うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 ホッポヤ 2

2007-09-30 05:15:30 | ドラマ
ポッポヤ 2

娘 「駅長さん、駅長さん」

N やさしい声が乙松を呼んでいる。

乙 「誰だあ、こんな時間に。急病人でも出たんかい」

N 蒲団をかぶって眠りこける仙次を気遣って、乙松は足音を忍ばせた。カーテンを開けると、赤いマフラーを巻いた女の子が、出札口に肘を乗せていた。ゆうべの子供より大きいが、一重瞼の目元が良く似ている。

乙 「やあ、忘れ物を取りに来んなさったのかい―、あんた、姉さんかい」
娘 「お人形さんがないって泣くから」
乙 「そりゃ感心だわ。あんたら見かけないけど、どこの子だい」
娘 「天神様の近くの、佐藤」
乙 「へえ。したって佐藤っても、ここらの家はみんな佐藤だべさ」

    ―間―

娘 「おじいちゃんちに、来たの。お正月だから」
乙 「一人歩きは危ないべや。まあ、ここら熊は出んにしても、雪に嵌まったり土手から落ちたりすりゃ、命にかかわるべ。送っててやるから、待ってんさい」
娘 「いいですいいです、近いから。お月様で明るいし」
乙 「あんた、いくつだね」
娘 「十二です」
乙 「へえ、中学生かい。ちょっとちっちえな」
娘 「まだ六年。こんど中学なの。あの、駅長さん―」

N 少女は寒そうに足踏みしながら、少し言いよどんだ。

乙 「はあ、小便かい。トイレは改札を出て右。待ってろや、電気つけるで。ホームの端っこだがね」

N スイッチが入れられ、鈍く瞬きながら、雪のホームが照らし出された。

娘 「あのお、おっかないから、随いてってけらっしょ、駅長さん」
乙 「はいはい、行ってやるべさ―、なんもおっかなくないべや。ああ、よしよし」

N 小さな掌を握ると、乙松は悲しくなった。なんだかゆうべの妹も、この姉も、死んだユッコのような気がしてならなかった。こんな気分になるのも、あと三カ月で終わる暮らしのせいなのだろうか。
風邪さえひかせなければ、ユッコもきっとこんなふうに大きくなって、毎晩トイレ通   いに自分を付き合わせたことだろう。それもこれも、医者さえいないこの村に生まれて、すきま風の吹く事務室つづきの部屋に寝かせていたからだ。仕事が子供を殺してしまったのだと思うと、乙松はやり切れない気持になった。
トイレの前で少女を待つ間、乙松はぼんやりと向かいのホームを見つめた。
十七年前の吹雪きの朝に、女房の腕に抱かれたユッコをあのホームから送り出した。いつにかわらず指差喚呼して、気動車を見送った。そしてその晩の気動車で、ユッコは同じ毛布にくるまれ、ひやっこくなって帰って来たのだった。
妻 (あんた、死んだ子供まで旗振って迎えるんかい)
乙 (したって、俺はポッポヤだから、どうすることもできんしょ。こんなもふぶいてるなか誰がキハを誘導するの。転轍機も回さねばならんし、子供らも学校おえて、みんな帰ってくるべや)
妻 (あんたの子も帰ってきただべさ。こんなんなって、ユッコが雪みたいにひやっこくなって帰ってきただべさ)

N 妻が乙松に向かって声を荒げたのは、後にも先にもその一度きりだった。
押しつけられた、なきがらのよろめくような重さを、乙松は忘れない。それはたしかに、凍える転轍機より重かった。
記憶の中で、もう一つの声が甦った。
秀 (おっちゃん。ユッコ、死んじまっただか)

N 高校生だった仙次の息子の声だ。ズックのカバンを放り出して、秀男は夫婦の中に割って入り、立ちすくむ乙松の腕からユッコを奪い取った。

秀 (やあや、ユッコかわいそうだね。俺の嫁さになるべかって思ってたんだけど、おばちゃん、ごめんな。したって、おっちゃんは俺らのために旗振んなさってんだから、叱らんでくれしょや。な、おばちゃん)

N 辛い思い出を綿入れの懐にしまい、乙松は襟をかき合わせて俯いた。
春になってポッポヤをやめたら、もう泣いてもよかんべか、と思った。

N トイレから出てきた少女に、乙松は胸の中で温めていた缶コーヒーを手渡した。

乙 「あんた、めんこいねえ。おかあさんもさぞ美人じゃろう。さあて、誰の子だろかい」娘 「はい、半分こ」
乙 「おじさんはいらんよ。遠慮せんで飲みんさい」

N 少女は缶コーヒーを飲み干すと、乙松の袖を引いた。手振りで屈めと言う。

乙 「なんね」

N 顔の高さに腰を屈めると、やおら少女は乙松のうなじを抱き寄せた。口うつしのコーヒーが乙松の舌の上に流れ込んだ。

乙 「うわあ、いきなりなんだね。びっくらこくでないかい」
娘 「駅長さんと、キスしちゃった」
乙 「こら、おだつんでない。まったく、いたずらな子だな」
娘 「そんじゃ、あしたまた来るからね。バイバイ」
乙 「ああ、バイバイ。気をつけてなあ、道のはしっこ歩くと雪に嵌まるで、急ぐんでないよ。こら、走るんでないってば」

N 人形を抱いて事務室に戻ると、乙松は机に向かって、記入する事項など何もない旅客日報を付け始めた。
 
   《電話の音》

N 札幌の本社から電話が入ったは、仙次が朝の気動車で帰ったその日の午後である。本社と聞いて思わず直立不動になった乙松の耳に、懐かしい声が聴こた。仙次の息子の秀夫だった。

秀、「おっちゃん、あの、幌舞線の廃線のこと―、今さっき書類をそっちに送ったんです。そんなふうじゃあんまりおっちゃんに失礼だと思って、一言おわびを」
乙 「なんもなんも。そったらことより、おめえずいぶんと上役の人に無理ばかり言ってたんでないかい。出世に響くようなことはないだべか」
秀 「いや、俺はなんもしてないです。むしろおやじがね、本社に日参していろいろ上の人にかけ合ってくれたりして。美寄の町で毎年一万人からの署名も集めてくれたんだ
よ」
乙 「やあ…そうかね。知らなかったあ」
秀 「こったらこと息子の口から言うのも変だけど、だからおっちゃん、そりゃ言い分はあろうけど、おやじのこと恨まんでやって。すんませんでした、この通り。俺の力が足らなかったです」
乙 「いや、なんも…もったいねえべや、課長さん」
                 間
秀 「おっちゃん、俺はね、心の底からおっちゃんに感謝してるんです」
乙 「はんかくさいこと言うんでないって。照れるわ」
秀 「いや、本当なんです。俺、ずっと頑張ってこれたのは、おっちゃんが雨の日も雪の日も、幌舞のホームで俺らを送り迎えしてくれたからね、うまく言えんけど、俺、おっちゃんに頑張らしてもらったです」
乙 「そんなことで北大に入れるものかね。上級試験の試験だっておめえ―」
秀 「だから俺、うまく言えんけど。みんなもそうだと思うよ。東京に出た連中だってみんな、おっちゃんのこと忘れてやしないから」
乙 「はあ…そうかね。たまらんわ」

    《受話器を置く音》

N 受話器を置くと、力が抜けた。何だか半世紀の時間の重みが、いっぺんに肩にのしかかったようで、乙松は事務机に両手を付いたまま、しばらく立つことも座ることもできずにいた。
午後になってまた降り出した雪、ふと、出札口のガラスが叩かれて乙松は顔を上げた。おさげ髪の女子高生が、ギャバ地のコートの雪を払っていた。

娘 「こんにちは、駅長さん」

N ていねいに頭を下げるしぐさに見覚えがある。ゆうべの子供たちの、またその上の姉が忘れ物を取りに来たのだと気付くと、乙松のこころはたちまち晴れた。

乙 「あれえ、あんたまた姉さんかね」
娘 「わかりますか?」(おかしそうに笑う)
乙 「わかるもなんも、声から顔からそっくりだべや」
娘 「きのうは失礼しました。ごめんなさい、駅長さん」
乙 「なんも。遊んでもらったのはこっちだべや。さ、お入り。そこは風が抜けるで、…みんなして、親御さんの里帰りかね」
娘 「はい」
乙 「ははあ、あんたら、円妙寺の良枝ちゃんの子だべ」
娘 「え?(又コロコロと笑う)似てますか」
乙 「ああ、良枝ちゃんの高校生のころとそっくりだべさ。やあ、やっと胸のつかえがおりた。誰の子だべやって、ずっと考えてたんだわ。さ、お入りな。そうとわかれば汁粉の一杯もふるまわねば」

N おじゃまします、と少女は事務室の扉を開けた。コートを脱いできちんと畳み、ストーブに手をかざす。横顔が輝くばかりに美しい。
ふと、紺色に白いリボンのついたセーラー服を見て、乙松は愕いた。

乙 「あれえ、その制服、昔の美寄高校のとそっくりでないの。今はブレザーに変わっちまったけど、はあ、そうしているとまるっきり良枝ちゃんだわ」

    《吹雪の効果音》

乙 「やあや、ふぶいてきちまったなあ。ゆっくりしてったらよかんべ。横なぐれに吹いてるし」

N 答えがないので振り返ると、少女はいつの間にか座敷に上がって、棚に飾られた乙松のコレクションに見入っていた。
乙  「おや、あんた好きなんかね」
娘 「高校のね、鉄道同好会に入ってるの。女子は私ひとりなんだけど」
乙 「へえ、珍しいねえ。よかったら、何でも好きな物持って行きんさい。金なぞいらんよ」
娘 「ほんとに、デゴイチのプレートでも?」」

N 娘は汁粉を食いおえると、勝手知ったる家のように、すうっと台所に消えた。薄暗い台所に百合の花のようなセーラー服の背を向けて、少女は水を使い始めた。

    《茶わんを洗う音、音楽》

娘 「ねえ、おじさん。もっと話きかせて」

N 少女は決して饒舌ではなかったが、老駅長の語る思い出話を、いちいち感動をこめて聞くのだった。自分でもどうかしていると思いながら、乙松は半世紀分の愚痴や自慢を、思いつくはしから口にした。ひとつの出来事を語るたびに、乙松の心は確実に軽くなった。
一番つらかったことは何かと訊かれて、乙松は娘の死を語らなかった。それは私事だからだった。佐藤乙松として一番つらかったことはもちろん娘の死で、二番目は女房の死にちがいない。だがポッポヤの乙松が一番悲しい思いをしたのは、毎年の集団就職の子らを、ホームから送り出す事だった。
ポッポヤはどんなときだって涙のかわりに笛を吹き、げんこのかわりに旗を振り、大声でわめくかわりに、喚呼の裏声を絞らなければならないのだった。ポッポヤの苦労とはそういうものだった。


