自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

獣医・専門家は、なぜ「ワクチン接種後に殺処分の必要はない」ことを紹介しないのか

2010-12-03 16:06:34 | ワクチン

 動物衛生研究所のWEBサイトには、村上洋介氏の総説「口蹄疫ウイルスと口蹄疫の病性について」が掲載されている。これは1997年に山口獣医学雑誌に掲載されたものであるが、その後の世界の口蹄疫防疫体制の変化等についての解説はなぜか一切WEBに公開していない。2001年の英国口蹄疫の大惨事以来、世界の口蹄疫防疫体制は全殺処分から緊急ワクチン接種による無駄な殺処分をなくす方向に変わり、OIEコードに「緊急ワクチン接種をしてもワクチン接種群に自然感染していないことを証明(NSP抗体陰性)できたものの殺処分は必要ない」という第3の選択肢が加わった。そのことを紹介していたのは山内一也先生だけである。

 日本獣医学会は9月15日に「口蹄疫に関する特別シンポジウム」を帯広で開催し、その座長を例のメールを送った明石博臣氏が務めている。このシンポジウムには山内一也先生はパネリストとして呼ばれていないが、「外国の事例や科学的な根拠に基づく」論議がなされたのであろうか。山内先生を招かずして何を目的としたシンポジウムであったのか。

 このシンポジウムでは口蹄疫対策検証委員会の委員の村上洋介氏が講演しているが、講演要旨には、山内氏の指摘する第3の選択肢「ワクチン接種後に殺処分の必要はない」については触れていない。なお、明石氏と村上氏は共に現動物衛生研究所の出身である。

 また、村上洋介氏は酪農雑誌「デーリィマン」(2010年8月号)で、

「緊急ワクチン接種を含めて、執行された防疫措置は国際動物衛生規約(OIE基準:加盟国が遵守義務を持つもの)に定められた清浄国への復帰条件を視野に入れたものと理解される。口蹄疫ワクチンは感染を完全に防ぐことができないという本質的な問題があるが、感染拡大を抑え防疫範囲を最小限にとどめるための効果的手段として海外事例も参考に採用されたものといえよう」と述べている。

 なお、同誌8月号では前OIEアジア太平洋地域代表の藤田陽偉氏はOIEの基準について、

「本病発生後における清浄性への復帰に当たっての条件設定に、感染動物などの殺処分と血清学的サーベイランス、予防接種動物の殺処分の実施など種々の条件を細かく挙げている」と説明しているにすぎない。

 なお、藤田氏は農水省衛生課長を経て、牛海綿状脳症(BSE)に関する技術検討会やBSE問題に関する調査検討委員会の委員を歴任し、失政の一部を担う身でありながら第3者委員会の委員となったことを批判する向ききあったことを思い出す。

 両者とも共通して山内氏の指摘する第3の選択肢「ワクチン接種後に殺処分の必要はない」については紹介していない。また、口蹄疫防疫対策机上演習等で講演している鹿児島大学岡本嘉六教授も、東大獣医学の身内なのか、山内氏の指摘する第3の選択肢については一切触れていないことはすでに指摘した。

 2003年のOIEコードの改訂をを可能にしたNSPフリーワクチン(マーカーワクチン)の製造とNSP抗体検査の普及を前提にしない限り、20世紀型ドグマ(全殺処分しかない)が口蹄疫対策の正統であり続ける。それは世界の口蹄疫対策の流れに逆らうものであり、口蹄疫の被害を大きくすることでもある。山内氏の指摘する第3の選択肢についてなぜ無視しつづけるのか、獣医・専門家の責任ある説明が待たれる。

初稿 2010.12.3 2015.4.17 更新


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