自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

20世紀型全殺処分のドグマからの脱却を

2010-10-13 13:04:08 | 牛豚と鬼

今回の宮崎口蹄疫については、鹿児島大学岡本嘉六教授が講演やホームページで専門家として積極的に情報発信されていることに敬意を表します。しかし、その資料には2003年の国際獣医局規則(OIEコード)の改訂について触れられていない等、以下の問題点があり、これを防疫対策の理論的裏付けとされている方は多く、その影響は大きいので、ここで指摘させていただきます。



1)鹿児島経済同友会10月例会の講演資料では、
  治る病気なのに殺処分とは?   --> 死亡率が高い
  種牛の事例から伝搬力は弱い? --> 牛は100%感染
  ワクチンで予防すれば --> 感染を完全に防げない
  貴重な種牛は治療すれば --> キャリアーとなる恐れ
  牛の1日ウイルス排泄量で10万頭、
  豚はその1000倍の1億頭を感染させ得る。
と科学的というより恐怖心を煽る内容となっています。ワクチンは感染を最小限に抑えるものであり、ヨーロッパでは殺処分からワクチン接種へと流れは変わっています。また、感染牛は殺処分するしかありませんが、キャリアーが感染源になるかどうかは疑問です。口蹄疫ウイルスの常在国でもワクチン接種により感染が減少しており、ウルグアイはワクチンの予防接種で清浄国となっています。



2)滋賀県口蹄疫防疫対策机上演習(2010.10.18)の講演では、OIEコード8.5.8条の清浄資格の回復の表において、2003年に国際獣医局規則(OIEコード)が改訂され、緊急ワクチン接種群に自然感染畜がいないことを抗体検査で証明すれば清浄化回復できる条項が追加されたことを示していません。OIEコードの改訂を前提にしない「口蹄疫防疫対策机上演習」を指導したことになり大きな問題です。



3)国内の発生源と感染経路の調査は防疫対策上重要で、口蹄疫を終息させるために緊急に調査報告がなされる必要がありますが、初発農場と感染源につてまだ特定されていません。しかし、早くより検査を依頼していた農場から感染が拡大したかのような誤解を与える図が示されています。これは口蹄疫検査を早くしなかった県の罪を隠蔽し、検査を依頼した農場に責任を転嫁する冤罪事件です。



2003年のOIEコードの改訂をを可能にしたNSPフリーワクチン(マーカーワクチン)の製造とNSP抗体検査の普及を前提にしない限り、20世紀型ドグマ(ワクチンは信頼できず全殺処分しかない)が口蹄疫対策の正統であり続けます。また、日本の備蓄ワクチンはNSPフリーワクチンであることは、動薬研ニュース「備蓄用口蹄疫不活化ワクチン及び不活化濃縮抗原の製造・検定の立会調査(2007.4.1)」や農水省への問い合わせで確認済みです。



2001年にオランダでワクチン接種後に全殺処分したのは、当時のOIEコードでは清浄国に回復するには全殺処分しかなかったためであり、現在はワクチン接種後の殺処分はしない方針です。



緊急ワクチンは発生源の周縁部から発生源に向けてリング状に接種されるので、リングワクチネーションと言われますが、感染の拡大防止のために健康な家畜を含めて殺処分することはリングカリングまたはサークルカリングと言います。



今回、宮崎口蹄疫で実施したのはリングワクチンと言われていますが、実質的にはリングカリングであり、2003年のOIEコード改訂以降は殺処分を前提にしたワクチン接種は考えられないことです。



OIEコードで求めている摘発・淘汰(スタンピングアウト)は、検査により感染の可能性があると認めたものの殺処分のことであり、検査方法が進歩すれば健康な家畜を殺処分する必要は少なくなります。



日本の農場単位の全殺処分は、感染畜と健康畜の見分けのできない時代の産物であり、検査技術の発達により殺処分を少なくする方向に見直しがなされるべきでしょう。



一方、韓国は発生農場から半径500m以内のすべての偶蹄類を殺処分する20世紀型ドグマの典型例ですが、4~6月のO型発生に際しては殺処分を3km以内の危険区域に拡大しました。



これは4月9日の初発確認の段階では、半径500m以内の殺処分の予定でしたが、4月10日に新たに4件の届け出があり、感染の拡大を危惧したためと思われます。



この殺処分は4月18日に終了するまでかなりの時間が必要でしたが、全殺処分は人、車、重機の移動により感染を拡大することも考慮しなければなりません。殺処分終了の翌日4月19日には、初発農場から3~10kmの危険区域外で感染が確認され、6月2日、6月7日の12例目、13例目から発生農場のみの殺処分に変更後に、感染の拡大は終息しています。



今回の口蹄疫(O型)の発生は、韓国も日本も発生を確認したときには、すでにパンでミック状態に入りつつあり、韓国ではワクチンを使用しないで直ちにリングカリングを実施し、日本ではワクチン接種後のリングカリングにこだわったために対策が遅れ、被害を拡大してしまったと言えましょう。もちろん、川南地域が家畜密集地帯であったことが被害を拡大した大きな原因でもありますが。



したがって4月20日以降の宮崎口蹄疫の問題を論ずることは、パンデミックになったときの口蹄疫対策を論じることであり、2度とこのような惨事を起こさないための議論にはなりません。



2度とこのような惨事を起こさないためには、早期届け出による早期発見が肝要であり、このためには全殺処分の方針を見直し、届け出を急げば殺処分が少なくなる効用を与えることと、口蹄疫ウイルス遺伝子検出の簡易迅速検査を家畜保健衛生所に導入して1次検査をすることです。しかも、この検査を日常的な病性鑑定(例えば、発熱が続き2頭に拡がった場合)に加えることにより、早期発見をしやすくなるのではないでしょうか。



韓国は抗体検査による1次検査を地域で実施しているようですが、早期発見のためには遺伝子検出検査が必要です。



しかも、遺伝子の核酸増幅とクロマトグラフィーを組み合わせた新型インフルエンザやノロウイルスの簡易迅速検査は日本で実用化されていますので、農水省が口蹄疫の監視体制にこの技術を導入すれば、早期発見は容易になります。





初稿 2010.10.12  更新 2010.10.13






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