うたのすけの日常 「ポッポヤ」1

2007-09-29 05:51:22 | ドラマ
ポッポヤ 1

浅田次郎作 「鉄道員」より朗読劇「ポッポヤ」

乙松 幌舞駅長  仙次 美寄駅長  機関士  乙松の女房  乙松の娘
 秀男 仙次の息子 N ナレーション  

N 美寄駅のホームを出ると、幌舞行きの単線は町並を抜けるまでのしばらくの間、本線と並走する。ガラス張りのリゾート特急が、一両だけのキハ12型気動車を、ゆっく りと眺め過ごすように追い抜いて行く。
特急の車窓には乗客が鈴なりになって、朱い旧国鉄色の単行ジーゼルを見物している。やがて幌舞線が左に大きくカーブを切る分岐までくると、特急の広いガラスごしにはいくつものフラッシュが焚かれるのだった。十八時三十五分発のキハ12は、日に三本しか走らぬ幌舞行の最終だ。

機 「ふん、いいふりこきやがって。なんも写真まで撮ることないしょ。ねえ、駅長(おやじ)さん」

N 若い機関士は、助手台に立つ仙次を見上げた。

仙 「なあにはんかくさいこと言ってんだ。キハ12っていったらおまえ、いまどき文化   財みたいなものだべ。なかにゃわざわざこいつを見るために内地から来んさるお客  もいるべや」
機 「したらさ、なして廃線にすんの」
仙 「知るか、そんなこと。ここまでもったのは過去の実績の論功行賞だべ。おまえだっ  て幌舞の生まれなら、昔の賑わい覚えてるべや」

N 終着駅の幌舞は明治以来北海道でも有数の炭鉱の町として栄えた。二一.六キロの沿線に六つの駅を持ち、本線に乗り入れるデゴイチが、石炭を満載してひっきりなしに往還したものだった。それが今では、朝晩に高校生専用の単行気動車が往復するだけで、途中駅はすべて無人になった。最後の山が採炭を停止してから十年が経つ。

機 「幌舞駅の乙松さん、今年で定年だとか言ってたけど、それでかな」
仙 「おえらいさんがそったらことまで気を回してくれるもんかい。それよかひとごとじゃ  ねえべさ、乙松さんが定年になれば、来年は俺だべよ」
機 「おやじさんは駅ビルの重役になるしょや」
仙 「だあれに聞いたんだや、そったらこと」
機 「誰もなんも、美寄の駅員で知らん者はないべさ。来年の春に駅ビが完成したら、  おやじさんあっちにいくってさ」
仙 「めったなこと言うもんでない。まだ思案中だ。内地から来たデパートの店員と一緒   に、背広来てネクタイしめてお客に頭下げるなんて、あずましくねえべさ」
機 「だめだめ。まったく、いつまでもポッポヤなんだからあ。ポッポーって、SLの機関   士のまんまだもんなあ。やあ、ひどい降りだあ。おやじさん、明日はラッセル出さね  ばならんね」
仙 「幌舞についたらすぐに戻れや。途中で立往生したって、正月で機関区にゃ人もお  らんべ」
機 「幌舞に泊まりでいいべと思ったんだけど」
仙 「ばかこくでねえ。最終の上りに乗る客がいたらどうすんだ」
機 「いるわけないしょ」

N 気動車は山間の駅に泊まった。客どころか、廃屋の並ぶ駅前には灯りもない。

機 「しゅっぱぁつ、しぃんこおォ―」
仙 「おお。なかなかいい声出すでないの」
機 「乙松さんの物まねだべさ」

N やがて、凍えた川の遥かな先に、ボタ山の影をくろぐろと背負った幌舞の灯が見えた。

仙 「警笛鳴らせ。五分遅れだっけが、乙松さんホームで待っとるべや」

   《警笛》

N トンネルの円い出口の中にすっぽりと、幌舞の駅が現れる。吹雪く雪のためか轍の音さえくぐもって聴こえる。老いた幌舞駅長は、粉雪の降りしきる終着駅のホームに、カンテラを提げて立っていた。厚ぼったい外套の肩に雪を積もらせ、濃紺の制帽の顎紐を かけて、乙松はホームの先端に立ちつくしている。いちど懍と背を伸ばし、軍手を嵌いた指先を進入線に向けてきっかりと振り示す。

機 「乙松さん、五分遅れだのに、ずっとああして立ってるんです。外は零下二十度の  下だべ、かっこいいよね、乙松さん。ほんと絵になるべさ」
仙 「やい、若い者がなれなれしく乙松さんなどと呼ぶでない。駅長って呼ばんか。しっ   かり見とけ、あれがほんとのポッポヤだべや。制服ぬいでターミナルビルの役員   に収まるような、はんかくさいJRの駅長とは格がちがうべ」
機 「はあ…なんか俺、見てて泣かさるものね…」

    《警笛の音、機関車きしむような音をたてて止まる》

仙 「やあや、乙(おと)さん。こっちはしばれるねえ。遅れてすまなかった」
乙 「なんもなんも。明けましておめでとう」
仙 「はい、おめでとう。ほんとはあんたと、年越そうと思ったんだがね、秀男のやつが   子供つれて帰ってきちまったもんで」
乙 「へえ。秀坊がおやじかい。てことは、仙ちゃん、じいさまでないの。初孫で、なま   らめんこいだべなあ」
仙 「はあ、そりぁめんこいさあ。秀男のやつ、乙さんとこに年始に行くべって誘ったん   だが、明日は御用始めだからって。ま、勘弁してやってけらっしょ」
乙 「なんぼだ。秀坊も札幌本社の課長さんともなりゃ忙しいべ。こっちのことなんか気   にせんように言っといて」
仙 「春までには、ちゃんとのしつけて頭下げに来させるでな。入社したときは、俺の目   の黒いうちは幌舞線は守るだとか、でけえことばかし言ったくせに。ほんとすまん  ね、役立たずで。この通り」
乙 「やめてけらっしょ、仙ちやん。美寄中央駅の駅長さんに頭下げられては、返す言   葉もないべさや」

N 折り返しの最終を送り出す乙松の姿を見ずに、仙次は線路を横切って駅舎に向かった。 幌舞駅は大正時代に造られたままの、立派な造作である。広い待合室の天井は高く、飴色の太い梁が何本も渡されていて、三角の天窓にはロマンチックなステンドガラスまで嵌まっていた。木枠の改札の壁の上には、いまだに国鉄の動輪のしるしが、忘れ物のように掲げられていた。ベンチはどれも黒光りのする年代物だ。
せめてこの駅舎だけは保存できないものかと仙次は思った。重油ストーブに手を温  (ぬく)めながら、立ち通してきた体をベンチに下ろす。

    《警笛》

乙 「お待ちどうさん」

N 雪の匂いを背負って乙松が手旗を巻きながら戻ってくる。

仙 「ほれ、正月やるべ。酒は札幌の地酒だって、秀男のみやげ」
乙 「すまんねえ。重箱まで。こっちはおっかあに死なれてから、正月って言ったって何  するわけでもないし」
仙 「静枝さん、何年になるべ」
乙 「何年て、まだおととしだよ。なんだか十年も経ったような気がするけど」
仙 「乙さんも淋しいなあ」
乙 「なんも。ここはおんなじよな、じじいとばばあばっかりだから、なあんも。さ、火ィ   落として、中に入るべさ」

N 仙次は飲み始める前に、乙松に言わねばならぬことがあった。

仙 「ところでよ、乙さん。俺、来年の春に駅ビルに横すべりできることになって」
乙 「そうかい、そりゃ良かった」
仙 「そんで、あんたも美寄に出てこんかと思ってね、十二階建てでよ、ガラスのエレベ   ーターが付いてんのさ。東京のデパートとJRの共同出資だもんで、俺も多少の無理は言えるんだわ」
乙 「はあ、無理なら言わんでもいいよ…、いや、なに、ありがたいけど、遠慮しとくわ」仙 「なしてよ、乙さん」
乙 「したって、おっかなくてエスカレーターにも乗れんもね。もとは同じポッポヤでも、  美寄中央駅の駅長まで出世したあんたとじゃ、まるでちがうべさ」
仙 「乙さん、機械に強かろうが」
乙 「なあんも。鉄道のことしかわからんもね。学校も出とらんし、みんなスコップで小   突かれながら、体で覚えてきたことばかりしょ。東京から来んさったデパートの人た  ちから見たら、外人だべや」

N 会話がとぎれると、雪の夜の静けさが怖しいほどに迫って来た。

乙 「おっかあ、元気かい」
仙 「ああ、相変わらず丸々と肥えてるわ―」

N 仙次はふと、いやなことを思い出した。
女房が死んだとき、美寄の病院の霊安室で、じっと俯いていた乙松の姿が思い起こ  されたのだった。仙次の妻は、乙松が女房の死に目に会おうとしなかったことを、い  まだに根に持っている。乙さんは薄情者だと言う。
  危篤の報せは何回もしたのに、乙松は幌舞の駅の灯を落としてから、最終の上り   でやって来たのだった。電話をかけ続けたあげく、結局最後を看取ってしまった仙   次の妻が、いまだに根に持つのも無理はない。
そのときも、乙松は雪の凍りついた外套姿で、じっと枕元にうなだれていた。仙次の   妻が、乙さんなして泣かんのね、とゆすり立てるのを、乙松はぽつりと呟き返した  ものだ。
(俺ァ、ポッポヤだから、身内のことで泣くわけいかんしょ)
外套の膝をもみしだいて、それでも涙ひとつこぼさぬ乙松を見ながら、仙次はデゴイ   チの轍の音や油煙の匂いを、ありありと思い出したものだった。

