵を救ってるのよ。宣伝ビラやスピーカーで降伏を勧めたりして、ねえそうよねジュン。<o:p></o:p>
ジュン 日本の兵隊サン、「生きて虜囚の辱めを受けず」とオシエ込まれてます。<o:p></o:p>
謙三 また随分と難しい言葉知ってますね。<o:p></o:p>
ジュン イッパイ戦って降伏スルノハズカシクありません。ボクタチ一生懸命降伏ススメマシタ。イノチ大事、戦争オワリ、フルサトへ帰ればママさんパパさんヨロコビマス。<o:p></o:p>
<o:p> </o:p>
謙三唸り、よね手拭を取り出す。<o:p></o:p>
<o:p> </o:p>
ジュン (清子に不安げに)ママさん泣いてます、ボク気に触ることイイマシタカ?<o:p></o:p>
清子 何でもないのよ、お母ちゃん涙腺が人一倍弱いのよ。<o:p></o:p>
ジュン ルイセン?<o:p></o:p>
謙三 涙っぽろいんだよ、ママさんは。ジュンの話に感動してるんですよ。<o:p></o:p>
よね 何がママさんだい!(謙三を撲つ)<o:p></o:p>
謙三 はははっ、……日本兵の捕虜、けっこういたんだ。<o:p></o:p>
ジュン 戦争オワレバ、ハヤクハヤク日本へ帰します。出身地、名前しらべます。日本兵ウソの名前出身地言います。コマリマシタ。<o:p></o:p>
謙三 何で嘘つくんです。<o:p></o:p>
ジュン 捕虜ニナッタコト、シレルコト恥ずかしいコトとオモイます。ウソ名前イイマス。アメリカ兵ウソワカラナイ、二世スグワカル。タクサン勉強シテマス。<o:p></o:p>
謙三 (身を乗り出す)どんな名前言うんです?<o:p></o:p>
ジュン 清水次郎長、大前田英五郎、笹川繁造、森野石松、国定忠治、コレ、日本の侠客ネ。番場忠太郎イタネ、コレ一番タクサンイタネ。ママさんコイシノ気持カラネ。東郷平八郎、乃木稀典、大山巌、コレエライ明治の軍人ね。坂東妻三郎、市川歌右衛門、長谷川一夫、榎本健一、映画俳優ネ。ウソ見抜きホントノ名前言わせマス。ハヤク日本へ帰れます。日本の兵隊サンイサマシイのイタよ、名前イッタネ、近藤勝蔵ッテ、ボクすぐわかりました。オマエ、ソレ、今度は勝つぞのイミだろうって。ウソダメだとボク言いました。(よね、泣き笑いする)<o:p></o:p>
謙三 成る程ねえ、番場の忠太郎か、泣かせるじゃないか母さん。<o:p></o:p>
よね 忠太郎でも石松でもなく、ほんとの名前言わせるんだね。無事帰って来てくれれば親としてはねえ。ジュンも早く無事な姿をご両親にお見せするんだね。<o:p></o:p>
ジュン 任期終えたら、スグカエルヨ。ママに早くアイタイデスヨ。<o:p></o:p>
よね レコードのお土産持ってね。<o:p></o:p>
謙三 アメリカには日本のレコードなんちゃ無かったのかねえ?<o:p></o:p>
清子 (お膳のチョコレートの包装を剥がし、茶を淹れ換えながら)戦前は日本から取り寄せて沢山あったそうよ……でも、日本と戦争が始まって、日本人は敵性国人として捕まり、ひとまとめにされて収容所送りなったのよ。持ち物は一人何キロと制限されて。それでジュンの家族はみんなして、泣き泣きレコード土間に叩きつけて、粉々に割ったそうよ。それで二世たちはアメリカに対する忠誠心……家族たちの釈放を願ってよ、示すために志願して銃を持ったのよ。ヨーロッパの戦場へ送られた二世部隊は、ドイツ相手に勇敢に戦って戦死者をたくさん出したのよ。<o:p></o:p>
よね (手拭を手に)それでお家族たちはどうなったのよ清子?<o:p></o:p>
清子 沢山の戦功で大統領から勲章一杯授与されて、ジュンたちの働きだって、そのために日本とアメリカの若者の命が何万と救われたのよ、それで一世、ジュンの親たちの世代よ、収容所から出されて元のところに帰されたのよ。<o:p></o:p>
謙三 家屋敷は盗まれなかったんだろうな?坂田みたいのがいてさ。<o:p></o:p>
清子 ここの駅前とは違うわよアメリカは。<o:p></o:p>
よね それは良かったねえ。ジュン、くにのママパパさん、首長くして待ってるよ。7<o:p></o:p>