とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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死の価値観を問う「私の中のあなた」

2009年10月11日 17時36分21秒 | 映画評論
映画の中で苦手な作品は「誰かが死ぬ」というもの。

子供の頃に見た山口百恵の「絶唱」なんかはその代表作。
主人公がやがて死んでしまうなんて悲劇は見ていてちっとも楽しくないし、悲しいだけなのだ。
「父ちゃんのポーが聞こえる」なんかは学校で何度も観賞させられ病院のベッドの横に吊るされている緊急ボタンを見るたびに未だにこの映画の最後のシーンを思い出すのだ。

洋画では主人公の死んでしまう映画に「明日に向って撃て」や「俺たちに明日はない」「ザ・ラストシューティスト」なんて作品があったものの、これらはアメリカの映画だったからそんなにジメジメしたものではなく、「明日に向って撃て」なんかは未だに大好きな映画でビデオでも何度も繰り返して観賞している作品だ。

そんなカラッとしている筈のアメリカ映画がこのところ湿っぽい。
昨年公開の「さよなら。いつかわかること」や今年公開の「グラン・トリノ」。
どちらもクリント・イーストウッドの映画だが非常に湿っぽいのが特徴だった。

昨日から公開されているキャメロン・ディアスと「リトル・ミス・サンシャイン」のアビゲイル・ブレスリン。
配役からするとコメディのような感じがするのだが、ジメジメのお涙ちょうだい映画なのであった。
白血病にかかった姉への臓器提供を拒否し、両親を裁判に訴える11歳の娘。
「姉は死んでも良いのか?」
という臓器提供を強要する母。
なんとも重いテーマで見ていると悲しくなると同時に疲れてくるのだ。

なぜこのような映画を見たのかというと、たまたま試写会の券が手に入ったから劇場に足を運んだのであった。
臓器を提供してもやがて死が訪れる姉を少しでも長生きさせたいと考えている母。
臓器を提供したら一生後遺症が残るかも知れない妹。
この映画のテーマは「死」をどのようにとらえるのかという一人一人が持っている価値観に対するひとつの回答なのだろう。

人はいずれ死ぬ、ということを普段人は意識しない。
とりわけ現代人は死が身近なものではなくなっているだけに「死」は遠い存在だ。
そんな社会の中でこの映画は「あなたは死についてどう考えていますか」という問いかけをしているのだと私は思う。
キリスト教の人、仏教の人、無宗教の人。
人はそれぞれの文化や宗教の中で死についての価値観を学び、自分のものにしている。
無宗教と言われる日本人も根本的には仏教の哲学でものの価値を判断していることが多いわけだから、この映画は平凡な出来ながら日本人と対比し今のアメリカ人がどのような考えをもているのか、その一例を知ることができて興味深い。

ともかく、仕事や私生活に悩みを持っている人が「スッキリしたいぜ」と見に行く映画でないことは間違いない。お涙ちょうだいの好きな方には是非。

~「私の中のあなた」原題:My Sister's Keeper(2009年作)ギャガ・コミュニケーション配給~


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