乙 「なあ、仙ちゃん―」
仙 「なんね」
乙 「俺のことはまあいいとして、キハはどうなるんだべか」
仙 「ふむ、なにせ12形は昭和二十七年の製作だべ。わしらがまだデゴイチの罐焚き  しとったころのものだべや」
乙 「なら、スクラップかねえ」
仙 「よく働いたよお、あれも」
乙 「まあ、罐焚きの小僧も定年になるんだから、人よりもっと働けっていうのも、酷だ   べな」
仙 「したって乙さん。あの12形はたぶん日本で最後の一両だで、うまくしたら博物館   とか鉄道公園とか、いい引き取り手があるかも知らねえだべさ」
乙 「そんじゃ俺もついでに、博物館に飾ってもらうかね」
(二人はようやく声を揃えて笑った)
仙 「さっ、正月すべや」

N ホームの灯が消された。雪明かりが待合室をぼんやりと染めた。壁回りのベンチに、セルロイドの人形が手を拡げて座っていた。

乙 「あれえ、忘れもんだあ」

N 闇の中に四角く切り取られたような車寄せに飛び出して、乙松は駅頭を見渡した。

仙 「セルロイドの人形かい。まあなんと古くせえなあ。お客かい」
乙 「いや、見たこともねえちっちえ女の子なんだけど、ここでずっと遊んでたんだわ」
仙 「おいおい、乙さんが見たこともねえ女の子なんて、ここいらにいるもんかい」
乙 「正月の里帰りだろうがね、車で来たんだろ。それがよお、こんくらいの、なまらめ   んこい子で、真赤なランドセルしょってんだわ」
仙 「ランドセルかい」
乙 「この春に小学校に入るんで、おやじに買ってもらったってさあ。めんこいねえ、こ   こに気を付けして、駅長さん見てけらっしょ、って。俺の周りにへばりついて離れな   いんだわ」
仙 「乙さん、子供好きだからなあ」

N 乙松には子供がなかった。

仙 「名前、何てったっけか」
乙 「ユッコ。初雪の降った十一月十日の生まれだから、雪子ってつけた。仙ちゃん、   秀坊と夫婦にさすべかなんて言ってたでないの」
仙 「やあ、思い出した。秀坊のやつ中学だったかな、嫁さんにすっかいって言ったら、   気味悪がって抱こうともしなかったっけ」
乙 「俺が四十三で、おっかあが三十八の授かりもんだわ。何とももったいないしょ」

N 乙松が珍しく愚痴を言った。

   《十二時を打つ時計の音》


うたのすけの日常 お芝居 「梨の懸け橋」後編

2007-09-28 17:39:03 | ドラマ
                 梨の懸け橋 後編

舞台暗転。談話室が浮かび上がる…。

梨本 壊滅的な打撃が、鳥取の梨農家をおそったのです。一時は再起不可能とまでいわれた深刻な事態に見舞われたのです。
熊 でも鳥取の農民は強かった…。
鹿 度重なる災害にもめげなかった…。
梨花 北脇永治さんのもたらした十本の苗木は鳥取の大地にくまなく、歳月をかけ根強く根をはりめぐらしていたのよ…。
梨本 (興奮した面持ちで)そうですよ皆さん! 十本の苗木は、その根は、鳥取の大地ばかりでなく、梨栽培の農民たちの魂と、そして頑健な肉体と一体となっていたのです。挫折の二文字は農民たちには無縁だった…。
鳥井 (こぶしを振り)二十世紀梨は鳥取の命! ここで挫けてなるものか!
梨花 果樹園は見事に復興を遂げたのですよね。
梨本 そうです。こうして北脇の十本の苗木は当時、北脇の心意気に共鳴した地元の大学や、農業関係者、そして行政がタイ・アップして血のにじむ長年の努力の結晶として、鳥取県をして半世紀で「日本一の梨県」に育て上げたのです。(みんな手を叩く)

(間)

熊 今日はのど自慢どころじゃないわ、いいお話をたくさん教えてもらっちゃって…。
鹿 おかげさまで一つも二つも利口になった、孫どもに帰ったらさっそく話してやらなくちゃ。
梨花 お鹿さん、そのへんのことは、覚之助じいさんて愛称で、二十世紀梨と表裏一体、いまの子供たちようく知ってますよ。
熊 あら。そうなの。こりゃあ孫のほうが一枚うわてね。
鹿 あたしたちはお膳のうえのきれいな梨を、ただおいしいおいしいって食べるだけだものね。
熊 ところで…北脇永治さんとやらが松戸の…。
鹿 松戸覚之助さん…。
熊 そう、その松戸の松戸覚之助、ややこしいわね(みな笑う)。その買い付けて来た苗木は親木として残ってるんだったわね?
梨花 そうよお熊さん、鳥取市の森林公園に、樹齢百年になるという三本の老木が植えられているのよ。
鳥井 その老木は鳥取の天然記念物に指定され、いまでもびっしり青い実を見事につけるのよ。
熊 そう、そう。
鹿 百年たっているのに実をつけるなんて、あたしたちも負けちゃいられないわね。
梨花 (感にたえたように)そうよね、お互いがんばらなくては…。
鳥井 そうよ、みなさんまだまだ百年には間があるんですから。
熊 言ってくれるわね…梨は百年もたつというのに、青いきれいな肌をした実をつけるのねえ…。
鹿 あたしたちどうよ…この肌、黒いしみが浮き出ちゃって、梨がうらやましいわ…。
梨花 (しんみりと)そうだわよねえ…。
梨本 (一歩前に踏み出て)いえ、人と梨はちがいます。人の肌に出るしみは長生きする証拠です。それは二十世紀梨の、青いつややかな肌と同じ…というかその…美しさという点においては、どちらに遜色があるとかないとか…(しどろもどろ)それは次元の違う問題でしてその…美しさとしては…。
熊 いいわよ館長さん、無理しなくても。(みな大笑いする)
梨本 (苦笑いして)実はですね、その、シミにこだわるわけではないのですが、二十世紀梨が今日、世界各国に輸出するほどの隆盛をみるには、もう一つ克服しなければならない大きな障害があったのです。
梨花 黒斑病ですね。
梨本 そうです。
熊 それはあたしたちも聞いて知っていますよ。
鳥井 細菌の感染で実が変色して落ちてしまうんですよね。
鹿 落ちた実を拾うそばから落ちてしまう。
梨花 栽培農家は生き残りをかけてその対策に奔走したんですよね。
熊 (語調も強く)その話はよーく知っている。なんたってこの話には、梨花さんのお母さんがふかーく関係してるんだから…。
鹿 (胸をはって)そうよ、あたしたちのとこじゃ昔から知られた有名な話なんだから。
鳥井 (前へ乗り出し)そうなんですか? どんなお話なんですか、ぜひ聞かせてください。
熊 (梨花の肩を抱くようにして)この人のお母さんは奈良県のお生まれでね、師範学校を出られて、あたしらのとこの分教場に赴任されていらしたんですよ。
鹿 それはそれはおきれいな、それこそシミ一つ無い色白で細面の方だったそうよ。
熊 子供たちに慕われ、村では大評判の先生だったそうよ。村の若いもんたちも、先生の分教場の行き帰りの姿に見とれて、野良仕事が手につかなかったそうですよ。
鳥井 「二十四の瞳」の大石先生みたいな方だったんですね。
鹿 二十四どころじゃないよ…子供たちはおろか、若いもんやじいさんたちまでが落ち着かなくなってしまったんだから。
熊 「百の瞳」よ。先生は庄屋様の離れに下宿なさったんだが、庄屋のぼっちやんは、ぼっちやんといってももう一人前の若いしゅだが、夜、厠に立っておしっこ終わっても、離れで勉強なさっている先生のお姿を、いつまでもいつまでも、ため息つきながら見ていたそうですよ。
鳥井 ロマンチックねえ!
梨本 (揶揄するように)百年もの前の話、見ていたようですね。
熊 水ささない! 村ではずーっと言い伝えられてる話なんだから!
梨本 いやいやそんなつもりでは…。先生の生まれが奈良県、そして鳥取県の分教場の先生として赴任なさった…下宿先が庄屋さんの離れ座敷、庄屋の跡取りとの出会い…梨栽培の前途にたちはだかった黒斑病の試練…なにやら話が佳境に入ってきましたな。
熊・鹿 のど自慢どころの騒ぎじゃないわ。

舞台暗転。

第二幕
第二場

スクリーンが降り、そこには小高い丘を背景にたわわに実った梨畑が映し出される。暖かい日差しのなか小学唱歌が流れ、大勢の子供たちが若き頃の梨花の母に引率されて登場。
子供たちは手に手に梨の入った籠を持つ。やがてみなは笑い声のうちに、弁当を開き梨を齧る。そして梨花の母のリードで唄を歌い遊戯に興じ始める。

溶暗

前掲のスクリーンとは裏腹に黒色の梨の実が、木々から無残に次々と堕ちる荒涼たる風景が流れる。前面舞台では穴を掘り朽ち堕ちた梨を埋める農民たち。その脇を赤子を背負い手に家財道具を持つ女房を庇い、これも背負えるだけ荷物を背に、持てる限りの包みを持った農民。黙々と頭を垂れ過ぎて行く。

暗転

スクリーンの中に明かり入る。そこは庄屋の一間、庄屋の息子を中心に数人の梨の栽培農民が話しこんでいる。部屋の隅に、在りし日の分教場の教師、梨花の母が控えめに座っている。

息子 この癌のような黒斑病を駆逐しないことには、鳥取の梨農家に未来はない! どうしても黒斑病を退治して安定した栽培を確立しなければ…。
農民D そこでだ…問題は奈良だ。
農民E 奈良は二十世紀梨の栽培で梨市場を独走している。その奈良での黒斑病の対策をどうしても探らなければならない。
農民F 膝を低くして教えを請うのだ。なにがなんでも…強硬にあたってはだめだ。
息子 奈良ではその秘密を守るために、農場を鉄条網でかこんでよそ者をよせつけない。
農民D そればかりか猛犬を放し、猟銃で威嚇する。
息子 だからといって、手をこまねいているわけにはいかない。ここはおまえのいうように頭をさげ、鳥取の現状を訴え、理解を求め教えを請うのが良策と思う。断られても諦めずに何度でも足を運ぶ。道はそれしかない…。
農民D そうだ! 道はそれしかない。断られてもはねつけられても諦めずに執拗にねばるのだ。黒斑病で地に落ちる梨を、呆然と手にしている仲間や、気落ちして泣き崩れる女房たちの姿が目に焼き付いてはなれない。
農民E このままでは、鳥取の梨農家は離散の憂き目にあう。すでに梨栽培に見切りをつけてやけくそになっている者があとを絶たぬ、なんとしても奈良県の梨農家に懇願して光明を灯さなくてはならない…。
農民F 手分けして奈良の梨農家の門をたたくのだ。
息子 何日でも泊まり込んで窮状を訴え、秘法を伝授してもらおう。いまここで梨栽培を諦めるわけにはいかない、いままでの血と汗はなんだったのだ!
先生 あたしもご一緒にまいります。(息子たちびっくりして先生をみる)
息子 それはいけません。いつ帰れるかわからぬ、危険もともなう旅です。
先生 長い旅になります。宿の手配や炊事洗濯のこともあります、幸いあたしは奈良の出です。なにかとお役に立つと思います。ぜひ皆さんのお供をさせて下さい。

