とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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メイキング・オブ・ピクサー

2009年06月07日 10時31分45秒 | 書評


今や伝説となってしまった感のある映画「スタートレック3カーンの逆襲」(1982年)の惑星ジェネシス生成シーン。
一発のミサイルが月のような惑星に命中するとジェネシスモジュールが作動して、みるみるうちに不毛の惑星を地球のような青々とした緑の惑星に変わっていく。
森があり、峡谷があり、湖がある。

NHKのニュースセンター9時のタイトルやひょうきん族のエンドタイトル程度のCGしか目にしたことのなかった私は、そのリアリティに溢れたそのCGを見て驚愕したのだった。

そのCGを製作したのがルーカスフィルムのCG部門。
現在のピクサーアニメーションスタジオだった。

「メイキング・オブ・ピクサー 創造力をつくった人々」は今やディズニーをも凌駕してしまったピクサーアニメーションスタジオに関わる人々の物語だ。

コンピューターグラフィックスの歴史は浅いようで意外に古い。
コンピューターグラフィックスが研究施設で試みられはじめたのが1960年代というのだから40年は経過していることになる。
でも実際に私たちの目にそれが「作品」として登場しはじめるのは1970年代に入ってから。
最初はボブ・エイブルやジョン・ホイットニーの製作したCF用画像であったと記憶する。
1969年に試作された映画「2001年宇宙の旅」のモニター画面に映し出されるワイヤーフレームはCGではなく手描きだった。

初めCGは明らかに内容よりもその「奇異さ」と表現の「斬新さ」に注目が集まっていた。
その「奇異さ」「斬新さ」を利用した映画が「トロン」だった。
しかしただ「奇異」や「斬新」なだけだと、やがて滅んでしまうものだ。
一発屋芸人にその例を多く見ることができる。
CGも、ともすればそういう危険性があったかもしれない。
それを滅ぼさず、生命を吹き込み、永遠のものとしての地位を与えたのがピクサーといえるだろう。

人生を感じさせる「レッズ・ドリーム」
笑える短篇「ニックノック」と「ルクソーJr」
初のアカデミー賞授賞のCGアニメ「ティン・トイ」
続いて初のアカデミー授賞長編アニメ「トイストーリー」
などなど

本書ではそのピクサーの草創期からの物語をジョン・ラセターのバイオグラフや、ピクサーの経営状態、CEOのスティーヴ・ジョブスの圧倒的な個性などを絡めた力強い構成で見せている。
そのためかどうか非常に読みごたえのあるドキュメンタリーになっていた。

技術者集団であったピクサーにラセターというディズニーを解雇されたアニメーターが入ったことにより、ハイテク会社が創作することのできる企業に変身していく姿を追うのも面白いし、自分が興した会社をクビになり、ほとんど失業状態だったジョブスが、勘違いを繰り返して、後のアップルコンピュータとは正反対に自身の考えがまったく反映されないまま勝手に会社が成長し、しかもやがて「アカデミー賞を受賞した製作会社のCEO。さすがアップルのスティーブ・ジョブスだ」と讃えられるようになることもユニークだ。

本書を読むと、そのドタバタサクセスストーリーで元気になること請け合いである。

~「メイキング・オブ・ピクサー 創造力をつくった人々」デイビット・プライス著 櫻井祐子訳 早川書房~


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