終戦直後の色々の出来事 4<o:p></o:p>
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…おらも、もうこうなつたら戦闘帽なんかやめて、中折帽にでもまた作り直すかね。いや、ヘンな話になっちゃった。<o:p></o:p>
ありがてえ。少し気がはれてきたい。ばかばかしいが、そうでも考えなきゃ、気がくさくさしてたまらねえ。それでもシャクに障るなあ。畜生っ」<o:p></o:p>
八月十九日(日) 晴<o:p></o:p>
酷暑つづく。<o:p></o:p>
爆音聞こえ、日本機一機飛ぶ。どこかへビラでも撒くつもりにや。あの姿、あの日本機の姿。千機万機仰ぐは未来いつの日ぞ。<o:p></o:p>
夕、徳田氏東京より帰る、都民みな呆然、陸軍気海軍機東京上空を乱舞し、軍は降伏せずと盛んにビラを撒きありとのこと。<o:p></o:p>
マニラにて休戦協定を結ぶため、山下奉文この役を快諾せりという。山下がふつうの意味でこれを「快諾」するはずなし。すべてそっくりかえしておじゃんにするつもりなるべし、そうなったら面白くなるぞ、とみな期待す。<o:p></o:p>
夜凄まじき雷鳴。青白き閃光きらめきて、轟々たる音につづき、時にどこかに落ちたるこどき音す。電燈消ゆ。ただし雨一滴もふらず。空鳴りにて秋となるや、こおろぎ鳴く。<o:p></o:p>
八月二十日(月) 晴<o:p></o:p>
徳田氏ら、寮二階にて松岡を殴る。鼻血ふすまに飛び、腕をつたい、頬鬼灯のごとくふくれあがり、紫色の血管ひたいに浮く。殴らるるものたたみに伏して泣き、殴るものまた声をあげて泣く。<o:p></o:p>
東京より帰れる友の話。某兵営の一部隊ひるま解散の訓示中、日本機ビラを撒いて過ぐ。部隊解散せず、この夜猛烈なる夜間演習を開始せりと。<o:p></o:p>
日本人は憐れだ。惨めだ。だれを見ても、だれの顔を見ても、この数日、この感じがしてたまらない。<o:p></o:p>
八月二十一日(火) 晴<o:p></o:p>
昨夜十二時まで、首相宮、ラジオにて反覆数回、国民に告げらる。国体維持に政府方策を有す。聖断は絶対なり、国民は静粛に治安を保つべしとの意味なりしがごとし。雑音多くて明らかに聴く能わず。<o:p></o:p>
「敵にしてわが国体を根本より破壊せんとの意図を有するときは再び開戦す。最後の一人まで決起せよ」とでもいわるるにあらずやとみな胸躍らせて待ちしに、絶望悲嘆甚だしきものあり。<o:p></o:p>
各地の防空陣、敵機来るときはいまだ猛烈に応戦す。東京都内にては各所に貼り出された降伏のニュース、一夜のうちに、はぎとられたりと。またフィリッピンの日本軍は総攻撃を開始せりとの噂あり。<o:p></o:p>
このありさまにては戦意全国に炎のごとく燃え上がり、不穏の状況いちじるしきものあり、かくて首相宮の悲鳴のごとき御放送となりたるものならん。みな、この分にては面白くなるぞとよろこぶ