暗転の中、「ご一緒させて下さい…」先生の声が激しく、そして悲痛な余韻をのこして消えていく。スクリーンの中は奈良の先生の実家の居間に変わる。先生の父が座卓を前に端然と座っている。遠くで激しく番犬の吠える声、ときおり猟銃の空包の音が鳴り響く。先生、そのたびに耳をおおい畳に伏せる。やがて次第にそれも遠のき、座敷を静寂が支配していく…。

父 おまえの言いたいことは分かっている。しかしわしの一存で決められることではない・・・が・・・。
先生 あたしは鳥取の分教場に赴任して、一生懸命子供たちにさとしています…人はみなお互い尊敬しあい、困っている人がいたら進んで救いの手をさしのべる。一つのものは分かち合い、知識はおごり、ひらめかすものではなく分かちあい、お互い進歩のために協力しあうものだと。これはあたしが小さいときからお父さんに、懇々と教えられた事でもあります…。
父 わかっておる…どうもおまえは理屈っぽくていかん。
先生 お父さんの娘です。
父 うふふふっ(苦笑いして)。だがよ、今回の鳥取の百姓たちのことでは、ほとほと皆困惑しておるんじゃ、というより、あの熱心さ、必死さに感心しているといってもいい。
先生 ということは、もしかしてお父さん…。
父 そうだ、昨夜も皆で話し合いを持ったのだが、松戸の覚之助さんのこともある。あの方の生き方というか、梨の利益を独り占めすることなく、県外あまねく普及されるという遠大な心意気をも見習わねばならぬと…。
先生 えっ、それではお父さん…。
父 皆の意見は、黒斑病の対策に及ばずながら力を貸そう、ということにあらかた傾いているのだ。いや、あらかた意見は固まったといってもいいのだよ。犬の吠えるのも、鉄砲の音も今夜が最後だろうよ…。
先生 (立ち上がり父の後に廻り肩をもみだす)ありがとうお父さん!(満面に笑みをうかべ)さっそく宿へ帰ってみんなに報らせなくては!

暗転。舞台は談話室にもどる。

梨本 そして世界が芸術的とまで称賛した、パラフィンを使った袋かけの技術が普及、病害虫を駆除し、二十世紀梨のこの上もない肌の美しさも増し、それを守り、味もこよなく美味な梨に変身、こんにちの姿かたちがあるわけですよ。
熊 あたしも袋かぶってりゃよかった。
鹿 何いってるのよお熊さん。
鳥井 (じれったそうに)それより梨花さんのお母さんと、庄屋さんの息子さんはどうなったんですか?
熊 聞きたいかい?
梨花 (恥ずかしそうに)止めてよお熊さん。
熊 いいから…鳥井さん、聞くだけ野暮ってもんですよ。先生と庄屋さんの息子さんはめでたく一緒になって、生まれたのが梨花さん! お二人は梨花って名前をつけたのよ。
鹿 梨花さんは文字通り梨の申し子、あたしらと違って、いまだってそうでしょう…二十世紀梨のようなきれいな肌をした、それはそれは言葉にはいいつくせない美人さんよ。
梨本 なるほど、梨花さんはもちろんおきれいだが、いいお話ですよ。
鳥井 (目を輝かし)ロマンチックだわあ…。
梨本 奈良県の山野を、淡い恋心を胸に秘めながら若い二人が、お互い手をたずさえ、梨栽培のために奔走する…文字通り二十世紀の恋です、ドラマチックです。
熊 ホント、ダブルチックだわ(一同?)

(間)

熊 名前がすてきよね、梨の花なんて。それにひきかえ…。
鹿 熊と鹿だものね。
熊 でもあたしは親に感謝してるのよこの名前。これが馬だったら、あんたと並んでいたらまるっきり馬鹿だものね。
鹿 (まじめに)それもそうねえ…(みな笑う)そうそう(熊に)こんなことあったわね子供のころ…二人していたずらして先生に叱られ、先生が二人並べておいて、「クマ、シカと分かったか」って…。
熊 そしたら梨花さんが助けてくれたのよね…ねっ…。
梨花 (照れながら)「二人はリカ…いしてます」って…(間、談話室、爆笑)
鳥井 やだあ、三人して吉本やってる…。
梨本 はははっ、これはいい、お笑い三人娘だ。
熊 (おどけて)嬉しいこと言ってくれるわね、三人娘だなんて。(一同にぎやかに笑う)
鳥井 (ふと時計を見上げ)あら、こんな時間、知事さんたちもう松戸に着いてるころよ。
熊 またあ、いくら便利な世の中になったからって、まだ三十分もたっていないわよ。着くわけないでしょう。
鳥井 いいからいいから、深く詮索しないのお熊さん。これがお芝居のいいとこなのよ…。(またまた独り言で)「中国三千年の歴史を一瞬の夢に見る」
梨本 いや、(真剣に)お芝居のようなわけにはいかないのが、鳥取県のかかえた梨産業の前途です。ご存じのように梨の栽培の労力、気の配りようは並大抵のものではありません。四季を通してあらゆる手立てを駆使しての戦いです。
梨花 そうですわねえ、梨の開花の時分、あたしたちはあの清楚な白い花を「まあ、きれい」といって眺めることができますが…。
梨本 開花時には好機を見逃さず、受粉をわずか三日ですまさなくてはならない。そのほか一年を通して数々の作業…。
梨花 先人たちは、黒斑病でぼたぼたと落ちる梨を黙々と拾い、穴に埋める、そのそばから梨は落ちてくる…。せっかくついた実の八割も無残な姿を地面にさらすのです。それに耐えたのです。
梨本 しかし、高度成長のかげで、鳥取県の梨農家はピーク時の一万戸から半分に、平均年齢は六十一才。
鳥井  八十五パーセントの農家が後継者不足の悩みをかかえているのが現実でわ。
熊 そりゃ大変だわ。その現実を打ち破らなければ鳥取の梨は先行き不安というわけね。
鹿 分かった。それでさっき梨花さんが言った、生産量で一位の座を千葉県に抜かれたということになるのね…。くやしい~。
梨本 四十五年間保持した王座をですよ。しかし(力強く)日本の味覚を百年守り続けた鳥取の梨農家の力は永遠ですよ。
梨花 鳥取の二十世紀梨が消えるということは、それこそ日本人がすべての国際競争に白旗をあげることになりますわ。(みな一様にうなずき、頬を紅潮させている)
熊・鹿 そうよ、そうよ。鳥取がんばれ!(皆、それに和す)

舞台溶暗。暗転

スクリーンに梨のたわわに実る梨畑。作業に精を出す百姓たちの姿が晴れやかに映し出される。




うたのすけの日常 お芝居「梨の懸け橋」前編

2007-09-26 04:53:02 | ドラマ
                  梨の懸け橋 前編
                                  うたのすけ版 


登場人物
梨花

鹿
梨本(公民館館長)
鳥井(公民館職員)
北脇
農民A
農民B
農民C
農民D
農民E
農民F
庄屋の息子
先生(梨花の母)
父(梨花の祖父)
その他 男女・子供多数

影絵と役者の合体してのお芝居


第一幕
第一場

舞台正面に大型スクリーン、右に中型スクリーンが並ぶ。上手より宮廷音楽が荘重に奏でられるなか、玄宗皇帝・楊貴妃、護衛の先導のもと、多数の従者女官を従え登場。大型スクリーンには、梨の実の肌を思わせるような艶やかな色彩の満月が、浩々と地上を照らしている。そして満天の星。
今しも皇帝・楊貴妃のテーブルに女官によって、数々の山海の珍味と共に器に盛られた見事な梨が運ばれる。満天の星、昼を欺く月光の下、妓女の艶やかな踊り、まさに竜宮城の鯛やひらめの舞  い踊りといった饗宴が繰り広げられる。玄宗・楊貴妃それを愛でながら……、

皇帝  おう、見事な梨じゃ、(剥かれた梨を丸ごと豪快に齧る)そなたも食したらどうじゃ、ううん、うまいぞ。
楊貴妃 (梨にナイフを入れ淑やかに口に運ぶ)甘味といい酸味といい、この世も
のとは思えぬ美味じゃ。

皇帝 口中に残る種をところかまわず吐き飛ばす。

楊貴妃 (眉を顰め)まあ、唐の国は玄宋皇帝ともあろうお方が、お行儀の悪い。(自
ら種を拾おうとする)

女官の一人、「楊貴妃様、勿体のうございます。お手が汚れます」と、慌てて
ハンカチに土間に散らばる梨の種を拾って包む。楊貴妃、それを差し出させ、
手に大事そうに持って右手スクリーンに進む。雲のソファーに楊貴妃、腰をお
ろし、ハンカチを開き梨の種を愛しそうに一粒づつ唇に当て投げる。大型スク
リーンの満天の星空に、一粒投げられるたびに流星が一つ二つと地上に降って
行く。その度に舞台に伏す梨の精がすくっと立ち、踊り始める。そしてその数
十人……、さらに成長した梨の精、十人が加わり群舞がつづく。

暗転

第一幕
第二場

スクリーンに、鳥取の女性作家、尾崎翠の歌碑がクローズアップされ、詩文が流れるように映し出されていく。スクリーン前は農家の庭か、縁先に座る母と娘。笊に盛られた梨を手に和やかに語り合っている。
やおら娘立ち、詩を朗詠する。
「ふるさとは、映画もなく友もあらず、秋はさびしきところ、母ありて、ざるに一山、肌青きありのみの群れ、我にむけよとすすめたもう、二十世紀、ふるさとの秋豊かなり、むけば秋澄みて清きふるさと。初秋の風わが胸を吹き、わが母も、ありのみの吹き送りたる、さわやかなる秋風のなか」
二人、顔を見合わせにこやかに微笑む。

