突如アナウンサーの声が途切れる。扉の開けられた玄関から、自動小銃を構えた覆面に黒ずくめの男たちが飛び込んでくる、数名を残し二手に別れ二階と右手の厨房へと敏速に動く。同時に戸外で立て続けに銃の発射音がけたたましく鳴り響く。広間に女性子供たちの悲鳴が起きる。
覆面1 動くな、騒ぐな。(いきなり天井に向かって銃を連射する、悲鳴が再びあがる。外交官の兵士は覆面の男の一喝で銃を捨て両手を挙げる)残念だが客人は来ない、門前でお帰り願った。女子供それにあすかの部外者は直ぐ表へ出るんだ!
覆面2 表で仲間が門外に誘導する、手早く動け。そうだそうだ、その調子だ。
沢田 きさまたちは何者だ、昭島すまん(沢田、昭島に寄る)油断した。
覆面1 動くな、喋るな、きさまたちは手を下ろすんじゃない。
夫人たちは男たちに急かされながらも、それぞれの子供たちの手を握り立ちすくむ。
秋田 官房長官!(昭島に駆け寄ろうとするが覆面の男に阻止される)
昭島 大統領!(絶叫する昭島の喉元に銃口が突き付けられる。夫人たち悲鳴をあげる)翔太 (覆面の男の隙をみて翔太が井沢に縋り付き泣き叫ぶ)先生、行きたくないよ…
井沢 翔太、(翔太を抱こうとするが、覆面の男軽々と翔太を抱え上げ井沢を突き放す)
一同昭島たちと言葉も交わす事も出来ず、嗚咽しながら振り返り振り返り広間を後にする。厨房から男たちに小突かれながら料理人やウエイターたちが表へ出される。やがて覆面の男たちと昭島たち七人は静まり返った広間に対峙する。
覆面2 とんだ愁嘆場を見せやがる。
覆面1 奴らの体を調べろ。
沢田 拳銃は所持していない。
覆面1 口をきくなと言ってある。(覆面の男たちが手荒く昭島たちの体を調べる)銃は所持してないようだな、不用意だったな。しかし賢明だった、余計な犠牲者を出さずに済んだからな。
島本 婦人や子供たちはどうした!(覆面2いきなり島本を蹴る)
覆面1 よし、手を下ろせ。口をきくことを許す。
昭島 ここをあすか共和国と知って襲ったのか。婦人や子供たちは、
覆面1 あすか共和国?ほざくな、世迷い言はいい加減にしろ。
覆面2 お前たちの言うあすか共和国の大統領一行並びに家族は、銘々それぞれの家庭に戻した、今から普通の生活に戻る。平穏な日常に帰ったのだ、余計な心配はすんな。
井沢 大統領は?ここが大統領の…
覆面2 秋田智子は子息と一緒に秋田会長の家へ送り届ける。秋田次官もそこにおられる。
覆面1 人質全員それぞれの肉親の元に無事送り届ける。
昭島 それがお前たちの目的か。警視庁の特殊部隊か。
覆面1 (昭島に答えず)あとはお前たちの処遇だ。
島本 貴様たちは何者だ名乗れ(島本、言うなり覆面1にとびかかり覆面を剥ぎ取る、覆面2、島本を銃の台尻で殴り島本仆れる。沢田と仆れた島本驚愕の声をあげる)
沢田 あなたは…
島本 よるか駐屯地の…
沢田 ゲリラ対策部隊の隊長…
覆面1 (素顔を暴かれた事に狼狽しながらも威厳を崩さず)そうだ。貴様たちよくも「よるか師団」の顔に泥を塗ってくれたな、自衛隊を世間の笑い者にしてくれたな。だがそれはいい、責めまい。俺たちは屈辱に耐えるのには馴れている。しかし貴様たちのとった行動を見逃すわけにはいかない。自分たちの夢を見るのは勝手だ、政府を批判するのも結構、世界を盾に日本の改革だと宣うのも自由だ、しかしきさまたちの行動は身勝手だ。ここは日本だ、この地は日本人のものだ。だれも自由勝手にいじくり廻す事の出来ぬ日本人全体のものだ。日本を変えるというなら日本人として行動しろ。その気魄を持て。金の強奪が失敗したからといって、変わり身も素早く外国をダシに、女子供を操り英雄気取りで闊歩するのは許すことは出来ない。甘ったれるな!