暗転

第二幕
第一場

溶明。そこは鳥取県のある町の公民館。秋の日差しをいっぱいにうけた談話室。
女性職員の鳥井がテレビをつけたままうたた寝している。
そこへ、何かイベントでもあるのか、着飾って華やかな雰囲気の、梨花、熊、鹿の三人が入ってくる。そのうちのひとり花束を抱いている。鳥井、その物音にはっと目を覚まし、テレビのスイッチを切る。

鳥井 (夢まだ覚めやらぬ面持ちで独り言)中国三千年の歴史を束の間に見てしまったわ。(ぼうっとしながらも気を取り直し)おはようございます。皆さんお早いですね。
熊 おほほほっ、今日はね、カラオケ仲間が出るのよ、のど自慢大会。それでね、いい席とろうと思って三人して場所取り…。それよりどうしたの?夢みてるような顔してるわよ鳥井さん。
鳥井 (それに笑顔でそらし)あら、それでお花まで用意して、大変ですね。
鹿 優勝候補なのよ、こっちまで張り切ってるってわけよ。
梨花 ところで鳥井さん、テレビ何見てらしたの。
鳥井 知事さんご一行、出発なさいましたね。空港の見送り大変な人だったわ。
熊 知事さんたちお出掛たけって、どこへいらしたの…鳥井さん。
鳥井 あら、ご存じなかったんですかお熊さん?
熊 なあんにも、鹿さん知ってた?梨花さんは?
鹿 (首を振る)
梨花 (にこやかに微笑む)
鳥井 いやだ、何日も前から新聞やテレビで言ってたじゃないの、松戸へいらしたのよ。
鹿 松戸ってどこ?何しに…

そこへ館長の梨本がにこやかに入ってくる。

梨本 二十世紀梨の里帰りですよ、お鹿さん。千葉県の松戸市へですよ。鳥取の二十世紀梨は、松戸から苗木をいただいて栽培したのがそもそもの始まりです。
鳥井  (舞台上手に歩み、また独り言)そうだわ、大昔、中国から渡ってきたのよ梨は。
鹿 里帰りって何よ?お熊さん知ってた?
熊 知らない。
梨花 それはねお熊さん、二十世紀も終わり、それで節目として、二十世紀梨のふるさとの松戸で、感謝の気持ちも込めて、「里帰りイベント」を開催するためにお出掛けになったのよ。
鳥井  (またしても焦点定まらぬ目つきで独り言)テレビのせいかしら梨の夢なんか見たりして。
梨本 それだけじゃありませんよ。「鳥取二十世紀梨記念館」に展示するために、松戸市で保存している国の天然記念物にもなった、二十世紀梨の原木をお借りするための、重要な用件も兼ねているわけです、今回の松戸市訪問は…。
熊 へええ。
梨本 あれは、日露戦争の始まった年、明治三十七年のことだった・・・。

舞台溶暗。スクリーンのなかに、明かりが入る。そこは農家の囲炉裏端がしつらえられ溶明。
数人の若い農夫が真剣な面持ちで話し合っている。その中に若き北脇永治がいる。
1904年(明治三十七年)。

北脇 俺はことあるごとに訴えてきた。鳥取の農村の貧しさを駆逐するには、食うや食わずの農民を救うには、果樹栽培が一番だと。傾斜な土地の多い、稲作に向かん土地に何百何千と鍬を入れてもひもじさは増すばかりだ。砂丘じゃ腹はふくらまん!
農民A おまえの言うことはよく分かってる。だがな、問題は果樹といっても何を選ぶかだ。
北脇 梨よ。
農民B 梨って梨のことか…。
北脇 ほかに梨があるか?
農民B そんなわけじゃないが…。
農民C しかし…梨は「無し」に通じておって縁起が悪いんじゃないのか…。
北脇 なにをくだらん事ぬかしおって!いいか、ところによっちゃ鬼門梨といって、
家の鬼門の方角に植えて災い無しと、縁起もんにしてるとこもあるんだ。
農民A ふむ、そういやあ無しの逆をいって、「ありのみ」ともいうそうだな…。
北脇 この北脇永治に腹案がある。俺は明日にも千葉に行く! 
農民A・B・C ちば?

右スクリーンに、満天の星空が映り。流星が幾条となく間断なく、矢のような速さ
で地上に降り注ぐ。一人の少年が天を仰ぎ、そして地面にうずくまり土を掘り返して
いる。天空に白髪三千丈の仙人に変身した玄宗と、﨟たけた楊貴妃が暖かい眼差しで見守っている

北脇 (胸を張り、大声で)千葉県は八柱村大橋、「錦果園」と看板をかかげた果樹園だ。千葉には松戸覚之助というお人がおられる。十三才のときに、偶然にごみ捨て場から二本の実生の梨の苗をみつけたそうだ。それが十年の歳月を経て今年、二十世紀梨と命名された極上の梨だ! その苗木をいただきに、教えを請いに松戸へ行く。
農民A しかし、そう簡単にことが運ぶだろうか? こころよく苗木を分けてくれるだろうか?
北脇 当たって砕けろとは、こんな場合に用意された言葉だ。それより…覚之助というお方は篤農家であり、人格者のほまれが高いお人だという噂だ。それに営利を独り占めすることなぞせずに、広く全国津々浦々に果樹の、梨の栽培を督励されていると聞いている。懸念は無用だ!

暗転。舞台に明かり入る。舞台はもとの公民館の談話室。

鳥井 (見た夢を忘れたように、感激もあらわに)ありのみ…そう、尾崎翠さんの歌にある一節の、(謳うように)「母ありて、笊にひと山、肌青きありのみの群れ…」って、それがそうなんだ、きれいな表現だわ。
梨花 ほんとう…きれいな、心温まるやさしさのこもったいい詩です。
梨本 松戸の大橋は、今では新興住宅地にすっかり様変わりしているそうですが、「二十世紀が丘」という地名として、ナシの出生地としての名前は立派に残っているのです。
熊 二十世紀が丘ねえ…それで松戸の覚之助さんとやらは、なにその北脇さんとかいうお百姓の頼みを、快く聞いてくれたのですかね。
梨本 (にっこり笑って)もちろんです。北脇永治が松戸覚之助の錦果園から買い求めた十本の苗木、その十本の苗木こそ鳥取が日本に、いや、世界に誇る二十世紀梨の温床になったのですよ。
熊 ふうん、それにしても知事さんたちも義理堅いわね。そんな百年もの前の恩義を忘れないで、お礼まいりとは…ご苦労さんなことです。
鹿 (心配そうに)それで館長さん、松戸さんは快く知事さんたちを迎えてくれるんですかね?
熊 そうよ、なんたって二十世紀は鳥取が日本一だもの、本家はおもしろくないんじゃないの…。
梨花 (物静かに)そんなことはありませんよ。本家にとっては、新宅が栄えていくということは喜ばしいことよ。ともに栄えて梨一族の繁栄、これにこしたことはありませんよ。
熊 (鹿と共にうなずき)そういうもんですかね。
梨本 梨花さんのおっしゃる通りです。松戸市長も原木の記念館展示を快諾してくれているそうです。
鹿 それにしても、原木なんてどうやって運ぶのかしら…。
梨本 いや、その原木ですけどね、大変な災害にあっているんですよ。
熊 どういうことなの災害って?
梨本 戦時中…昭和十九年の空襲で焼け、立ち枯れ状態になってしまったんです。
熊・鹿 おやまあ…。
梨本 しかし、原木の幹だけはかろうじて科学的な処理で、永久保存の道が開けたのです。そして湿度管理など、丁重に管理され松戸市博物館に保存、展示されているんですよ。
鹿 (感激の面持ちで)よかったわ。ほっとするお話ですよ。
熊 ほんとよ、本家の屋台骨がかしいじゃ、新宅としても気持ちが落ち着かないものね。
梨花 それは大丈夫よ。梨の生産高をとれば、千葉県は日本一の座を取り戻しているのよ。鳥取県から。
鹿 おや、それは分家としては心穏やかではないわ…(みな大笑いする)。

(間)

熊 それでさっきの記念館に展示されるって話になるわけね。
梨本 そういうことですよ。
梨花 そうやってお互い交流をし、協力しあい競いあって梨の生産、ひいては経済の発展に励むんですよね。
熊 それにしても北脇永治さんですか…なかなか先見の明があるじゃないの。
梨本 でもね、二十世紀梨が鳥取の風土に適していたとはいえ、今日の生産高を誇るまでには、少なからぬ困難を克服してきたわけですよ。
梨花 (しみじみと)そうですわね…あたし、よく聞かされました。大正の中頃でしたか、記録的な台風に見舞われて…。
鹿 あたしたちの親の時代よね…。
熊 ねえ、それで、それで…。
梨本 それに輪をかけて天候不順が、断続的に続いたんですよ。

舞台溶暗。スクリーンが降り、不気味な黒い雲の固まりの流れが映し出され、その風雲は上手から下手へと早さを増し、同時にすさまじい風音がうなりをあげ耳を弄し、雨が大地をくまなく泥濘と化して濁流となって押し流していく。横殴りの豪雨が梨の木をたたく音か、木々が悲鳴をあげる。半鐘が乱打され間断なく鳴りつづく。闇のなか、人々の怒号、悲鳴、泣き声が悲痛にこだまする。
「堤防がきれるぞ!」
「わあーっ、梨の木が、梨の木が…」
「もうだめだ! 逃げるんだ」
「わあっ、木が倒れる!」
「梨の実が飛んでいく…」
やがて雨脚は遠のき、風はしだいにその威力を弱めていく…半鐘が息の根を止められたようにぽつんと途絶える。やがて静寂の間…スクリーン前の暗い舞台にいくつもの黒い人影がうかびあがる、あるものは呆然と立ちすくみ、あるものはひざまずき地に伏し、地を叩く…そして天を仰ぎ声にならぬ声を、うめきをあげる…。


うたのすけの日常 恐怖の同居人

2007-09-25 06:07:39 | 一言

恐ろしい同居人たち<o:p></o:p>

<o:p> </o:p>

三面記事面の下のほうに小さな見出しで、三才児変死、同居の会社員男性(29)に事情聞くとあります。記事の内容は、男はアパートで同居する飲食店従業員女性(25)が仕事で不在中、女性の長男()の体調がおかしいと119番通報、救急隊が駆けつけたとき長男は心配停止状態で、約1時間40分後搬送先の病院で死亡が確認され、死因は肝臓破裂による出血死とあります。警察は男性から事情を聞くとともに、事件事故の両面から捜査している。なおアパートには女性の長女()二女(9ヵ月)の計5人が同居とありました。肝臓破裂で出血死とは、それも三才児に襲った無残な死。なんとも酷い話です。普通なら大見出しで報じられてもいい悲惨なことなのです。それが下段の小さな記事です。それは何を物語っているのでしょうか。それは余りにも幼児虐待の事件が続発していて珍しくなくなり、読者の耳をそばだてるほどの事件ではなくなったということです。今回の事例がそうとは確認されていませんが…<o:p></o:p>

 極端な話、時には日もおかずに乳幼児の虐待死が報じられています。その場合たいてい同居人として母親の交際相手が登場してきます。同居人主導の虐待が行われ女の子供を死なせるのです。あるいは重傷を負わせます。時に母親が加わる場合もありますが、同居人の影がちらちらしているのです。彼らの言うことは同じです、躾けだと。どこに床に叩きつけたり、幼い体に煙草の火を押し付ける躾けがあるかというのです。女性は本性を現わした男の正体におののき、時には自分自身も暴力を振るわれる、そんな地獄の責めに遭ってしまうのです。<o:p></o:p>

 何故に女はかような男を招じ入れるのか、その要因はいろいろあると思われますし、分かる部分もないではありませんが同居人を選ぶのにもっと慎重であって欲しいのです。八百屋の店先で胡瓜を買うのでさえ丹念に選ぶのですから。ましてや生活を共に送るのですし、自分の子供の将来も託するのです。甘い言葉や一時の恋愛感情で盲目になって欲しくないのです。<o:p></o:p>

 敢えて言わせて貰えば、おそらく男の性格や身元も住所も仕事の内容もしっかりと把握せずに、誰に相談するでもなく、同居人として受け入れてしまうのではないのでしょうか。その安易さがわが子の虐待を生むのです。<o:p></o:p>

よく考えて下さい、独り身の生活でさえ容易でない今日、子持ちの女性と結婚してその子供の養育にともに協力するといった同居人が、そう滅多にいるとは思えません。甘言を弄して性の対象としてのみが目的か、あるいは生活の手段として食い物にするために近寄り、あわよくば紐になることを狙っているのです。もちろん世間には人生を再婚同士やり直そうとするカップルもあるでしょうし、子持の女性であっても心底愛情を抱いて接する男性もおりましょう。しかしそんな男性は稀だと声を大にして言いたいのです。男のあたしが言うのですから間違いありません。<o:p></o:p>

不幸にもそんな人な同居人にとり憑かれたら、勇気を持って助けを求めるのです。身内はもちろん、警察・行政・ご近所に訴えるべきと思います。まだまだ日本の社会は捨てたものではありません。勇気を出して同居人から逃げるべきだと言いたいのです。<o:p></o:p>


うたのすけの日常 暑気払いに艶笑落語をの続きです

2007-09-24 05:19:15 | 気分を変えまして


落語「診察室」後編

女房 それがどうしてこんなに遅くなったの、何時間かかったと思ってんの、呆れた。パチンコでも行ってたんじゃないの。
亭主 まさか、診察は終わっても治療ってものがあるでしょう。「熱を下げない事には辛いでしょう、今はやたらと注射はしないんですが、よろしければ解熱の注射打ちましょうか」ってきたもんだよ。また随分と奥ゆかしい先生だよねえ、すっかり嬉しくなっちゃってぜひお願いします、頭下げましたよ。
女房 昔はすぐ注射ですもんね、色々弊害があったのよ、特に赤ん坊には。
亭主 看護婦ったら「この注射痛いですよ、ほんとに痛いですよ、半端じゃありませよ」なんてばかに念入りに脅かすの。その割りじゃなかったけど射ち方が凄いの、投げ槍みたいに注射器もっちゃて狙い定めて上のほうからぶすって具合。驚いたね、「その注射、四時間ぐらい効果があります。入院されてる患者さんでしたらあとは点滴で楽にお寝みになれますが、あの、座薬ってご存じですか」て先生訊くのよ。でさあ…
女房 どうしたのよ。
亭主 うん、だからさ、サービスしちゃった。
女房 サービスって、
亭主 いや、先生も看護婦さんもあんまり親切だからさ、言っちゃった。
女房 なんてぇ、
亭主 座って嚥む薬てしょう、知ってますよって。そしたら先生あたしの顔じいーっと見てマジになってるんだよ、看護婦ったら顔真っ赤にして笑いこらえてたと思ったら、廊下に飛び出してちゃったよ。
女房 当たり前でしょ、呆れたあ。先生怒ったでしょう。
亭主 それがさ、生来真面目なお人なんだねえ、「いや、そうじゃありません。座薬ってのは…」って説明してくれるんだよこれが。だからさ、悪くなっちゃって、先生申し訳ありませんジョークでしたって頭下げたよ。
女房 ひっぱたかれなかった。
亭主 まさか、好い先生だよな「僕も医者になって経験も浅くそんなに沢山患者さんに接したわけじゃないが、診察室で冗談言う患者さんは初めてですよ」てにこにこしてんの、感激したね。
女房 ふうーん、ほんとよねえ。
亭主 それでさ、
女房 なによ、
亭主 そん時急に廊下が騒々しくなったと思ったら、どやどやって四五人看護婦が入って来て、中の一人が「面白い患者さんてこの人」ってあたしを指さすじゃない、そしたらさっきの看護婦もいて「シイー」って慌ててんの。笑っちゃうよ、みんな呼んで来たんだよ。あたしゃ体のいい見世物ってとこさ。
女房 あんたが馬鹿言うもんだから、物珍しく退屈しのぎに来たんでしょう。病院よっぽど暇だったようね。
亭主 そうなんだよ、だけどさすが先生「君たちいいのかい持ち場離れたりして、婦長さんに叱られるよ」「いえ大丈夫です。何かの時はここに連絡するように言ってありますから」「なんだ婦長さんも来てんですか」先生吃驚してんの。婦長まで来てんじゃこりゃあもう二つ三つ冗談とばさにゃならねえと、(言葉とは裏腹嬉しそうに)参っちゃったよ。
女房 参ることないじゃない、まったくあんたって人は。病院なんだって思ってるの、それで。
亭主 (胸を反らして)座薬の話の続きよ。
女房 気取らない。
亭主 ある病院で回診の時、お婆さんに先生「いかがです、熱下がったようですね」お婆さんベットの上にちょこんと正座して「はい、このようにちゃんと座って頂きました」先生目が点になっちまって後で看護婦怒鳴り散らしたそうですよ。看護婦爆笑。でもね先生って、これはあたし、座薬は男にゃ問題ないけどご婦人にはちとまずいですよね「何でです」ですからね……、「何がですからね、ですか」って先生しつっこいんだよ、
女房 それはそうよ、何で女じゃまずいの、
亭主 あんたまで、だから思い切って言っちゃったよ、ご婦人だと間違えてお向かいさんに入れちゃったりして…、ここで看護婦共キャアッって悲鳴上げたと思ったら床踏み鳴らしたりして喜ぶこと。
女房 呆れたあ、でも看護婦さんたち、よっく直ぐ分かったわね、あたし一寸時間かかったわよ。
亭主 それは職業柄よ。
女房 そうよね、それより先生は、
亭主 そこだよ、その時少しも騒がずあたしのおでこに手を当てて「おかしいね、熱は下がってるんだけどなあ」て厳粛な顔。でもあれは絶対笑いを必死にこらえていた顔だな。
女房 やさしいのねえ、熱が言わせてるってあんたを庇ってくれてるのよ。
亭主 でしょう、だから他にもいろいろあるんですよって言ったの、先生身を乗り出して「ほう是非聞かせて下さい」って、乗り掛かった船だ、あたしも肚決めたよ。病院の受付で「おばあちゃんどこがお悪いんですか。なに科かしら」「うちは農家だよ」「本当の話」って先生。こんな話もあるんですよってあたしは続けたよ。入院患者に先生「あしたの朝最初のお小水を採って下さい」そしたら患者、「一番搾りか」先生聴診器ほうり出して笑うの、看護婦たち腹よじって笑い転げやがんの、一人ぐらい小便ちびったね。
女房 そんなことあるもんですか。
亭主 そん時車椅子に婆さん乗せた看護婦が入ってきてね、先生が注意したら婆さん「あたしゃ足が悪いだけで内臓はどこも悪くないよ、笑い声が聞こえたから入って来たの、意地悪しないでだって。次は目医者でのこと。
女房 まだ続けたの、呆れた。
亭主 あたしの友人でとぼけた奴がいましてね、
女房 人のこと言えないでしょ。
亭主 そいつの仕出かしたことなんですがね、視力検査で看護婦さんが指揮棒みたいんで色々指して読ませるでしょう。最初は上下左右斜めと輪っかの何処が空いてるか聞くの。看護婦「どこが空いてますか」そいつ「真ん中」看護婦絶句、気を取り直して字を読ませたわけ、「これは」「×」「これは」「×」「これは」「×」「これは」そこでやっと看護婦気づいて、顔赤くしてそいつのそばにすっ飛んでってシャモジ取り上げて頭ごつん、すかさずそいつ「×」ってやらかしたの。そばで別の患者診てた先生笑いをかみ殺して「まじめにやりなさい」だって。こっちの先生もにやにやしながら「あなたの知り合いっておっしゃるけど、実際はあなたの話じゃないの」あれよく分かりますねって言ったら「そうそうあなたみたいな方おりませんよ」だって、褒められちゃった。
女房 誰が褒めてるもんですか、しようのない人ね、それで終わったのね。
亭主 まだまだ、やんなんちゃうよ。
女房 やんなんちゃうことないじゃない、さっさと切り上げて帰ってくればいいのに。
亭主 そうだけどさ、先生ペンなんか持ち直してカルテとんとんて叩いて「それから」って言うし、最初は遠巻きにしていた看護婦も、だんだん輪を狭めてきて逃げるに逃げられないって按配よ。じゃあってんで、
女房 まだやったの、
亭主 そう、毒食わば皿までよ。大部屋の病室に盲腸の手術をした男がいましてね、ぷうぅっておならの音がしたんですよ。よく言うじゃありませんか、手術した後おならが出ると経過が良いって「それは言えます」って先生、他の患者たちが一斉に「おめでとう」って拍手。大部屋の患者は連帯感強いんですよね。そしたら付き添っていた奥さん、消え入るような声で「いまのはあたくしです」これはあんまり受けなかったな。それじゃあってんで、診察室で中年の奥さんがそれもお品の良い、先生の前に腰掛けていたと思って下さい。
女房 思いましたよ。
亭主 あんたに言ってんじゃないよ。
女房 分かってますよ。一寸参加しただけよ。
亭主 先生カルテになにやら書き込みながら「さっ、舌を出して見せて下さい」奥さんか細い声で「ここででしょうか」先生カルテから目を離さず「そうですよ」そしたら奥さんもじもじしてたとおもったらいきなりスカートたくしあげて下穿きを、それも覚悟を決めたって眦で一気に脱いだんです。いやこれには先生も看護婦も大喜び、先生なんざぁ床踏み鳴らしてんの。そこに「舌と下のあそこと勘違いしたんだ」なんて車椅子の婆さんが解説入れたからまたまた爆笑。そしたら婆さん調子に乗りやがって「いい男の先生ならあたしわざと間違えちゃう」なんて止めを刺しやがんの。年の功と言いたいが、人のお株取りやがってあの婆さん呆れた婆さんだよ。
女房 そんな言い方しないの、今度はほんとにお仕舞いね。
亭主 まあそんな訳でとんだ時間潰しよ。
女房 何がとんだ時間潰しよ、ちゃんとお薬頂いてきたんでしょう。
亭主 座薬もね、もう必要ないけど「さあみんな持ち場へ戻って、ここはあたしがいますから」婦長の一声で解散。最初の看護婦あたしのそばにいたかったんだな、ぷーんて膨れてんの。
女房 それでどうしたの、その看護婦さんかわいそうに。
亭主 出ていきましたよ、婦長の命令じゃ仕方ないもん。それから先生おもむろに診察再開「咽喉は乾きませんか、汗かきますと水分を補給しなくてはね、ポカなんかいいですよ。お齢を召されるとどうしても感覚が鈍くなるのでね」ポカーン、これはあたし「これはすいません、あのスポーツで汗かいた後なんかに飲む…」知ってますよ、ポカリスエット事ですよね「人が悪いね」だって先生。
女房 まだ冗談続けてんの。
亭主 弾みがついてるからしょうがないですよ、婦長真っ赤になって笑いこらえてんの。「ところで今年はインフルエンザが蔓延する兆しがあるんですよ、今の風邪が直ったら予防注射なんかしてたら良いと思いますよ」
女房 優しい先生なのえー、これから永くお付き合いしたいわね。
亭主 でしょう、だから一生懸命サービスしてきたんじゃない。それで予防注射幾らなんですかって訊いたの、そしたら婦長が「五千円ぐらいかしら」って言うの。
女房 それで、お願いしてきたんでしょう。
亭主 五千円じゃうまいもん食って体楽してたほうがが良いなって言っちゃった。
女房 えーっ、
亭主 そしたら先生「うーん、確かに言えてる」だって。
 はい、お粗末でしたお後が宜しいようで…