沢田 隊長殿、それは違います。
島本 隊長殿、自分たちは夢かも知れませんがそれを追ったのであります、日本の新生を願って。決して英雄気取りなぞ…
沢田 自分たちは決して自衛隊をないがしろにはしていません、私心を捨て日本の将来を見据えて事を起こしたのであります。止むに止まれぬ行動であります。
島本 隊長殿、事は成就したのであります。微かではありますが、光はみえたのです、日本の将来に明るい展望が開かんとしているのです。どうかこのまま撤退して下さい。
覆面2 黙れ島本、理屈はどうにでも後からつけられる、いいか、制服は政治に関与しない、それが鉄則だ。許せん!それより隊長の覆面を剥ぐなんて余計な事をしたな。
覆面1 まあいい、ここへきてはもう多くは語るのは止そう。貴様たちの処遇については部内で激論があったが、結論はアメリカ大使館へ全員身柄を亡命させるため移送する手筈だった。だがそれも儚い夢となるのか…沢田、島本、貴様たちは元自衛隊員だ、覚悟は出来てるだろうが、残りは民間人だ。強盗犯とはいえ殺人者ではない…
覆面2 隊長、秘密の漏洩は許されません。自分がやります。
覆面2の血走った声に昭島たちに驚愕のどよめきが走る。
昭島 俺たちを殺すのですか。
覆面2 止む得んだろう。俺たちに身元は無い、その無い身元が知れては国の存亡に関わる。
沢田 隊長殿、仰せの通り自分たち二名は元自衛隊員であります。自分の身は自分で処します。しかし彼らは…
覆面1 わかっている。
覆面2 隊長、恩情は許されません。長官のお立場はどうなります。我々は一心同体であります。全員この場で射殺します、命令を下さい、命令を…
覆面の男たち一斉に銃を構える。沢田島本を除き、皆恐怖に顔をひきつらせ身を寄せ合う
そこへ二階や厨房へ散っていた覆面の男たちが戻る
覆面3 火器弾薬全て奪取。建物爆破の準備完了。爆破定刻5分前であります。
表から数人の覆面の男たちが駆け込んでくる、その場の緊迫に息を飲む。
覆面4 部外者は全員門外に誘導退去完了。各国大使には丁重に接し、穏便にお帰りいただきました。
覆面5 女子供は家族別に車両にて各家庭への送還作戦無事完了。
覆面1 ご苦労、撤退準備。
覆面2 隊長、ご決断下さい。命令を!
広間に重苦しい空気がじょじょに充満していき、覆面の男たちの構えた銃は微動だにもしない。舞台溶暗。途端にすざまじい轟音が鳴り響き、幾条もの閃光が暗黒の舞台を縦横に走り何回となく点滅を繰り返すうち火炎が渦巻き、そしてもとの暗黒に戻る。静寂の中、ニュースの声が流れる。バックに荘重な悲壮感こもる音楽が奏でられる。
「ここでただ今入りましたニュースをお知らせいたします。今夜七時あすか市あすか町一丁目一番地あすか共和国の大統領官邸に国籍不明の武装集団が押し入り官邸を爆破、炎上させました。死者負傷者は出ておりません。大統領一行並びに家族は、直前に難を逃れ、日本国内にあるそれぞれの肉親の家に避難しました。なお国籍不明の男たちの行方はわかりません。政府は直ちに記者会見をし、官房長官より次のような談話が発表されました。政府と致しましては、閣議であすか共和国承認の決議をし、通告直前の出来事でした。爆破炎上した大統領官邸の惨状を目の当たりにして、唖然たるおもいであります。しかし事件はあくまであすか共和国の国内問題でありまして、日本政府の関与する余地は全く御座いません。また許されません。成人男子を除くあすか共和国大統領一行は政府に政治亡命を求め、政府はこれを認め保護、大統領並びに閣僚要人の諸氏と腹蔵なき協議を重ね、両者に於いてあすか共和国の自然解体を確認しました。よってあすか共和国の国土は日本国に復帰、ここに一連の事件は単純明快な解決をみたわけであります。まことに世界に誇る欣快な終結であります。ニュースを終わります」暗転
(10)
舞台溶明 瓦礫の山と化した秋田邸の跡地に秋田智子が婉然と立っている。その姿とはうらはらに鎮魂曲が呻くように流れている。
秋田 昭島様ほか皆様の消息が不明なのが、いま一番気掛かりでございます。皆様には一連の夢を見させて頂いたことに、心より感謝致しております。若者たちの自信に満ち溢れ、昂揚した姿はいまは私の瞼の裏に、かげろうのようにたゆたうだけになってしまいました。若者の強さしなやかさの裏側に、儚い脆さが限りなく秘められていたのを悲しく思い知らされました。人間の営み、国家盛衰の歴史の蓄積、その背後に潜む、獣たちの弱肉強食の世界を凌ぐ無残を目の当たりに見せられました。粛然といま、無情の虜と堕ちた自分に涙しております。しかし展望はもたされました。 私はこの屋敷跡を瓦礫をこのままに保存し、あすか市に市民公園として使用して頂きたく寄贈いたすつもりです。うたたかの夢と消えましたが、隆盛の極みの華やかさ、亡国の儚さに寄り添った美しさを、私は脳裏から消し去ることは出来ません。あすか共和国の誕生の地、崩壊の地としての証しをこのまま未来永劫にこの地にとどめておきたいのです。将来、マヤ遺跡、ボンペイの史跡、アンコール・ワットの寺院遺跡と並び、人類栄枯盛衰の栄華と悲劇の綾なす聖地と讃えられ、世界遺産と称され、あすか共和国の名を世界史の一頁にとどめることでしょう。そしてこの瓦礫の山は黙せども、世界平和と日本の正しき進路を指針し繁栄を示唆する礎となるでしょう。
幕