うたのすけの日常 暑気払いに艶笑落語を

2007-09-23 05:25:15 | 気分を変えまして
落語「診察室」前編

ええー、本日は病は気から、ストレス解消は笑いから。病院は診察室での他愛ないお話で、しばらくの間お時間をちょうだいさせて頂きます。
亭主 只今かえりましたよ。
(この家の亭主のお帰りです。このご亭主元は大工さんでして、今は引退してごく気楽なご身分。精神的にも一点の陰りもない、後生楽な御仁であらせられる訳でして)  
亭主 あれ、居ないね。何処に居るんだい、トイレかい。
女房 お風呂ですよう、随分と遅いじゃないの、何してたんです。
亭主 なんだ風呂か、馬鹿に早いじゃないかい。それより何してたもないもんだ、病院行ってたんじゃないの。あすこやっぱり救急病院だったよ、近所に救急病院があるっちゃいいもんだね、助かるよ。
女房 だから言ったでしょう、日曜でもやってるから行ってらっしゃいって言うのに、休みだなんて強情張って人を薬買いにやらせてそのあげく、ちっとも効かねえって当たり散らして。昨日のうちに行ってれば高い薬買わずに、苦しい思いもしないで済んだんですよ。
(てな具合で居間と風呂場とでのあたり憚らぬやりとりでございます。なにしろ玄関入って直ぐ居間兼食堂、廊下を挟んで勝手と風呂場トイレと並び、その奥には寝室といった、ごくごく庶民的な佇まいであるわけでして)
亭主 はははっ、わるいわるい、全くその通り、注射一本ですっかり気分よくなっちまったよ。やっぱり病気にはお医者さん。
女房 泥棒にはお巡りさん。
亭主 猫には鰹節。
亭主 あっしにはおめえさんだ。
女房 馬鹿馬鹿しい。
亭主 なによ、それを言わしたくて、ははっ。おおっ、また始めましたね。
(神さん裸のまんま脱衣場から居間に顔だけ出しましてね)
女房 そうよ、こうやって湯上がりの肌を叩くといつまでも肌が引き締まって、瑞々しさが保たれるんですって。
亭主 そんなことしなくたってあんたの肌十分若いですよ。(と言いつつ身を乗り出してまして)あれあれそんなに強く叩いたりして、お尻真っ赤になってるじゃないの。でもなかなかいいもんだね、雪のような白い肌に紅葉を散らすが如き眺め。そそるねえぇ、
女房 えっ、何か言いました。
亭主 いや、何も言ってませんよ、それより一杯やろうかとおもって、
女房 冗談じゃありませんよ、昨日からほとんど何も口に入れてないんでしよう。口がまずい、食欲ないなんて、なんか食べなきゃ直る病気も直りませんよ。
亭主 分かってますよ、大分食欲が戻ってきたから、アルコールの力をお借りして今夜はしっかり頂こうとおもって。
女房 大丈夫なの、さっきまで死にそうだなんて騒いでいた人が。おかしな体なのね、なんか顔色もいいみたい。
亭主 そうでしょう、病気は気分に左右されるんですよ。今夜はすこぶる付きの好条件で、あはははっ、まあまあそのままそのまま、あたしがやりますよ。あんたは湯上がりでビール、あたしはいつものレモンハイと。
(ご亭主座ったまま手が届くって塩梅の冷蔵庫や食器棚から、膳の上に小まめに色々と取り揃えます)
女房 わるいわね、病人使っちゃったりして。
亭主 なんのなんの、もう寝巻に着替えたら、楽だよ、今夜は起こしませんから。
女房 そうね、そうさせて貰おうかしら。一晩中起こされっ放なしだったんだから昨日は。
亭主 そうなさいそうなさい、ネグリジェが楽でいいよ。前開きのやつ、
女房 大きなお世話ですよ。
亭主 あんなの体、いつ見ても奇麗だねえ、色はまっちろだしとても齢には見えませんよ。
女房 なに見てんのよ、見ないで恥ずかしい、もういやらしいんだから。
亭主 なに言うんだい、夫婦じゃありませんか、あたしは夫ですよ。
女房 下にどっこいつけてみろ。
亭主 おっとどっこいですか。
女房 わかってるじゃない。
亭主 もう、あたしはね、おためごかしで言ってるんじゃありませんよ、自分の神さんに世辞言ったって始まりませんからね、ほんと。(半ばにんまりと独り言で)あんた第一胸があるもんね、大きからず小さからず。丁度手の平に収まる案配、赤ん坊の手の平じゃありませんよ、あたしんですよ。それに乳首がなんとも言えず可愛いよね、小粒でピンク色、ぴょんとした感じ。
女房 誰と比べてですか、ぴょんとした感じってのは。
亭主 あれ、聞こえてたの。
女房 誰と比べてですか。
亭主 誰とってえ、いまやたらと週刊誌にヌードなんか載ってるじゃない。そんなのよりあんたのがずっと素敵だって事。
女房 馬鹿馬鹿しい。
(と言いながら神さんネグリジェ姿で、お先にごめんなさい、と言いながらタオルでもって髪の毛拭き拭きお膳の前に座ります)
女房 あらすみません、ああおいしい。湯上がりはこれに限るわ。今日も一日暑かったわ、それよりどうでした先生の診断は、
亭主 そうそう、心配ないって。夏風邪、
女房 そうでしょう、大袈裟なんだから。このまんま入院って事になるかも知れないから洗面道具、テレホンカードに住所録、それに着替え用意しとけ。おまけに娘に電話しとけなんて。よかった、電話なんかしなくて。
亭主 あれ、電話しなかったの。
女房 あのね、娘は近間に居るんじゃないのよ。九州は鹿児島、風邪ぐらいでいちいち電話なんかできませんよ。
亭主 あのね、万が一ってことがあるんですよ、あたしも齢なんだから。肺炎なんか起こしてたら、あっと言う間に逝っちゃうなんてことがあるんですよ。
女房 そうなれば願ったり叶ったりですよ。いーい、あんたには一日もあたしより早く逝って貰いたいんだから。
亭主 決めてるの。
女房 そう、なによ膨れっ面して。うちはあんた、花、そしてあたしの順、毎朝お仏壇に手合わしてお願いしてるんだから。あんたも欠かさずお線香あげて、お義父さんお義母さんに頼んでて頂戴よ。
亭主 あたしは猫より先なんだ、わかりましたよ。でも齢とるっちゃ寂しいことですねえ。
女房 そんなことないわよ、せえぜえ長生きして下さいよ。あたしの次ぎまでね、
亭主 ふうーん、案外あんた肚座ってんだね。
女房 それより病院混んでた、他にお客さん居て。
亭主 がらがら、待合室だれも居ないの。それよりお客さんていうの、病院来る人。
女房 患者さんよね。
亭主 そうだよね、それで受付で急患ですけど診て頂けますかっていうと「どなたが」ってあたしの肩越しにうしろ覗くじゃない。あれっ、だれかいるのかと思わず振り返っちゃったよ、居るわけないよね。しょうがないからあたしです、すいませんて頭下げたよ。
女房 なにもしょうがないからってことないんじゃない。
亭主 だから一緒に行ってくれって頼んだでしょう。普通急患ってのは一人でのこのこ歩いて来ないんじゃないの、救急車とか車で家のもんが付き添って来るとか。「あなたが急患ですか」頭のてっぺんから爪先までじいーと見やがんの受付の女。
女房 そんなことどうだっていいじゃないの、第一風邪ぐらいで目と鼻の先の病院について行けますか。急患なんて言うからよ。風邪引いちゃったようで熱が下がらないんです、診て貰えますかってあっさり言えばいいのよ。
亭主 それだけ分かってんなら付き添ってそう言ってくれれば、
女房 子供じゃあるまいし、それで。
亭主 手続きして言われた通り診察室の前で待ってましたよ。看護婦が来て、三十前ってとこかな、わりと男好きのするタイプ。
女房 あんた好みね、分かった。それで具合良くなったんだ、良かったじゃない。
亭主 そんなんじゃありませんよ全く、やんなんちゃうなあ。
女房 やんなることないじゃない、熱は下がったんだし目もキラキラしてるわよ。ほほほっ、それで。
亭主 体温計渡されて、しばらくして先生が来て診察室に呼ばれましたよ。
女房 女の先生、
亭主 男の先生。
女房 がっかりしたでしょう。
亭主 それどころじゃありませんよ、苦しくてソファーに座ってるのがやっとだったんだからもう…、体温計出したら「三十八度か、ありますね」さっきまで三十九度ありましたて言ったら「そうでしょう」何がそうでしょうだか分かんないけど、容体訊くから説明してさ。
女房 ちゃんと説明出来た。
亭主 出来ましたよちゃんと。
女房 良かった、問診でお医者さんは大体患者の容体を診断するんだから。何ていったの。
亭主 いいじゃないそんなこと。
女房 下らないこと言わず、正確に要領良く簡潔に自分の容体を話さなくてはね。それで、
亭主 「咽喉はまだ痛みますか」これは先生。いえ今は大分楽になってます「では診てみましょう、なる程、赤みは薄れています、扁桃腺は異常ありませんね。では胸を拝見、いやシャツ揚げるだけで結構」てな具合で診察終わり。
つづく

うたのすけの日常 なんとなく終わる一日

2007-09-22 04:22:34 | 身辺雑記

今日一日を振り返る つづき<o:p></o:p>

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 昼寝をするときどういう字を当てるのか分からないのですが、あたしは「きどころね」即ち畳にごろっと横になり、手枕で寝ることが出来ない面倒な習慣を身につけています。昼寝布団を敷いて枕を出し、タオルケットをかけて畏まってしか寝られないのです。寒くなれば毛布をちゃんとかけます。子供のころから、きどころねするんじゃない風邪引くからと親に言われてきたせいでしょうか。ところで「きどころね」とはあたしの家でしか通用しない言葉なのでしょうか、辞書には出ていません。あたしは転寝(うたたね)と理解しております。<o:p></o:p>

3時、この時期相撲の東京九月場所が佳境に入っておりますので、6時までテレビ桟敷に居座ります。朝青龍騒動も何処へやら、それを跳ね返すように連日国技館は熱戦に沸いてます。中入り後二三番見て早いとこ風呂へ入ってしまいます。烏の行水ながら、早くさっぱりして後半の取り組みをゆっくりと見たいわけなのです。孫や娘たちが暑い最中帰ってきて直ぐに入れるようにとの気遣いもあるのですが、これがまたなかなか入ろうとしないのも皮肉です。<o:p></o:p>

6時には相撲も終わり、その後あちこちのニュース番組を渡り歩きます。芸能ニュースになると他へ廻し、生命保険のコマーシャルも同様の憂き目に遭わせます。80才まで入れますなんて大声を出されますと、追いかけられるようで落ち着きません。その頃には娘も孫たちも三々五々帰って来ていて、娘が夕食の仕度に掛かる気配が2階に伝わって参ります。かみさんの手伝いが欲しい時は召集が掛かります、たいてい野菜の煮物とか、鮪のさくを刺身に切ってくれということです。<o:p></o:p>

 7時ごろが夕食時間です。この時間には通常娘の連れ合いは仕事から帰っておらず、お膳を囲むのは5人というわけですが、仕事学校等の関係であたし達2人になったり、3人4人5人になったりします。しかし亭主は致し方ないにしても、夕食は孫たちといつも5人揃って食べたいものです。<o:p></o:p>

 食事を終え部屋に戻ると既にお互い朝方4時には起き出している身です。おまけに早朝の散歩洗濯掃除そしてテレビ、たまに読書に耽ったりパソコンをいじったりと、いささか目の疲れも重なって参ります。いやそれ以上に眠気が襲ってくるのです。<o:p></o:p>

かみさんは座椅子に背を持たせて目をつぶり出すので、寝たらと声をかけますと、即座に目をつぶって聴いているのと常に同じ答えが返ってくるのです。あたしはそれに呆れることなく、聴いているならイヤホーン付けるからそれで聴いてと言います。あたしはイヤホーンをセットしてやり、眠いから先に寝ると宣言して横になるのです。<o:p></o:p>

8時か8時半、無理に起きてて9時、かみさんもじきに寝るのは分かっています。<o:p></o:p>

これで一日は終わりです。<o:p></o:p>


うたのすけの日常 まあまあの一日

2007-09-21 06:23:32 | 身辺雑記

今日一日を振り返る つづき<o:p></o:p>

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 7時半ちかくなりますと、下の朝の騒めきも落ち着きだします。上の孫は定時勤務なら出勤です。下のは登校準備を終えている頃で、娘の連れ合いもそろそろ出勤です。あたし達は下に降り朝食に掛かりますが、かみさんは血糖値を計測してインシリンの注射をしますのであたしが仕度をします。仕度と言っても残りご飯をチンしたり、定番の焼き海苔を焙ったり、目玉、あるいは玉子焼きを焼く程度のものです。<o:p></o:p>

 その間娘が亭主を送り出し、洗濯物を干しにかかりますが、いつも中断して孫を水戸の高校まで車で送って行きます。慌ただしい朝の一時が過ぎますと、かみさんが今度は洗濯にかかります。あたしは2階に上がり野球観戦です。松井やイチロー、松阪の試合を見ます。松井の不調が気掛かりでストレスが溜まります。それでも野手の登場はそれほど気を揉みませんが、投手となるといささか異なります。投手の場合投げる姿をチェンジ毎に見続けるわけで、ボールが先行しただけで息苦しくなります。ピンチになると見ていられなくなり一時チャンネルを他にまわしたりして、いわゆる気持の緊急避難をします。戻すとピンチを脱出していたり、散々打ち込まれたりしていたりして結果は両極端です。洗濯物をベランダに干しながらかみさんはそんなあたしを見て、そんなら最初から見なければいいのだ、そんな態度は真のファンとは言えないと呆れます。<o:p></o:p>

 干し終わったかみさんは階下に行き、食堂で新聞やチラシを見ながら自分三昧のテレビ観賞におそらく入ります。「モーニングショー」「ちい散歩」や「暴れん坊将軍」といった時代劇の再放送を見ます。あたしはぶつぶつ文句を言ったり、或いは褒め上げたりして野球を見続けます。二試合あるときもあります。すると午後に亘りますがいささか疲れてきますので、中断してパソコンに向かって気分を変えたりします。そんなうちに午飯の時間となり下へ行きまして、かみさんに一言「腹減った」と告げます。「もう、すいたの」と呆れ顔されて午ご飯となりますが、たいていパン食です。簡単なものでしてトーストにして、飲み物は牛乳だったりインスタントのコーヒーだったりです。年取るとそうがむしゃらに食べられるものではありません。上手く出来たもので、僅かな年金でも十分お腹は満たされるわけです。これが年々食欲が旺盛になり、新たな遊びを覚えたりしてちょんちょん飛び仕出したら、それこそ自身は破産だしはた迷惑もいいとこです。<o:p></o:p>

 午飯を終わるとなんとなく手持ちぶさです。午後のテレビ映画を見るか、録画してある番組を見るか、後は昼寝を決め込むか、いずれにしても「年寄りここにあり」と存在感が焙り出てまいります。<o:p></o:p>

<o:p> </o:p>

つづく<o:p></o:p>


うたのすけの日常 ありきたりの一日

2007-09-20 04:26:07 | 身辺雑記

今日一日を振り返る<o:p></o:p>

<o:p> </o:p>

 

 

 朝4時に目覚めました。昨夜は8時に床につき歌謡番組を聴きながら眠ってしまいました。最初に目覚めたのは10時半ですか、トイレに行きます。下ではまだ子供たちの起きている気配がしています。つぎにトイレに目覚めたのは1時半、そして目覚めた4時にトイレに行ったわけです。前立腺肥大の患者としては夜中にトイレに通う回数が症状の判断の目安になります。あたしなりに診断を下します。<o:p></o:p>

 一回目の10時半は通常でしたらまだ起きている時間ですのでカウントしません。すると一時半と明け方4時の2回となりますが、4時のときはそのまま起床しましたから、これを夜中のトイレ行きにカウントするのかが問題です。カウントすれば2回、除外すれば1回となります。まあまあといった症状なわけでして、格別に気にすることはないわけです。まあこんな具合に起き出しましたが、当たり前の話まだ窓の外は真っ暗です。洗面所に行き水音も密やかに洗面を済まします。その間にかみさん布団を上げますが、子供たちはまだ夜中ですから全て隠密行動です。あたしはパソコンの前に座り昨日書き終わっているブログを読み直し、少し訂正して送信します。その頃にはいくぶん明るくなってきて、時刻も5時を廻っています。身支度をしてかみさんと散歩に出ます。この時期朝の散歩には最高の季節です。頬をなでる風も爽やかで実に気持がいいです。今朝はカメラを手にします。前の日に田圃に白鳥が4羽も降りていて餌をついばんでいたのです。珍しい被写体を撮ることが出来ず、無念な思いをしていたのです。しかし期待はしていません。後手後手に何事も終わるのが、我が人生と達観しておりますから。それでも一抹の望みを託してはいたのですが、案の定白鳥は今朝は姿を見せません。やむ得ずあらかた稲刈りの終わった近辺の田圃を収めましたが、全ての田圃の稲刈りが終わったころこの地区の市民運動会がおこなわれます。今年は敬老者席に招待されています。なにかと忙しいのです。<o:p></o:p>

 5千歩ぐらいの散歩を終えて帰宅する頃には、辺りはすっかり明るくなってきています。額と背中に汗が若干にじんできています。朝刊を玄関に入れて足音を忍ばせ2階に上がります。時刻は6時前後になっていますが、まだ誰も起き出してきません。テレビを音量を絞ってかけてニュース番組を見ますが、たいていNHKか6チャンネルをカチャカチャさせて交互に見ます。<o:p></o:p>

カチャカチャではありませんね、今はリモコン操作ですから。<o:p></o:p>

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つづく<o:p></o:p>